47 / 57
第五章 目覚めた戦士達の逆転劇 編
砦の中のガーディアンズ
しおりを挟む
あれから数日、牛人型装甲戦機やフライボード、アサルトライフルの追加投入により、銃と各々の得意分野を使い分けれるようになり、それからはほとんど怪我せずに帰ってくれる。
時々ミリタリー装備に関する改造案や要望が上がるようになり、それに応えてポーション風船以外にもいくつかを実装した。
まずは磁力ホルダーという特殊な磁力を発する小さい魔法道具。
これは車とかに取り付けるスマホのホルダーマグネットと原理は同じ。 ベルトやプレートキャリアの背面など思い思いの箇所に取り着けることで、使わない方の武器をその位置に任意の幅を保って浮いていてくれる。
これにより、ドルガンさんはあの大きな盾で前面を守ったままアサルトライフルが使えたり、他の人でもアサルトライフルが使いづらい近距離戦や木の上からの奇襲攻撃を防げないとか、剣を奪われるなんて心配もなくなったそうだ。
槍の使い手には長い持ち手に如意棒の機構を適用した。
銃を使っている時は背負うことになるわけだが、移動する際に木々に引っかかるからシンプルに持ち歩きが困るんだと。
磁力ホルダーと併用して相当身軽になったそうだし、楽さを求めるのも彼らの命を守ることに役立つからやって良かったと思っている。
そして、数が用意できない端末代わりに用意したのがトランスリスポーナーという防犯ブザー型の魔法道具。
お腹側と背中側に一つずつ入れているポーション風船のどっちかが割れると、本体から各小隊長のスマホを通して医療班のスマホに通知が飛ぶ。 そして医療班の誰かが転送を要請するか、装着者に再度危険が迫ると強制的に診療所送りとなり、速やかに治療または風船の補充が行われる。 要はFPSゲームで言うところの残機とリスポーンを担う装置だ。
機能で言えば転移絨毯と同じ発信機、この装置は同時に例の情報統制事案の発生時、つまりは偵察の人間が近くにいる時、騎士団の鎧に早着替えさせるための装置でもある。
人命優先のためとはいえ、騎士団が王国の国家権力と誇りの証、つまりは由緒正しき制服でもある騎士団の鎧を使っていないのも、常人からすれば無敵とされるであろう迷彩装備一式やアサルトライフル、フライボードとそれを作れる職人が存在するのも俺たちの利害関係的に絶対にバレるわけにはいかないのだ。
ちなみに、防犯ブザー型としたからにはちゃんとブザーとして機能する。ただ、紐を引くと音が鳴るのは本体ではなく
ビィィーッ! ビィィーッ! ビィィーッ! ビィィーッ!
『南南西600m地点ニテ、コードイエローを確認しマシタ。
該当スタッフは事態に備えて下サイ。 繰り返しマス。
南南西600m地点ニテ コードイエローを確認しマシタ。
該当スタッフは事態に備えて下サイ。』
イライライライライライライライラ…!
「もぉっ! いい加減にして下さいまし!!」
「あ~クマ君…気持ちは分からんでもないが、感情的になってもしょうがないだろ。 もう少し落ち着いてだな…」
「7回目ですわよ! それも本日の午前中だけで!
これでは製薬も落ち着いてできたものではありませんわ!」
「同じく…集中出来ないぃ…!」
「ほんっとにしつこいよね この拠点には関係者以外接近禁止だって言ってるのに」
「ここって技術力の宝庫ですから、隙あらば横取りしたいと思うのも無理はないですよ」
「このままでは腹の虫が収まらないどころか、血祭りを始めてしまいますわ! もしこの敷地内に辿り着こうものなら、クマ殺しポーションをご馳走様して差し上げましょう」
「「「やめて差し上げろ」」」
「そうだよシルヴィアちゃん、そういうのは下剤入りの紅茶にしないと」
「「「まず変なものを出すな」」」
「問答無用…まとめて天明にて処す…」
「「「落ち着けシータ!」」」
「ハバネロや唐辛子と一緒に全部混ぜちゃいます?」
「「「絶対ダメ!」」」
「それより、南方といえばエールテールの方面だ。 騎士団の到着を待ってる余裕はないぞ」
「それなら問題はない、じきに騎士団が馬達に追いついて、偵察の方向感覚をかき乱してくれるさ。」
「だといいが…向こうの目的は拠点と彼らの素性だろ? 結界があるとはいえ外から忍び込まれては…」
「それはないと思うっすよ。 結界はクマっちが本気を出しても破れないっすし、地上からでは認識すらできないっす。
エルフの里に使われるような方向感覚を惑わせる特別性の結界も使っているそうっすから、入れるのは関係者以外にいないっす。」
「だそうだ。 でなきゃとっくに屋上の狙撃犯は魔獣にやられてるさ。」
「言われてみれば、あの3人の面倒見たのって、手にマメができたとか発砲音で耳が痛いぐらいだったな」
「でも相手がギルドの者だったらどうするんでしょう いくら騎士団長といえど正式な手順を踏んだ視察を断ることはできないのでは?
王都での忠告が正しくエールテールに伝わっていない可能性は高いですよね」
「それも、魔獣対策用に周辺の地形ごと弄ってあるので多分無理っす。
この拠点の周りは幅20メートル以上ある粘着液で満たされた堀で囲ってあって、今の第三騎士団くらい強化魔法が使える人でないと飛び越えられないように橋もかかっていないっすし、結界の中には端末か転移装置を持ってないと絶対に中には入れないっす」
「相変わらず手厚いセキュリティだな」
「1番すごいのがいたの忘れてた…」
「…返り討ちバンザイ…」
「やめなさいって…」
「それで? その1番すごい拠点のリーダー様は今どこに?」
「ただいま戻りました~」
「おかえりなさいまし」
「あれ…この空気、なんかあったの?」
「黄色い緊急事態発生ですわ。」
「またぁ? もう、懲りないよね。 こちとら森ごとセキュリティとして使ってるんだから、辿り着く頃には弓とライフルとパチンコの射程圏内だって誰か報告してくれないかな」
「それもそうだが…君は気づかなかったのか?」
「あー…ごめんなさい、マナーモードにしてて気づきませんでした。
街の中でアラートが鳴ったら知らない人はパニック起こしちゃうかなと思って」
「どこ行ってたの?」
「マルクさんのところにちょっと」
「あ~、納品っすね」
「納品っていうのは買い物か?」
「買い物も時々しますけど、今日は売る側です。
向こうで材料を用意してくれてるんで、そこに行ってチャチャっと加工して来るだけなんですけどね」
「マルク… まさかっ…リョー君」
「はい?」
「契約してるのか!? あのバジール商会と!」
「してますよ。 そこの冷蔵庫とかトイレセット一式とか、電子レンジやその他諸々。ここの拠点でも使ってる魔法装置の業務用と生活用の設計と試作、初期生産の造り溜めをしてるんです。
傘とかボールペン、紙、ホッチキスとかの筆記用具も買ってもらってて、もうじき生産体制が整うっていうから、話を聞くついでにちょっと相談をしてたら遅れちゃいました」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リース、バジール商会本店
「ふむ…立案者名は秘匿してほしいというお話ですか」
「なんとかならないですか」
「え~…まず、どこからなんとお伝えしたらいいのやら…」
「やっぱり難しいですよね… 無理なら無理って気にしないで言ってください。 最悪自力でなんとかしますから」
「いえいえ! そういうお話ではございませんっ!
そもそも最初から公開をしていないので、今頼まれようと現状と全く差がないのでございます!」
「へ…? 公開して…いない?」
「はい。 名を売りたい方ならば全力で後押しするのですが…リョー様についてはむしろ理論が真逆であると。
これについて説明をする前に少々、商人の人脈・コネクションのカラクリを少しお話ししてもよろしいですかな?」
「コネクションのカラクリ? 差し支えなければ、お願いします」
「では。」
オッホンッ
「そもそも商いというものはですな、生産・加工・運搬・消費の至る所で発生する流通や金銭のやりくり繰りなどの総称で御座います。
この街リースで多い取引でご説明しますと、冒険者ギルドから肉や皮、農家から野菜や果物が市場に流れ、市場から買い入れた職人や料理人がそれらに手を加えてお客様へ提供する。
それらの間を受け持つのが商い、商業というものでございまして、小さくは露店、市場、屋台、その商売が軌道に乗れば個人の店、その次は支店、規模が大きくなればなるほど商会として看板がいろんな場所に持てるようになると共に、それに見合った便宜を図ってもらえるようになります
そして便宜というものは持ちつ持たれつの関係性を築く上で非常に重要になってまいります。 急ぎの製品を優先して用立てたり、値引きをしたり、支払いを月末に変更したりなど、内容は様々ですな」
「俺だと…支払いの一部を鉱石素材に置き換えてもらってるのがそれですか」
「そうですな。 リョー様の場合はそれに加えて個人情報の取り扱いも我が商会の中でも最重要機密として取り扱うこととしております。」
「最重要機密…その心は」
「冒険者に過去の詮索をするのはタブーとされているように、商人に仕入れ先や顧客の情報を聞くのはタブーとされております。
我々といたしましては、貴方様は特に他の商会やダルセン家以外の貴族に奪われてなるものか、というのが本音であり、最重要機密の動機にございます。
もちろん、我々バジール商会の手垢がついていないと勘違いされそうな場合は考えものでございますが。」
「ずいぶんと正直…というか直球におっしゃるんですね」
「私もこれまで何千、何万という人と接しておりますが、リョー様をはっきり申しますと文明力の化身、神の使いのような存在にございます。
貴族社会に大きくそれが知れ渡ると最後、間違いなく政治的な力で略奪搾取の対象になってしまわれます。 そうなればリースの英雄であるリョー様やご家族にも危険が及ぶことでしょう。
今やリョー様を貴族の駒に取られ、リョー様の自由を奪われることは、我が国最大の損失であると我々は考えております。」
「大袈裟な気もしますが、それで最重要機密…と。」
「……」
「いかがなさいましたかな」
「え?」
「眉間にひどくシワが寄っております。 私に何か話すべきかお悩みで?」
「ま、まぁ…。本人の了承無く勝手に相談するのはどうかと思いつつ、話せる味方なら話して協力を得たいな…なんて」
「他人の相談ですか、確かに許可なく言いふらすのは悩まれましょう。
だんじて無理に聞いたりなどはいたしません。」
「………………いえ、頭の片隅に大事にしまっておいてほしい極めて重要な事なので。」
「おっと…これは襟を再三直さねばなりませんな」
ビシッピーーンッ!
「なんでしょう」
「俺の大事な友達であり、今度一緒にパーティ仲間になるシルヴィアとフィエリアも、貴族社会にとって格好の餌食になる事は間違いないだろうなって思ってて、今後の俺にできる事はやってあげたいなって。」
「フィエリア…? 申し訳ございません、シルヴィアお嬢様のご事情は存じておりますが、恥ずかしながらフィエリアという名に心当たりがおぼろげでございまして…」
「正しくはフィエリア・ヴィンセント。」
「ヴィンセント…!? それはもしや!」
「お察しの通り、ヴィンセント家の次男にしてエミリさんの弟、今は亡きランノール・ヴィンセントの一人娘。
つまりはエミリさんの姪っ子、シルヴィアのいとこにあたります。
マルクさんは何年も会ってますから顔はすぐ分かるはずですよ。
衛兵隊のフィリップの本名です」
「なんと…」
「一応…以前ここへ来た時に一緒でしたし、最近は普通に下の名前だけは本名を名乗ってましたけど…覚えてなさそうですね」
「失礼ながら、あの時は心ここに在らずでしたので…リョー様と試作の商品以外に目が向いておらず…。
常日頃、衛兵の皆様の顔を見ていても、あの人数では顔と名前はごちゃごちゃになってしまうもので」
「だと思います…。 それより、俺たちがリースに戻ってからは衛兵隊の予備戦力、災害救助用員、火消し隊の名目で、正式にこの街のツートップ直属の冒険者パーティを設立することがほぼ確定しています。
ですが、中級までならポーションの大量錬成が可能で、ジョセフさんにも並びかねない魔法戦士兼貴族令嬢と、失脚したとされるランノール・ヴィンセントの忘れ形見で近頃『空かける衛兵』と話題のフィエリア…あの2人はつつかれるポイントが多い分、俺なんかより危険な立ち位置にいます。
俺も一緒に活動するわけですから尚のこと」
くっ…!
「私としたことが…! それは抜かっておりました…!
ダルセン家は元々、冒険者伯と辺境伯の家系。
先代の領主様の拳に対して与えられた貴族爵位だそうで、国家的権限はあまり持ちません。
流星の拳闘士と火山の鬼の2名が睨みを効かせるこの街の中で、乱暴狼藉を働く愚か者は居てもすぐに居場所を失うでしょうが、そうでない街であれば理不尽に人権を奪われ、武器を構え、石を投げつける者もきっと多い」
「ですね。 シルヴィアは魔力が極端に多いだけでただの優しい子です。フィエリアも同じく、行動力と体力が並外れただけの普通の子。
過去がどうあろうとオモチャでも兵器でも無い。 そんなことあっていいはずがない…!」
「リョー様、魔力と殺気が漏れております、少しクールダウン致しましょう」
「あ…ごめんなさい。 熱くなりすぎました」
ふぅ…
「つまり、リョー様は今後のためにも、王都や貴族、庶民の動向に目を光らせ、状況に応じた忠告やアドバイスが欲しい。 場合によってはダルセン家やアンジェ殿、バジール商会の看板を片っ端から、それも借りれるだけ借りたいと言ったところですかな?」
「わがままは承知です、分かってはいるんです。 それでも…俺は今のこの生活が好きなんです。
冒険者として得意分野で人の役に立ちながら、たまに酔っ払い冒険者をヒラリとかわして、もっとたまーに職人として役に立てて、帰り道に寄った顔馴染みの店からは「これも持って行けぇい」なんて言って豪速球のリンゴが飛んでくるこの街が。
休みの日には匠やメル爺やティー兄に笑われながらアムとレグにおいかけっこやかくれんぼでフルボッコにされて、ヘロヘロになった後は陸の寝息でシャボン玉を作って、膨らんだ直径を測って遊ぶあの何気ない日常が。
雲に隠れて見えなかったシルヴィアの夢とか、明るいフリをしていたフィエリアの本当の笑顔とか、臆病な性格にくすぶってたケリーの本当のの強さとか、いろんな発見に気づける喜びが
本当に、本当に幸せなんです。 この幸せを奪われたく無い…絶対に失いたくないんです。」
「分かっておりますとも。 リョー様から言わずとも、我々は手から頭からなんだってお力添えをさせていただきます。」
「!!」
「おや、断られると思っていた顔ですなその表情は」
「だって、たかが若造1人が大商会のトップにするような相談ですよ?」
「たかがではありません。されどリョー様なのです。 その証拠に、こちらを」
出された手紙はとても細く丸められた形跡があり、軽く折り結んだ跡もある。 矢文の跡か?
ペラッ
「これ…!」
渡された折り目のつき具合や色あせ方からして真新しいとは言えない、数ヶ月程度経過している羊皮紙…おそらくは俺がこの街に来てすぐ書かれた手紙。
どことなく見覚えのある筆跡、アンジェという署名、捺印がわりに指を軽く針に刺したであろう赤い親指の指紋の付いたその手紙にはこうあった。
[生産スキルバカのあの子、筋の通った接し方をすりゃとんでもない天才なのはアンタも知っての通りさ。 だからこそ敵に回せばとんでもないことになる。
アンタならそんな付き合い方しないとは思うが、他は違うだろう。 きな臭いバカの手があの子や周りに悪さをしないよう、バジール商会でも力になってやっておくれ。]と。
思い返してみればおかしな話だったんだ。
定期的に商談に関する手紙は届くには届くが、アニメで見るような横柄な貴族がウチに押しかけてくるなんてイベントは一度もない。
どこからか睨みを利かせて守ってくれていたんだ
「他所の貴族や商会、ギルドは既にリョー様に目をつけ、今か今かとスカウトや商談のタイミングを探っております。 しかし、貴族の中には有能な庶民を雇いれては何かと理屈をつけて馬車馬のよう…いえ、鉱山の犯罪奴隷とさして違わぬ条件で働かせている例がゴマンと御座います。
そう言った輩よりリョー様を護るべく、我が商会やダルセン家、冒険者ギルド リース支部、それから商業ギルド リース支部も会議に会議を重ねまして、影からこリョー様の自由を守らせていただいているのです。」
「そうだったんですね…」
「幅広いお取り引きを目指すというお考えがあるのなら、勝手な横槍を入れていると言われて仕舞えばそれまでですが、貴方様の自由こそ、我が国の発展にも1番の近道で御座いますので」
「めちゃくちゃ助かってます 本当にいつもありがとうございます。」
「いえいえこちらこそ。 今後とも、ほどほどのペースで末永いお付き合いが続きますよう、よろしくお願い申し上げます」
「よ、よろしくお願いします!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやぁ あの人達には一生かかっても勝てる気がしないですね」
「王都にも支店を持つ大商会のカシラを後ろ盾に持っているなんて…」
「この拠点の情報を門外不出にする理由も納得だな」
「君が敵で無くて本当に良かったと思うよ」
ビィィーッ! ビィィーッ! ビィィーッ! ビィィーッ!
「『 !!!?!!! 』」
『コードレッド! コードレッド!
上空に従魔証のついた中型鳥ヲ3体確認 時速60km以上で急接近中 到着マデ7分もありマセン!』
「なんだって!?」
「コードレッド!?」
「大型の鳥系の魔獣…て」
「【医療班通信取れますか】」
ピッ
「【はい。 状況をお願いします】」
「【対象の所属はエールテールのギルド各部です。 残念ながら結界に気づかれてます。
少しズレている軌道からして入口を探しながら飛来中といったところでしょうか 撃墜しますか】」
「【いえ、殺害してしまっては後が大変なのでちょっと手段は選びましょう】」
「あっそうだ ブラネットさんすいません、何個か麻酔持ってきてもらえますか」
「麻酔? わ、分かりました」
ピッ
「【狙撃班、3名ともいいですか?】」
「【聞こえてるぜ】」 「【どうぞ】」 「【なんだ】」
「【対象をなるべく傷つけずにねじ伏せます。手伝ってください】」
「【へっ、まかせとけ!】」 「「【了解】」」
「皆さんはここで待機、敷地内全域にも結界を張ると思いますので窓を閉めておいて下さい。」
「「「了解」」」
「ブラネットさんは念のためポーションの手配。
ケンちゃんからの指示次第で先生達と手分けしてスキャナーとかバッテリーとか隠せるものは隠しておいてください。」
「はいっ!」
「シータさん、万が一の時は援護をお願いします。」
「…んっ!」
「3人は俺と一緒に屋上に」
「「「了解」ですわ」っす」
ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ
「相手どるなら1人あたま1匹と2人ずつってとこか」
「やめておけ 殺すなって言われたばかりだろ。」
「相手はおそらくはギルドの人間です。 不用意に攻撃すると国勢が危うくなります」
「チィッ メンドくせーなぁ焼き鳥にすりゃあ美味そうなのによ」
「従魔を食材として見るなよバカ!」
「みなさーん!」
「お、来たな。 どうやんだ? ドラゴン大センセー」
「大先生はやめてください…。とりあえず注意、警告、威嚇、実力行使の順でいきましょう」
「私が呼びかけてみます。」
『馬舎がパニック状態に陥ル可能性を検出。【屋外スピーカーの角度ヲ大幅に修正】【結界の追加及び変形ヲ要請】
対象者にのみ音を届ケル周波数を検索…完了シマシタ。【屋外スピーカーの音声モードを超音波に変更】』
外についているスピーカーが全てたった今、防音結界に空いた穴に集中して向き、建物全てに速やかに結界が敷かれる。 防音と隠蔽の魔法結界だ
ピーンポーンパーンポーーン
『スタッフの皆サマにお知らシマス。 これより対処を開始いたしマスのデ、調理班は火の扱いを中止、獣舎の皆サマは防音結界の範囲内へ避難、その他の皆サマは玄関扉と窓の戸締りヲ徹底し、全員1階踊り場にて待機して下サイ』
敷地内に入られて困るポイントはもうひとつある。 先生達が来た時の虹色ドクガと似たようなことが起きれば集団感染の恐れもある。
窓と扉を閉めさせたのは爆音対策と外部から毒や細菌を持ち込まれることを防ぐため。 実は先生達の念のためという指摘から、毎食前のバイタルチェックの時には必ず施錠まではせずに閉めてもらっている。
リトルが結界を張るためには窓が開いてると余計な凸凹となって完成度が落ちる恐れがあるからだ。
『ドウゾ』
「【こちら第三騎士団 援護狙撃担当の者!
空路にて移動中の3羽の鳥型魔獣に告ぐ!!】」
「リーダー!」
「ああ、ようやく中から反応があったか。 この機会は絶対に…」
「【我ら、本陣の防衛も兼任で仰せつかっっている故、魔獣や盗賊の襲来に対して殲滅の義務がある! 間違いで狙撃されたくなければ引き返せ!】」
「ふざけるな! 私たちは商業ギルドの者だぞ!」
「従魔証が見えないのか!」
「なんか言ってんぞ」
「でしょうね。 遠すぎて聞こえませんけど。」
「【どこの所属か主張していると見受けるが、そんな距離で、そんな上空から肉声が届くわけがなかろう!
敵意がないことを主張したくば方角を変更! または速やかに着陸し、陸路から第三騎士団の主力部隊と交渉せよ!
でなくば、其方達を敵と判断し、迎撃を開始する!】」
「とち狂ったか騎士団め!」
「ちょっと見せてくれればいいと言っているだろう!! メイヤ!」
「【守護神より授かりし護りの力よ ここに我らを護り、苦難を無に帰す障壁となれ…結界!】」
左の1羽に乗った術師がそれぞれに結界を張り、結界ごと突っ込んでくる
「聞く気なしですね」
「ああ。 結界で護りながら正面から押し入るつもりだな」
「どうするよ」
「警告…ですね」
「【繰り返す! 敵意がないなら飛翔を中止せよ! でなくば、拠点の防衛のために実力を行使する! 警告したぞ!!】」
「トレバーさん、当たらないように威嚇射撃をお願いできますか」
「厳しいな。下向きにならともかく、上向きの角度でこの距離ではそもそも届くか怪しいぞ」
『今のトレバーサンなら普通に届きマス いつもより魔力を込めテくだサイ」
「分かった。」
「よし」
「威嚇射撃、開始してください」
「了解」
ズダァァァァン!! ズダァァァァンッ!!
「スコットさん、テーリオさん、コレを」
薬瓶を手渡す
その間も氷の弾丸が結界の真横真上真下と、乗り手の焦りを煽るべく空を滑り抜けていく
「これで撃てってか? ったく…おもしれーこと言ってくれるじゃねぇか」
「矢をつがえるのは久しぶりですね」
「大丈夫です。 2人なら出来ます。」
俺の言葉に半信半疑となりながらも、各々の武器をかざす。
「もう撃っていいか?」
「ちょっとだけ待ってください。 俺たちで結界を破ります」
「達ってことは…え!?おれっち達もやるんすか!?」
「当然ですわ」
「そのために来たんじゃないの?」
「薬瓶で結界は貫通出来ないから、俺たちが総出でやらないと当たるものも当たらない。」
『マジックシューターのセーフティを解除しマス。
順番に撃ッタ弾丸を上空で魔法ヲ合算発動しなけレバ、結界同士の衝突で生きていテモ堀の内側まで到達されてしまいマス』
「わたくしたちが息を合わせないと死んでも生きても辿り着かれてしまうという事ですわね…」
「迷ってる時間はないね」
魔法妨害の弾丸は端末ごと壊れるほど負荷がかかるため、1発にいろんな魔法をつけたりが出来ない。
4人のうち3人がその魔法陣を撃ち、残りの1人が弾丸そのものをお薬ゼリーの容量で魔法で包み、包んだ合計物を魔法誘導の陣でターゲットに命中させる必要がある。
フィエリアも単発の命中率は高いとは言いきれないし、そもそも届くのか分からない。ましてやケリーとシルヴィアは銃の訓練を全くしてないから尚更。
『【セーフティ解除】【妨害魔法弾】』
「構えて、狙って、1、2っ3!」
ダァン!!×3
『【セーフティ解除】【魔法直接干渉】【魔法誘導】【狙撃特化ブラスト】』
「そこだっ!」
先に結界を飛び出た同胞を追い抱き寄せるように3つを魔法のジェルが包み込む。
『【魔法合体』
お薬ゼリーが着弾までの間に変形をくり返す
3つの核を持ったスライム型…三色団子型…3つ中1個が酸っぱい駄菓子のガム…信号機…ケロベロス、では無く三つ首ダックスフンド!?
ってかいま魔法の形とかなんでもいいから!遊んでないで早よ当てろ!
渋々三つに分かれたモリに変形したまま突っ込む。 ようやく決まったか
『三又式魔法妨害】!!』
「なんだあの魔法は!?」
「来るっ!」
「しかしこちらにはメイヤの結界があります! 負ける訳がありま」
ザクッ!!
ピシッ…ピシピシ…
「何これっ…どうなってるの! 魔力の波長と魔法陣が乱れ…!? 結界が…維持出来ない!」
パリィィィィィィィーーーーーーン!!
「「なにぃぃぃぃぃぃぃ!?」」
「結界が破られただと!?」
「あり得ない! メイヤの結界は破られたことがないのだぞ!」
「【最終警告だ!! 接近を中止せよ!!
30秒後に実力を行使する!】」
「メイヤ!もう一度結界を張れ!」
「無理よ…」
「メイヤ!しのごの言ってないで早く結界を!」
「手が痺れて動かないの…!
…いままで12年間磨き続けた私の結界がああも簡単に破られたのよ…この距離で正確に射抜かれるなんて、しかも警告なんて言ってあんな軽々と!今までの騎士団なら不可能なはず…もし結界がもう一枚作れても、かないっこないわ。」
「…分かった。ダメだリーダー!!引き返しましょー!」
「…それしかないのか…」
「リーダー! 早く!」
「いや、突撃する!」
「リーダー!?」
「お前達は街へ戻れ。 シュバロッテ」
「ケラケッ」
「すまないが、オレと運命をともにしてくれるな」
「クアッケ!!!」
「ケックァ!!」
「カカァクケ!!」
「ヴァイシアーノ、シャンビアイズ いつも愛想ないくせに今さらなに言ってんだ。
みんなを、オレ達の仲間を頼んだぞ」
「クゥ…」
「キィ…」
バサッバサッバサッバサッ
「おい…待てよリーダー!」
「ダメ…! ダメよ! 本当に死んでしまうわ!!」
「ああ。だからこそ、死ぬのはオレだけで充分だ。 じゃあな」
「リーダー!」
「クソォっ 戻れっ! 引き返せよ!!」
「行くぞ! 【従魔強化】」
「リーダー!おいダメだって…早まんな!!」
「【クゥアアアアアアアアアアアアア!!】」
「迂回しながら特攻してきましたよ」
「2羽を引き返させたあたりは懸命な判断と言いたいですが、命知らずといえば命知らずですね」
「撃つか? 撃っていいか?」
「そうですね。 ひと瓶ぶち込んじゃいましょう」
「屋根の上の狩人、テーリオ様にお任せあれっ…と!」
グググググググ…ピュンッ!
弾丸として放たれた瓶の中には吸収効率を限界まで上げた麻酔薬と睡眠薬をほぼ毒物とも言える濃さで入れてある。
薬瓶本体は軽く強化付与しただけの飴細工なので、ぶつかれば無害な破片として割れ、夢の中へ誘う薬品が飛び散る算段だ。
パリンッバシャァア!! クンクンッ
むにゃぁ…
「クミィ…」
スヤァ~…
「っしゃ 当たりぃ!」
「ナイスヒットです」
「へへっ オレにやらせりゃあんなモン1発よ」
「おいどうしたシュバロッテ! しっかりしろ!」
「ミャ~~…クゥ…」
「おいバカ!空で寝るヤツがあるか! 早…く、おぉきぃろ… おちぃるぅ…」
こちらの拠点方面から進路を大幅に変えていくのが見える。 堀の内側から堀の中、外、平原、森、池、森、川、森…あのまま行けば別の団体を対応中の第三騎士団からすぐ近くにかち合うはずだ。
「大型魔獣相手に効きすぎだろ…」
「象を10秒で倒せる威力に濃縮しましたから。」
「って、ねぇ…リョー君 あれ…墜落してない?」
「うん 落ちてるよ」
「ダメじゃん!」
「助けにいくっす!!」
「その必要はない」
「なんで!? あのまま落ちたら死んじゃいますよ!!」
「落ち着け。 ちゃんと見てみろ」
注目するべきは地上、森の中だ
「…獲物が空から…」ガシィッ スゥー…ッ
ググググググゥ…!!!
「ギル…! 待て、ハウス、どーどーどー」
「……」スーッ チャキッ……
「行きます! 【時限式グレネードボール】」
チッチッチッチッチッチッチッチッチ…
「6秒前、5、4、3…」
「ウォォォオオオオオオ!!」
ボガァァァアアアアアアーーーーーーン
「くぅゥゥ…!!」
大盾に乗ることで爆風を受け、急上昇。
「あっ…これボク巻き込まれギャンっ」
『【セーフティシールド】【消音】』
「ヒイイィィっ じぬがどおぼっだぁ…!!」
「【光よ、巨大な手となれ グリッターハンド!】」
グァシッ
「確保おぉ!!」
「【吹き上がれ! アッパーストリーム】」
「【上昇気流よ、思うがままとなれ! ウィンドオペレーション】」
フワン…フワン…フワン…フワン…フワン…フワン…ズシーーン!!
「うぐぁッ!!」
「「ドルガン!!」」
「ドリガンさん!」
「大丈夫だ。上昇と落下による負荷で首を痛めただけだ。」
「本当か 待ってろ動くな、念のためポーションかけてやるから」
キュポンッ ビシャァッ
「ふぅ…すまん 助かった」
「オレこそ悪い この上がった魔法の威力にまだ慣れてなくてな…」
「ルチオ、彼らに報告をしておいてくれ」
「あ、はい」
「【こちらルチオ、鳥の従魔と1名、無事に確保完了しました】」
「【ドルガンさんは】」
「【無事です。 首のむちうちか捻挫が出てると思うので回復ポーションを使いました。 帰ってから診てもらえますか】」
「【こちらマクラーノ、了解した。 現場でも経過観察よろしく】」
「【了解しました】」
ヘニャ~
「よかったぁ……」
「マジでダメかと思ったっす…」
「残り2羽どうしますか」
「放っておきましょう。 それよりあっちに落ちてる物が気になります」
「どこですか」
「ここから南に400、東に210ほどにひとつ。 そこから南に100m、そこから先は300mおきくらいに2、3個ずつ落ちてます。 落とされてると言った方がいいかもしれませんね」
「なんですかアレは…?」
「ここからだと遠すぎて見えませんが、おそらく…古い魔石を加工された魔道具、おおかた発信機か盗聴器とかでしょう、知らずに拾ったら睡眠ガスとか出てきそうですね。
…うわぁ…西800にも同じよう道があるんですけど…」
「魔力の広がってる範囲からしてエールテール方面まで続いてるな」
「ええ。 昨日から妙に近くまで辿り着かれているのも説明がつきます。 どうしますかドラゴンさん」
「砕いてはおきたいですが、トレバーさんは蛇の矢の痕跡が、テーリオさんのは合金球が残るし、トレバーさんの氷も多分残るから…現地の方々に回収を頼みましょう。」
「ん? リョーっち、あれなんすか?」
「どれ?…ハァ?もぉ~嘘でしょ、勘弁してぇ…」
ピッ
「【各班に緊急連絡! コードブラック ギルドの気球が確認出来ました。】」
「あーあ、ついに出ちまったかい」
「カリーナさん…コードブラックって何なんですか」
「青は近くの冒険者、黄色は結界で行ったり来たりする程度の偵察、赤は公的機関さんの人数が多いとか、さっきみたいになかなかに厄介な状態。
ブラックとなると守備網すら無視されるかもしれないってことさ。」
「そんな!」
「これからどうなるんですか!」
「ここは世間に厄災呼ばわりされるあの子を中心に建てられ運営できてる異端な要塞。 対してギルドや貴族連中はアタシらの安否確認という名目でカネの成る木を掻っ攫いに来てやがる
どうやらあの子と騎士団長さまは、最終的には正しい事実を広める布石ってやつにするつもりらしいが、ふた昔も前のしょうもない噂に振り回されてるような無能どもに、今はまだ知られるわけにはいかないね」
キィ…パタンっ
屋内シューズを脱ぎ、ロッカータイプの靴箱から取り出した靴に履き替える。
背中や首周り、手の関節をポキポキと鳴らし、鼻息をフシューーーっと吹き飛ばす
「どこ行くんですか!?」
「ちょっくらバカどもに説教ってところかねぇ
こういうのはアタシみたいなのが啖呵切って前出た方が話は丸く収まるってなもんだよ。」
「え…?」
「ま、待つですカリーナさん」
「んぁ?」
「ここで私達がでた場合、余計なトラブルが生まれてしまいますですぅ」
「ならグラシノ、このままいきゃギルドの気球は我がもの顔で堀ん中に降りちまうが…アンタはここで大人しく見てるってのかい?」
「…わ、私は…」
「アホ面晒してヅカヅカきったない足でせっかくの才能踏み荒らされるのなんざ、アタシゃ見てらんないんだよ」
「でも!」
「でも何だい? アンタに別の妙案が出せるってんなら聞かせとくれよ」
「ぅぅ…ギルドに逆らうのは…ちょっと…」
「そんときゃそん時さ。 返り討ちにしてやんよ
あの子らと違って、アタシら料理人と医者と事務経理に見られて困るような顔なんて無いだろ?」
「そうですが…」
「カリーナさんには策はあるんですか」
「バカだねぇ、あるわけ無いだろう?
でもね、グラシノ もうかれこれ2週間ちょっと…ず~っと騎士どもはもちろん、アタシらの命はあの英雄どもの才能と努力に守られてんだよ。 こんな時ぐらいアタシらが守ってやらないで、この国はあの子らに対して何ができるってんだい」
『「……」』
「て…店長っ」
「ペーター、厨房で話をするときゃ腹から声出せって、いっつも教えてるだろ」
「ボクも…ボクも連れてってください!」
『「!!」』
「ドラゴンさん達がいなかったら、ここに来るまでの道中でボクは死んでいた…つまり彼らはボクの命の恩人なんです…
ボクが行って何かできるとは思えないけど…少しくらいは彼らの役に立ちたいんですっ!」
「ペーター…たまにゃあ男見せてくれるじゃないかい」
「オレも行きますよ。 カリーナさん」
「ポッター…」
「毒をくらわば…皿ごと」
「キネフィ…」
「まぁ、手を出さないならいいんじゃないか? 幸いにも結界の中には入れないだろうし」
「医者は患者と医学書以外を見ちゃいけないなんてルールはないしな」
「左に同じく」
「問題を起こす輩なら、“クマ印特性ドクロのお紅茶、便秘改善効果マシマシマシ ~天罰を添えて~”を出すまでですっ!」
「「「いい風に全部合体させるのはやめなさい」」」
「どうせ乗りかかった船だし」
「初志貫徹ですね」
「ちょっとした外交対策も私たちの役目ですし」
「もぉ…分かりましたですよぉ! 同行しますですぅ!」
1、2、3、4…
「あれ…グラシノさん、またピノが…」
「ピノなら空間魔法の中ですぅ。
コードレッド中はどこにいても送り込まれる手筈になってますですぅ」
「確かにその方がいいわね…」
「ここどこ…みんな迷子…」
「そういえばシータちゃんもいないけど」
「彼女は部屋か工房棟のどっちかにはいるはずだ。 私たちとは違って、屋上の彼らの援護を担っているから、シータもシータで臨戦体制なんだと」
「頼もしいけど、同時に恐ろしくもあるわね…」
「巫女の黒雲を乱す愚者…天空より舞い降りる…。 愚者に救いを施せど…聖域は決して穢されるなかれ…さもなくば永遠に日の目は見られず…いくつもの厄災にて全てが無に帰すであろう…」
『ソレは不味いデスね』
ピロンッ
『【マスター】』
「オーケー…【創造:双眼鏡】【魔法付与:視覚強化】」
『【魔法陣ヲ構築しマス】…完了。
【ズームアップ】【ピンボケ補正】【色彩補正】【光反射量調整】』
双眼鏡の視界の先にある気球の中には初老か中年くらいのおじさん1名、30代くらいの男性2名、同世代か20代くらいの女性1名だ。
おじさん勢は無視していい、普通の公務員顔だ。
用心するべきは若い女性、高飛車タイプで自意識過剰そうな事象エリートタイプといったところか…まぁ普通に考えて最悪の±2学年のどこかには入るはず。 ワンチャン同級とかありえるな
「接触するのは危険。この間のアレで行くしかないか…材料用意して」
『了解』
「んーー…」
「ん?何か気になることがあるのか?」
「やっぱり貴族連中ってバカばっかりだよなぁ」
「少しくらい言葉を選べよ…」
「一応貴族家の身としては愉快な発言ではありませんね。
その根拠ぐらいは聞かせてもらいましょうか」
「普通ならよ、魔法って初めてやった時に火だの水だのがポンって出りゃ素質があるっつーだろ?」
「そうっすね」
「んで王都の学園に入った時に “コイツすげぇ!” って言われんなら分かるんだけどよ、なんでクマのお嬢は、それと比べ物にならねぇすんげぇ雷1発出たってだけで人間じゃねーってなんだ? 普通に人がいねぇとこ行って練習させりゃいいだろ」
「おいバカっテーリオ!」
「触れてはならない話題ですよ!」
「構いませんわ。」
「く、クマさん…」
「続けてくださいまし。 テーリオさんの考え、わたくしも聞きたいですわ」
「ああ。オレって魔法使えねーのに、ガキん頃の記憶から愛武器(コイツ)を大先生に仕立ててもらった次の日にゃあ、タイチョーと打ち合いができるようになったろ。」
「めちゃくちゃ無意識で使えてるっすよね…」
「武器や球に魔力を込めてるから、強化魔法のエキスパートだよね…」
「他で言やぁ弓とか盾持ったりは分かるとして、ギルなんか剣が鎖みてぇに曲がるし、ルチオなんかゴッツイ手袋と細い棍棒。言っちまえば遊び道具だぜ?
武器とか鍛え方次第ですげぇ強ぇって分かってて、育てねぇ意味がわかんねーよ」
ハァ…
「才能だけじゃないんだ。 貴族社会は」
「?」
「爵位の優劣、領地の財政、過去の功績、当主の評判、貴族家同士の駆け引きや蹴落としあい。 良くも悪くも、いろんな思惑が絡み合ってるんだ。
彼女の御家は冒険者として武勲を上げたという、異例の冒険者伯、スラムと化してた村からリースという街へ成り上がらせたダルセン家を気に入らない貴族家が、貴族社会から陥れ・虐げるためのいいきっかけとして利用されたのかもしれないな」
「……っ」
「す、すまないっ 表現が良くなかった。 どうかお気を悪くしないでほしい…」
「いえ…わたくしも、これまで何とかそのように自分を納得させようとしてまいりましたわ。
ですが…」
空気がドスンと重くなる。 過去のことを思い出していまったようだ。 また手が震え、呼吸も浅くなってきた
「授業中にウサギほどの石を何度も頭に当て…ッ…られたり、魔法訓練の授業 っ 中に誤射だと ウッ 雷魔法を何度も顔面目掛けて撃ち込まれ」
「ウソだろ!?」
「教科書は水魔法で…グスッ…ぐっちゃぐちゃに、鞄や靴を何十個燃やされ…グスッ…寮の部屋に火を放たれた上に冤罪も…」
「もういいですから! これ以上はっ! 自分を大事にしてください!」
「シルヴィアちゃん、もう大丈夫だから手貸して、目閉じて、深呼吸…吸って…吐いて…いいよ
【荒ぶる心よ、静まりたまえ…リフレッシュ】」
「そんな環境でよく生きてたな…」
「普通ならやってらんねーわな…」
「在学中、側にセナがいなければ今頃は王都ごと消し飛んでましたわ」
「「たいへんよく生きました! えらい!!」」
「自分の影と情報収集の技術もその時に極めたものに御座います」
「ん…? この声どっかで…」
スゥーーーーーーーーーーッ
「「なんか出たーーー!」」
「おぉ 影のねーちゃんか」
「もしかして在学中ずっと警護していたんですか?」
「奥様より命を受け、お嬢様の陰に潜んでは定期的に情報収集と間接的に粛清と牽制を。」
「さりげなく粛清って言ったっすよ」
「何をしたかは聞かないでおこうか」
「そうだね」
「それでも…卒業まで学園にはいられませんでしたが…」
「そうか…クマのお嬢、ホントに辛いこと思い出させてすまねぇ! だがおかげで痛ぇくらいよく分かった。
おめぇ、とんでもなくすげぇよ。 ズタズタにされて、死ぬことも簡単に選べたはずだ。 なのにめげずにこうやってクソ野郎がいるかもしれねぇところで人の命救うことを選んでやがる。」
「…!」
「オメェより強ぇやつなんかこの世界どこ探してもいねーよ」
「わ、わたくしは…お父様と1対1で勝ったわけではありませんし…貴族の方とお話しする時も呼吸が苦しくなって…」
「んなもん後でいいんだよ、オレが言ってんのは」
ドンドンっ
「心(ここ)だ」
「じいちゃんが言ってたんだ。
“逃げるヤツは3流、泣きながらでも前に進むヤツは2流、そんな中でも心から笑えるやつこそ1流だ“ってな。
泣くなって言われても涙って止まんねぇ時だってあると思うがよ、先生やシータ達と話してる時のあの顔は仮面からの借りもんじゃねぇ、心からの笑顔ってやつだった。
3流サボり魔のオレからすりゃ、1流の中の1流だ。
あの風船にどんなゴミ野郎が乗ってんだか知らねーけど、クマのお嬢もこの国に生きてる大事な命だ。 その命4つや5つ、オレら騎士が守りきってやるから、心配すんな」
「本当に……よろしいのですか…?」
「ったりまえよ。 オレ達、職人大先生が仕込んだ”せいえー“ってヤツだからな
オレだって第三騎士団の騎士だ。 ナメんなよ」
これまでにないくらい真っ直ぐな目で左手をシルヴィアの肩に置く。 彼が初めて騎士を自覚した瞬間だった
シルヴィアはフィエリアと、いつからか影に潜んでいたセナさん同伴の元、一旦部屋へ。 どうやらエミリさんも駆けつけてくれると聞いてる、そこらへんは任せよう。
数十分後
気球は当たり前のように堀の内側の岸辺に踏み入れた。 が、仁王立ちした相手に阻まれていた
「失礼します」
「失礼するんなら帰んな」
「そう言われて、はい帰ります。とはなりません」
フッ
「そうだね。 だが、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ アンタら誰の許可取って気球を下ろしてんだい?」
「貴方は?」
「人に名前聞く時は自分から名乗るって礼儀だと習わなかったかい」
「我々は商業ギルドから来た遣い、私はベルフレッド、こっちは部下のワデルートとコルティナとノーヴァンです。」
「どーもさん。アタシゃここで調理の班長任されてるカリーナだよ。ここのはキネフィとポッター、ペーターさ」
「「「ども」」」
「他は面倒だし割愛するよ。 帰って勝手に調べな。 裏方班はここに居るので全員さ」
「そうですか。 総出でお出迎え感謝します。本日はこちらの施設を視察させていただきたくまいりました。中に入れていただけますか」
「悪いね。アタシらは誰に許可取ったか分かんない不審者を入れんなってここの責任者に言われてるからねぇ、ギルドだからって入れられないよ。」
「許可ならギルドマスターからの命令という形で降りています」
ビラっ!
懐から取り出した書類には[第三騎士団遠征陣営視察命令書]と書かれ、それに関する記述とギルドマスターの署名があった
「ふーん…視察できるもんならやってみろって話だけど、その前にいくつか言うことが出来たよ」
「何でしょう」
「まずひとつ目、パッと見は効力があるように見えるけど、根本的に組織間の不介入の原則を破ることしか書いてないから、そもそも法的に効力ないよ」
「いいえ。第二騎士団の事で第三騎士団にも疑いがかかっています。 それについては協力の義務があります」
「そうかい、ならふたつ目、アタシの名前の字が違う。 こことここもスペル間違ってるじゃないかい」
「えっ嘘!? 」
「公的措置を取る書類がこんだけ間違ってたんじゃあこれはただの紙切れさ。 効力主張するにもギルマスの署名が本物かすら証明してもらう必要があるね」
「こ、これは後ほど正しい手順を踏んで訂正します。 ですが、ギルマスの署名は本物です」
「後ほどじゃあ困るねぇ。 今のところアタシらの契約元の騎士団長様も出払ってるし、せめてその気球使って、団長か副団長から許可を直接もらってきてもらわないと入れられないねぇ」
「不手際があったとはいえここには確かに命令書があるわけですから、従っていただかないと困ります!!」
「ってかその命令書ってのも、見せてもらって来いっていうアンタらへの命令と、ここの責任者への[お願い]だろうに。
アタシらは勝手に中に入れられないっていうマニュアルの通りに「許可は?」って聞いてんのに、入場許可の根拠もない、間違った字の紙切れのどこのどれを信じられるってのかい?」
「代わりなさい」
「おや、選手交代ってかい」
「不手際については私からも謝罪します。 しかし、命令書の存在自体は事実。 よって、誤字があるとはいえ、命令書の存在と商業ギルドの権限に則り、私たちは貴方達に協力を要請します」
「話聞いてなかったのかい? アタシらには判断できないから団長に言ってきな。」
「もう一度言います、協力して下さい」
「そいつは聞けない協力だね。 アタシらの責任問題にされちゃたまったもんじゃないし」
「協力いただけないと?」
「ああ。 こっちの責任者が許可出してないと、いらない矛先がアタシらに向いちまうからね」
「協力いただけないようであれば…」
ズカズカと歩みを進める部外者達、その目は毅然としたもので、無理だと分かっているとはいえスタッフ達の焦りを少しばかり掻き立てた
「強制させていただきます」
チョンッ
バリバリバリバリバリバリバリィィイイ!!
「シビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ」
ケタケタケタケタッ
「アハハハハハハハハハハハハっ バカだねぇ、力ずくで通れるような柔な結界使って何の意味があるんだい」
『触らぬ神に祟りなし』とはよく言ったものだ。
こっちは畑のある南側。盗賊や魔獣の奇襲に備えて有刺鉄線付き電流フェンスくらい用意してある。 設置主の思いつき次第で、結界にも流せるよう細工することは容易い
「課長!」
「大丈夫ですか!」
「…痺れれぇるぅうぅう~~……」
「何のための結界だと思ってるんだろうか」
「仮にあそこまで届く声量なら攻撃に使えるな」
「よくも…! 今すぐ結界を解きなさい! でないとあなた達のギルド登録は抹消しますよ!!」
「使えない結界をどう解けってんだい?」
「クゥ… 開けなさい! この中にいるのは分かっていますよ! これは命令です! 今すぐに」
ドンッ
「あっ…」
『「あ…バカだ」』
バリバリバリバリバリバリバリィィイイ!!
「シビビビビビビビビビビビビビビビイビビビビビビビビビビビビッ!?」
「そういえば、今こっち方面にある畑って誰もいないんですよね…」
「ああ、イノシシのにぃさん達は避難中だからな。 いても獣舎チームがカモフラージュで仕事してるフリしてるぐらいだろ」
「ってことはぁ、あの人達トマトやキャベツに結界を解きなさいって、血相変えて…ププゥーっ」
「笑ってやるなって…でも、ちょっと滑稽かも(笑)」
少し前言撤回。根本的に焦る・焦らないの話ではなかった。
なぜかというと、結界の管理を担っている術者…いや術亀は、必要な時以外話を聞かないタイプなのを知っているから。
なぜ聞かないのかっていうと…答えは簡単だよね
スピーーッ スピーーっ
「ZZZZzzzzzzz…ZZZZzzzzzzzzz…」
そして工房棟自体、ポーション担当による爆発にも耐えられるようガッチガチの対策済み。
野球ドームと比べたくなる広さを持つ拠点の南側の外から叫んだところで、西側の工房棟に外部の声など聞こえるはずがないのだ
でなきゃ裏方全員に携帯電話を持たせる必要がなくなる。
「言っただろ? やれるもんならって。」
「だったら入る方法を教えなさい! 外に出れるなら中に入る方法を知らないはずありませんよね!!」
「だから、普通に入ればいいじゃないか」
「普通にって…!」
「だからぁ普通にだよ」
事務班の4人が結界に向かって歩いていく。 中に入るべく体が触れても電流は流れるどころか、霧でできた壁に入るかのように何の抵抗もなく入れていく。
「本当に…普通に入れば通れるんですね!?」
ゴンッ
「シビビビビビビビビビビビビビビビビビビ!」
「入れないのかい? そりゃそうか、許可一つ取ってない無作法者が押し入ろうしたところで通れるはずがないもんねぇ。」
「これはギルドに対する妨害とみなします!
あなた達の登録は抹消! それから損害賠償と、奴隷落ちも宣言します!」
「話になんないね。 まあいい、そろそろアタシらは仕事に戻るとしようかね」
『「はーーい」』
「待ちなさい!」
「おい、 んっ」
「はい」
「了解」
突然、弱そうな者を狙って背後から腕を捻り上げ人質に取る
「痛~い!!」
「ちょっと何するんですか!」
「黙れ!!奴隷に拒否権はない!
今すぐこの結界を解き、職人と薬師と狙撃担当の騎士を全員連れて来い!! でなくばこの奴隷の命は無いぞ!」
「この外道…最初からこれが目的で…!」
「だったらどうすると言うんですかぁ? 貴様らに選択肢はありませんよぉ?」
「あーあ、愚かだねぇ」
「今さら悔いても遅い! もう既に貴様らは奴隷落ちが確定したのだぞ! 早く言うとおりに動け!!」
「それともぉ この奴隷さんを殺されたいのですかぁ? もったいないですよねぇ、こんなカワイイ子のお顔が血に染まるなんて」
「嫌ぁ…やめてぇ!」
「早く連れて来い! その者達に用がある!」
「いーや ホンっト愚かだよぉ。
それで足元すくったつもりになっちまって。あぁ、実に愚かだ」
「はぁ!? 貴様は立場が分からないのか!」
「ああ分かっているさ。 飯屋と医者と事務員の前で白昼堂々と犯罪者に落ちぶれた大間抜けどもの違いがね。」
「何を勘違いしている! 犯罪を犯したのは貴様らの方だ!」
「なら、これを見ても同じことが言えるかい?」
突然、目の前の奴隷、手元の奴隷が順々に姿を歪ませ、再度安定した姿が見てとれたのは木材で精巧に造られた人形が突っ立っていた。
「人形だと!?」
「何がどうなっているんだ!」
「偽物!? どうやって!」
「騙しましたね!?」
種を明かせば単純で、先ほどまでの皆さんはケリーの時に使った真似っこゴーレムを光魔法で変装させたニセモノで、声はケンちゃんが人間の心理学やこの世界の法モラルから予測した対処用の台本を見て、スマホ越しに本人にアフレコをしてもらったものだ。
この拠点の全てを知りうる参謀官様がこれまでにない危険信号を出したということはシルヴィア以外が対応してもいずれ危険ということ。
ならば万事休すかと言われても、そういうわけにはいかない。 向こうが多少の押し切りにかかるなら、こっちもその力をそのまま返すまでだ。 正しい法律によって。
「仮にもここは戦地のど真ん中、一般市民に丸腰で散歩なんてすると思いますか?」
「誰だ!」
「どうして騎士がいるんだ! 森の中にいるのでは無かったのか!?」
「確かに、我々を除く147名は森の中で活動中だ。 だから長距離援護専門がこの地を魔獣や盗賊の被害から防衛している。
先ほどそちらがよこした鳥使いから聞かなかったか?」
「そ、それは…」
「不法侵入、暴行または器物損壊、脅迫、職権乱用による奴隷取扱法違反の現行犯。
特に人権不当奪取は重罪だ。 禁固刑か極刑は確実として、命令書を出したギルドマスター、あんたらの親や家族も犯罪奴隷に堕ちる可能性もあるな」
「待って! 私達は!」
「工房と薬部屋に用があるんだったら諦めるこったな。 人アレルギーってのを持ってるヤツがいるからアイツら怒らせたら街一個平気で吹き飛ぶぜ?」
「ハッタリを言うのも大概にしろ!私たちはその職人達に用がある! 今すぐ中に入れろ!!」
「【身の程が分かっていないな】」
「今度は誰だ!?」
「もう騎士はいないはず…ってことはつまり職人…!」
「どこだ!!」
「私たちは貴方とお話がしたくまいりました! お願いですから出てきてください!!」
「【罪と力のない者たちに対して筋違いを押し付けるような暴君たちと会う職人を見たことがあるか?】」
「それはぁ いち早く貴方と契約をするためにことを急いでのことでぇ」
「【権威に甘んじて人権を好き勝手に奪う者が契約など信頼ならない。 奴隷契約なら他所を当たるがいい、例え遠征中であろうとそうでなかろうと信頼ならない者と取引をするつもりはない】」
「違います! ただのお得意様契約でござ」
「【もういい、全て分かった】」
「そ、そうですか、やっとお会いしていただけるご決心がつきましたか。 では早速お話をいたしましょう! さあ、この結界を解いて姿をお見せ下さい!!」
「な…なんだあれは…!?」
急激に魔力と日光の上昇に身の危険を察知し本能的に見上げると、真っ赤な人型の何かが太陽のような火球を携え罪人を見下ろしていた
「紅の…バケモノ…!?」
「【紅のバケモノ…それが貴様らの最後の挨拶か】」
「待って違うの! 今のは…」
「【死ね】」
「やめてぇぇぇぇぇええええええええ!!!」
「【解除】っと ふぅっ 意外とリアルすぎるドラゴンのお面も役に立ちます…よね?」
俺が魔法で作ってた太陽は、熱を感じる以外はかなりチープなデッカい風船を破裂させただけなので、4人とも腰を抜かしていると思ったのだが…
「ちょっとなぁ…」
「これは…」
「流石に…」
目の前に転がる屍…もとい気絶した愚か者達は、白目を剥き、口からは泡がブクブクと、股間や顔面の穴という穴を汚水で濡らし、ピクリピクリと時々動く以外反応がない
「「「オーバーキルだろ」だな」です」
「あははは…つい気合いと空気を入れすぎちゃいました…」
「それより、この後はどうする? このまま帰りがないとまた次のが来ると思うが」
「コウモリさんに預けます。 例の件について“処置”したいことがあるらしくて」
「「「なんか怖い…」」」
「一通り済んだらそこの気球に魔法陣刻んで送り返します。それで合ってますか」
スーーーーーーッ
「相違ありません」
「「また出たぁ!!」」
「影のねーちゃん クマの嬢ちゃんは?」
「落ち着きました。 今は優雅になんらかの劇薬の研究をなさっています」
「それって優雅っていうか…?」
「さぁ…」「今は気が紛れるならいいと思いますが…」
「劇薬って…コウモリさん?」
「なんでしょう?」
ガタガタガタガタ…
「それってフィエリアも一緒だったり…しませんよね…?」
「ご一緒ですよ?……もしや…」
「急いで止めてきて下さい!! 公害が発生します!!」
「御意! この命に変えてもお止め致します!!」
シュバっ!
「ハァ…一難去ってまた一難。 良くも悪くも、ドラゴンさんの身の回りはここは退屈しませんね…」
「そうなんですよぉ…バラエティには困らないんですけどね、どうもその間が短いのなんのって
なのに、いざ解決してみればみんな呆れた目でこっちを見るんですもん、やってられないですよぉ」
「分かった分かった。愚痴は中で聞いてやるから、待たせてる皆のところに行くぞ」
「うーし メシだメシ~」
「出来てるわけないだろ、火の元は全部止めてるのだから」
「ちぇっ」
中に入るとメイン棟の前に皆が集まってくれていた。 ほとんど外に出たわけでもないのに、「おかえり」を言うためだけに。
夕方
「彼らは最初から神業職人とポーション製造元の素性とその利権、例の飛行船計画への仲介による手柄が狙いだったと供述しました。
リョー様達が1手先を読み、迎えうちに出ようとした市民枠達にストップをかけていなければ、あの強固な結界も危うかったやもしれません。」
「そうか…」
「参謀官様の仕事運を下げるどころかマイナスを振りきらせるという神業援護も素晴らしく、無効な書類によって動揺を誘って下さったおかげで自分が影から精神系魔法にて、恐怖の増幅が行えたことも合わせて報告致します。」
「…なるほど」
「先日のグランドマスターほどの器量は無かったので、このまま廃人になってくれればこちらとしては幸いです」
「あれもそういうことだったのか」
「あれもというのは?」
「彼女も商人としてかなりのベテランだ。 図星の1つや2つ言い当てたところで脅しや圧力に屈するような相手ではない。
私の見えない影から手助けをしてくれていなければ、あんなにスムーズに行くことはなかっただろう。 感謝する」
「感謝される筋合いはございません」
「…?」
「自分は心からお仕えしたダルセン家のお嬢様に危害が加わらないように細工したまで、騎士団や国がどうなろうと知ったことではありません。
お嬢様達に未来へ歩き出す勇気と自信をつけていただくのがこちらの目的。
ダルセン家としましては、そちらの任務である魔獣の殲滅はあくまでも二の次、この遠征はそのための取引なのですから」
「そうだったな。 だが、感謝の言葉は100述べても1つとして撤回はしない。 それがデミトラス家の鉄則だ。 受け取らずともそちらの自由だが、できれば形だけでも。」
「我が主にお伝えいたします。」
スーーーーーーッ…
「もう…訳が分からん…胃が痛くなってきた…」
『精神ポーションと胃痛薬デス。』
「うぅ…そう言うことじゃない気がする…」
『シータさんの診察も受診なさいマスか?
彼女ならバ死相が出ていタ場合にモ、運気を180°捻じ曲げることが可能デス』
「ダメだ…胃が無くなりそう」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
グラグラグラグラグラグラッ…!!
「地震!? まさか!」
『【シータサン!!】』
「【ん!】」
「思っていたより…早すぎる…!!」
時々ミリタリー装備に関する改造案や要望が上がるようになり、それに応えてポーション風船以外にもいくつかを実装した。
まずは磁力ホルダーという特殊な磁力を発する小さい魔法道具。
これは車とかに取り付けるスマホのホルダーマグネットと原理は同じ。 ベルトやプレートキャリアの背面など思い思いの箇所に取り着けることで、使わない方の武器をその位置に任意の幅を保って浮いていてくれる。
これにより、ドルガンさんはあの大きな盾で前面を守ったままアサルトライフルが使えたり、他の人でもアサルトライフルが使いづらい近距離戦や木の上からの奇襲攻撃を防げないとか、剣を奪われるなんて心配もなくなったそうだ。
槍の使い手には長い持ち手に如意棒の機構を適用した。
銃を使っている時は背負うことになるわけだが、移動する際に木々に引っかかるからシンプルに持ち歩きが困るんだと。
磁力ホルダーと併用して相当身軽になったそうだし、楽さを求めるのも彼らの命を守ることに役立つからやって良かったと思っている。
そして、数が用意できない端末代わりに用意したのがトランスリスポーナーという防犯ブザー型の魔法道具。
お腹側と背中側に一つずつ入れているポーション風船のどっちかが割れると、本体から各小隊長のスマホを通して医療班のスマホに通知が飛ぶ。 そして医療班の誰かが転送を要請するか、装着者に再度危険が迫ると強制的に診療所送りとなり、速やかに治療または風船の補充が行われる。 要はFPSゲームで言うところの残機とリスポーンを担う装置だ。
機能で言えば転移絨毯と同じ発信機、この装置は同時に例の情報統制事案の発生時、つまりは偵察の人間が近くにいる時、騎士団の鎧に早着替えさせるための装置でもある。
人命優先のためとはいえ、騎士団が王国の国家権力と誇りの証、つまりは由緒正しき制服でもある騎士団の鎧を使っていないのも、常人からすれば無敵とされるであろう迷彩装備一式やアサルトライフル、フライボードとそれを作れる職人が存在するのも俺たちの利害関係的に絶対にバレるわけにはいかないのだ。
ちなみに、防犯ブザー型としたからにはちゃんとブザーとして機能する。ただ、紐を引くと音が鳴るのは本体ではなく
ビィィーッ! ビィィーッ! ビィィーッ! ビィィーッ!
『南南西600m地点ニテ、コードイエローを確認しマシタ。
該当スタッフは事態に備えて下サイ。 繰り返しマス。
南南西600m地点ニテ コードイエローを確認しマシタ。
該当スタッフは事態に備えて下サイ。』
イライライライライライライライラ…!
「もぉっ! いい加減にして下さいまし!!」
「あ~クマ君…気持ちは分からんでもないが、感情的になってもしょうがないだろ。 もう少し落ち着いてだな…」
「7回目ですわよ! それも本日の午前中だけで!
これでは製薬も落ち着いてできたものではありませんわ!」
「同じく…集中出来ないぃ…!」
「ほんっとにしつこいよね この拠点には関係者以外接近禁止だって言ってるのに」
「ここって技術力の宝庫ですから、隙あらば横取りしたいと思うのも無理はないですよ」
「このままでは腹の虫が収まらないどころか、血祭りを始めてしまいますわ! もしこの敷地内に辿り着こうものなら、クマ殺しポーションをご馳走様して差し上げましょう」
「「「やめて差し上げろ」」」
「そうだよシルヴィアちゃん、そういうのは下剤入りの紅茶にしないと」
「「「まず変なものを出すな」」」
「問答無用…まとめて天明にて処す…」
「「「落ち着けシータ!」」」
「ハバネロや唐辛子と一緒に全部混ぜちゃいます?」
「「「絶対ダメ!」」」
「それより、南方といえばエールテールの方面だ。 騎士団の到着を待ってる余裕はないぞ」
「それなら問題はない、じきに騎士団が馬達に追いついて、偵察の方向感覚をかき乱してくれるさ。」
「だといいが…向こうの目的は拠点と彼らの素性だろ? 結界があるとはいえ外から忍び込まれては…」
「それはないと思うっすよ。 結界はクマっちが本気を出しても破れないっすし、地上からでは認識すらできないっす。
エルフの里に使われるような方向感覚を惑わせる特別性の結界も使っているそうっすから、入れるのは関係者以外にいないっす。」
「だそうだ。 でなきゃとっくに屋上の狙撃犯は魔獣にやられてるさ。」
「言われてみれば、あの3人の面倒見たのって、手にマメができたとか発砲音で耳が痛いぐらいだったな」
「でも相手がギルドの者だったらどうするんでしょう いくら騎士団長といえど正式な手順を踏んだ視察を断ることはできないのでは?
王都での忠告が正しくエールテールに伝わっていない可能性は高いですよね」
「それも、魔獣対策用に周辺の地形ごと弄ってあるので多分無理っす。
この拠点の周りは幅20メートル以上ある粘着液で満たされた堀で囲ってあって、今の第三騎士団くらい強化魔法が使える人でないと飛び越えられないように橋もかかっていないっすし、結界の中には端末か転移装置を持ってないと絶対に中には入れないっす」
「相変わらず手厚いセキュリティだな」
「1番すごいのがいたの忘れてた…」
「…返り討ちバンザイ…」
「やめなさいって…」
「それで? その1番すごい拠点のリーダー様は今どこに?」
「ただいま戻りました~」
「おかえりなさいまし」
「あれ…この空気、なんかあったの?」
「黄色い緊急事態発生ですわ。」
「またぁ? もう、懲りないよね。 こちとら森ごとセキュリティとして使ってるんだから、辿り着く頃には弓とライフルとパチンコの射程圏内だって誰か報告してくれないかな」
「それもそうだが…君は気づかなかったのか?」
「あー…ごめんなさい、マナーモードにしてて気づきませんでした。
街の中でアラートが鳴ったら知らない人はパニック起こしちゃうかなと思って」
「どこ行ってたの?」
「マルクさんのところにちょっと」
「あ~、納品っすね」
「納品っていうのは買い物か?」
「買い物も時々しますけど、今日は売る側です。
向こうで材料を用意してくれてるんで、そこに行ってチャチャっと加工して来るだけなんですけどね」
「マルク… まさかっ…リョー君」
「はい?」
「契約してるのか!? あのバジール商会と!」
「してますよ。 そこの冷蔵庫とかトイレセット一式とか、電子レンジやその他諸々。ここの拠点でも使ってる魔法装置の業務用と生活用の設計と試作、初期生産の造り溜めをしてるんです。
傘とかボールペン、紙、ホッチキスとかの筆記用具も買ってもらってて、もうじき生産体制が整うっていうから、話を聞くついでにちょっと相談をしてたら遅れちゃいました」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リース、バジール商会本店
「ふむ…立案者名は秘匿してほしいというお話ですか」
「なんとかならないですか」
「え~…まず、どこからなんとお伝えしたらいいのやら…」
「やっぱり難しいですよね… 無理なら無理って気にしないで言ってください。 最悪自力でなんとかしますから」
「いえいえ! そういうお話ではございませんっ!
そもそも最初から公開をしていないので、今頼まれようと現状と全く差がないのでございます!」
「へ…? 公開して…いない?」
「はい。 名を売りたい方ならば全力で後押しするのですが…リョー様についてはむしろ理論が真逆であると。
これについて説明をする前に少々、商人の人脈・コネクションのカラクリを少しお話ししてもよろしいですかな?」
「コネクションのカラクリ? 差し支えなければ、お願いします」
「では。」
オッホンッ
「そもそも商いというものはですな、生産・加工・運搬・消費の至る所で発生する流通や金銭のやりくり繰りなどの総称で御座います。
この街リースで多い取引でご説明しますと、冒険者ギルドから肉や皮、農家から野菜や果物が市場に流れ、市場から買い入れた職人や料理人がそれらに手を加えてお客様へ提供する。
それらの間を受け持つのが商い、商業というものでございまして、小さくは露店、市場、屋台、その商売が軌道に乗れば個人の店、その次は支店、規模が大きくなればなるほど商会として看板がいろんな場所に持てるようになると共に、それに見合った便宜を図ってもらえるようになります
そして便宜というものは持ちつ持たれつの関係性を築く上で非常に重要になってまいります。 急ぎの製品を優先して用立てたり、値引きをしたり、支払いを月末に変更したりなど、内容は様々ですな」
「俺だと…支払いの一部を鉱石素材に置き換えてもらってるのがそれですか」
「そうですな。 リョー様の場合はそれに加えて個人情報の取り扱いも我が商会の中でも最重要機密として取り扱うこととしております。」
「最重要機密…その心は」
「冒険者に過去の詮索をするのはタブーとされているように、商人に仕入れ先や顧客の情報を聞くのはタブーとされております。
我々といたしましては、貴方様は特に他の商会やダルセン家以外の貴族に奪われてなるものか、というのが本音であり、最重要機密の動機にございます。
もちろん、我々バジール商会の手垢がついていないと勘違いされそうな場合は考えものでございますが。」
「ずいぶんと正直…というか直球におっしゃるんですね」
「私もこれまで何千、何万という人と接しておりますが、リョー様をはっきり申しますと文明力の化身、神の使いのような存在にございます。
貴族社会に大きくそれが知れ渡ると最後、間違いなく政治的な力で略奪搾取の対象になってしまわれます。 そうなればリースの英雄であるリョー様やご家族にも危険が及ぶことでしょう。
今やリョー様を貴族の駒に取られ、リョー様の自由を奪われることは、我が国最大の損失であると我々は考えております。」
「大袈裟な気もしますが、それで最重要機密…と。」
「……」
「いかがなさいましたかな」
「え?」
「眉間にひどくシワが寄っております。 私に何か話すべきかお悩みで?」
「ま、まぁ…。本人の了承無く勝手に相談するのはどうかと思いつつ、話せる味方なら話して協力を得たいな…なんて」
「他人の相談ですか、確かに許可なく言いふらすのは悩まれましょう。
だんじて無理に聞いたりなどはいたしません。」
「………………いえ、頭の片隅に大事にしまっておいてほしい極めて重要な事なので。」
「おっと…これは襟を再三直さねばなりませんな」
ビシッピーーンッ!
「なんでしょう」
「俺の大事な友達であり、今度一緒にパーティ仲間になるシルヴィアとフィエリアも、貴族社会にとって格好の餌食になる事は間違いないだろうなって思ってて、今後の俺にできる事はやってあげたいなって。」
「フィエリア…? 申し訳ございません、シルヴィアお嬢様のご事情は存じておりますが、恥ずかしながらフィエリアという名に心当たりがおぼろげでございまして…」
「正しくはフィエリア・ヴィンセント。」
「ヴィンセント…!? それはもしや!」
「お察しの通り、ヴィンセント家の次男にしてエミリさんの弟、今は亡きランノール・ヴィンセントの一人娘。
つまりはエミリさんの姪っ子、シルヴィアのいとこにあたります。
マルクさんは何年も会ってますから顔はすぐ分かるはずですよ。
衛兵隊のフィリップの本名です」
「なんと…」
「一応…以前ここへ来た時に一緒でしたし、最近は普通に下の名前だけは本名を名乗ってましたけど…覚えてなさそうですね」
「失礼ながら、あの時は心ここに在らずでしたので…リョー様と試作の商品以外に目が向いておらず…。
常日頃、衛兵の皆様の顔を見ていても、あの人数では顔と名前はごちゃごちゃになってしまうもので」
「だと思います…。 それより、俺たちがリースに戻ってからは衛兵隊の予備戦力、災害救助用員、火消し隊の名目で、正式にこの街のツートップ直属の冒険者パーティを設立することがほぼ確定しています。
ですが、中級までならポーションの大量錬成が可能で、ジョセフさんにも並びかねない魔法戦士兼貴族令嬢と、失脚したとされるランノール・ヴィンセントの忘れ形見で近頃『空かける衛兵』と話題のフィエリア…あの2人はつつかれるポイントが多い分、俺なんかより危険な立ち位置にいます。
俺も一緒に活動するわけですから尚のこと」
くっ…!
「私としたことが…! それは抜かっておりました…!
ダルセン家は元々、冒険者伯と辺境伯の家系。
先代の領主様の拳に対して与えられた貴族爵位だそうで、国家的権限はあまり持ちません。
流星の拳闘士と火山の鬼の2名が睨みを効かせるこの街の中で、乱暴狼藉を働く愚か者は居てもすぐに居場所を失うでしょうが、そうでない街であれば理不尽に人権を奪われ、武器を構え、石を投げつける者もきっと多い」
「ですね。 シルヴィアは魔力が極端に多いだけでただの優しい子です。フィエリアも同じく、行動力と体力が並外れただけの普通の子。
過去がどうあろうとオモチャでも兵器でも無い。 そんなことあっていいはずがない…!」
「リョー様、魔力と殺気が漏れております、少しクールダウン致しましょう」
「あ…ごめんなさい。 熱くなりすぎました」
ふぅ…
「つまり、リョー様は今後のためにも、王都や貴族、庶民の動向に目を光らせ、状況に応じた忠告やアドバイスが欲しい。 場合によってはダルセン家やアンジェ殿、バジール商会の看板を片っ端から、それも借りれるだけ借りたいと言ったところですかな?」
「わがままは承知です、分かってはいるんです。 それでも…俺は今のこの生活が好きなんです。
冒険者として得意分野で人の役に立ちながら、たまに酔っ払い冒険者をヒラリとかわして、もっとたまーに職人として役に立てて、帰り道に寄った顔馴染みの店からは「これも持って行けぇい」なんて言って豪速球のリンゴが飛んでくるこの街が。
休みの日には匠やメル爺やティー兄に笑われながらアムとレグにおいかけっこやかくれんぼでフルボッコにされて、ヘロヘロになった後は陸の寝息でシャボン玉を作って、膨らんだ直径を測って遊ぶあの何気ない日常が。
雲に隠れて見えなかったシルヴィアの夢とか、明るいフリをしていたフィエリアの本当の笑顔とか、臆病な性格にくすぶってたケリーの本当のの強さとか、いろんな発見に気づける喜びが
本当に、本当に幸せなんです。 この幸せを奪われたく無い…絶対に失いたくないんです。」
「分かっておりますとも。 リョー様から言わずとも、我々は手から頭からなんだってお力添えをさせていただきます。」
「!!」
「おや、断られると思っていた顔ですなその表情は」
「だって、たかが若造1人が大商会のトップにするような相談ですよ?」
「たかがではありません。されどリョー様なのです。 その証拠に、こちらを」
出された手紙はとても細く丸められた形跡があり、軽く折り結んだ跡もある。 矢文の跡か?
ペラッ
「これ…!」
渡された折り目のつき具合や色あせ方からして真新しいとは言えない、数ヶ月程度経過している羊皮紙…おそらくは俺がこの街に来てすぐ書かれた手紙。
どことなく見覚えのある筆跡、アンジェという署名、捺印がわりに指を軽く針に刺したであろう赤い親指の指紋の付いたその手紙にはこうあった。
[生産スキルバカのあの子、筋の通った接し方をすりゃとんでもない天才なのはアンタも知っての通りさ。 だからこそ敵に回せばとんでもないことになる。
アンタならそんな付き合い方しないとは思うが、他は違うだろう。 きな臭いバカの手があの子や周りに悪さをしないよう、バジール商会でも力になってやっておくれ。]と。
思い返してみればおかしな話だったんだ。
定期的に商談に関する手紙は届くには届くが、アニメで見るような横柄な貴族がウチに押しかけてくるなんてイベントは一度もない。
どこからか睨みを利かせて守ってくれていたんだ
「他所の貴族や商会、ギルドは既にリョー様に目をつけ、今か今かとスカウトや商談のタイミングを探っております。 しかし、貴族の中には有能な庶民を雇いれては何かと理屈をつけて馬車馬のよう…いえ、鉱山の犯罪奴隷とさして違わぬ条件で働かせている例がゴマンと御座います。
そう言った輩よりリョー様を護るべく、我が商会やダルセン家、冒険者ギルド リース支部、それから商業ギルド リース支部も会議に会議を重ねまして、影からこリョー様の自由を守らせていただいているのです。」
「そうだったんですね…」
「幅広いお取り引きを目指すというお考えがあるのなら、勝手な横槍を入れていると言われて仕舞えばそれまでですが、貴方様の自由こそ、我が国の発展にも1番の近道で御座いますので」
「めちゃくちゃ助かってます 本当にいつもありがとうございます。」
「いえいえこちらこそ。 今後とも、ほどほどのペースで末永いお付き合いが続きますよう、よろしくお願い申し上げます」
「よ、よろしくお願いします!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやぁ あの人達には一生かかっても勝てる気がしないですね」
「王都にも支店を持つ大商会のカシラを後ろ盾に持っているなんて…」
「この拠点の情報を門外不出にする理由も納得だな」
「君が敵で無くて本当に良かったと思うよ」
ビィィーッ! ビィィーッ! ビィィーッ! ビィィーッ!
「『 !!!?!!! 』」
『コードレッド! コードレッド!
上空に従魔証のついた中型鳥ヲ3体確認 時速60km以上で急接近中 到着マデ7分もありマセン!』
「なんだって!?」
「コードレッド!?」
「大型の鳥系の魔獣…て」
「【医療班通信取れますか】」
ピッ
「【はい。 状況をお願いします】」
「【対象の所属はエールテールのギルド各部です。 残念ながら結界に気づかれてます。
少しズレている軌道からして入口を探しながら飛来中といったところでしょうか 撃墜しますか】」
「【いえ、殺害してしまっては後が大変なのでちょっと手段は選びましょう】」
「あっそうだ ブラネットさんすいません、何個か麻酔持ってきてもらえますか」
「麻酔? わ、分かりました」
ピッ
「【狙撃班、3名ともいいですか?】」
「【聞こえてるぜ】」 「【どうぞ】」 「【なんだ】」
「【対象をなるべく傷つけずにねじ伏せます。手伝ってください】」
「【へっ、まかせとけ!】」 「「【了解】」」
「皆さんはここで待機、敷地内全域にも結界を張ると思いますので窓を閉めておいて下さい。」
「「「了解」」」
「ブラネットさんは念のためポーションの手配。
ケンちゃんからの指示次第で先生達と手分けしてスキャナーとかバッテリーとか隠せるものは隠しておいてください。」
「はいっ!」
「シータさん、万が一の時は援護をお願いします。」
「…んっ!」
「3人は俺と一緒に屋上に」
「「「了解」ですわ」っす」
ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ
「相手どるなら1人あたま1匹と2人ずつってとこか」
「やめておけ 殺すなって言われたばかりだろ。」
「相手はおそらくはギルドの人間です。 不用意に攻撃すると国勢が危うくなります」
「チィッ メンドくせーなぁ焼き鳥にすりゃあ美味そうなのによ」
「従魔を食材として見るなよバカ!」
「みなさーん!」
「お、来たな。 どうやんだ? ドラゴン大センセー」
「大先生はやめてください…。とりあえず注意、警告、威嚇、実力行使の順でいきましょう」
「私が呼びかけてみます。」
『馬舎がパニック状態に陥ル可能性を検出。【屋外スピーカーの角度ヲ大幅に修正】【結界の追加及び変形ヲ要請】
対象者にのみ音を届ケル周波数を検索…完了シマシタ。【屋外スピーカーの音声モードを超音波に変更】』
外についているスピーカーが全てたった今、防音結界に空いた穴に集中して向き、建物全てに速やかに結界が敷かれる。 防音と隠蔽の魔法結界だ
ピーンポーンパーンポーーン
『スタッフの皆サマにお知らシマス。 これより対処を開始いたしマスのデ、調理班は火の扱いを中止、獣舎の皆サマは防音結界の範囲内へ避難、その他の皆サマは玄関扉と窓の戸締りヲ徹底し、全員1階踊り場にて待機して下サイ』
敷地内に入られて困るポイントはもうひとつある。 先生達が来た時の虹色ドクガと似たようなことが起きれば集団感染の恐れもある。
窓と扉を閉めさせたのは爆音対策と外部から毒や細菌を持ち込まれることを防ぐため。 実は先生達の念のためという指摘から、毎食前のバイタルチェックの時には必ず施錠まではせずに閉めてもらっている。
リトルが結界を張るためには窓が開いてると余計な凸凹となって完成度が落ちる恐れがあるからだ。
『ドウゾ』
「【こちら第三騎士団 援護狙撃担当の者!
空路にて移動中の3羽の鳥型魔獣に告ぐ!!】」
「リーダー!」
「ああ、ようやく中から反応があったか。 この機会は絶対に…」
「【我ら、本陣の防衛も兼任で仰せつかっっている故、魔獣や盗賊の襲来に対して殲滅の義務がある! 間違いで狙撃されたくなければ引き返せ!】」
「ふざけるな! 私たちは商業ギルドの者だぞ!」
「従魔証が見えないのか!」
「なんか言ってんぞ」
「でしょうね。 遠すぎて聞こえませんけど。」
「【どこの所属か主張していると見受けるが、そんな距離で、そんな上空から肉声が届くわけがなかろう!
敵意がないことを主張したくば方角を変更! または速やかに着陸し、陸路から第三騎士団の主力部隊と交渉せよ!
でなくば、其方達を敵と判断し、迎撃を開始する!】」
「とち狂ったか騎士団め!」
「ちょっと見せてくれればいいと言っているだろう!! メイヤ!」
「【守護神より授かりし護りの力よ ここに我らを護り、苦難を無に帰す障壁となれ…結界!】」
左の1羽に乗った術師がそれぞれに結界を張り、結界ごと突っ込んでくる
「聞く気なしですね」
「ああ。 結界で護りながら正面から押し入るつもりだな」
「どうするよ」
「警告…ですね」
「【繰り返す! 敵意がないなら飛翔を中止せよ! でなくば、拠点の防衛のために実力を行使する! 警告したぞ!!】」
「トレバーさん、当たらないように威嚇射撃をお願いできますか」
「厳しいな。下向きにならともかく、上向きの角度でこの距離ではそもそも届くか怪しいぞ」
『今のトレバーサンなら普通に届きマス いつもより魔力を込めテくだサイ」
「分かった。」
「よし」
「威嚇射撃、開始してください」
「了解」
ズダァァァァン!! ズダァァァァンッ!!
「スコットさん、テーリオさん、コレを」
薬瓶を手渡す
その間も氷の弾丸が結界の真横真上真下と、乗り手の焦りを煽るべく空を滑り抜けていく
「これで撃てってか? ったく…おもしれーこと言ってくれるじゃねぇか」
「矢をつがえるのは久しぶりですね」
「大丈夫です。 2人なら出来ます。」
俺の言葉に半信半疑となりながらも、各々の武器をかざす。
「もう撃っていいか?」
「ちょっとだけ待ってください。 俺たちで結界を破ります」
「達ってことは…え!?おれっち達もやるんすか!?」
「当然ですわ」
「そのために来たんじゃないの?」
「薬瓶で結界は貫通出来ないから、俺たちが総出でやらないと当たるものも当たらない。」
『マジックシューターのセーフティを解除しマス。
順番に撃ッタ弾丸を上空で魔法ヲ合算発動しなけレバ、結界同士の衝突で生きていテモ堀の内側まで到達されてしまいマス』
「わたくしたちが息を合わせないと死んでも生きても辿り着かれてしまうという事ですわね…」
「迷ってる時間はないね」
魔法妨害の弾丸は端末ごと壊れるほど負荷がかかるため、1発にいろんな魔法をつけたりが出来ない。
4人のうち3人がその魔法陣を撃ち、残りの1人が弾丸そのものをお薬ゼリーの容量で魔法で包み、包んだ合計物を魔法誘導の陣でターゲットに命中させる必要がある。
フィエリアも単発の命中率は高いとは言いきれないし、そもそも届くのか分からない。ましてやケリーとシルヴィアは銃の訓練を全くしてないから尚更。
『【セーフティ解除】【妨害魔法弾】』
「構えて、狙って、1、2っ3!」
ダァン!!×3
『【セーフティ解除】【魔法直接干渉】【魔法誘導】【狙撃特化ブラスト】』
「そこだっ!」
先に結界を飛び出た同胞を追い抱き寄せるように3つを魔法のジェルが包み込む。
『【魔法合体』
お薬ゼリーが着弾までの間に変形をくり返す
3つの核を持ったスライム型…三色団子型…3つ中1個が酸っぱい駄菓子のガム…信号機…ケロベロス、では無く三つ首ダックスフンド!?
ってかいま魔法の形とかなんでもいいから!遊んでないで早よ当てろ!
渋々三つに分かれたモリに変形したまま突っ込む。 ようやく決まったか
『三又式魔法妨害】!!』
「なんだあの魔法は!?」
「来るっ!」
「しかしこちらにはメイヤの結界があります! 負ける訳がありま」
ザクッ!!
ピシッ…ピシピシ…
「何これっ…どうなってるの! 魔力の波長と魔法陣が乱れ…!? 結界が…維持出来ない!」
パリィィィィィィィーーーーーーン!!
「「なにぃぃぃぃぃぃぃ!?」」
「結界が破られただと!?」
「あり得ない! メイヤの結界は破られたことがないのだぞ!」
「【最終警告だ!! 接近を中止せよ!!
30秒後に実力を行使する!】」
「メイヤ!もう一度結界を張れ!」
「無理よ…」
「メイヤ!しのごの言ってないで早く結界を!」
「手が痺れて動かないの…!
…いままで12年間磨き続けた私の結界がああも簡単に破られたのよ…この距離で正確に射抜かれるなんて、しかも警告なんて言ってあんな軽々と!今までの騎士団なら不可能なはず…もし結界がもう一枚作れても、かないっこないわ。」
「…分かった。ダメだリーダー!!引き返しましょー!」
「…それしかないのか…」
「リーダー! 早く!」
「いや、突撃する!」
「リーダー!?」
「お前達は街へ戻れ。 シュバロッテ」
「ケラケッ」
「すまないが、オレと運命をともにしてくれるな」
「クアッケ!!!」
「ケックァ!!」
「カカァクケ!!」
「ヴァイシアーノ、シャンビアイズ いつも愛想ないくせに今さらなに言ってんだ。
みんなを、オレ達の仲間を頼んだぞ」
「クゥ…」
「キィ…」
バサッバサッバサッバサッ
「おい…待てよリーダー!」
「ダメ…! ダメよ! 本当に死んでしまうわ!!」
「ああ。だからこそ、死ぬのはオレだけで充分だ。 じゃあな」
「リーダー!」
「クソォっ 戻れっ! 引き返せよ!!」
「行くぞ! 【従魔強化】」
「リーダー!おいダメだって…早まんな!!」
「【クゥアアアアアアアアアアアアア!!】」
「迂回しながら特攻してきましたよ」
「2羽を引き返させたあたりは懸命な判断と言いたいですが、命知らずといえば命知らずですね」
「撃つか? 撃っていいか?」
「そうですね。 ひと瓶ぶち込んじゃいましょう」
「屋根の上の狩人、テーリオ様にお任せあれっ…と!」
グググググググ…ピュンッ!
弾丸として放たれた瓶の中には吸収効率を限界まで上げた麻酔薬と睡眠薬をほぼ毒物とも言える濃さで入れてある。
薬瓶本体は軽く強化付与しただけの飴細工なので、ぶつかれば無害な破片として割れ、夢の中へ誘う薬品が飛び散る算段だ。
パリンッバシャァア!! クンクンッ
むにゃぁ…
「クミィ…」
スヤァ~…
「っしゃ 当たりぃ!」
「ナイスヒットです」
「へへっ オレにやらせりゃあんなモン1発よ」
「おいどうしたシュバロッテ! しっかりしろ!」
「ミャ~~…クゥ…」
「おいバカ!空で寝るヤツがあるか! 早…く、おぉきぃろ… おちぃるぅ…」
こちらの拠点方面から進路を大幅に変えていくのが見える。 堀の内側から堀の中、外、平原、森、池、森、川、森…あのまま行けば別の団体を対応中の第三騎士団からすぐ近くにかち合うはずだ。
「大型魔獣相手に効きすぎだろ…」
「象を10秒で倒せる威力に濃縮しましたから。」
「って、ねぇ…リョー君 あれ…墜落してない?」
「うん 落ちてるよ」
「ダメじゃん!」
「助けにいくっす!!」
「その必要はない」
「なんで!? あのまま落ちたら死んじゃいますよ!!」
「落ち着け。 ちゃんと見てみろ」
注目するべきは地上、森の中だ
「…獲物が空から…」ガシィッ スゥー…ッ
ググググググゥ…!!!
「ギル…! 待て、ハウス、どーどーどー」
「……」スーッ チャキッ……
「行きます! 【時限式グレネードボール】」
チッチッチッチッチッチッチッチッチ…
「6秒前、5、4、3…」
「ウォォォオオオオオオ!!」
ボガァァァアアアアアアーーーーーーン
「くぅゥゥ…!!」
大盾に乗ることで爆風を受け、急上昇。
「あっ…これボク巻き込まれギャンっ」
『【セーフティシールド】【消音】』
「ヒイイィィっ じぬがどおぼっだぁ…!!」
「【光よ、巨大な手となれ グリッターハンド!】」
グァシッ
「確保おぉ!!」
「【吹き上がれ! アッパーストリーム】」
「【上昇気流よ、思うがままとなれ! ウィンドオペレーション】」
フワン…フワン…フワン…フワン…フワン…フワン…ズシーーン!!
「うぐぁッ!!」
「「ドルガン!!」」
「ドリガンさん!」
「大丈夫だ。上昇と落下による負荷で首を痛めただけだ。」
「本当か 待ってろ動くな、念のためポーションかけてやるから」
キュポンッ ビシャァッ
「ふぅ…すまん 助かった」
「オレこそ悪い この上がった魔法の威力にまだ慣れてなくてな…」
「ルチオ、彼らに報告をしておいてくれ」
「あ、はい」
「【こちらルチオ、鳥の従魔と1名、無事に確保完了しました】」
「【ドルガンさんは】」
「【無事です。 首のむちうちか捻挫が出てると思うので回復ポーションを使いました。 帰ってから診てもらえますか】」
「【こちらマクラーノ、了解した。 現場でも経過観察よろしく】」
「【了解しました】」
ヘニャ~
「よかったぁ……」
「マジでダメかと思ったっす…」
「残り2羽どうしますか」
「放っておきましょう。 それよりあっちに落ちてる物が気になります」
「どこですか」
「ここから南に400、東に210ほどにひとつ。 そこから南に100m、そこから先は300mおきくらいに2、3個ずつ落ちてます。 落とされてると言った方がいいかもしれませんね」
「なんですかアレは…?」
「ここからだと遠すぎて見えませんが、おそらく…古い魔石を加工された魔道具、おおかた発信機か盗聴器とかでしょう、知らずに拾ったら睡眠ガスとか出てきそうですね。
…うわぁ…西800にも同じよう道があるんですけど…」
「魔力の広がってる範囲からしてエールテール方面まで続いてるな」
「ええ。 昨日から妙に近くまで辿り着かれているのも説明がつきます。 どうしますかドラゴンさん」
「砕いてはおきたいですが、トレバーさんは蛇の矢の痕跡が、テーリオさんのは合金球が残るし、トレバーさんの氷も多分残るから…現地の方々に回収を頼みましょう。」
「ん? リョーっち、あれなんすか?」
「どれ?…ハァ?もぉ~嘘でしょ、勘弁してぇ…」
ピッ
「【各班に緊急連絡! コードブラック ギルドの気球が確認出来ました。】」
「あーあ、ついに出ちまったかい」
「カリーナさん…コードブラックって何なんですか」
「青は近くの冒険者、黄色は結界で行ったり来たりする程度の偵察、赤は公的機関さんの人数が多いとか、さっきみたいになかなかに厄介な状態。
ブラックとなると守備網すら無視されるかもしれないってことさ。」
「そんな!」
「これからどうなるんですか!」
「ここは世間に厄災呼ばわりされるあの子を中心に建てられ運営できてる異端な要塞。 対してギルドや貴族連中はアタシらの安否確認という名目でカネの成る木を掻っ攫いに来てやがる
どうやらあの子と騎士団長さまは、最終的には正しい事実を広める布石ってやつにするつもりらしいが、ふた昔も前のしょうもない噂に振り回されてるような無能どもに、今はまだ知られるわけにはいかないね」
キィ…パタンっ
屋内シューズを脱ぎ、ロッカータイプの靴箱から取り出した靴に履き替える。
背中や首周り、手の関節をポキポキと鳴らし、鼻息をフシューーーっと吹き飛ばす
「どこ行くんですか!?」
「ちょっくらバカどもに説教ってところかねぇ
こういうのはアタシみたいなのが啖呵切って前出た方が話は丸く収まるってなもんだよ。」
「え…?」
「ま、待つですカリーナさん」
「んぁ?」
「ここで私達がでた場合、余計なトラブルが生まれてしまいますですぅ」
「ならグラシノ、このままいきゃギルドの気球は我がもの顔で堀ん中に降りちまうが…アンタはここで大人しく見てるってのかい?」
「…わ、私は…」
「アホ面晒してヅカヅカきったない足でせっかくの才能踏み荒らされるのなんざ、アタシゃ見てらんないんだよ」
「でも!」
「でも何だい? アンタに別の妙案が出せるってんなら聞かせとくれよ」
「ぅぅ…ギルドに逆らうのは…ちょっと…」
「そんときゃそん時さ。 返り討ちにしてやんよ
あの子らと違って、アタシら料理人と医者と事務経理に見られて困るような顔なんて無いだろ?」
「そうですが…」
「カリーナさんには策はあるんですか」
「バカだねぇ、あるわけ無いだろう?
でもね、グラシノ もうかれこれ2週間ちょっと…ず~っと騎士どもはもちろん、アタシらの命はあの英雄どもの才能と努力に守られてんだよ。 こんな時ぐらいアタシらが守ってやらないで、この国はあの子らに対して何ができるってんだい」
『「……」』
「て…店長っ」
「ペーター、厨房で話をするときゃ腹から声出せって、いっつも教えてるだろ」
「ボクも…ボクも連れてってください!」
『「!!」』
「ドラゴンさん達がいなかったら、ここに来るまでの道中でボクは死んでいた…つまり彼らはボクの命の恩人なんです…
ボクが行って何かできるとは思えないけど…少しくらいは彼らの役に立ちたいんですっ!」
「ペーター…たまにゃあ男見せてくれるじゃないかい」
「オレも行きますよ。 カリーナさん」
「ポッター…」
「毒をくらわば…皿ごと」
「キネフィ…」
「まぁ、手を出さないならいいんじゃないか? 幸いにも結界の中には入れないだろうし」
「医者は患者と医学書以外を見ちゃいけないなんてルールはないしな」
「左に同じく」
「問題を起こす輩なら、“クマ印特性ドクロのお紅茶、便秘改善効果マシマシマシ ~天罰を添えて~”を出すまでですっ!」
「「「いい風に全部合体させるのはやめなさい」」」
「どうせ乗りかかった船だし」
「初志貫徹ですね」
「ちょっとした外交対策も私たちの役目ですし」
「もぉ…分かりましたですよぉ! 同行しますですぅ!」
1、2、3、4…
「あれ…グラシノさん、またピノが…」
「ピノなら空間魔法の中ですぅ。
コードレッド中はどこにいても送り込まれる手筈になってますですぅ」
「確かにその方がいいわね…」
「ここどこ…みんな迷子…」
「そういえばシータちゃんもいないけど」
「彼女は部屋か工房棟のどっちかにはいるはずだ。 私たちとは違って、屋上の彼らの援護を担っているから、シータもシータで臨戦体制なんだと」
「頼もしいけど、同時に恐ろしくもあるわね…」
「巫女の黒雲を乱す愚者…天空より舞い降りる…。 愚者に救いを施せど…聖域は決して穢されるなかれ…さもなくば永遠に日の目は見られず…いくつもの厄災にて全てが無に帰すであろう…」
『ソレは不味いデスね』
ピロンッ
『【マスター】』
「オーケー…【創造:双眼鏡】【魔法付与:視覚強化】」
『【魔法陣ヲ構築しマス】…完了。
【ズームアップ】【ピンボケ補正】【色彩補正】【光反射量調整】』
双眼鏡の視界の先にある気球の中には初老か中年くらいのおじさん1名、30代くらいの男性2名、同世代か20代くらいの女性1名だ。
おじさん勢は無視していい、普通の公務員顔だ。
用心するべきは若い女性、高飛車タイプで自意識過剰そうな事象エリートタイプといったところか…まぁ普通に考えて最悪の±2学年のどこかには入るはず。 ワンチャン同級とかありえるな
「接触するのは危険。この間のアレで行くしかないか…材料用意して」
『了解』
「んーー…」
「ん?何か気になることがあるのか?」
「やっぱり貴族連中ってバカばっかりだよなぁ」
「少しくらい言葉を選べよ…」
「一応貴族家の身としては愉快な発言ではありませんね。
その根拠ぐらいは聞かせてもらいましょうか」
「普通ならよ、魔法って初めてやった時に火だの水だのがポンって出りゃ素質があるっつーだろ?」
「そうっすね」
「んで王都の学園に入った時に “コイツすげぇ!” って言われんなら分かるんだけどよ、なんでクマのお嬢は、それと比べ物にならねぇすんげぇ雷1発出たってだけで人間じゃねーってなんだ? 普通に人がいねぇとこ行って練習させりゃいいだろ」
「おいバカっテーリオ!」
「触れてはならない話題ですよ!」
「構いませんわ。」
「く、クマさん…」
「続けてくださいまし。 テーリオさんの考え、わたくしも聞きたいですわ」
「ああ。オレって魔法使えねーのに、ガキん頃の記憶から愛武器(コイツ)を大先生に仕立ててもらった次の日にゃあ、タイチョーと打ち合いができるようになったろ。」
「めちゃくちゃ無意識で使えてるっすよね…」
「武器や球に魔力を込めてるから、強化魔法のエキスパートだよね…」
「他で言やぁ弓とか盾持ったりは分かるとして、ギルなんか剣が鎖みてぇに曲がるし、ルチオなんかゴッツイ手袋と細い棍棒。言っちまえば遊び道具だぜ?
武器とか鍛え方次第ですげぇ強ぇって分かってて、育てねぇ意味がわかんねーよ」
ハァ…
「才能だけじゃないんだ。 貴族社会は」
「?」
「爵位の優劣、領地の財政、過去の功績、当主の評判、貴族家同士の駆け引きや蹴落としあい。 良くも悪くも、いろんな思惑が絡み合ってるんだ。
彼女の御家は冒険者として武勲を上げたという、異例の冒険者伯、スラムと化してた村からリースという街へ成り上がらせたダルセン家を気に入らない貴族家が、貴族社会から陥れ・虐げるためのいいきっかけとして利用されたのかもしれないな」
「……っ」
「す、すまないっ 表現が良くなかった。 どうかお気を悪くしないでほしい…」
「いえ…わたくしも、これまで何とかそのように自分を納得させようとしてまいりましたわ。
ですが…」
空気がドスンと重くなる。 過去のことを思い出していまったようだ。 また手が震え、呼吸も浅くなってきた
「授業中にウサギほどの石を何度も頭に当て…ッ…られたり、魔法訓練の授業 っ 中に誤射だと ウッ 雷魔法を何度も顔面目掛けて撃ち込まれ」
「ウソだろ!?」
「教科書は水魔法で…グスッ…ぐっちゃぐちゃに、鞄や靴を何十個燃やされ…グスッ…寮の部屋に火を放たれた上に冤罪も…」
「もういいですから! これ以上はっ! 自分を大事にしてください!」
「シルヴィアちゃん、もう大丈夫だから手貸して、目閉じて、深呼吸…吸って…吐いて…いいよ
【荒ぶる心よ、静まりたまえ…リフレッシュ】」
「そんな環境でよく生きてたな…」
「普通ならやってらんねーわな…」
「在学中、側にセナがいなければ今頃は王都ごと消し飛んでましたわ」
「「たいへんよく生きました! えらい!!」」
「自分の影と情報収集の技術もその時に極めたものに御座います」
「ん…? この声どっかで…」
スゥーーーーーーーーーーッ
「「なんか出たーーー!」」
「おぉ 影のねーちゃんか」
「もしかして在学中ずっと警護していたんですか?」
「奥様より命を受け、お嬢様の陰に潜んでは定期的に情報収集と間接的に粛清と牽制を。」
「さりげなく粛清って言ったっすよ」
「何をしたかは聞かないでおこうか」
「そうだね」
「それでも…卒業まで学園にはいられませんでしたが…」
「そうか…クマのお嬢、ホントに辛いこと思い出させてすまねぇ! だがおかげで痛ぇくらいよく分かった。
おめぇ、とんでもなくすげぇよ。 ズタズタにされて、死ぬことも簡単に選べたはずだ。 なのにめげずにこうやってクソ野郎がいるかもしれねぇところで人の命救うことを選んでやがる。」
「…!」
「オメェより強ぇやつなんかこの世界どこ探してもいねーよ」
「わ、わたくしは…お父様と1対1で勝ったわけではありませんし…貴族の方とお話しする時も呼吸が苦しくなって…」
「んなもん後でいいんだよ、オレが言ってんのは」
ドンドンっ
「心(ここ)だ」
「じいちゃんが言ってたんだ。
“逃げるヤツは3流、泣きながらでも前に進むヤツは2流、そんな中でも心から笑えるやつこそ1流だ“ってな。
泣くなって言われても涙って止まんねぇ時だってあると思うがよ、先生やシータ達と話してる時のあの顔は仮面からの借りもんじゃねぇ、心からの笑顔ってやつだった。
3流サボり魔のオレからすりゃ、1流の中の1流だ。
あの風船にどんなゴミ野郎が乗ってんだか知らねーけど、クマのお嬢もこの国に生きてる大事な命だ。 その命4つや5つ、オレら騎士が守りきってやるから、心配すんな」
「本当に……よろしいのですか…?」
「ったりまえよ。 オレ達、職人大先生が仕込んだ”せいえー“ってヤツだからな
オレだって第三騎士団の騎士だ。 ナメんなよ」
これまでにないくらい真っ直ぐな目で左手をシルヴィアの肩に置く。 彼が初めて騎士を自覚した瞬間だった
シルヴィアはフィエリアと、いつからか影に潜んでいたセナさん同伴の元、一旦部屋へ。 どうやらエミリさんも駆けつけてくれると聞いてる、そこらへんは任せよう。
数十分後
気球は当たり前のように堀の内側の岸辺に踏み入れた。 が、仁王立ちした相手に阻まれていた
「失礼します」
「失礼するんなら帰んな」
「そう言われて、はい帰ります。とはなりません」
フッ
「そうだね。 だが、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ アンタら誰の許可取って気球を下ろしてんだい?」
「貴方は?」
「人に名前聞く時は自分から名乗るって礼儀だと習わなかったかい」
「我々は商業ギルドから来た遣い、私はベルフレッド、こっちは部下のワデルートとコルティナとノーヴァンです。」
「どーもさん。アタシゃここで調理の班長任されてるカリーナだよ。ここのはキネフィとポッター、ペーターさ」
「「「ども」」」
「他は面倒だし割愛するよ。 帰って勝手に調べな。 裏方班はここに居るので全員さ」
「そうですか。 総出でお出迎え感謝します。本日はこちらの施設を視察させていただきたくまいりました。中に入れていただけますか」
「悪いね。アタシらは誰に許可取ったか分かんない不審者を入れんなってここの責任者に言われてるからねぇ、ギルドだからって入れられないよ。」
「許可ならギルドマスターからの命令という形で降りています」
ビラっ!
懐から取り出した書類には[第三騎士団遠征陣営視察命令書]と書かれ、それに関する記述とギルドマスターの署名があった
「ふーん…視察できるもんならやってみろって話だけど、その前にいくつか言うことが出来たよ」
「何でしょう」
「まずひとつ目、パッと見は効力があるように見えるけど、根本的に組織間の不介入の原則を破ることしか書いてないから、そもそも法的に効力ないよ」
「いいえ。第二騎士団の事で第三騎士団にも疑いがかかっています。 それについては協力の義務があります」
「そうかい、ならふたつ目、アタシの名前の字が違う。 こことここもスペル間違ってるじゃないかい」
「えっ嘘!? 」
「公的措置を取る書類がこんだけ間違ってたんじゃあこれはただの紙切れさ。 効力主張するにもギルマスの署名が本物かすら証明してもらう必要があるね」
「こ、これは後ほど正しい手順を踏んで訂正します。 ですが、ギルマスの署名は本物です」
「後ほどじゃあ困るねぇ。 今のところアタシらの契約元の騎士団長様も出払ってるし、せめてその気球使って、団長か副団長から許可を直接もらってきてもらわないと入れられないねぇ」
「不手際があったとはいえここには確かに命令書があるわけですから、従っていただかないと困ります!!」
「ってかその命令書ってのも、見せてもらって来いっていうアンタらへの命令と、ここの責任者への[お願い]だろうに。
アタシらは勝手に中に入れられないっていうマニュアルの通りに「許可は?」って聞いてんのに、入場許可の根拠もない、間違った字の紙切れのどこのどれを信じられるってのかい?」
「代わりなさい」
「おや、選手交代ってかい」
「不手際については私からも謝罪します。 しかし、命令書の存在自体は事実。 よって、誤字があるとはいえ、命令書の存在と商業ギルドの権限に則り、私たちは貴方達に協力を要請します」
「話聞いてなかったのかい? アタシらには判断できないから団長に言ってきな。」
「もう一度言います、協力して下さい」
「そいつは聞けない協力だね。 アタシらの責任問題にされちゃたまったもんじゃないし」
「協力いただけないと?」
「ああ。 こっちの責任者が許可出してないと、いらない矛先がアタシらに向いちまうからね」
「協力いただけないようであれば…」
ズカズカと歩みを進める部外者達、その目は毅然としたもので、無理だと分かっているとはいえスタッフ達の焦りを少しばかり掻き立てた
「強制させていただきます」
チョンッ
バリバリバリバリバリバリバリィィイイ!!
「シビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ」
ケタケタケタケタッ
「アハハハハハハハハハハハハっ バカだねぇ、力ずくで通れるような柔な結界使って何の意味があるんだい」
『触らぬ神に祟りなし』とはよく言ったものだ。
こっちは畑のある南側。盗賊や魔獣の奇襲に備えて有刺鉄線付き電流フェンスくらい用意してある。 設置主の思いつき次第で、結界にも流せるよう細工することは容易い
「課長!」
「大丈夫ですか!」
「…痺れれぇるぅうぅう~~……」
「何のための結界だと思ってるんだろうか」
「仮にあそこまで届く声量なら攻撃に使えるな」
「よくも…! 今すぐ結界を解きなさい! でないとあなた達のギルド登録は抹消しますよ!!」
「使えない結界をどう解けってんだい?」
「クゥ… 開けなさい! この中にいるのは分かっていますよ! これは命令です! 今すぐに」
ドンッ
「あっ…」
『「あ…バカだ」』
バリバリバリバリバリバリバリィィイイ!!
「シビビビビビビビビビビビビビビビイビビビビビビビビビビビビッ!?」
「そういえば、今こっち方面にある畑って誰もいないんですよね…」
「ああ、イノシシのにぃさん達は避難中だからな。 いても獣舎チームがカモフラージュで仕事してるフリしてるぐらいだろ」
「ってことはぁ、あの人達トマトやキャベツに結界を解きなさいって、血相変えて…ププゥーっ」
「笑ってやるなって…でも、ちょっと滑稽かも(笑)」
少し前言撤回。根本的に焦る・焦らないの話ではなかった。
なぜかというと、結界の管理を担っている術者…いや術亀は、必要な時以外話を聞かないタイプなのを知っているから。
なぜ聞かないのかっていうと…答えは簡単だよね
スピーーッ スピーーっ
「ZZZZzzzzzzz…ZZZZzzzzzzzzz…」
そして工房棟自体、ポーション担当による爆発にも耐えられるようガッチガチの対策済み。
野球ドームと比べたくなる広さを持つ拠点の南側の外から叫んだところで、西側の工房棟に外部の声など聞こえるはずがないのだ
でなきゃ裏方全員に携帯電話を持たせる必要がなくなる。
「言っただろ? やれるもんならって。」
「だったら入る方法を教えなさい! 外に出れるなら中に入る方法を知らないはずありませんよね!!」
「だから、普通に入ればいいじゃないか」
「普通にって…!」
「だからぁ普通にだよ」
事務班の4人が結界に向かって歩いていく。 中に入るべく体が触れても電流は流れるどころか、霧でできた壁に入るかのように何の抵抗もなく入れていく。
「本当に…普通に入れば通れるんですね!?」
ゴンッ
「シビビビビビビビビビビビビビビビビビビ!」
「入れないのかい? そりゃそうか、許可一つ取ってない無作法者が押し入ろうしたところで通れるはずがないもんねぇ。」
「これはギルドに対する妨害とみなします!
あなた達の登録は抹消! それから損害賠償と、奴隷落ちも宣言します!」
「話になんないね。 まあいい、そろそろアタシらは仕事に戻るとしようかね」
『「はーーい」』
「待ちなさい!」
「おい、 んっ」
「はい」
「了解」
突然、弱そうな者を狙って背後から腕を捻り上げ人質に取る
「痛~い!!」
「ちょっと何するんですか!」
「黙れ!!奴隷に拒否権はない!
今すぐこの結界を解き、職人と薬師と狙撃担当の騎士を全員連れて来い!! でなくばこの奴隷の命は無いぞ!」
「この外道…最初からこれが目的で…!」
「だったらどうすると言うんですかぁ? 貴様らに選択肢はありませんよぉ?」
「あーあ、愚かだねぇ」
「今さら悔いても遅い! もう既に貴様らは奴隷落ちが確定したのだぞ! 早く言うとおりに動け!!」
「それともぉ この奴隷さんを殺されたいのですかぁ? もったいないですよねぇ、こんなカワイイ子のお顔が血に染まるなんて」
「嫌ぁ…やめてぇ!」
「早く連れて来い! その者達に用がある!」
「いーや ホンっト愚かだよぉ。
それで足元すくったつもりになっちまって。あぁ、実に愚かだ」
「はぁ!? 貴様は立場が分からないのか!」
「ああ分かっているさ。 飯屋と医者と事務員の前で白昼堂々と犯罪者に落ちぶれた大間抜けどもの違いがね。」
「何を勘違いしている! 犯罪を犯したのは貴様らの方だ!」
「なら、これを見ても同じことが言えるかい?」
突然、目の前の奴隷、手元の奴隷が順々に姿を歪ませ、再度安定した姿が見てとれたのは木材で精巧に造られた人形が突っ立っていた。
「人形だと!?」
「何がどうなっているんだ!」
「偽物!? どうやって!」
「騙しましたね!?」
種を明かせば単純で、先ほどまでの皆さんはケリーの時に使った真似っこゴーレムを光魔法で変装させたニセモノで、声はケンちゃんが人間の心理学やこの世界の法モラルから予測した対処用の台本を見て、スマホ越しに本人にアフレコをしてもらったものだ。
この拠点の全てを知りうる参謀官様がこれまでにない危険信号を出したということはシルヴィア以外が対応してもいずれ危険ということ。
ならば万事休すかと言われても、そういうわけにはいかない。 向こうが多少の押し切りにかかるなら、こっちもその力をそのまま返すまでだ。 正しい法律によって。
「仮にもここは戦地のど真ん中、一般市民に丸腰で散歩なんてすると思いますか?」
「誰だ!」
「どうして騎士がいるんだ! 森の中にいるのでは無かったのか!?」
「確かに、我々を除く147名は森の中で活動中だ。 だから長距離援護専門がこの地を魔獣や盗賊の被害から防衛している。
先ほどそちらがよこした鳥使いから聞かなかったか?」
「そ、それは…」
「不法侵入、暴行または器物損壊、脅迫、職権乱用による奴隷取扱法違反の現行犯。
特に人権不当奪取は重罪だ。 禁固刑か極刑は確実として、命令書を出したギルドマスター、あんたらの親や家族も犯罪奴隷に堕ちる可能性もあるな」
「待って! 私達は!」
「工房と薬部屋に用があるんだったら諦めるこったな。 人アレルギーってのを持ってるヤツがいるからアイツら怒らせたら街一個平気で吹き飛ぶぜ?」
「ハッタリを言うのも大概にしろ!私たちはその職人達に用がある! 今すぐ中に入れろ!!」
「【身の程が分かっていないな】」
「今度は誰だ!?」
「もう騎士はいないはず…ってことはつまり職人…!」
「どこだ!!」
「私たちは貴方とお話がしたくまいりました! お願いですから出てきてください!!」
「【罪と力のない者たちに対して筋違いを押し付けるような暴君たちと会う職人を見たことがあるか?】」
「それはぁ いち早く貴方と契約をするためにことを急いでのことでぇ」
「【権威に甘んじて人権を好き勝手に奪う者が契約など信頼ならない。 奴隷契約なら他所を当たるがいい、例え遠征中であろうとそうでなかろうと信頼ならない者と取引をするつもりはない】」
「違います! ただのお得意様契約でござ」
「【もういい、全て分かった】」
「そ、そうですか、やっとお会いしていただけるご決心がつきましたか。 では早速お話をいたしましょう! さあ、この結界を解いて姿をお見せ下さい!!」
「な…なんだあれは…!?」
急激に魔力と日光の上昇に身の危険を察知し本能的に見上げると、真っ赤な人型の何かが太陽のような火球を携え罪人を見下ろしていた
「紅の…バケモノ…!?」
「【紅のバケモノ…それが貴様らの最後の挨拶か】」
「待って違うの! 今のは…」
「【死ね】」
「やめてぇぇぇぇぇええええええええ!!!」
「【解除】っと ふぅっ 意外とリアルすぎるドラゴンのお面も役に立ちます…よね?」
俺が魔法で作ってた太陽は、熱を感じる以外はかなりチープなデッカい風船を破裂させただけなので、4人とも腰を抜かしていると思ったのだが…
「ちょっとなぁ…」
「これは…」
「流石に…」
目の前に転がる屍…もとい気絶した愚か者達は、白目を剥き、口からは泡がブクブクと、股間や顔面の穴という穴を汚水で濡らし、ピクリピクリと時々動く以外反応がない
「「「オーバーキルだろ」だな」です」
「あははは…つい気合いと空気を入れすぎちゃいました…」
「それより、この後はどうする? このまま帰りがないとまた次のが来ると思うが」
「コウモリさんに預けます。 例の件について“処置”したいことがあるらしくて」
「「「なんか怖い…」」」
「一通り済んだらそこの気球に魔法陣刻んで送り返します。それで合ってますか」
スーーーーーーッ
「相違ありません」
「「また出たぁ!!」」
「影のねーちゃん クマの嬢ちゃんは?」
「落ち着きました。 今は優雅になんらかの劇薬の研究をなさっています」
「それって優雅っていうか…?」
「さぁ…」「今は気が紛れるならいいと思いますが…」
「劇薬って…コウモリさん?」
「なんでしょう?」
ガタガタガタガタ…
「それってフィエリアも一緒だったり…しませんよね…?」
「ご一緒ですよ?……もしや…」
「急いで止めてきて下さい!! 公害が発生します!!」
「御意! この命に変えてもお止め致します!!」
シュバっ!
「ハァ…一難去ってまた一難。 良くも悪くも、ドラゴンさんの身の回りはここは退屈しませんね…」
「そうなんですよぉ…バラエティには困らないんですけどね、どうもその間が短いのなんのって
なのに、いざ解決してみればみんな呆れた目でこっちを見るんですもん、やってられないですよぉ」
「分かった分かった。愚痴は中で聞いてやるから、待たせてる皆のところに行くぞ」
「うーし メシだメシ~」
「出来てるわけないだろ、火の元は全部止めてるのだから」
「ちぇっ」
中に入るとメイン棟の前に皆が集まってくれていた。 ほとんど外に出たわけでもないのに、「おかえり」を言うためだけに。
夕方
「彼らは最初から神業職人とポーション製造元の素性とその利権、例の飛行船計画への仲介による手柄が狙いだったと供述しました。
リョー様達が1手先を読み、迎えうちに出ようとした市民枠達にストップをかけていなければ、あの強固な結界も危うかったやもしれません。」
「そうか…」
「参謀官様の仕事運を下げるどころかマイナスを振りきらせるという神業援護も素晴らしく、無効な書類によって動揺を誘って下さったおかげで自分が影から精神系魔法にて、恐怖の増幅が行えたことも合わせて報告致します。」
「…なるほど」
「先日のグランドマスターほどの器量は無かったので、このまま廃人になってくれればこちらとしては幸いです」
「あれもそういうことだったのか」
「あれもというのは?」
「彼女も商人としてかなりのベテランだ。 図星の1つや2つ言い当てたところで脅しや圧力に屈するような相手ではない。
私の見えない影から手助けをしてくれていなければ、あんなにスムーズに行くことはなかっただろう。 感謝する」
「感謝される筋合いはございません」
「…?」
「自分は心からお仕えしたダルセン家のお嬢様に危害が加わらないように細工したまで、騎士団や国がどうなろうと知ったことではありません。
お嬢様達に未来へ歩き出す勇気と自信をつけていただくのがこちらの目的。
ダルセン家としましては、そちらの任務である魔獣の殲滅はあくまでも二の次、この遠征はそのための取引なのですから」
「そうだったな。 だが、感謝の言葉は100述べても1つとして撤回はしない。 それがデミトラス家の鉄則だ。 受け取らずともそちらの自由だが、できれば形だけでも。」
「我が主にお伝えいたします。」
スーーーーーーッ…
「もう…訳が分からん…胃が痛くなってきた…」
『精神ポーションと胃痛薬デス。』
「うぅ…そう言うことじゃない気がする…」
『シータさんの診察も受診なさいマスか?
彼女ならバ死相が出ていタ場合にモ、運気を180°捻じ曲げることが可能デス』
「ダメだ…胃が無くなりそう」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
グラグラグラグラグラグラッ…!!
「地震!? まさか!」
『【シータサン!!】』
「【ん!】」
「思っていたより…早すぎる…!!」
10
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる