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しおりを挟む次の日の夜も、私はカルシファーの魔法で姿を変えてロイド殿下に会いに王宮に来ていた。
カルシファーの腕から離れて、ロイド殿下のいるであろう部屋に向かっててくてくと歩いて行く。闇に紛れるように影を縫って歩く。真っ黒なこの身体は闇に紛れるには最適だ。
昨日はロイド殿下と会えたことが嬉しくて忘れてしまっていたが、今日はロイド殿下にお会いするのと同時に、私を魔族の花嫁として皇太子妃の座から追い落とした人物が誰なのかを調べなくてはならない。
ロイド殿下も私が魔族の花嫁に選ばれたことに対しては疑問視しているらしいことはわかっている。
本当は、私がロイド殿下としゃべることができたのならば、いいのだけれどもカルシファーとの約束の一端で私はしゃべることができない。
いや、できないのではない。
言葉を発しようとしても「にゃー」という可愛らしい声が出るだけで、ロイド殿下との意思疎通ができないのだ。
それでも、まずはロイド殿下が今日も無事であることを確かめるために、ロイド殿下の自室に向かって足を進める。
そうして、中庭に差し掛かった時、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきて私は足を止めて物陰に隠れた。
「もう。ロイド様はつれないったらないわ。せっかくあの女を追い払ったというのに……。」
いつも一歩引いてにこやかに微笑んでいるアリス様の姿がそこにあった。
ここは中庭とは言え、王宮の中だ。どこに誰が居て聞き耳を立てているかもわからないのに、アリス様は不用心だ。
それにしてもアリス様の言動はいつものアリス様らしくない。
いつも控えめににこにこ微笑んでいるのに。
まあ、以前から私を無視したりと少々気の強いところは見え隠れしていたけれども。
あの女とは誰のことだろうと、隠れてアリス嬢の次の言葉を待った。が、しばらくしてもアリス嬢からは確信を得るような言葉は聞こえてこなかった。
十中八九私のことだとは思うけれど。
「アリス様。ここにおられましたか。」
「フォン宰相。どういうことでしょう?話が違いますわ。」
しばらく息を殺して待っているとフォン宰相がやってきてアリス様に声をかけた。
アリス様は先ほどまでの様子とは違い目にうっすらと涙を浮かべてフォン宰相を見つめる。
フォン宰相は困ったように眉を下げた。
「申し訳ございません。アリス様。セレスティナ様が皇太子妃でなくなれば、アリス様が皇太子妃となる手はずでしたが、皇帝陛下が思いのほか難色を示されておいでで……。巫女様がお亡くなりになったことが、皇帝陛下のお心にブレーキをかけてしまったようです。」
「まあ……。」
アリス様は驚きに目を瞠る。
そして、ハラハラとその目から涙を零す。
「やはり、私は皇帝陛下に皇太子妃として認めてもらえないのですね。私、精一杯頑張りますのに。皇太子妃として私には足りないところがあるかとは思います。それでも、私は幼いころからの夢だったのです。ロイド様の妃となり、いつしかこの国をロイド様と納めていくのが……。」
アリス様はそう言って両手で顔を覆ってしまった。
「アリス様……。しかし、巫女様の占いの結果ではセレスティナ様が確かに魔族の花嫁に選ばれたというのに、なぜ巫女様がお亡くなりになったのか……。巫女様がお亡くなりにならなければ、皇帝陛下もアリス様のことをすぐに受け入れてくださっただろうに……。」
フォン宰相の言葉からは巫女様が嘘をついたとは思ってもみなかったということがうかがい知れた。フォン宰相が巫女様に嘘を告げるように言ったわけではないことはわかった。
では、誰が巫女様に嘘を告げるように言ったのか。
巫女様に近づける人間は限られているというのに。
私はそのままアリス様とフォン宰相の様子を伺った。けれど、この日は特に収穫もなく、アリス様もフォン宰相も中庭を後にした。
私はしばらく迷った挙句、フォン宰相の後を追うことにした。
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