2 / 5
な
しおりを挟む
中学生になった。ウタちゃんとは相も変わらず仲良しでいれた。ウタちゃんは私を拒まないから。
どれだけ肩身の狭い思いをしても、ウタちゃんは私が呼べば、振り向くのだ。
ウタちゃんは何時もつまらなそうな顔をして、ぼんやりと授業を受けていた。ショートヘアーの髪の毛は、猫の毛みたいにくるくる巻かれている。天パ、なんだってさ。
「ハルカちゃん、ハルカちゃん」
ああ、沢山の金魚の糞。
私の唇、鼻、目、髪。特に顔、顔。私の顔のパーツ一つ一つをなめ回すみたいに見てくる糞達が、今日も私の周りを取り囲む。
「ほんとうに自然の二重なの~?」
「ヘアケア教えて!」
「お人形さんみたい。可愛い!」
「ハルカちゃん、可愛い!」
「本当可愛い! ずっと見てられる~」
可愛い。可愛い。可愛い!
その四文字の中に詰め込まれた甘ったるい意味を教えて欲しい。私にその言葉を投げかけることによって、みんなは何を求めているのか、わからないの。
パパもママも、幼稚園の先生もクラスメイトも、みんな寄ってたかって私を可愛いという。
私に、何を求めているんだろう。
私は、可愛いんだ。可愛いと、されているんだ。
「可愛い」
みんなが思う可愛いの具現化。
そう言われて、私は何を返せばいいんだろう。
「間違えるな」リスがまだ私を睨んでいる。仕方がないから、私はっこり笑って、皆に笑顔を振りまく。すると、うっとりしたみたいな、映画でしか聞かないようなため息が、聞こえるんだ。
ああ、これがいいんだね。これが正解なんだね。
何度も何度も確かめて、たどり着いた正解。
ああ、みんな、うすっぺらい。
私が笑えば、みんなも笑う。なら、笑顔を振りまこう。
でもこっそり。バレないようにそうっと視線の端っこでウタちゃんを捉える。
机に突っ伏して寝ている。
ああ、安心。
ウタちゃんは、大体一人。私以外の友達がいないみたい。それがまた、良い。
私を囲む人の群れは、放課後になるまで群れ続ける。ご飯を食べ終わったちょっと多めの休み時間が一番の苦痛だ。ありとあらゆるクラスの人が、私の顔を見に来るの。
「木ノ崎さんってどの子?」
「あの子!」
「あ~美少女だわ」
「ハルちゃーん、こっち向いて!」
そんな声も、もはや慣れっこだ。ノイズと一緒。でも、私は音のする方ににっこり笑うだけでいいのだ。
その人が私に何を求めているのか。
その人達が私から何を受け取りたいのか。
全部わかるのだ。もう、わかるのだ。
私と話がしたいんじゃない。私の顔が見たいのだ。じゃあ、言葉なんて必要ないよね。そう考えているとはつゆ知らず、みんなは私からの「笑顔」を、「可愛い」を消費する。
授業の時間だけが唯一の、一人の時間。そして、放課後は私だけの時間。
そう。私と、ウタちゃんだけの。
「ウタちゃん」
彼女には、私がどう見えているんだろう?
私はウタちゃんが大好き。正反対の容姿と、家庭事情。全部が違うから、ぴったりとはまり込む。私はそう思っている。
ウタちゃんも、毎度毎度私が声を掛けるものだから、もう当たり前みたいな感じで、席に座って待っていてくれていた。
みんなが身支度して、さっさと教室から飛び出すのが、まるで異常、みたいにも見えて。
「なぁに」
いつもの感じで。
昔と変わらないむすっとした表情に、私の引き攣っていた表情筋が緩んでいく。無理やり引き上げた頬が、ようやくリラックスする。
冬の教室は、日が傾くのが早くって、もう既にオレンジ色だ。
逆光の中、微笑むウタちゃんは、とっても「可愛い」。
誰かに向ける空っぽの笑顔じゃない。自然と心の底からわき上がって来る笑顔だった。
「ウタちゃん、一緒に帰ろう」
「うん」
私の誘いを断ったウタちゃんを見たことがない。ウタちゃんは私の話を聞いてくれる。
私が「行こう」と言うと、ウタちゃんは立ち上がる。もう帰りの支度はすましていた。
二人並んで歩く。いつもの街並み、変わらない通学路。学校が小学、中学と移動しても、帰り道はほとんど同じ。背が、だいぶ伸びだ。ウタちゃんはひょろりと細長くなって、私の肩にウタちゃんの腕がぶつかってしまうのだ。
「あのね、今日来た4組のね……」
「うんうん」
「あ、そういえば昨日パパが……」
「うんうん」
「話は戻るけど、クラスメイトのあの人が……」
「うんうん」
へたくそな私の話でも、ウタちゃんはなんでも聞いてくれる。
私、話すのが苦手なの。
誰も聞いてくれないから。
「ハルカちゃん、またね」
別れ際のウタちゃんのあの顔が、一番好きだ。
寂しそうな、でもどこかほっとしているようなその表情が、好き。
私のこと、絶対苦手なのに、相手にしてる感じが、好き。
どれだけ肩身の狭い思いをしても、ウタちゃんは私が呼べば、振り向くのだ。
ウタちゃんは何時もつまらなそうな顔をして、ぼんやりと授業を受けていた。ショートヘアーの髪の毛は、猫の毛みたいにくるくる巻かれている。天パ、なんだってさ。
「ハルカちゃん、ハルカちゃん」
ああ、沢山の金魚の糞。
私の唇、鼻、目、髪。特に顔、顔。私の顔のパーツ一つ一つをなめ回すみたいに見てくる糞達が、今日も私の周りを取り囲む。
「ほんとうに自然の二重なの~?」
「ヘアケア教えて!」
「お人形さんみたい。可愛い!」
「ハルカちゃん、可愛い!」
「本当可愛い! ずっと見てられる~」
可愛い。可愛い。可愛い!
その四文字の中に詰め込まれた甘ったるい意味を教えて欲しい。私にその言葉を投げかけることによって、みんなは何を求めているのか、わからないの。
パパもママも、幼稚園の先生もクラスメイトも、みんな寄ってたかって私を可愛いという。
私に、何を求めているんだろう。
私は、可愛いんだ。可愛いと、されているんだ。
「可愛い」
みんなが思う可愛いの具現化。
そう言われて、私は何を返せばいいんだろう。
「間違えるな」リスがまだ私を睨んでいる。仕方がないから、私はっこり笑って、皆に笑顔を振りまく。すると、うっとりしたみたいな、映画でしか聞かないようなため息が、聞こえるんだ。
ああ、これがいいんだね。これが正解なんだね。
何度も何度も確かめて、たどり着いた正解。
ああ、みんな、うすっぺらい。
私が笑えば、みんなも笑う。なら、笑顔を振りまこう。
でもこっそり。バレないようにそうっと視線の端っこでウタちゃんを捉える。
机に突っ伏して寝ている。
ああ、安心。
ウタちゃんは、大体一人。私以外の友達がいないみたい。それがまた、良い。
私を囲む人の群れは、放課後になるまで群れ続ける。ご飯を食べ終わったちょっと多めの休み時間が一番の苦痛だ。ありとあらゆるクラスの人が、私の顔を見に来るの。
「木ノ崎さんってどの子?」
「あの子!」
「あ~美少女だわ」
「ハルちゃーん、こっち向いて!」
そんな声も、もはや慣れっこだ。ノイズと一緒。でも、私は音のする方ににっこり笑うだけでいいのだ。
その人が私に何を求めているのか。
その人達が私から何を受け取りたいのか。
全部わかるのだ。もう、わかるのだ。
私と話がしたいんじゃない。私の顔が見たいのだ。じゃあ、言葉なんて必要ないよね。そう考えているとはつゆ知らず、みんなは私からの「笑顔」を、「可愛い」を消費する。
授業の時間だけが唯一の、一人の時間。そして、放課後は私だけの時間。
そう。私と、ウタちゃんだけの。
「ウタちゃん」
彼女には、私がどう見えているんだろう?
私はウタちゃんが大好き。正反対の容姿と、家庭事情。全部が違うから、ぴったりとはまり込む。私はそう思っている。
ウタちゃんも、毎度毎度私が声を掛けるものだから、もう当たり前みたいな感じで、席に座って待っていてくれていた。
みんなが身支度して、さっさと教室から飛び出すのが、まるで異常、みたいにも見えて。
「なぁに」
いつもの感じで。
昔と変わらないむすっとした表情に、私の引き攣っていた表情筋が緩んでいく。無理やり引き上げた頬が、ようやくリラックスする。
冬の教室は、日が傾くのが早くって、もう既にオレンジ色だ。
逆光の中、微笑むウタちゃんは、とっても「可愛い」。
誰かに向ける空っぽの笑顔じゃない。自然と心の底からわき上がって来る笑顔だった。
「ウタちゃん、一緒に帰ろう」
「うん」
私の誘いを断ったウタちゃんを見たことがない。ウタちゃんは私の話を聞いてくれる。
私が「行こう」と言うと、ウタちゃんは立ち上がる。もう帰りの支度はすましていた。
二人並んで歩く。いつもの街並み、変わらない通学路。学校が小学、中学と移動しても、帰り道はほとんど同じ。背が、だいぶ伸びだ。ウタちゃんはひょろりと細長くなって、私の肩にウタちゃんの腕がぶつかってしまうのだ。
「あのね、今日来た4組のね……」
「うんうん」
「あ、そういえば昨日パパが……」
「うんうん」
「話は戻るけど、クラスメイトのあの人が……」
「うんうん」
へたくそな私の話でも、ウタちゃんはなんでも聞いてくれる。
私、話すのが苦手なの。
誰も聞いてくれないから。
「ハルカちゃん、またね」
別れ際のウタちゃんのあの顔が、一番好きだ。
寂しそうな、でもどこかほっとしているようなその表情が、好き。
私のこと、絶対苦手なのに、相手にしてる感じが、好き。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる