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二章
2ー102
しおりを挟むええと・・・。
猫から人間に戻すにはお湯をかければいいんだよね。
そうと決まればお湯を沸かさなければ・・・。
「この茶トラの猫、もしかしたらあの化粧水を飲んだのかも知れないの。マーニャたちが猫じゃないって言っているし。」
「あらぁ~。と、いうことはぁ~この黄緑色のぉ~卵はぁ~女王様からのぉ~褒美ってことにぃ~なるのでしょうかぁ~。」
「うむ。ますます興味深い。」
「私、お湯を沸かしてきますね。」
部屋の中には小さいながらもキッチンがあり、鍋も用意されていた。
鍋にお水をいれ、コンロにかける。
コンロの火の調節はマリアにスパルタ教育してもらったから、ほとんど意識しなくてもできるようになった。
しばらくして、お鍋の中のお湯がぐつぐつと湧き出したので、加熱をやめた。
「お湯沸かしてきましたよー。」
ぐつぐつと沸いているお湯が入った鍋を両手で持って茶トラの猫の元に向かう。
茶トラの猫は鍋を見てから慌ててマーニャの後ろに隠れてしまった。
あれ?おかしいな。
人間に戻りたいだろうに。お湯をかけられたくはないのだろうか。
「逃げないででておいで?人間に戻りたいんでしょう?」
そう優しく問いかけるが、茶トラの猫はマーニャの陰から出てこない。
マーニャもなぜか、守るように茶トラの猫を後ろに庇っている。
「マユさぁ~ん。熱湯を~かけなくてもぉ~いいんですよぉ~?女王様がぁ~言っていたじゃないですかぁ~。人肌くらいでぇ~大丈夫だってぇ~。と、いうかぁ~、熱湯かけたらぁ~火傷しちゃうのでぇ~やめてください~。」
あ、そうだった。
熱湯でなくてもよかったんだ。
と、ベアトリクスさんに突っ込まれてから気づいた。
危うく茶トラの猫を火傷させてしまうところだった。
あぶない。あぶない。
急いで、鍋のお湯を半分ティーポットに入れ紅茶を用意する。
そして残りのお湯に水を入れてぬるま湯にする。
それを持って、茶トラの猫を再び呼んだ。
「ごめんね。ぬるま湯を用意してきたから、人間に戻ってくれるかな?話しがしたいし。」
すると、マーニャの後ろに隠れていた茶トラの猫が恐る恐るといったように姿を現した。
さすがに部屋の真ん中でお湯をかけるわけにもいかないので、お風呂に案内する。
茶トラの猫は大人しくついてきている。
そうして、お風呂場の真ん中に座り込んでこちらを見上げてくる。
「今からかけるね。」
私は、優しくお湯をかけていく。
ぬるま湯なので全然熱くないはずだ。
お湯をかけるとモクモクと湯気が立ち上りだす。
「あれ?」
小さな鍋のぬるま湯でこんなに湯気って出たっけ?
モクモクと湯気は茶トラの猫を中心にたちのぼり、やがて茶トラの猫が見えなくなるくらいに湯気が立ち上がった。
それからしばらくして、湯気がじょじょに消えていく。
消えていくと同時に湯気の中心に人型の影が見えるようになった。
どうやら、やはりあの猫化する化粧水の被害にあった人のようであった。
って!
「裸じゃんっ!!」
茶トラの猫は服を着ていなかった。
よって、人の姿に戻っても服を着てはいなかった。
流石プーちゃんの作った化粧水である。
服までは一緒に伸び縮みしなかったようである。
私は慌ててお風呂場を飛び出した。
だって、シルエットからして男の人だったのだ。
あの中に平然と突っ立っていたら私、痴女だ。
「マユさぁ~ん。どうしたんですかぁ~。」
「服!ザックさん服かして!早くっ!!」
「あ、ああ。」
私はザックさんに駆け寄り、服を貸してくれないかとうったえる。
ザックさんもどうして服が必要なのかを悟り、すぐに部屋を出て着替えを探しに行ってくれた。
「マユさぁ~ん。見ちゃったんですねぇ~。きゃっ。」
「好きで見たわけじゃないです。」
ベアトリクスさんが絡んでくるけれども、気にしないふり。
でも、ベアトリクスさんはニヤニヤと笑っている。
『マユってば破廉恥なのー。』
『むっつりなのー。』
『すけべなのー。』
マーニャたちが何やら騒いでいる。
「あなたたち、どこでそんな言葉覚えてきたのよ・・・。」
マーニャたちが話す内容に力なくがっくりと項垂れる。
もっと純粋に成長して欲しかったのになぁ。
「ぐすっ。えぐっ。ひぐっ・・・。」
すると、お風呂場の方から男の人の鳴き声が聞こえてきた。
ベアトリクスさんと私は顔を見合わせる。
そうして、お風呂場のドア越しに中に向かって声をかける。
「どうしたんですかぁ~?」
「大丈夫?」
ベアトリクスさんと私が優しく問いかけるが中からは返事がなく、まだ泣き声が聞こえてくる。
どうしたものだろうか。
しばらく、そのままドア越しにお風呂場の様子を伺っていると、
「裸見られちゃった・・・。僕・・・もう、お婿にいけない・・・。」
なんとも情けない呟きが聞こえてきた。
裸見られたらお婿にいけないだなんて、この国にはそんな法律があるのだろうか。
思わず、ベアトリクスさんを見ると、
「………ここはぁ~。マユさんがぁ~責任を~持ってぇ~お婿にぃ~迎えてあげてください~。」
なんて、言い出す始末だ。
当分は結婚とか恋愛とか考えたくもないんだけどなぁ。
「無理です。それより、そんな法律でもあるんですか?」
「ありませんよぉ~。なのでぇ~婚前交渉している人たちもぉ~いっぱいいますしぃ~、遊びまくっている人もぉ~いますよぉ~。」
「ベアトリクスさんも?」
「それは~秘密ですぅ~。」
ベアトリクスさんはそう言って口の前に人差し指を当ててにっこりと微笑んだ。
というかそもそもベアトリクスさんって結婚できるような年齢なのだろうか。
「待たせたっ!」
そうこうしているうちにザックさんが着替えを持ってきてくれたようだ。
私たちはお風呂場に篭城している男性に辟易していたのでザックさんが天使に思えた。
「ザックさん。この中にいますのでよろしくお願いします。」
「ああ。」
ベアトリクスさんと私はお風呂場のドアからサッと離れて、ザックさんが中に入れるようにした。
着替えを持って中に入っていくザックさん。
しばらく泣き声が聞こえていたが、ザックさんが何かを言ったのか泣き声が不意に止んだ。
そうして、着替えが終わったのかお風呂場のドアががちゃりと開いた。
「あ、貴方女性かと思ってたんですが、男性だったんですね。よかったです。危うく僕、お婿に行けなくなってしまうところでした。貴方が女性じゃなくて本当によかった。僕、こうスタイルの良い女性が好きなんです。だから貴方の胸があまりにも貧相でこの人と結婚しなくちゃならないのかって、ちょっと絶望してしまいました。でも、あなたが男性で安心しました。」
「・・・をい。」
金髪碧眼の優男さんはお風呂場から出てくるなり一気にそう言った。
誰がまな板だって?
誰が?
って、そんな理由でずっと泣いていたとかあり得ない。
それに、もっとあり得ないのは・・・。
金髪碧眼の男性の後ろから出てきたザックさんをギロリッと睨む。
「だ・れ・が、男だって?」
「お前、女だったのか?」
ザックさんは私の胸元を見ながら呟いた。
「はあ!?」
ザックさんのあまりに失礼な物言いに眉を釣りあがらせる。
ザックさんはこの後、部屋から追い出されたのは言うまでもない。
そうして、ザックさんがマリアのことを好きだったみたいなのでちょっとくらいは協力してあげようかなって思っていた気持ちはどこかに吹き飛んでいった。
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