悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ

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第2章:幼少期・純愛編

第23話:【お待たせしました】

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「ユーフォリア様、紅茶のおかわりはいかがですか?」

「結構だよ…ヤブランくん……」


 ルピナスの部屋から追い出されて、早一時間。

 双子たちに上手いこと丸め込まれて、ヤブランから出された茶菓子と紅茶を嗜みながら待ってみてはいるものの。

 全然、戻ってくる気配がないんですけど…ッ!!


「仕方がありませんよ、ユーフォリア様。女性陣の身支度には時間がかかるものです」

「まあね。時間がかかるのは仕方ないと思うけどさ~いや…ちょっと待てよ。女性陣って言うけど、あの中で女性はラランしかいなくないか」

「おや、そうでしたかな」


 可笑しそうにコチラを見てくるヤブランをじとりと睨む。

 ヤブランめ。適当なことを言って、のらりくらりと俺を誤魔化しやがって……全く。


「ユーフォリア様の逸る気持ちは重々承知しておりますが、ルピナス様もせっかく屋敷の外へ出られるのです。身嗜みを整えずに先程のままでお出かけになるよりは、きちんとしたお召し物の方が周りの目を気にせず心置きなく楽しめるのではないでしょうか」


 微笑ましそうに笑いながら、そんなことを言う。

 そう言われると、その気になってきた俺は、ルピナスを待っている間に転移魔法で戻って着替えれば良かったか?などと考える。

 一瞬で着替えて戻るか?いや…しかしルピナスがもう来るかもしれないと思案していると、ヤブランがふと何かを思い出したように目を伏せた。


「ユーフォリア様。私奴の身勝手な願いであることは承知しておりますが…どうかルピナス様をどんな些細な場所でも構いませんので、様々なところへ連れて行って差し上げていただけませんでしょうか?ルピナス様は…あまり屋敷外にお出かけになることはございませんでしたから」

「それは…両手で足りるほどか?」


 俺が問えばヤブランは目を合わせずに答えた。


「片手で…足りるやもしれませんな」


 ヤブランの返答に俺は唇を噛み締めた。

 生まれてから七年という月日の間で片手で足りるほどしか外に出ていないなど、腹立たしい以外の何者でもなかったからだ。

 双子たちに少しばかりルピナスがどのように過ごしていたか聞いていたが、ヤブランにも直接聞いてみたところ、あの子は…ルピナスは。

 この屋敷で座学と剣術など貴族の令息として学ぶべきことを慎ましく学び規則正しく生活していたという。

 ……ショーテイジ家で流れていた噂とは大違いな、本当のルピナスは真面目で優しい真っ直ぐな子だ。


「ヤブラン、俺は決めたよ。俺が使えうる限りの魔法を駆使してルピナスをブバルディア王国の各地…いや、世界各地に連れて行ってあげることを───!」

「大変、喜ばしいことなのですが。ほどほどに、なさってくださいね………」


 俺の闘志に燃える目とは対照的に何故か遠い目をしてヤブランが呟いたところで、待合室のドアからノック音がした。


「ユーフォリア様、ルピナス様のお支度ができました。入ってもよろしいでしょうか?」

「もちろん入っていいよ…ッ!!?」


 お出かけについての話題により漂っていた重苦しい空気は何処へやら。

 ルピナスという名称を聞いただけで胸に広がる温かな気持ちは、運命だからこそ成せる技なのか。

 ───はたまた、ルピナスだからこそなのか。


「お待たせして申し訳ございません、ユーフォリア様」


 ルピナスが俺に謝罪をしながら入室してくると、ふわりと優しい石鹸の香りがした。

 肩まである艶々とした黒と紫の髪が、それぞれ両サイドに下ろされている。ルピナスの部屋で初めて会った時を思い出すに髪質はストレートのようだが外出用になのか少しゆるく巻かれていた。

 白いブラウスに爽やかな空色のジャケット。

 下はダークチョコレート色のハーフパンツに足元はキャラメル色の編み上げブーツを履いていた。


「ユーフォリア様。ど、どうでしょうか?似合いますか…?」


 照れたように頬を染めて、濡れたようなアメジストの瞳に見上げられて俺の中で何かが切れる音がした。

 ルピナスを軽々と縦抱きにするとルピナスの頬に自らの頬を当てて頬擦りする。


「なんて可愛いんだ…すっごく似合ってるよ、ルピナス。食べちゃいたいくらいに可愛い」


 瞳を覗き込んで答えると、花が綻ぶようにルピナスは嬉しそうに笑った。


「だ、誰か…俺を止めてくれ……ルピナスの可愛いさのあまり、このままだと俺はルピナスを抱えたまま全速力で地の果てまでも駆け出してしまいそうだ───」

「「「お気持ちは分かりますが落ち着いてくださいませ」」」


 三人が揃って返すと俺が飛び出さないように、ヤブランが窓前、ラランとリリィが扉の前に自然と立ち塞がったのだった。



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