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幕間 ユリアンナとアレックス 〜アレックスside
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アレックスがユリアンナと初めて会ったのは、5歳の時だった。
着飾って王城にやってきたユリアンナは、確かマリンブルーの可愛らしいドレスを着ていたように思う。
「アレックスでんかにごあいさついたします。ユリアンナ・シルベスカです。」
そう言って覚えたての初々しいカーテシーを披露したユリアンナを見たアレックスの感想は、「天使のように可愛らしい子」だった。
高貴な証の煌めく金の髪も、熟れた果実のように瑞々しい紅色の瞳も、その整った顔の造形も相まってまるでビスクドールのようだと思った。
きっと最初は、婚約者がユリアンナで嬉しかったのだと思う。
それを疎ましく思うようになっていったのは、いつ頃からだっただろう。
アレックスは、目の前に座る美しい金髪を緩く巻いて流し、長い睫毛を伏せてその勝気な紅色の瞳を隠している婚約者を真っ直ぐに見つめる。
年を追うごとにだんだんと派手になっていった髪型やメイクはすっかり落ち着き、あんなに振り撒いていた香水のキツい匂いもしなくなった。
着ているドレスは頑なに着続けていたマリンブルーのものではなく、王宮に上がるのに失礼でないレベルのシンプルで品が良いライトグレーのドレスだ。
今日は3年ぶりに再開した2人の交流を図るための茶会の日だ。
学園に入って幾らか落ち着いたらしいユリアンナとの関係を改善しようと、アレックスの方から茶会の再開を提案した。
しかし見るからにユリアンナは乗り気でないようで、アレックスの表情も自然と曇る。
話しかける上手い言葉も見つからず、しばしユリアンナを見つめている。
背筋をピンと伸ばして椅子に座るその姿も、紅茶を飲むその仕草も、改めて見ると公爵令嬢に相応しく洗練されている。
〝愚かで無能な悪女〟とは誰が言い出したことだろうか。
ユリアンナが愚かであるとか無能であるとか、アレックスは本当のところは何も知らない。
ただ周りの人がユリアンナのことを「愚かで無能だ」と言うからそれを鵜呑みにしていただけだ。
ここ最近のユリアンナとのやりとりを思い返してみると、ユリアンナは非常に理路整然と自分の意見を述べていたように思う。
実際、ミリカに贈ったドレスのことを指摘された時はアレックスはぐうの音も出なかった。
───ユリアンナに対する認識を全面的に改めないといけないのかもしれない。
とにかく、ユリアンナのことをもっと知りたい。
アレックスは何気ない質問から始めてみることにした。
「ユリアンナ。学園生活はどうだい?」
「どう、とは?」
質問が曖昧すぎたか、とアレックスは反省する。
「……学園の休み時間は何をして過ごしてる?」
「どこに行っても殿下とミリカ様との噂で持ちきりですから、邪魔者のわたくしは目立たないようひっそりと過ごしております」
何の感情も見えない口調でユリアンナは淡々と答える。
学園でアレックスとミリカが噂になっていることはアレックス自身も知っている。
ユリアンナが肩身の狭い思いをするのは当然で、そのことに思い至らなかった事実を突きつけられ、愕然とする。
(……学園でもう少しユリアンナを気遣うべきだったな)
アレックスは気を取り直し、別の質問をしてみる。
「ユリアンナは休みの日は何をしているの?」
「大夜会でミリカ様に苦言を申し上げた件で謹慎を言い渡されておりますので、一日中部屋におります」
………また失敗した。
アレックスはあまりに気まずくて下を向く。
その時、着ていたウエストコートのポケットに膨らみがあることに気付き、顔を上げる。
「………これ、この前公務の合間に買ったのだけど、良ければ受け取ってくれないか?」
アレックスはポケットから取り出した小箱をユリアンナに差し出す。
今日の茶会でユリアンナに渡そうとポケットに忍ばせていたのをすっかり忘れていたのだった。
ユリアンナは小箱を受け取り、その場で蓋を開ける。
中に入っていたのは白く繊細なレースで作られた可憐な髪飾りだった。
「まあ、素敵な髪飾りですわね。……ですがわたくしには少し可愛らしすぎるようですわ。ミリカ様にはよくお似合いになるでしょうから、彼女に差し上げては如何でしょう」
ユリアンナはそう言ってニコリと微笑み、小箱をアレックスに返す。
まさか贈り物を受け取ってもらえないと思っていなかったアレックスは、ポカンと口を開けて黙り込む。
どんな話題を振ってもミリカに話を繋げられてしまう。
(……これは、もしかして嫉妬してくれているのだろうか?)
実際にはユリアンナはわざとそう見せているのだが、ユリアンナが嫉妬心を垣間見せたことにアレックスの心に仄かな喜びが湧き起こる。
まだユリアンナの中のアレックスに対する恋情は失われていないのかもしれない。
それを嬉しく感じることに、アレックス自身も驚いた。
このままユリアンナが苛烈さを封印し、二人の関係を適度な距離感で保てれば。
アレックスもいつかユリアンナを愛し大切に思える日が来るかもしれない。
このままでいられれば、きっと未来は───。
着飾って王城にやってきたユリアンナは、確かマリンブルーの可愛らしいドレスを着ていたように思う。
「アレックスでんかにごあいさついたします。ユリアンナ・シルベスカです。」
そう言って覚えたての初々しいカーテシーを披露したユリアンナを見たアレックスの感想は、「天使のように可愛らしい子」だった。
高貴な証の煌めく金の髪も、熟れた果実のように瑞々しい紅色の瞳も、その整った顔の造形も相まってまるでビスクドールのようだと思った。
きっと最初は、婚約者がユリアンナで嬉しかったのだと思う。
それを疎ましく思うようになっていったのは、いつ頃からだっただろう。
アレックスは、目の前に座る美しい金髪を緩く巻いて流し、長い睫毛を伏せてその勝気な紅色の瞳を隠している婚約者を真っ直ぐに見つめる。
年を追うごとにだんだんと派手になっていった髪型やメイクはすっかり落ち着き、あんなに振り撒いていた香水のキツい匂いもしなくなった。
着ているドレスは頑なに着続けていたマリンブルーのものではなく、王宮に上がるのに失礼でないレベルのシンプルで品が良いライトグレーのドレスだ。
今日は3年ぶりに再開した2人の交流を図るための茶会の日だ。
学園に入って幾らか落ち着いたらしいユリアンナとの関係を改善しようと、アレックスの方から茶会の再開を提案した。
しかし見るからにユリアンナは乗り気でないようで、アレックスの表情も自然と曇る。
話しかける上手い言葉も見つからず、しばしユリアンナを見つめている。
背筋をピンと伸ばして椅子に座るその姿も、紅茶を飲むその仕草も、改めて見ると公爵令嬢に相応しく洗練されている。
〝愚かで無能な悪女〟とは誰が言い出したことだろうか。
ユリアンナが愚かであるとか無能であるとか、アレックスは本当のところは何も知らない。
ただ周りの人がユリアンナのことを「愚かで無能だ」と言うからそれを鵜呑みにしていただけだ。
ここ最近のユリアンナとのやりとりを思い返してみると、ユリアンナは非常に理路整然と自分の意見を述べていたように思う。
実際、ミリカに贈ったドレスのことを指摘された時はアレックスはぐうの音も出なかった。
───ユリアンナに対する認識を全面的に改めないといけないのかもしれない。
とにかく、ユリアンナのことをもっと知りたい。
アレックスは何気ない質問から始めてみることにした。
「ユリアンナ。学園生活はどうだい?」
「どう、とは?」
質問が曖昧すぎたか、とアレックスは反省する。
「……学園の休み時間は何をして過ごしてる?」
「どこに行っても殿下とミリカ様との噂で持ちきりですから、邪魔者のわたくしは目立たないようひっそりと過ごしております」
何の感情も見えない口調でユリアンナは淡々と答える。
学園でアレックスとミリカが噂になっていることはアレックス自身も知っている。
ユリアンナが肩身の狭い思いをするのは当然で、そのことに思い至らなかった事実を突きつけられ、愕然とする。
(……学園でもう少しユリアンナを気遣うべきだったな)
アレックスは気を取り直し、別の質問をしてみる。
「ユリアンナは休みの日は何をしているの?」
「大夜会でミリカ様に苦言を申し上げた件で謹慎を言い渡されておりますので、一日中部屋におります」
………また失敗した。
アレックスはあまりに気まずくて下を向く。
その時、着ていたウエストコートのポケットに膨らみがあることに気付き、顔を上げる。
「………これ、この前公務の合間に買ったのだけど、良ければ受け取ってくれないか?」
アレックスはポケットから取り出した小箱をユリアンナに差し出す。
今日の茶会でユリアンナに渡そうとポケットに忍ばせていたのをすっかり忘れていたのだった。
ユリアンナは小箱を受け取り、その場で蓋を開ける。
中に入っていたのは白く繊細なレースで作られた可憐な髪飾りだった。
「まあ、素敵な髪飾りですわね。……ですがわたくしには少し可愛らしすぎるようですわ。ミリカ様にはよくお似合いになるでしょうから、彼女に差し上げては如何でしょう」
ユリアンナはそう言ってニコリと微笑み、小箱をアレックスに返す。
まさか贈り物を受け取ってもらえないと思っていなかったアレックスは、ポカンと口を開けて黙り込む。
どんな話題を振ってもミリカに話を繋げられてしまう。
(……これは、もしかして嫉妬してくれているのだろうか?)
実際にはユリアンナはわざとそう見せているのだが、ユリアンナが嫉妬心を垣間見せたことにアレックスの心に仄かな喜びが湧き起こる。
まだユリアンナの中のアレックスに対する恋情は失われていないのかもしれない。
それを嬉しく感じることに、アレックス自身も驚いた。
このままユリアンナが苛烈さを封印し、二人の関係を適度な距離感で保てれば。
アレックスもいつかユリアンナを愛し大切に思える日が来るかもしれない。
このままでいられれば、きっと未来は───。
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