上 下
80 / 584
一章

79

しおりを挟む

マリアは朝御飯も食べずにかけつけてくれたとのことだった。
なので、マリアに今朝買ったアンさんのパンを出した。

「これ、よかったら食べて?」

「ありがとう、マユ。ちょうどお腹が空いていたの」

『我の分はもうないのか?』

マリアが笑顔で受けとるとその様子を見ていたプーちゃんがジッとこちらを見てきた。
さっきまで、かなりの量のパンを食べていたかと思うが、まだ食べれるのだろうか。

「もっと食べれるの?」

『うむ。パンとやらは美味であった』

美味って・・・。
どうやらプーちゃんはパンがお気に入りのようだ。

「リュリュさんが持ってきたのでもいい?私が買ってきたのはマリアにあげたやつで最後なの」

『構わぬ。あやつは悪いやつではないからの。ただ変態ってだけでマユには極力近づいてほしくないが。パンが悪いわけではないのでな。我がもらう』

「そう、じゃあこれ全部食べちゃっていいよ」

私はそう言って、リュリュさんが買ってきた5個のパンをプーちゃんの前に並べた。

『このマユも買ってきていた外がカリカリしていて中にドロッとしたものが入っているのはいらぬ』

プーちゃんは前足(?)で、こんがり焼けて美味しそうな匂いを放っているカレーパンを指差した。
このカレーパン美味しそうなんだけど・・・。

「そう?じゃあ私がもらっちゃうよ?」

『マユの味覚がわからぬ。このような舌に刺激が走るもののどこがよいのか・・・』

「辛いのがダメなの?辛いものも慣れると癖になるわよ?」

『・・・我には不要だ』

どうやら、プーちゃんは辛いものは苦手らしい。
眉を潜めてカレーパンを睨み付けている。
私は、カレーパンを手にして一口かじった。
とたん口の中に広がる香ばしい香りとピリッとした程よい香辛料の辛さ。
中に入っている具はよく煮詰められていて原型を保っていないが、その分素材の旨味が凝縮されている。
まわりサックリ、中はトロリ。
絶妙な食感を私にもたらしてくれる、アンさんのカレーパン。
こんな美味しいものが苦手だなんて、プーちゃん損をしているよ!

『マユは美味しそうに食べるのだな・・・。我も食べたくなった。それをよこせ』

「あっ!!」

「プーちゃんってかわいいね」

プーちゃんは私の食べかけのカレーパンをひょいっと奪い取るとパクッと口の中に放り込んでしまった。
私が恨めしげな声をあげる横でマリアが笑ってその様子を見つめていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:11,388pt お気に入り:209

転生少女は異世界でお店を始めたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,424pt お気に入り:1,708

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,094pt お気に入り:53

【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:1,271

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:781pt お気に入り:4,192

今から君を守るのに理由が必要ですか・・?(仮)

BL / 連載中 24h.ポイント:292pt お気に入り:37

愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,352pt お気に入り:661

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:319pt お気に入り:1

処理中です...