悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ

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第2章:幼少期・純愛編

閑話:【王子様の後悔】

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 ダリアは子供向けの歴史的な物語を読むのが好きだった。その中でも最も好きだったのは王国を長年に亘り守護している、王国至宝のエルフ様のお話。


「お母様…!今日もユーフォリア様のお話を聞かせてください!!」

「もう本当にダリアってば、ユーフォリア様のお話が大好きね」


 ダリアを心から愛してくれている母───ブバルディア王国の正妃であるソランナ・ブバルディアは自身の息子を微笑ましそうに見て笑う。


「だって、どのお話のユーフォリア様も、とってもカッコイイんですよ!描かれている挿絵のお姿も美しくて、こんなスゴイ方がぼくと同じ時代に生きているかと思ったら…ぼく、もう居ても立っても居られなくって!!」


 いつも煌めいている瞳が、より一層の輝きを増してソランナへと向けられる。

 ソランナは純粋な息子が大好きで、ダリアの無垢な心と笑顔を守りたいと常日頃から思っていた。だからこそソランナは、ダリアを王族として立派に育てるべく、母親として時には優しく時には厳しく接し教育を施していた。

 その成果もあってかダリアは従者や使用人に横暴な態度を取ることなく、周りからの評判も良い。勉学やマナー、剣術などの教育も上手くいっていると聞いていた。

 自分の息子は順調に立派な王族へと育っている。

 そう思っていた───。


「ダリアが…ユーフォリア様のお怒りを買ったですって……?」


 手にしていたカップを落とし、繊細で精巧な作りのティーカップは見る影もなく粉々に砕け散った。

 ソランナの胸に広がる絶望とまるでリンクするように、敷かれていた絨毯には紅茶のシミが広がっていく。

 夫であるコレオプシスの雰囲気から嘘をついている様子はなく、今の話が事実だと険しい表情が雄弁に物語っていた。


「ソランナ。…どうか、落ち着いて聞いて欲しい。私はユーフォリア様に会いたいと言うダリアに今度ご挨拶する場を設けるから勝手な行動はしないようにと伝えた。だが…結果から分かる通り、あの子は約束を破ってユーフォリア様に会いに行ったんだ」

「ダリアが約束を破るなんて…」

「───それだけじゃない。ダリアは…私たちの知らないところでショーテイジ伯爵と繋がりを持っていた」

「え……?」


 ソランナは、あまりのことに言葉を失った。
 様々な可能性が頭を過ぎる。


「そんな……なんてことなの」


 自分にされていたダリアに関する報告が偽りだった可能性がある。
 その事実は王族に仕える表向きの護衛や従者たちだけではなく、裏で護衛をしてくれている影でさえも王家を裏切り機能していないということを意味していた。


「ダリアに会わなくては」


 流石は正妃というべきか。
 動揺から我に返りコレオプシスに切り返していた。


「それでこそ、私の妻だ」


 コレオプシスは強く頷くとソランナと共に、ダリアの部屋へと向かうのだった。




▼▼▼



「ダリア。気分はどうだい?」

「お父様、お母様」


 ダリアは、ぼんやりとした表情で私たちを見上げた。

 ダリアに仕えていた従者や使用人たちは全員、問答無用で捕え取り調べを行っている。

 私たちにされていたダリアのことに関しての報告が違うものであったなら、もしかしたら…
 浮かびそうになる恐ろしい考えを何とか頭から振り払い平静を装う。

 ダリアが日々の生活の中、私たちの知らぬところで悲しい思いや辛い思いをしていないことを祈るしかなかった。
 今から聞く内容の質問が終わったら、今までどのように過ごしていたのかを確認しなければならない。


「…ダリア。単刀直入に言おう。私は、事情があるからユーフォリア様にまだ会わせられないと伝えたよね。何故、お前はヤグルマギク教会に行ったんだい?」


 真剣な眼差しを向けるとダリアは悪びれた様子もなく。…いや、そもそも悪いことをしたという自覚がない様子で答えた。


「え?だって、セバスが良いって言ってたよ?」


 セバスとはダリアに仕えている執事の名前だった。


「セバスが許可を出したのか?何と言って許可を出してきたんだ?」

「お父様からお許しが出たからマナーの授業を中止にして一緒に教会へ行きましょうって。マナーの授業もショーテイジ伯爵に急遽、会う時とか何度も無しになったりしていたから、だし、ぼく…ユーフォリア様にお会いするのスゴく楽しみだったからワクワクしながら行ったんだ」


 その時のことを思い出してか少し口角を持ち上げて話すダリア。だが、次第に表情が曇っていく。


「…でも実際にお会いしたユーフォリア様は何故か、とても怒ってて。ショーテイジ伯爵の子息を抱き上げながら、ぼくたちに」


 言葉を途中で切り、見るからに怯え始めた。


「殺されるかと思った。とんでもない魔力圧が、ぼくたちを襲って…本当に怖かった」


 とうとう涙を溢し始めたダリアに私たちは何ともいえない複雑な感情を覚えた。

 ダリアは純粋無垢で素直な良い子だと思っていた。

 だが、実際は周りの大人たちの言葉を鵜呑みにし、一種のマインドコントロールを受けている状態であったのだ。

 王である私から急に許しが出たと一執事が勝手に言っていることもだが、ショーテイジ伯爵と会う際に何度かマナーの授業を休みにしていた事実が発覚し、事の異常さを更に引き立たせていた。

 そして、ダリアはそれを当たり前だと思うほどに何も疑わず過ごしていたことが、とても恐ろしく事態が深刻であることを如実に表す。


 ───ダリアは大丈夫であると過信したあまりに起きた、完全なる私たちの失態であった。


「ダリア、よく聞いて欲しい。知らなかったのかもしれないがお前は…お前は本当に間違った行いをしたんだよ」

「………えぇ?」


 ユーフォリア様の運命がショーテイジ伯爵家の長子、ルピナス・ショーテイジ様であること。

 ルピナス・ショーテイジ様はショーテイジ伯爵に今まで虐げられ過ごしていたこと。

 ダリアがユーフォリア様の怒りを買ってしまったこと。

 それによって、もしかしたらユーフォリア様がブバルディア王国を出てしまうかもしれないこと。


「…お父様、お母様。ぼくは、ずっと間違えていたのですか?ずっと周りに騙されていたのですか?」


 一つ一つ事実を教えていくとダリアはガタガタと身を震わせ始め、顔からは血の気が失われていく。そんな息子の手を、私たち夫婦は包み込むように握りしめた。


「何百年と続いてきたブバルディア王国とユーフォリア様との契約が───ぼくのせいで無くなってしまうかもしれないなんて。そんな…そんな……」


 多くのユーフォリア様関連の物語を読んできたダリアだからこそ事の重大さを痛いほど感じているのだろう。

 執事たちという身近にいた人々に裏切られていたことと、ユーフォリア様がこの国を出るかもしれないきっかけを自分が作ってしまったという事実は、五歳という幼いダリアにはあまりにも重すぎた。

 この第二王子をブバルディア王国の王として罰さなければならない。

 ───だが…どうか今だけは許して欲しい。

 ただの父親として愛する息子の涙を。
 妻と二人、静かに受け止めていた。



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