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第五章 目覚めた戦士達の逆転劇 編
獣面と騎士と聖剣と
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「リョー殿!」
「みんな!無事か!?」
「ただいま戻りました。 他の皆さんは…」
「問題ない、全員生還している。
貴殿らもご無事で何よりだ」
「無事っていうか…まぁ…」
フラフラ…膝ガクガク…
「あんな大敵相手に魔力切れを起こさない方が異常だ。というか、立っていられるだけでも強さが底知れないな」
「おおげさですよ…ブースト魔法はとてつもない力が引き出せる分、魔力の消費が激しいんです。俺も、山亀の治療で魔力が…
だから、騎士団の皆さんがいて本当に良かった。」
「お褒めに預かり光栄だ。部屋までもたず廊下で寝てる彼らにも聞かせてやりたいな。
それより…」
「?」
「あの大きな人型になる飛行船は、一体何なのか説明をして頂けるか…!?」
「あれですか? 巨大戦専用のロボットですけど、言って…なかったでしたっけ?」
「ああ。初見と初耳が過ぎるほどだ。あんな隠し玉が残っていたなら、さわりくらい教えてくれても…」
「いやぁ…飛行船がどうのって騒いでたので、見抜かれて大ごとになりかねない情報を持たせて負担をかけるのもどうかなって。
ほら…言うでしょ?敵を騙すには味方からって」
「言わんとしていることが分かってしまうあたり、心苦じぃ…」
「まぁ…本当のことを言うと、ゲン担ぎですよ。ただの」
「ゲン担ぎ?」
「ひと昔前、死ぬと分かってる戦争や任務の前にみんなでお酒を飲む風習があったのはご存知ですよね」
「もちろんだ。 酔って死への恐怖を薄れさせ、一つでも多い戦績を残すための風習だとか。
現在は職務中の飲酒は禁止となっているが、懐に忍ばせている者は未だ多いと聞く。おそらくは部下の中にも」
「お酒は大人の嗜好品の一つで、生き甲斐や他人とのコミュニケーションに繋げる人は多いですからね。
逆に、酒を好まない人はどうすると思います?」
「酒を好まない者は…家族からの手紙や子供が描いた絵、趣味の道具を懐に入れていくとかか?」
「そうです。心の拠り所があれば戦えるんです。
メカ好きにとってはそれが仲間と、あのデッカいロボットだったってだけです」
「リョー君…」
「本当なら技術的なことも突っ込みたいが、今はその説明で無理矢理納得させてもらおう」
「そうですね。まだ最後の1個、とんでもないのが残ってるんで。」
「…まだあるのか…」
「はい。そしてそれこそ、最後の大仕事の鍵です」
翌朝…というか昼、診療所に裏方全員と、騎士団サイドが何人かが集まっていた。
「皆さんを集めたのは他でもありません。
これから患者の蘇生術をするにあたり、診療所に隠しておいた最後の仕掛けを起動します。」
「リョー殿、聞くのも恐ろしいが…仕掛けというのは具体的に教えていただけないのだろうか」
「それは見てからのお楽しみです。
団長さんはこの人選にどんな規則性があるか分かりますか?」
「人選?…馬の世話係が半分いない以外は裏方班が全員と、各小隊長、赤札隊、私とゾース…」
「あ」
「分かりましたか、ピノさん」
「みんな端末もってる」
「大正解です。そしてスマホと今の状況に関することでもう1つ気付くことはないですか?」
「????????????????」
問題を投げかけてみること30秒、沈黙は破られない。 少し難しすぎたか
「これは医療班以外のメンバーには難しいかもしれませんね」
「医療班じゃないと難しい…?」
「はいっ!」
「はいブラネットさん」
「端末の裏についてる番号と収納の赤い番号が一緒!」
「正解です。 他の班も同様、物をしまった場所がお互いわかりやすいように引き出しや棚、収納扉には全部番号を振ってあります。
俺を含む医療班が9人、畑専属が1人、調理班が5人…あー…いや、4人と1羽」
「そこ5人でええやろ! 言い直さんでええねん」
「事務班が5人、防衛と空間魔法担当1人、小隊長が15人、赤札隊が6人、団長、副団長が1人ずつ。残りは馬舎チームに渡してあるので、総計50個。 そして、ここにある収納で赤色の番号を振ってるの収納も50個、端末の数と一致します。」
「1人でも死なれたら困るというのはそういうことでもあったのか…!」
カタカタカタカタカカタッ タァンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
全員のスマホ、スマートウォッチ、その他2名の通知音が鳴り、画面を見た人から一斉に動き出す。
「40番…」
「40ならあっちにあったぞ」
「23番あった」
「20番どれ?」
「あ~こっちこっち」
「19番…どこ…こっちかな」
パカっ
「こーらピノ、冷蔵庫の中には絶対ないわよ」
「15番 ヒッ!? 血でいっぱい!」
「人工輸血液。それ…ドラゴンが織りなす叡智の結晶。
ポーションでも…回復魔法でも…流れた血液は戻らない。」
「ドラゴンさんがオークの血液から人に使える輸血用血液を作ったんですよ
各血液型に対応した血液と、どんな型にも時間をかけて変化する順応型血液。
この棚にはたくさんの命を救う力があるんです。」
「おーおーまるでどこぞの鳥に止まり木ですって言わんばかりの取手やんか」
「これ…」
「あった~ぼくのマ~クだ~~」
「赤の4番ってこっちにあったんすね」
「あ、2番もここだ」
「ということは3番はその間のここですわね」
「そして俺がここ」
「皆さん、位置に着きましたね。 それでは、番号のところに端末をかざして下さい」
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
カチャンッ!!カチャンッ!!カチャンッ!!
「うわぁ!? この棚、なんか音がした!」
「無事にロックが外れましたね。ご対面といきましょうか。皆さん、壁から離れてください」
ウィーーーーーーーーーーーーーーーン…
診療所で最も大きな業務用収納棚が迫り上がる。
棚の後ろから頑丈な扉がコンニチワ。
扉の隣についている操作パネルに暗証番号を打ち込み、パーで触れる。
『認証完了。 パンドラの部屋ヲ開放しマス』
重たい扉を開くと、中から金色の光が押し寄せてくる。
「眩しい!」
「なんだこの光は!?」
「目を開けてられない!」
「錬金術師の師匠と金色の光…まさか!」
中に入り、その光の主を抱えて部屋から戻る
『「万能薬 エリクサー!?」』
「第三騎士団とリースの冒険者が1つになった証拠ですよ」
「そうか…スタンピード時の赤いドラゴンか!」
「そうです。 この秘薬の素材の一つは、リースのスタンピードで皆さんと協力して倒したドラゴンから使ってます。」
「バカな…こんな大量の万能薬が1人の手で錬成できるなんて」
「先生、考えるのは諦めましょう。彼は人間の枠を超えちゃってます」
「分かってる。 分かっているんだが」
「あの秘薬はお母様の時に使ったはずでは…」
『1人前につき1体分デハありマセンので心配無用デス。』
さすがはドラゴン。1体につきざっと100人分の素材は手に入る。つまりここには100-1人分ある計算だ。
どうせ瓶の中に数滴分残るんだから100分の99の分量はほぼ1人分と言っていい。てな訳でピッタリ100本!これを人数と馬数でさらに割るからもはや分からないくらいの誤差だ
「さぁ皆さん! 気合い入れていますよ!」
『「「 了解! 」」』
外ではベッドや予備のストレッチャーを全部出し、沢山のマットレスと布団をお借りして、大人数用の医療体制を再構築されていた。
無菌室にするための結界を準備、畑と獣舎を隔離、医療班以外の道具をチューニングし直す。
「これより生命蘇生術を開始する!」
団長の合図を受けて機材を持った男達が庭に走っていく。
AEDやバイタルスキャナー、人工心肺、人工呼吸器に始まり、人工的に体温を与える装置、血流と魔力を外部から補う装置をご遺体もとい患者に取り付けていく。
ケンちゃんの弾き出した答えは、外部装置と薬剤投与で、『今夜が峠の延命状態』まで再現し、魂と身体のつながりを再構築して、秘薬や魔法をブチ込めだけブチ込めというもの。
あらかじめお土産と引き換えに教えてもらった裏情報によると、霊魂は蘇生の可能性が一定の割合を下回ると天に召される。つまりは生き返る可能性がほぼ無くなるとあの世に行く。
裏を返せば、アンデッドとして蘇る可能性を含め、現世に形として残る可能性が残っていると魂は天に登らないということだ。
蘇生を試みる俺達がいるならまだ魂はこの世にあるから、計算通りに行くと最先端の医療行為で身体を治療して心肺蘇生を行えば、身体と魂が引き合う。
「装置の動作を開始!」
『「 了解! 」』
機材から伸びるコードが人工的に生命活動を再開する。患者の体は治療は俺が済ましているため、体温の値からゆったりと正常値に近づいていく。
「薬剤の投与を開始!」
「『 了解! 』」
各種ポーションを調合した点滴剤を入れていく。
薬剤が落ち切ったのを確認して、エリクサーを順番に投与していく。
ただし、人数分、馬数分には足りないので、【薬効強化】という魔法を施して代用する
「どうだ!」
「頑張れ…!」
「戻ってこい!」
シーーーーン…
「やはり…無理だったか…」
「「いや、まだだ!」です!」
「エリクサーと聖魔法は生き物の『生命力』そのもの。健常な遺体なら生命力を注げば生き返る可能性は高い。
指先程度のエリクサーでは望み薄でも」
「ああ。たとえ可能性がゼロに等くても、皆の力でこの瞬間を迎えることが叶ったんだ。
私も奇跡を起こせるように最善を尽くす!」
チャキ…
「太陽より恵みを授かりし"聖剣"よ、その神聖なる炎で倒れし者達の命にいま一度光を灯したまえ!!
【聖なる癒し】!」
ピッ… ピッ… ピッ… ピッ… ピッ… ピッ…
「…戻った…心拍、再開…!」
ピッ… ピッ… ピッ… ピッ… ピッ… ピッ…
「こっちも再開しました!」
「ん…んん…」
「うぉっ…こっちもう意識戻ったぞ!」
「っ…」
「分かりますか! 聞こえてたら手を握ってください! 聞こえてたら手を」
ギュッ…
「ここは…?」
「こっちも戻りました! お名前、言えますか」
プルルルゥ
「サーガ先生!」
ヒヒィーーーンッ!
「分かってる、うわぁ!まだ立ちあがっちゃダメだって!」
「団長さん」
「ああ、人間の方は我々が引き受ける。
そちらは馬達の方に回って欲しい。どうやらすでに困惑しているようだ」
「お願いします」
「マクラーノ先生、蘇生したてなのでなるべく起こさないように。運ぶなら慎重にお願いします」
「了解。 あとは任せてくれ」
「カリーナさん達は」
食前にと食後、胃に効くポーションを飲ませるんだったね。 他なんかあるかい?」
「いえ、それ以外は先生の指示に沿ってお願いします」
「グラシノさん、容体が安定したら身元の確認をお願いします。
記憶が混乱する患者さんが多いと思いますので、時間がかかってでもこれまで通り穏やかにお願いします。
俺達でお馬さんの個体確認をしておきますので、後で確認の方を」
「かしこまりましたですぅ。」
そこからあとは一瞬で過ぎた。
施設総出で人や馬の治療を施し、その裏で大量の書類に悲鳴を上げ、厨房からは無数に思えた食料が一瞬にして消えていった。
また別の場所も悪魔の世代やその兄弟にあんなことやこんなことが起きたり起きなかったりと、とにかく大忙しだった。
ベッドにダ~イブッ はぁ…気持ちいぃ…
「あぁ~ちかれたぁ…」
「あれだけの人数を相手に対応できるって言ってもやっぱり人数は必要だね」
「万能薬とはいえ99人分を200人と100頭で分けるなんて力業が過ぎましてよ
静まり返った時は心臓が潰れるかと思いましたわ」
「奇跡は当分勘弁っすね」
「本当に助かってよかった。でもリョーくん」
「ん?」
「もし…もしだよ、あのまま戻らなかったらどうするつもりだったの?」
「ちゃんと予備策なら用意してあるよ。ケンちゃん説明よろしく~…」
『黒雲と太陽を中心とシタ合体魔法デ事件現場と敷地を繋ぐ虹ノ架け橋を創リ、魂を誘導スル第2フェーズ、飛行戦艦NOVAの特殊エンジンの力で体と魂が引き合うサポートを行う第3フェーズ、マスターの魔法で魂そのものを再生修復する第4フェーズが用意されてイマス』
「だんだんと現実離れしていく策っすね…
作戦その1で行けてよかったっす…」
コンコンっ
「リョー殿、おいでですか?」
ゴソゴソゴソ…ダラダラ…
「は~い…」
ガチャっ
「お休みのところすいません。
患者の退院準備が整いましたのでご報告をと」
「あれって入院扱いだったんですね…」
「限りなく死亡に近い重体ですからね。
つきましては転移の許可と、今後の動きに変更点があったらお伺い致したく」
「そうですね、エールテールや他の街から来てる裏方をそのまま帰すのも危険な香りがプンプンするので…第二騎士団側の人たちも第三騎士団も裏方も全員転移させましょうか。
そうだ、皆さんの荷物を整理しようと思ったら大体どれくらいかかりますか?」
「我々騎士は20分もあれば整いますが、団長と事務班の書類については私には…」
「そうですか、なら」
ニヒィ…!
「え…何を」
「ウッヒョーーー高ぇーーーーーー」
「なぁなぁ、あそこの赤い屋根の家見えるか?」
「どれどれ?あーあの崩れかけの?」
「あれお前んちぃ~」
「お~いっ やめろってぇ」
「ノリが中学生やないか」
「ドルガン、ルチオ、せっかくの空の景色は見なくていいのか?」
「壮観ですよ」
「オレここまで高いところはダメみたいだ…」
「ボクも…」
「もったいねーヤツらだな ってかギルは?」
「トイレで吐いてます」
「「あらら…」」
「この書類は商業ギルド、こっちが冒険者ギルド、こっちが医療ギルド、生産ギルドだな。 こっちが陛下に相乗する報告書っと…終わったぁ…」
コンコンッ
「入ってくれ」
ガチャっ
「失礼します」
「あぁリョー殿」
「1時間半から2時間くらいで到着の予定です、間に合いそうになければ手伝いますよ」
「ありがたいが、今しがた確認作業も全て完了したところだ。
ここにある通り、あとは提出するだけだ」
「良かったです。何事もなく遠征が終わりそうで」
「全くだ。 貴殿らのおかげだ」
「俺たちは好きなようにやってただけですよ。
でも、どういたしまして。」
ようやく互いの肩の荷が降りた。身分職業関係や経歴なんて関係なくひとつになれたからこその今がある。
書類整理に追われることもうれしい悲鳴で平和が訪れた証拠だというほどに。
「して、リョー殿…個人的に2つ聞いても構わないだろうか」
「構いませんよ」
「リョー殿は『流れ人の伝説』という書物を読んだ事はおありか?」
「ありますよ。 よその世界から迷い込んだ人達が神様からとんでもなく強いスキルを授かって、冒険したり、困った人を助るっていう伝記みたいな本ですよね」
「リョー殿は…もしかして、その…」
「…もしそうなら、団長さんは俺のことをどうします?」
「…付かず離れずの関係性を維持するだろう。
勇者のように国に仕えろと言って素直に聞くお方ではないことはよく分かったからな」
「団長さんらしいですね。フォンドバーグ団長だったから俺達やテーリオさんも足並みを揃えることができたんですけけど。」
普通なら話すべきか神様に確認すべきだろうが、この人なら話しても損はない…俺はもう疑うまでも無くそう思い、話しておくことにしたた
「その通り、俺は魔法がない別の世界から来た異世界人、この世界でいうところの流れ人です。」
「やはりか…。」
「その口ぶり、薄々勘付いていた感じですね」
「勇者様ではないにしろ、貴殿の力は計り知れなさすぎる。そうであってくれという願いが神々に届いたのだろうな」
「へぇ~団長さんって神様とか信じるタイプなんですか」
「信仰をしてるという訳でもないが、この仕事も神々にすがっていないとやっていられない瞬間というものは多々ある。
『どうかリョー殿が穏やかなお方であってくれ』
『どうかとんでもない発明家であってくれ』
『どうか隠れた才能の集まりであってくれ』
などとな」
「ことごとく叶ってるじゃないですか…
どれだけ日頃の行いが良くても3つも4つも叶いすぎですよ」
「それが我が家の戦い方なのでな。現にこうして最高の遠征ができた。一生分の運を使ってしまったのではないかと思うが。」
「困った時はいいところ知ってますよ」
「それは私も参謀官としてよく存じている占い師だろ」
「正解です。」
「これから…貴殿はどうする」
「そうですね、今まで通りリースでぼちぼちやっていこうかなと。
今日のところはひとまず『獣面騎士』の名前をつけて下さった国王陛下にご挨拶はしておきたいところではありますが」
「ハァ…なんとかかけあってみよう。
!…まさか…それで転移魔法ではなくこの戦艦を…?」
「あ、バレました?」
「白昼堂々王都に押し入るおつもりか?
おすすめはしないぞ」
「大丈夫、そういうのは頭の使い所ですよ」
程なくして王都に到着。
「我ら第三騎士団 無事、ワンス池での任務を完遂し、正式に帰還致してございます。」
「うむ。 よくぞ帰って来てくれた。
早速だが、遠征の報告を頼む」
「はっ。 まず戦火の報告になります。
確認できている頭数はオーク種7,000匹、ゴブリン種2万匹、変異種であるクラッシュタートル類2,500ほどとなりました。
それらを違法に飼育していたオズワード・ヴィンセントも、その場で討ち取っております。
なお、この頭数は爆ぜた個体数も含まれておりますので、概算でお許しいただきたく」
「構わん。それよりも被害の方が聞きたい。」
「はっ。大小さまざま怪我などは数えきれないほど起きましたが、裏方の活躍により、第三騎士団及び市民枠、予定外の患者全てに死者は1人としておりません。全員5体満足で御座います。」
「そうか。 それはめでたい知らせであるな」
「ありがたきお言葉。しかし畏れながら陛下、被害の詳細には続きが」
「頼む」
「先ほど申した通り、裏方の活躍により死人どころか怪我や病気ひとつ残っておりません。
しかし、その副作用と申しますか代償として、ワンス池周辺の自然までは考慮が及ばず、戦闘が行われた跡地の森や池が数年は再生不可能と言えるほどの状態になりました。」
「ワンス池群という観光資源や水産資源を失ったのであれば代償は大きかろう。だが、言い換えればそれだけの災害であったということ、その中を戦い抜いたのであれば、称えられこそすれど責任を問う考えは無い。」
「寛大なお言葉ありがとうございます。」
「千や万を超える魔獣とのことだったが、上位種については如何様だったのか?」
「Dランク以下の魔獣が3割、Cランク3割、Bランク2割、残りがAランク以上だと捉えて頂いた方がよろしいかと。」
「そんなバカな、誇張が過ぎるぞ!」
「それじゃあ地獄絵図じゃないか」
「手柄を盛りたいだけだろ」
「静粛に!」
「続けろ」
「はっ。このような現実離れした話を信じろという方が難しい話でございます。実際に戦いに出るまで私もそうでしたので。
しかし残念ながら事実であり、信じがたいようであれば、この謁見の間に倒した魔獣の首もしくは頭蓋骨を並べて証明いたします」
「万を超える頭を並べられると言うならば偽りはないのだな。」
「この剣に誓って」
「では話から察するに、ヌシはゴブリンキングやオークジェネラルが複数体いるということか」
「確かにゴブリンキングやオークジェネラルは何体かおりましたが、それはAランクの魔獣。
我々が手を焼いたのは未確認のゴブリン種、オーク種、そして例のクラッシュタートル種の最上位の存在にございます。」
「未確認…新種か?」
「書物で見ただけの魔王や賢者の名のつく伝説級に加え、山亀の変異種クラッシュタートルのさらに最上位種、破滅亀と仮称しております。
どちらもSランク相当、騎士団だけでは全滅は当然の魔獣災害、一歩でも踏む道を間違えていれば、エールテールだけでなく遠いこの王都も危うかったでしよう。」
「彼らの力…か」
「間違いなく」
「陛下!その獣を模した謎の集団について説明を求めます!」
「その者達は騎士団の名誉を地に堕とした犯罪者にございます!即刻捕らえて打首に」
「黙れ黙れ無礼者!!」
『「 ?!! 」』
「よいか!彼ら獣面騎士軍は、我が王国の英雄なるぞ!
素性を探ることにとどまらず犯罪者の扱いをしようなど甚だしいにも程がある!
頭が高い!下がれ!」
「「「ヒィッ 申し訳ありませぇん!!」」」
「その件についても陛下。1つお話が」
「なんだ」
「その獣面騎士軍の英雄達ですが、現在、我々を送り届けるべく王都の上空におります。」
「上空?」
「誠に勝手ながら陛下の御前に姿を表す承諾を得て参りました。いかがなさいますか」
「是非会いたい。 招いてくれ」
「かしこまりました。
窓から光で合図しますことをご了承ください」
「よく分からんが方法は任せる」
数分後、窓から差し込む光が暗く塞がり、王や側近、立ち合いの大臣達は目を奪われる。
それもそのはず。片方の景色を遮っている巨大なそれは騎士の冑をそのまま大きくしたかのように鋭い眼光を突きつけていた。
「なんだアレは!?」
「巨人の騎士だと!?」
「どういうことだ!巨人族でもあんな大きくないぞ!」
そんな驚きの声をよそに、巨大な黒鉄の魔道騎士は当然の流れ作業のように窓越しに一枚の魔法陣を送り込む。
魔法陣が窓から反対の窓へ通り過ぎた頃には数人の黒マントを形造り、そこから覗く獣面が王に固唾を飲ませた。
イノシシ、炎狐、オオカミ、爆炎竜、クマ、鷹、亀
その真ん中の赤いドラゴンから一言
「獣面騎士軍、ただいま現着。」
「うむ。其方達の活躍は大まかに聞いている。
此度は第三騎士団の遠征に多大なる力添え感謝する。
其方達がいなければ今頃、王都やエールテールに住む国民や騎士、我々の命はなかった。この国の代表者として心より礼を言う。」
「皆様が無事に今日の日を迎えられたこと、並びに陛下より賜ったお言葉、光栄の至りに御座います。」
「して、獣面の騎士達よ、其方達には国を救った英雄として報いたい。率直に聞こう、何か欲するものを申せ」
王国の英雄に関するマニュアル通りなら、「爵位と領地、屋敷、報奨金を」とか言ったりするところなのだろうが、国王には騎士団長を通じてあれだけ干渉してくるなと釘を刺したんだ。
いくら国で一番の権力者と言っても、対応は慎重にもなるか
「僭越ながら国王陛下、我らがこの場に臨んだのは1つお尋ねしたいことがあってのこと。
褒美を頂けるとのことであれば、我々の要求に対し、王としてどういった対応をなさるか聞かせていただきたく」
「フム…申してみよ。」
「みんな」
俺の合図を機に、左手はフード、右手がそれぞれの顔元に伸びる。
獣面から出てきた顔の一つを見て、緊張の糸を張りに張った。
「お主は…!」
「覚えていただけて光栄ですわ陛下。学園の催し物以来でしょうか」
「左様だな…。その節は誠に申し訳ないことをした。」
「…」
返答に困ったシルヴィアを察し、割って入る
「もうある程度はお察しの通り、我々が求める事はここに記載した者すべての刑事処罰にございます。」
厚い紙の束を取り出し、国王に分かるように掲げる。
これはシルヴィアの在学中にセナさんが護衛しながら必死にまとめ上げた重要な切り札だ。
それを提示するということは、いじめという軽い言葉では収めきれない社会組織的な犯行に、メスを入れる最大のチャンス。
裏を返せば、これを逃すと俺たちに助けを求めるチャンスはもう2度と無くなり、それこそより多くの国民の命を捨てる行為にもつながる。
「内容はご存知の通り。証拠もありますが、そんな物がなくても陛下は全てご存知のはず」
距離的に見えるわけないが、紙の束を開いてそこに書き連なった名前をページを捲りながら見せていく。
さぁ王よ、どう出る?
『この時が来てしまったか』と大量の汗とともに顔の旗色を悪くし、まぶたの力が弱くなる。
…
…
…
…
…
…
しばらく沈黙が続く。
「どうか…考え直してはくれないか」
「考え直せというのは、ご自身が仰った事を変え、こちらの請求を呑まないということでよろしいでしょうか」
「不躾なことを頼んでいるのは分かっている。
だが…」
「確かに、返答に詰まるものもあるでしょう。
なぜなら、」
リアルすぎる爆炎竜の面を付け直し、振り向きながら立ち上がる
チャキッ…
ホルスターから銃をとり、壁際や通路に沿って並んでいる貴族やナメた目線でこちらを見てくる騎士に向ける
「この名簿には今ここで立ち会っているヤツがが大勢含まれているのだから。」
「貴様!たかが市民枠で手柄を挙げただけの分際で好き勝手言いよって!」
「陛下の御前で武器を構えることの意味がわかっているのか!」
「陛下や我らに対する不敬だ!捕らえて処刑にしてやる!」
「者ども!あの犯罪者を捕えろ!!」
おーおー、まだ誰がとは名指ししてないのに剣を抜き、大勢で俺たちに襲いかかってくる。
そういえば陛下の御前では?
近衛騎士や第一騎士団の騎士、貴族の側近や丸々太った貴族が己の力を振るわんと雪崩寄せてくる。
だが、
「遅い…【分解】!」
あくびが出るほどの欲の波は俺の指パッチンの前に散る
「剣が!?」
「私の美しき杖が!」
第三騎士団はというと、俺が何をするかなんとなく察しているので端の方に避難。
本当に仕事のできる人達だ
「からの【創造】」
鉄粉にまで分解した鉄屑を目の前であり得ない物体に変貌させていく。
「なんだこれはぁぁ!?」
「うぁあああああああ!」
『ガルルゥゥオオオオオオオオ!』
巨大な獅子の機獣はたてがみから8本の砲弾が突き出し、鋭く煌めく牙や爪が殺意と金属音を放ち、王宮という場所にお構いなしで雄叫びを轟かせる
その雄叫びは自己顕示欲と保身に囚われた多くの人間を圧倒し、気絶や失禁を起こさせた。
「国王陛下、これが王宮や騎士の仕事ですか?」
そう問いかけると、王座から立ち上がって5段の階段を降りる。
「陛下!これは陰謀です!私達はこの者に嵌められているのです。」
「そうです!陛下もその賊どもに洗脳されているのです!」
「貴様らがここに立つ資格はもうないわ!」
『ガォォォオオオオオオ!』
部下の醜態が酷すぎて冷静な国王の堪忍袋も1撃で切れた。
それに呼応されるように百獣の王も一括浴びせると、第三騎士団と獣面騎士団を除く全ての者達の膝が地に落ちた。
「お前達は王国の恥だ。
極刑になりたくなくば、今すぐ荷物をまとめて王宮から出ていくがいい!!」
とてつもない剣幕で吠えた王は、初対面のはずの百獣の王とアイコンタクトを交わし静止する。
百獣の王もそれに従い、ノッサリノッサリと俺とシルヴィアを守る位置どりで伏せる。
うん、えらいえらい。
王はそれを見届けると、そのままこちらに向き直って膝をつき、手をつき、そのまま体を前に倒していく。
「赤竜の騎士よ、部下の無礼…深く謝罪する。この責任は全て、手をこまねいていた私にある。
どうか…私の首一つで許していただけないか!」
「…謝るべき相手が違いますよね」
ハッと頭を上げ、俺の隣に向き直る。
「ダルセン家のご息女よ、其方を長く苦しめてしまい誠に申し訳なかった。愚か者どもは全て私が責任を持ち対処する。
許せとは言えない。この国を恨んでいる事だろう。
重ね重ね無礼ながらのお願いだ、どうか今のところはその恨み、王である私に向けてもらえないだろうか」
「…………………有罪……」
「……」
「……………ただし、わたくし達が手を下すまでの猶予つきですわ。」
「!!?」
「期間は永久として、次があった際は相手がどなたであろうと消し炭にしますわ。
…例えそれが…国王陛下であっても。」
「其方のお心遣い…このカトレア王国 国王 アレクサンドルが確かに聞き入れた」
王の顔がこちらにも向く。
この条件だけでいいのかという暗黙の確認だ
「これからは彼女の周りや俺たちの生活に平穏と自由を確実に保障していただけるのであれば、シルヴィアの言った通りで構いません。
加えて1つ、俺たちは今後リースで有事に限って活動する火消し隊と救護隊を併せ持った冒険者パーティを設立する運びとなっています。
領主であるダルセン家、冒険者ギルドリース支部に加え、第三騎士団と国王陛下が自然災害と今回のような魔獣災害に対してバックアップしてくださるなら、その際は手をお貸ししましょう。
戦争のための戦力として数えられても断固として応じるつもりはありませんので、お間違えなく。」
「あいわかった。」
「ここに災害救助のための冒険者パーティ、獣面騎士団の設立を宣言する!
彼らの提示する協力の条件は彼らの自由と平穏の保障!
不敬罪などによる逮捕行為は不当とし、冒した者は王の権限と責任のもと厳しく処罰する!
第三騎士団団長フォンドバーグよ、我が宣言の言質は取ったな」
「はっ。陛下のお言葉に限らず全て、確実にこの魂に刻みまして御座います。」
『この場にアル全端末でこの様子を録音録画成功、約定を破レバいつでも討って出れデマス』
「其方は?」
「思考特化型AIゴーレム、マタの名を賢者ゴーレムのケンちゃんデス。お見知り置きヲ。」
「私からご紹介します。陛下から見て左から
亀の面、安眠の絶対守護者 リク殿
鷹の面、天空の料理王 タクミ殿
熊の面、轟天の救済天使 シルヴィア・ダルセン殿
赤龍の面、鋼の職人戦医 リョー・ヤマモト殿
狐の面、狐火の間合覇者 ケリー殿
狼の面、迅撃の断罪者 フィエリア・"ダルセン"殿」
「…っ?」「「え?」」「「は?」」「~?」
「フフッ」
「猪の面、農耕武人 ティールズ殿
業務上の事情で欠席のトラの面、コウモリの面を加え、獣面騎士団の重要なメンバーにございます。
ゴーレムにして決まった体を持たず、魔法によるサポートに特化しております」
「そうか。優秀なゴーレムもいたのだな。」
「あの~…団長さん」
「どうした」
「なんで僕の家名がダルセンになってるんですか!?僕って…」
「フィエリア殿のご両親は亡くなり、その後オズワードの愚行によってヴィンセントの名は消え、オズワードもフィエリア殿自身の手で仇を取った。
残るヴィンセントの血筋を持つ長女は現在エミリ・ダルセンとなっていて、貴殿を間接的に保護している。
オズワードの犯行に手を貸していない事はこの私とリョー殿が証明できる。
コウモリ殿、いらっしゃるな」
スーーーーーッ…
「そしてこの度、正式にフィエリアお嬢様を養子とすることが決定いたしました」
「セナさん!?」
「国王陛下、我が主ジョセフ・ダルセンおよびエミリ・ダルセンより養子縁組に関する変更の書類をお持ちいたしました。この場で確認と承認を。」
ペラッ…
「ウム。異論は無い、追って証明書を発行しよう。 その者が今回の件と無関係であるという話も事実と確定しているが、なるべく知られないように用心せよ。」
「御意。この魔法道具を通じて見ていますが、一言一句違わずお伝えします。」
スーーーーーーーーー…
「シルヴィアっちとフィーっちがしれっと姉妹になっちゃったっす…」
「これにて謁見は終了する!
これからも互いの平和のため、引き続き精進せよ!!」
『「はっ!」』
速やかに退院患者をギルドや残留組の第三騎士団の保護下に追いや…引き渡して、書類の提出等も済ませ、王都から少し離れた場所でささやかながらの打ち上げをすることになった。
メイン棟だけを外に出し、その周りをリトルカメちゃんズの結界と巨大な騎士、タンクタウラス、新入りのライオンくんで守りを固めてある。
「団長さん、乾杯の音頭を」
「皆、今日まで本当によく頑張ってくれた!
ここに全員が笑って揃っていられていること、団長として、1人の人間として形容しがたいほどに嬉しい。
今日この場は仕事のことなど全て忘れ、存分にこの喜びを分かち合おう!乾杯!」
『「乾杯!」』
乾杯の声がした後すぐ、ドッと騒がしくなる。
この日のために匠が仕込んでくれていた寿司、ハンバーグ、ピザ、カレー、うどんやラーメンを筆頭に、ティー兄の畑の恵みのサラダや野菜スティック、何十種類にも及ぶデザートの数々が所狭しと並ぶビュッフェ形式の大盤振る舞いだ。
笑い声や話し声、喉ごしの音や「プハァ~ッ」の声、食器の音。
普段なら人混みを好まない俺にとっても、皆さんにとっても、これが聞こえるのがどれだけ幸せなことか
「みんな心の底から笑ってますね」
「そうだな、夢のようだ」
「ほらシルヴィアとフィエリアのところも、あんなに人が集まってて、楽しそうにお話ししてる。」
「少しジェラシーか?」
「ちっちちちち違いますよ!俺は皆さんのおかげで大事な一歩を踏めたことが言いたくて!」
「ハハハっ 存じているさ。」
「俺で遊びましたね…真面目な人だって信じてたのに…」
「私の常識を片っ端からぶち抜いてくれた職人戦医の影響だろうな」
「おい何嗜むように食ってんだ、ドラゴンのダンナもこっち来いよっ」
「うぇっ!? 俺はいいですよっ皆さんの幸せそうなお顔を見れたらそれで」
「ならもっとこっち来てしっかり見ろよっ!ほれっ」
「あぁっ!こぼれちゃうから!」
「おぅ悪い」
「お前こんな宴の時に水かよ、酒ならまだまだあるぞ!」
「俺の故郷だと未成年なので呑めないんですよ…」
「団長も行きましょうよ!お注ぎしますから!」
「あ…ああ。お手柔らかにな」
「テーリオと呑み比べしてるんですがねぇ、勝てそうな人探してたんですよ」
「絶対勝てない…私のグラス…ノンアルなのにぃ…」
この日は朝まで飲んで食って、歌って踊って、笑って泣いて、語って嘆いて、潰れてもまたドンチャン騒ぎ、最終的に残った人たちでシャンパンファイト…品もへったくれもない宴は最後の1人が潰れるまで続いた。
当然翌朝、二日酔い患者で医療班の元に長蛇の列ができた。
「これでしばしの別れか」
「どうせすぐに顔を合わせることになりますよ。
街や村の数だけ災害はあるんですから。」
「そうだろうが、貴殿達の力を借りなくてもいいように、我々もより強くならないとな」
「戦士は体が資本と言いますし、無理は厳禁ですよ。」
「たまにはテーリオを見習ってみようか」
「仕事はほったらかさないようにしてくださいね」
「リョー殿、コレを」
2本の剣を差し出される。
太陽の彫刻と月の彫刻が目を引く双子のような拵えの剣は、つい今朝まで持っていた物のはずだが、造形はそのままに全く段違いの物となっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あったあった。やっぱり団長さん達、剣落としてた。
まぁ…魔王軍にいきなり囲まれたみたいなものだし、生きてただけいい仕事したってことか。」
『~~~』
「…ん?」
誰かが呼んでる?
フィエリア達や匠達…ではない。つぶやきボイスのティー兄な訳もない。
150名の野太い声でもない
裏方班はみんな空間魔法の中であり室内内だ。シータさんからのお告げ…あり得るけどそんな回りくどいことはしない。
誰かヘッドセットを落としたか?そんな魔力反応もない
『~~~』
「また…?」
人間の声じゃない。魔獣…もしくはあの世からのお誘い!?
かと思って警戒したが、声の主は意外な存在だった。
ガメラ君2号を下山し、声を感じる方向へフライボードを向ける。
すると辿り着いた先は隣の“元ガメラくん”
「君が俺を呼んだのか?」
『~~~』
なぜこの個体だけ生きているかというと、俺が変異した遺伝子を元の遺伝子に書き換えて危険ではなくなったから。
罪を憎んで人を憎まず、危険を憎んで亀は憎まず。
元はと言えば彼らも被害者だ。
助けられたのにわざわざ追い討ちをかけるほど、俺たちが信じた第三騎士団も執念深くはない。
ただ…
『~~~』
「…そっか、仲間が心配か…」
「リョーっち…」
『…送り火の時でござるか…』
『~~~ ~~~~~~』
「分かった。」
チャキ…チャキ…
「創造神、技巧神、魔法神、彼を頼む」
スーーーー…フゥーーーッ…
「仲間達によろしくな。【聖なる送り火】」
巨大なその身は光の礫となり、天に昇っていく
『~~~~~~』
「どこかで会おうな 森亀様。」
ゆっくり時間をかけて虹の橋を渡っている途中、ずっと俺を見て微笑んでいるように見えた。
森亀様の全てが天に還ったその場所に、いくつかの光の玉がウヨウヨ舞っていた。
「精霊…」
森亀や島亀には恵みや守りの加護を授けてくれる精霊が宿るという。
どんな精霊が宿るかはその個体の願いによるともいわれていて、簡単に言えば食いしん坊には恵みを司る水や大地の精霊、身の危険を感じるような地域では結界や癒しの精霊。
陸の時に技工神が「防御力に特化している」と言っていたのはそういう事だ
俺の存在に気づいた精霊が俺の周りを飛び回る。
異世界人は精霊と相性がいい体質なのか、警戒されている雰囲気ではない。むしろ好意的
「その剣が気に入ったんちゃう?」
「これに? 聖剣じゃないのに…」
聖剣とは勇者が持つとされる剣。人の手で造るなら精霊を剣に宿すとかその手の魔法契約を交わす必要があるが、俺には精霊と会話したりはできない。
だが、この日光剣と月光剣に精霊が寄せ付けられるということは、創り手の俺と聖剣になりうる剣、そして精霊の3つが揃っていることになる。
「いいのか…?」
光の塊は剣の中に入ろうとその身を沿わせているように見える。
「分かった。いくぞ!」
「【創造】!」
「ってな訳で、聖剣になりました。
太陽聖剣アマテラスと月光聖剣ツクヨミです」
「もう…貴殿の才能が怖い…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やはりこの聖剣は貴殿にお返しする」
「せっかくの大業物なのに、持っておかなくていいんですか?」
「私には貴殿が仕立てた一本がある。もし必要な時はまた貴殿から借りればいいが、騎士団が常に保有していると戦争の火種になりかねないのでな。」
「なるほど、それはそうですね」
2本を受け取り、魔法空間に入れてもらう
「本当なら、団長さんに小細工とか覚えてもらっておきたかったんですが」
「私ももっと尋ねたいことが尽きないが、どうやらそれも許されないらしい」
「ですね」
揃って王都の方を見ると馬に乗った群衆がハエが止まる速度で結界を目指していた。
「どうか、お元気で」
「ああ。リースのお二人にも私に代わってお世話になったと」
「もちろん、伝えるついでに絞られてきます。」
「目標地点の設定を」
『ナビゲーション設定…裏方班を街に送り届ケタ後、リースに帰還しマス』
『『「飛行戦艦NOVA 発進!」』』
眩しいほど朝日が差し込むカトレア王国の王都を見下ろしながら、俺たちは旅立った。
この遠征で俺たちも騎士団も見違えるほど変わる事ができた。
持つ武器を間違えていた人、魔法の使い方を間違えていた人、才能に蓋をしていた者、自分の戦い方が見えぬ者、才能のせいで社会から迫害された者、全てを目の前で失った者
それが今や、それぞれの中心に立てるほどの存在に成長した。
明日はどんな出会いと成長があるだろうか
「みんな!無事か!?」
「ただいま戻りました。 他の皆さんは…」
「問題ない、全員生還している。
貴殿らもご無事で何よりだ」
「無事っていうか…まぁ…」
フラフラ…膝ガクガク…
「あんな大敵相手に魔力切れを起こさない方が異常だ。というか、立っていられるだけでも強さが底知れないな」
「おおげさですよ…ブースト魔法はとてつもない力が引き出せる分、魔力の消費が激しいんです。俺も、山亀の治療で魔力が…
だから、騎士団の皆さんがいて本当に良かった。」
「お褒めに預かり光栄だ。部屋までもたず廊下で寝てる彼らにも聞かせてやりたいな。
それより…」
「?」
「あの大きな人型になる飛行船は、一体何なのか説明をして頂けるか…!?」
「あれですか? 巨大戦専用のロボットですけど、言って…なかったでしたっけ?」
「ああ。初見と初耳が過ぎるほどだ。あんな隠し玉が残っていたなら、さわりくらい教えてくれても…」
「いやぁ…飛行船がどうのって騒いでたので、見抜かれて大ごとになりかねない情報を持たせて負担をかけるのもどうかなって。
ほら…言うでしょ?敵を騙すには味方からって」
「言わんとしていることが分かってしまうあたり、心苦じぃ…」
「まぁ…本当のことを言うと、ゲン担ぎですよ。ただの」
「ゲン担ぎ?」
「ひと昔前、死ぬと分かってる戦争や任務の前にみんなでお酒を飲む風習があったのはご存知ですよね」
「もちろんだ。 酔って死への恐怖を薄れさせ、一つでも多い戦績を残すための風習だとか。
現在は職務中の飲酒は禁止となっているが、懐に忍ばせている者は未だ多いと聞く。おそらくは部下の中にも」
「お酒は大人の嗜好品の一つで、生き甲斐や他人とのコミュニケーションに繋げる人は多いですからね。
逆に、酒を好まない人はどうすると思います?」
「酒を好まない者は…家族からの手紙や子供が描いた絵、趣味の道具を懐に入れていくとかか?」
「そうです。心の拠り所があれば戦えるんです。
メカ好きにとってはそれが仲間と、あのデッカいロボットだったってだけです」
「リョー君…」
「本当なら技術的なことも突っ込みたいが、今はその説明で無理矢理納得させてもらおう」
「そうですね。まだ最後の1個、とんでもないのが残ってるんで。」
「…まだあるのか…」
「はい。そしてそれこそ、最後の大仕事の鍵です」
翌朝…というか昼、診療所に裏方全員と、騎士団サイドが何人かが集まっていた。
「皆さんを集めたのは他でもありません。
これから患者の蘇生術をするにあたり、診療所に隠しておいた最後の仕掛けを起動します。」
「リョー殿、聞くのも恐ろしいが…仕掛けというのは具体的に教えていただけないのだろうか」
「それは見てからのお楽しみです。
団長さんはこの人選にどんな規則性があるか分かりますか?」
「人選?…馬の世話係が半分いない以外は裏方班が全員と、各小隊長、赤札隊、私とゾース…」
「あ」
「分かりましたか、ピノさん」
「みんな端末もってる」
「大正解です。そしてスマホと今の状況に関することでもう1つ気付くことはないですか?」
「????????????????」
問題を投げかけてみること30秒、沈黙は破られない。 少し難しすぎたか
「これは医療班以外のメンバーには難しいかもしれませんね」
「医療班じゃないと難しい…?」
「はいっ!」
「はいブラネットさん」
「端末の裏についてる番号と収納の赤い番号が一緒!」
「正解です。 他の班も同様、物をしまった場所がお互いわかりやすいように引き出しや棚、収納扉には全部番号を振ってあります。
俺を含む医療班が9人、畑専属が1人、調理班が5人…あー…いや、4人と1羽」
「そこ5人でええやろ! 言い直さんでええねん」
「事務班が5人、防衛と空間魔法担当1人、小隊長が15人、赤札隊が6人、団長、副団長が1人ずつ。残りは馬舎チームに渡してあるので、総計50個。 そして、ここにある収納で赤色の番号を振ってるの収納も50個、端末の数と一致します。」
「1人でも死なれたら困るというのはそういうことでもあったのか…!」
カタカタカタカタカカタッ タァンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ ピロンッ
全員のスマホ、スマートウォッチ、その他2名の通知音が鳴り、画面を見た人から一斉に動き出す。
「40番…」
「40ならあっちにあったぞ」
「23番あった」
「20番どれ?」
「あ~こっちこっち」
「19番…どこ…こっちかな」
パカっ
「こーらピノ、冷蔵庫の中には絶対ないわよ」
「15番 ヒッ!? 血でいっぱい!」
「人工輸血液。それ…ドラゴンが織りなす叡智の結晶。
ポーションでも…回復魔法でも…流れた血液は戻らない。」
「ドラゴンさんがオークの血液から人に使える輸血用血液を作ったんですよ
各血液型に対応した血液と、どんな型にも時間をかけて変化する順応型血液。
この棚にはたくさんの命を救う力があるんです。」
「おーおーまるでどこぞの鳥に止まり木ですって言わんばかりの取手やんか」
「これ…」
「あった~ぼくのマ~クだ~~」
「赤の4番ってこっちにあったんすね」
「あ、2番もここだ」
「ということは3番はその間のここですわね」
「そして俺がここ」
「皆さん、位置に着きましたね。 それでは、番号のところに端末をかざして下さい」
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
カチャンッ!!カチャンッ!!カチャンッ!!
「うわぁ!? この棚、なんか音がした!」
「無事にロックが外れましたね。ご対面といきましょうか。皆さん、壁から離れてください」
ウィーーーーーーーーーーーーーーーン…
診療所で最も大きな業務用収納棚が迫り上がる。
棚の後ろから頑丈な扉がコンニチワ。
扉の隣についている操作パネルに暗証番号を打ち込み、パーで触れる。
『認証完了。 パンドラの部屋ヲ開放しマス』
重たい扉を開くと、中から金色の光が押し寄せてくる。
「眩しい!」
「なんだこの光は!?」
「目を開けてられない!」
「錬金術師の師匠と金色の光…まさか!」
中に入り、その光の主を抱えて部屋から戻る
『「万能薬 エリクサー!?」』
「第三騎士団とリースの冒険者が1つになった証拠ですよ」
「そうか…スタンピード時の赤いドラゴンか!」
「そうです。 この秘薬の素材の一つは、リースのスタンピードで皆さんと協力して倒したドラゴンから使ってます。」
「バカな…こんな大量の万能薬が1人の手で錬成できるなんて」
「先生、考えるのは諦めましょう。彼は人間の枠を超えちゃってます」
「分かってる。 分かっているんだが」
「あの秘薬はお母様の時に使ったはずでは…」
『1人前につき1体分デハありマセンので心配無用デス。』
さすがはドラゴン。1体につきざっと100人分の素材は手に入る。つまりここには100-1人分ある計算だ。
どうせ瓶の中に数滴分残るんだから100分の99の分量はほぼ1人分と言っていい。てな訳でピッタリ100本!これを人数と馬数でさらに割るからもはや分からないくらいの誤差だ
「さぁ皆さん! 気合い入れていますよ!」
『「「 了解! 」」』
外ではベッドや予備のストレッチャーを全部出し、沢山のマットレスと布団をお借りして、大人数用の医療体制を再構築されていた。
無菌室にするための結界を準備、畑と獣舎を隔離、医療班以外の道具をチューニングし直す。
「これより生命蘇生術を開始する!」
団長の合図を受けて機材を持った男達が庭に走っていく。
AEDやバイタルスキャナー、人工心肺、人工呼吸器に始まり、人工的に体温を与える装置、血流と魔力を外部から補う装置をご遺体もとい患者に取り付けていく。
ケンちゃんの弾き出した答えは、外部装置と薬剤投与で、『今夜が峠の延命状態』まで再現し、魂と身体のつながりを再構築して、秘薬や魔法をブチ込めだけブチ込めというもの。
あらかじめお土産と引き換えに教えてもらった裏情報によると、霊魂は蘇生の可能性が一定の割合を下回ると天に召される。つまりは生き返る可能性がほぼ無くなるとあの世に行く。
裏を返せば、アンデッドとして蘇る可能性を含め、現世に形として残る可能性が残っていると魂は天に登らないということだ。
蘇生を試みる俺達がいるならまだ魂はこの世にあるから、計算通りに行くと最先端の医療行為で身体を治療して心肺蘇生を行えば、身体と魂が引き合う。
「装置の動作を開始!」
『「 了解! 」』
機材から伸びるコードが人工的に生命活動を再開する。患者の体は治療は俺が済ましているため、体温の値からゆったりと正常値に近づいていく。
「薬剤の投与を開始!」
「『 了解! 』」
各種ポーションを調合した点滴剤を入れていく。
薬剤が落ち切ったのを確認して、エリクサーを順番に投与していく。
ただし、人数分、馬数分には足りないので、【薬効強化】という魔法を施して代用する
「どうだ!」
「頑張れ…!」
「戻ってこい!」
シーーーーン…
「やはり…無理だったか…」
「「いや、まだだ!」です!」
「エリクサーと聖魔法は生き物の『生命力』そのもの。健常な遺体なら生命力を注げば生き返る可能性は高い。
指先程度のエリクサーでは望み薄でも」
「ああ。たとえ可能性がゼロに等くても、皆の力でこの瞬間を迎えることが叶ったんだ。
私も奇跡を起こせるように最善を尽くす!」
チャキ…
「太陽より恵みを授かりし"聖剣"よ、その神聖なる炎で倒れし者達の命にいま一度光を灯したまえ!!
【聖なる癒し】!」
ピッ… ピッ… ピッ… ピッ… ピッ… ピッ…
「…戻った…心拍、再開…!」
ピッ… ピッ… ピッ… ピッ… ピッ… ピッ…
「こっちも再開しました!」
「ん…んん…」
「うぉっ…こっちもう意識戻ったぞ!」
「っ…」
「分かりますか! 聞こえてたら手を握ってください! 聞こえてたら手を」
ギュッ…
「ここは…?」
「こっちも戻りました! お名前、言えますか」
プルルルゥ
「サーガ先生!」
ヒヒィーーーンッ!
「分かってる、うわぁ!まだ立ちあがっちゃダメだって!」
「団長さん」
「ああ、人間の方は我々が引き受ける。
そちらは馬達の方に回って欲しい。どうやらすでに困惑しているようだ」
「お願いします」
「マクラーノ先生、蘇生したてなのでなるべく起こさないように。運ぶなら慎重にお願いします」
「了解。 あとは任せてくれ」
「カリーナさん達は」
食前にと食後、胃に効くポーションを飲ませるんだったね。 他なんかあるかい?」
「いえ、それ以外は先生の指示に沿ってお願いします」
「グラシノさん、容体が安定したら身元の確認をお願いします。
記憶が混乱する患者さんが多いと思いますので、時間がかかってでもこれまで通り穏やかにお願いします。
俺達でお馬さんの個体確認をしておきますので、後で確認の方を」
「かしこまりましたですぅ。」
そこからあとは一瞬で過ぎた。
施設総出で人や馬の治療を施し、その裏で大量の書類に悲鳴を上げ、厨房からは無数に思えた食料が一瞬にして消えていった。
また別の場所も悪魔の世代やその兄弟にあんなことやこんなことが起きたり起きなかったりと、とにかく大忙しだった。
ベッドにダ~イブッ はぁ…気持ちいぃ…
「あぁ~ちかれたぁ…」
「あれだけの人数を相手に対応できるって言ってもやっぱり人数は必要だね」
「万能薬とはいえ99人分を200人と100頭で分けるなんて力業が過ぎましてよ
静まり返った時は心臓が潰れるかと思いましたわ」
「奇跡は当分勘弁っすね」
「本当に助かってよかった。でもリョーくん」
「ん?」
「もし…もしだよ、あのまま戻らなかったらどうするつもりだったの?」
「ちゃんと予備策なら用意してあるよ。ケンちゃん説明よろしく~…」
『黒雲と太陽を中心とシタ合体魔法デ事件現場と敷地を繋ぐ虹ノ架け橋を創リ、魂を誘導スル第2フェーズ、飛行戦艦NOVAの特殊エンジンの力で体と魂が引き合うサポートを行う第3フェーズ、マスターの魔法で魂そのものを再生修復する第4フェーズが用意されてイマス』
「だんだんと現実離れしていく策っすね…
作戦その1で行けてよかったっす…」
コンコンっ
「リョー殿、おいでですか?」
ゴソゴソゴソ…ダラダラ…
「は~い…」
ガチャっ
「お休みのところすいません。
患者の退院準備が整いましたのでご報告をと」
「あれって入院扱いだったんですね…」
「限りなく死亡に近い重体ですからね。
つきましては転移の許可と、今後の動きに変更点があったらお伺い致したく」
「そうですね、エールテールや他の街から来てる裏方をそのまま帰すのも危険な香りがプンプンするので…第二騎士団側の人たちも第三騎士団も裏方も全員転移させましょうか。
そうだ、皆さんの荷物を整理しようと思ったら大体どれくらいかかりますか?」
「我々騎士は20分もあれば整いますが、団長と事務班の書類については私には…」
「そうですか、なら」
ニヒィ…!
「え…何を」
「ウッヒョーーー高ぇーーーーーー」
「なぁなぁ、あそこの赤い屋根の家見えるか?」
「どれどれ?あーあの崩れかけの?」
「あれお前んちぃ~」
「お~いっ やめろってぇ」
「ノリが中学生やないか」
「ドルガン、ルチオ、せっかくの空の景色は見なくていいのか?」
「壮観ですよ」
「オレここまで高いところはダメみたいだ…」
「ボクも…」
「もったいねーヤツらだな ってかギルは?」
「トイレで吐いてます」
「「あらら…」」
「この書類は商業ギルド、こっちが冒険者ギルド、こっちが医療ギルド、生産ギルドだな。 こっちが陛下に相乗する報告書っと…終わったぁ…」
コンコンッ
「入ってくれ」
ガチャっ
「失礼します」
「あぁリョー殿」
「1時間半から2時間くらいで到着の予定です、間に合いそうになければ手伝いますよ」
「ありがたいが、今しがた確認作業も全て完了したところだ。
ここにある通り、あとは提出するだけだ」
「良かったです。何事もなく遠征が終わりそうで」
「全くだ。 貴殿らのおかげだ」
「俺たちは好きなようにやってただけですよ。
でも、どういたしまして。」
ようやく互いの肩の荷が降りた。身分職業関係や経歴なんて関係なくひとつになれたからこその今がある。
書類整理に追われることもうれしい悲鳴で平和が訪れた証拠だというほどに。
「して、リョー殿…個人的に2つ聞いても構わないだろうか」
「構いませんよ」
「リョー殿は『流れ人の伝説』という書物を読んだ事はおありか?」
「ありますよ。 よその世界から迷い込んだ人達が神様からとんでもなく強いスキルを授かって、冒険したり、困った人を助るっていう伝記みたいな本ですよね」
「リョー殿は…もしかして、その…」
「…もしそうなら、団長さんは俺のことをどうします?」
「…付かず離れずの関係性を維持するだろう。
勇者のように国に仕えろと言って素直に聞くお方ではないことはよく分かったからな」
「団長さんらしいですね。フォンドバーグ団長だったから俺達やテーリオさんも足並みを揃えることができたんですけけど。」
普通なら話すべきか神様に確認すべきだろうが、この人なら話しても損はない…俺はもう疑うまでも無くそう思い、話しておくことにしたた
「その通り、俺は魔法がない別の世界から来た異世界人、この世界でいうところの流れ人です。」
「やはりか…。」
「その口ぶり、薄々勘付いていた感じですね」
「勇者様ではないにしろ、貴殿の力は計り知れなさすぎる。そうであってくれという願いが神々に届いたのだろうな」
「へぇ~団長さんって神様とか信じるタイプなんですか」
「信仰をしてるという訳でもないが、この仕事も神々にすがっていないとやっていられない瞬間というものは多々ある。
『どうかリョー殿が穏やかなお方であってくれ』
『どうかとんでもない発明家であってくれ』
『どうか隠れた才能の集まりであってくれ』
などとな」
「ことごとく叶ってるじゃないですか…
どれだけ日頃の行いが良くても3つも4つも叶いすぎですよ」
「それが我が家の戦い方なのでな。現にこうして最高の遠征ができた。一生分の運を使ってしまったのではないかと思うが。」
「困った時はいいところ知ってますよ」
「それは私も参謀官としてよく存じている占い師だろ」
「正解です。」
「これから…貴殿はどうする」
「そうですね、今まで通りリースでぼちぼちやっていこうかなと。
今日のところはひとまず『獣面騎士』の名前をつけて下さった国王陛下にご挨拶はしておきたいところではありますが」
「ハァ…なんとかかけあってみよう。
!…まさか…それで転移魔法ではなくこの戦艦を…?」
「あ、バレました?」
「白昼堂々王都に押し入るおつもりか?
おすすめはしないぞ」
「大丈夫、そういうのは頭の使い所ですよ」
程なくして王都に到着。
「我ら第三騎士団 無事、ワンス池での任務を完遂し、正式に帰還致してございます。」
「うむ。 よくぞ帰って来てくれた。
早速だが、遠征の報告を頼む」
「はっ。 まず戦火の報告になります。
確認できている頭数はオーク種7,000匹、ゴブリン種2万匹、変異種であるクラッシュタートル類2,500ほどとなりました。
それらを違法に飼育していたオズワード・ヴィンセントも、その場で討ち取っております。
なお、この頭数は爆ぜた個体数も含まれておりますので、概算でお許しいただきたく」
「構わん。それよりも被害の方が聞きたい。」
「はっ。大小さまざま怪我などは数えきれないほど起きましたが、裏方の活躍により、第三騎士団及び市民枠、予定外の患者全てに死者は1人としておりません。全員5体満足で御座います。」
「そうか。 それはめでたい知らせであるな」
「ありがたきお言葉。しかし畏れながら陛下、被害の詳細には続きが」
「頼む」
「先ほど申した通り、裏方の活躍により死人どころか怪我や病気ひとつ残っておりません。
しかし、その副作用と申しますか代償として、ワンス池周辺の自然までは考慮が及ばず、戦闘が行われた跡地の森や池が数年は再生不可能と言えるほどの状態になりました。」
「ワンス池群という観光資源や水産資源を失ったのであれば代償は大きかろう。だが、言い換えればそれだけの災害であったということ、その中を戦い抜いたのであれば、称えられこそすれど責任を問う考えは無い。」
「寛大なお言葉ありがとうございます。」
「千や万を超える魔獣とのことだったが、上位種については如何様だったのか?」
「Dランク以下の魔獣が3割、Cランク3割、Bランク2割、残りがAランク以上だと捉えて頂いた方がよろしいかと。」
「そんなバカな、誇張が過ぎるぞ!」
「それじゃあ地獄絵図じゃないか」
「手柄を盛りたいだけだろ」
「静粛に!」
「続けろ」
「はっ。このような現実離れした話を信じろという方が難しい話でございます。実際に戦いに出るまで私もそうでしたので。
しかし残念ながら事実であり、信じがたいようであれば、この謁見の間に倒した魔獣の首もしくは頭蓋骨を並べて証明いたします」
「万を超える頭を並べられると言うならば偽りはないのだな。」
「この剣に誓って」
「では話から察するに、ヌシはゴブリンキングやオークジェネラルが複数体いるということか」
「確かにゴブリンキングやオークジェネラルは何体かおりましたが、それはAランクの魔獣。
我々が手を焼いたのは未確認のゴブリン種、オーク種、そして例のクラッシュタートル種の最上位の存在にございます。」
「未確認…新種か?」
「書物で見ただけの魔王や賢者の名のつく伝説級に加え、山亀の変異種クラッシュタートルのさらに最上位種、破滅亀と仮称しております。
どちらもSランク相当、騎士団だけでは全滅は当然の魔獣災害、一歩でも踏む道を間違えていれば、エールテールだけでなく遠いこの王都も危うかったでしよう。」
「彼らの力…か」
「間違いなく」
「陛下!その獣を模した謎の集団について説明を求めます!」
「その者達は騎士団の名誉を地に堕とした犯罪者にございます!即刻捕らえて打首に」
「黙れ黙れ無礼者!!」
『「 ?!! 」』
「よいか!彼ら獣面騎士軍は、我が王国の英雄なるぞ!
素性を探ることにとどまらず犯罪者の扱いをしようなど甚だしいにも程がある!
頭が高い!下がれ!」
「「「ヒィッ 申し訳ありませぇん!!」」」
「その件についても陛下。1つお話が」
「なんだ」
「その獣面騎士軍の英雄達ですが、現在、我々を送り届けるべく王都の上空におります。」
「上空?」
「誠に勝手ながら陛下の御前に姿を表す承諾を得て参りました。いかがなさいますか」
「是非会いたい。 招いてくれ」
「かしこまりました。
窓から光で合図しますことをご了承ください」
「よく分からんが方法は任せる」
数分後、窓から差し込む光が暗く塞がり、王や側近、立ち合いの大臣達は目を奪われる。
それもそのはず。片方の景色を遮っている巨大なそれは騎士の冑をそのまま大きくしたかのように鋭い眼光を突きつけていた。
「なんだアレは!?」
「巨人の騎士だと!?」
「どういうことだ!巨人族でもあんな大きくないぞ!」
そんな驚きの声をよそに、巨大な黒鉄の魔道騎士は当然の流れ作業のように窓越しに一枚の魔法陣を送り込む。
魔法陣が窓から反対の窓へ通り過ぎた頃には数人の黒マントを形造り、そこから覗く獣面が王に固唾を飲ませた。
イノシシ、炎狐、オオカミ、爆炎竜、クマ、鷹、亀
その真ん中の赤いドラゴンから一言
「獣面騎士軍、ただいま現着。」
「うむ。其方達の活躍は大まかに聞いている。
此度は第三騎士団の遠征に多大なる力添え感謝する。
其方達がいなければ今頃、王都やエールテールに住む国民や騎士、我々の命はなかった。この国の代表者として心より礼を言う。」
「皆様が無事に今日の日を迎えられたこと、並びに陛下より賜ったお言葉、光栄の至りに御座います。」
「して、獣面の騎士達よ、其方達には国を救った英雄として報いたい。率直に聞こう、何か欲するものを申せ」
王国の英雄に関するマニュアル通りなら、「爵位と領地、屋敷、報奨金を」とか言ったりするところなのだろうが、国王には騎士団長を通じてあれだけ干渉してくるなと釘を刺したんだ。
いくら国で一番の権力者と言っても、対応は慎重にもなるか
「僭越ながら国王陛下、我らがこの場に臨んだのは1つお尋ねしたいことがあってのこと。
褒美を頂けるとのことであれば、我々の要求に対し、王としてどういった対応をなさるか聞かせていただきたく」
「フム…申してみよ。」
「みんな」
俺の合図を機に、左手はフード、右手がそれぞれの顔元に伸びる。
獣面から出てきた顔の一つを見て、緊張の糸を張りに張った。
「お主は…!」
「覚えていただけて光栄ですわ陛下。学園の催し物以来でしょうか」
「左様だな…。その節は誠に申し訳ないことをした。」
「…」
返答に困ったシルヴィアを察し、割って入る
「もうある程度はお察しの通り、我々が求める事はここに記載した者すべての刑事処罰にございます。」
厚い紙の束を取り出し、国王に分かるように掲げる。
これはシルヴィアの在学中にセナさんが護衛しながら必死にまとめ上げた重要な切り札だ。
それを提示するということは、いじめという軽い言葉では収めきれない社会組織的な犯行に、メスを入れる最大のチャンス。
裏を返せば、これを逃すと俺たちに助けを求めるチャンスはもう2度と無くなり、それこそより多くの国民の命を捨てる行為にもつながる。
「内容はご存知の通り。証拠もありますが、そんな物がなくても陛下は全てご存知のはず」
距離的に見えるわけないが、紙の束を開いてそこに書き連なった名前をページを捲りながら見せていく。
さぁ王よ、どう出る?
『この時が来てしまったか』と大量の汗とともに顔の旗色を悪くし、まぶたの力が弱くなる。
…
…
…
…
…
…
しばらく沈黙が続く。
「どうか…考え直してはくれないか」
「考え直せというのは、ご自身が仰った事を変え、こちらの請求を呑まないということでよろしいでしょうか」
「不躾なことを頼んでいるのは分かっている。
だが…」
「確かに、返答に詰まるものもあるでしょう。
なぜなら、」
リアルすぎる爆炎竜の面を付け直し、振り向きながら立ち上がる
チャキッ…
ホルスターから銃をとり、壁際や通路に沿って並んでいる貴族やナメた目線でこちらを見てくる騎士に向ける
「この名簿には今ここで立ち会っているヤツがが大勢含まれているのだから。」
「貴様!たかが市民枠で手柄を挙げただけの分際で好き勝手言いよって!」
「陛下の御前で武器を構えることの意味がわかっているのか!」
「陛下や我らに対する不敬だ!捕らえて処刑にしてやる!」
「者ども!あの犯罪者を捕えろ!!」
おーおー、まだ誰がとは名指ししてないのに剣を抜き、大勢で俺たちに襲いかかってくる。
そういえば陛下の御前では?
近衛騎士や第一騎士団の騎士、貴族の側近や丸々太った貴族が己の力を振るわんと雪崩寄せてくる。
だが、
「遅い…【分解】!」
あくびが出るほどの欲の波は俺の指パッチンの前に散る
「剣が!?」
「私の美しき杖が!」
第三騎士団はというと、俺が何をするかなんとなく察しているので端の方に避難。
本当に仕事のできる人達だ
「からの【創造】」
鉄粉にまで分解した鉄屑を目の前であり得ない物体に変貌させていく。
「なんだこれはぁぁ!?」
「うぁあああああああ!」
『ガルルゥゥオオオオオオオオ!』
巨大な獅子の機獣はたてがみから8本の砲弾が突き出し、鋭く煌めく牙や爪が殺意と金属音を放ち、王宮という場所にお構いなしで雄叫びを轟かせる
その雄叫びは自己顕示欲と保身に囚われた多くの人間を圧倒し、気絶や失禁を起こさせた。
「国王陛下、これが王宮や騎士の仕事ですか?」
そう問いかけると、王座から立ち上がって5段の階段を降りる。
「陛下!これは陰謀です!私達はこの者に嵌められているのです。」
「そうです!陛下もその賊どもに洗脳されているのです!」
「貴様らがここに立つ資格はもうないわ!」
『ガォォォオオオオオオ!』
部下の醜態が酷すぎて冷静な国王の堪忍袋も1撃で切れた。
それに呼応されるように百獣の王も一括浴びせると、第三騎士団と獣面騎士団を除く全ての者達の膝が地に落ちた。
「お前達は王国の恥だ。
極刑になりたくなくば、今すぐ荷物をまとめて王宮から出ていくがいい!!」
とてつもない剣幕で吠えた王は、初対面のはずの百獣の王とアイコンタクトを交わし静止する。
百獣の王もそれに従い、ノッサリノッサリと俺とシルヴィアを守る位置どりで伏せる。
うん、えらいえらい。
王はそれを見届けると、そのままこちらに向き直って膝をつき、手をつき、そのまま体を前に倒していく。
「赤竜の騎士よ、部下の無礼…深く謝罪する。この責任は全て、手をこまねいていた私にある。
どうか…私の首一つで許していただけないか!」
「…謝るべき相手が違いますよね」
ハッと頭を上げ、俺の隣に向き直る。
「ダルセン家のご息女よ、其方を長く苦しめてしまい誠に申し訳なかった。愚か者どもは全て私が責任を持ち対処する。
許せとは言えない。この国を恨んでいる事だろう。
重ね重ね無礼ながらのお願いだ、どうか今のところはその恨み、王である私に向けてもらえないだろうか」
「…………………有罪……」
「……」
「……………ただし、わたくし達が手を下すまでの猶予つきですわ。」
「!!?」
「期間は永久として、次があった際は相手がどなたであろうと消し炭にしますわ。
…例えそれが…国王陛下であっても。」
「其方のお心遣い…このカトレア王国 国王 アレクサンドルが確かに聞き入れた」
王の顔がこちらにも向く。
この条件だけでいいのかという暗黙の確認だ
「これからは彼女の周りや俺たちの生活に平穏と自由を確実に保障していただけるのであれば、シルヴィアの言った通りで構いません。
加えて1つ、俺たちは今後リースで有事に限って活動する火消し隊と救護隊を併せ持った冒険者パーティを設立する運びとなっています。
領主であるダルセン家、冒険者ギルドリース支部に加え、第三騎士団と国王陛下が自然災害と今回のような魔獣災害に対してバックアップしてくださるなら、その際は手をお貸ししましょう。
戦争のための戦力として数えられても断固として応じるつもりはありませんので、お間違えなく。」
「あいわかった。」
「ここに災害救助のための冒険者パーティ、獣面騎士団の設立を宣言する!
彼らの提示する協力の条件は彼らの自由と平穏の保障!
不敬罪などによる逮捕行為は不当とし、冒した者は王の権限と責任のもと厳しく処罰する!
第三騎士団団長フォンドバーグよ、我が宣言の言質は取ったな」
「はっ。陛下のお言葉に限らず全て、確実にこの魂に刻みまして御座います。」
『この場にアル全端末でこの様子を録音録画成功、約定を破レバいつでも討って出れデマス』
「其方は?」
「思考特化型AIゴーレム、マタの名を賢者ゴーレムのケンちゃんデス。お見知り置きヲ。」
「私からご紹介します。陛下から見て左から
亀の面、安眠の絶対守護者 リク殿
鷹の面、天空の料理王 タクミ殿
熊の面、轟天の救済天使 シルヴィア・ダルセン殿
赤龍の面、鋼の職人戦医 リョー・ヤマモト殿
狐の面、狐火の間合覇者 ケリー殿
狼の面、迅撃の断罪者 フィエリア・"ダルセン"殿」
「…っ?」「「え?」」「「は?」」「~?」
「フフッ」
「猪の面、農耕武人 ティールズ殿
業務上の事情で欠席のトラの面、コウモリの面を加え、獣面騎士団の重要なメンバーにございます。
ゴーレムにして決まった体を持たず、魔法によるサポートに特化しております」
「そうか。優秀なゴーレムもいたのだな。」
「あの~…団長さん」
「どうした」
「なんで僕の家名がダルセンになってるんですか!?僕って…」
「フィエリア殿のご両親は亡くなり、その後オズワードの愚行によってヴィンセントの名は消え、オズワードもフィエリア殿自身の手で仇を取った。
残るヴィンセントの血筋を持つ長女は現在エミリ・ダルセンとなっていて、貴殿を間接的に保護している。
オズワードの犯行に手を貸していない事はこの私とリョー殿が証明できる。
コウモリ殿、いらっしゃるな」
スーーーーーッ…
「そしてこの度、正式にフィエリアお嬢様を養子とすることが決定いたしました」
「セナさん!?」
「国王陛下、我が主ジョセフ・ダルセンおよびエミリ・ダルセンより養子縁組に関する変更の書類をお持ちいたしました。この場で確認と承認を。」
ペラッ…
「ウム。異論は無い、追って証明書を発行しよう。 その者が今回の件と無関係であるという話も事実と確定しているが、なるべく知られないように用心せよ。」
「御意。この魔法道具を通じて見ていますが、一言一句違わずお伝えします。」
スーーーーーーーーー…
「シルヴィアっちとフィーっちがしれっと姉妹になっちゃったっす…」
「これにて謁見は終了する!
これからも互いの平和のため、引き続き精進せよ!!」
『「はっ!」』
速やかに退院患者をギルドや残留組の第三騎士団の保護下に追いや…引き渡して、書類の提出等も済ませ、王都から少し離れた場所でささやかながらの打ち上げをすることになった。
メイン棟だけを外に出し、その周りをリトルカメちゃんズの結界と巨大な騎士、タンクタウラス、新入りのライオンくんで守りを固めてある。
「団長さん、乾杯の音頭を」
「皆、今日まで本当によく頑張ってくれた!
ここに全員が笑って揃っていられていること、団長として、1人の人間として形容しがたいほどに嬉しい。
今日この場は仕事のことなど全て忘れ、存分にこの喜びを分かち合おう!乾杯!」
『「乾杯!」』
乾杯の声がした後すぐ、ドッと騒がしくなる。
この日のために匠が仕込んでくれていた寿司、ハンバーグ、ピザ、カレー、うどんやラーメンを筆頭に、ティー兄の畑の恵みのサラダや野菜スティック、何十種類にも及ぶデザートの数々が所狭しと並ぶビュッフェ形式の大盤振る舞いだ。
笑い声や話し声、喉ごしの音や「プハァ~ッ」の声、食器の音。
普段なら人混みを好まない俺にとっても、皆さんにとっても、これが聞こえるのがどれだけ幸せなことか
「みんな心の底から笑ってますね」
「そうだな、夢のようだ」
「ほらシルヴィアとフィエリアのところも、あんなに人が集まってて、楽しそうにお話ししてる。」
「少しジェラシーか?」
「ちっちちちち違いますよ!俺は皆さんのおかげで大事な一歩を踏めたことが言いたくて!」
「ハハハっ 存じているさ。」
「俺で遊びましたね…真面目な人だって信じてたのに…」
「私の常識を片っ端からぶち抜いてくれた職人戦医の影響だろうな」
「おい何嗜むように食ってんだ、ドラゴンのダンナもこっち来いよっ」
「うぇっ!? 俺はいいですよっ皆さんの幸せそうなお顔を見れたらそれで」
「ならもっとこっち来てしっかり見ろよっ!ほれっ」
「あぁっ!こぼれちゃうから!」
「おぅ悪い」
「お前こんな宴の時に水かよ、酒ならまだまだあるぞ!」
「俺の故郷だと未成年なので呑めないんですよ…」
「団長も行きましょうよ!お注ぎしますから!」
「あ…ああ。お手柔らかにな」
「テーリオと呑み比べしてるんですがねぇ、勝てそうな人探してたんですよ」
「絶対勝てない…私のグラス…ノンアルなのにぃ…」
この日は朝まで飲んで食って、歌って踊って、笑って泣いて、語って嘆いて、潰れてもまたドンチャン騒ぎ、最終的に残った人たちでシャンパンファイト…品もへったくれもない宴は最後の1人が潰れるまで続いた。
当然翌朝、二日酔い患者で医療班の元に長蛇の列ができた。
「これでしばしの別れか」
「どうせすぐに顔を合わせることになりますよ。
街や村の数だけ災害はあるんですから。」
「そうだろうが、貴殿達の力を借りなくてもいいように、我々もより強くならないとな」
「戦士は体が資本と言いますし、無理は厳禁ですよ。」
「たまにはテーリオを見習ってみようか」
「仕事はほったらかさないようにしてくださいね」
「リョー殿、コレを」
2本の剣を差し出される。
太陽の彫刻と月の彫刻が目を引く双子のような拵えの剣は、つい今朝まで持っていた物のはずだが、造形はそのままに全く段違いの物となっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あったあった。やっぱり団長さん達、剣落としてた。
まぁ…魔王軍にいきなり囲まれたみたいなものだし、生きてただけいい仕事したってことか。」
『~~~』
「…ん?」
誰かが呼んでる?
フィエリア達や匠達…ではない。つぶやきボイスのティー兄な訳もない。
150名の野太い声でもない
裏方班はみんな空間魔法の中であり室内内だ。シータさんからのお告げ…あり得るけどそんな回りくどいことはしない。
誰かヘッドセットを落としたか?そんな魔力反応もない
『~~~』
「また…?」
人間の声じゃない。魔獣…もしくはあの世からのお誘い!?
かと思って警戒したが、声の主は意外な存在だった。
ガメラ君2号を下山し、声を感じる方向へフライボードを向ける。
すると辿り着いた先は隣の“元ガメラくん”
「君が俺を呼んだのか?」
『~~~』
なぜこの個体だけ生きているかというと、俺が変異した遺伝子を元の遺伝子に書き換えて危険ではなくなったから。
罪を憎んで人を憎まず、危険を憎んで亀は憎まず。
元はと言えば彼らも被害者だ。
助けられたのにわざわざ追い討ちをかけるほど、俺たちが信じた第三騎士団も執念深くはない。
ただ…
『~~~』
「…そっか、仲間が心配か…」
「リョーっち…」
『…送り火の時でござるか…』
『~~~ ~~~~~~』
「分かった。」
チャキ…チャキ…
「創造神、技巧神、魔法神、彼を頼む」
スーーーー…フゥーーーッ…
「仲間達によろしくな。【聖なる送り火】」
巨大なその身は光の礫となり、天に昇っていく
『~~~~~~』
「どこかで会おうな 森亀様。」
ゆっくり時間をかけて虹の橋を渡っている途中、ずっと俺を見て微笑んでいるように見えた。
森亀様の全てが天に還ったその場所に、いくつかの光の玉がウヨウヨ舞っていた。
「精霊…」
森亀や島亀には恵みや守りの加護を授けてくれる精霊が宿るという。
どんな精霊が宿るかはその個体の願いによるともいわれていて、簡単に言えば食いしん坊には恵みを司る水や大地の精霊、身の危険を感じるような地域では結界や癒しの精霊。
陸の時に技工神が「防御力に特化している」と言っていたのはそういう事だ
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「いいのか…?」
光の塊は剣の中に入ろうとその身を沿わせているように見える。
「分かった。いくぞ!」
「【創造】!」
「ってな訳で、聖剣になりました。
太陽聖剣アマテラスと月光聖剣ツクヨミです」
「もう…貴殿の才能が怖い…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やはりこの聖剣は貴殿にお返しする」
「せっかくの大業物なのに、持っておかなくていいんですか?」
「私には貴殿が仕立てた一本がある。もし必要な時はまた貴殿から借りればいいが、騎士団が常に保有していると戦争の火種になりかねないのでな。」
「なるほど、それはそうですね」
2本を受け取り、魔法空間に入れてもらう
「本当なら、団長さんに小細工とか覚えてもらっておきたかったんですが」
「私ももっと尋ねたいことが尽きないが、どうやらそれも許されないらしい」
「ですね」
揃って王都の方を見ると馬に乗った群衆がハエが止まる速度で結界を目指していた。
「どうか、お元気で」
「ああ。リースのお二人にも私に代わってお世話になったと」
「もちろん、伝えるついでに絞られてきます。」
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『ナビゲーション設定…裏方班を街に送り届ケタ後、リースに帰還しマス』
『『「飛行戦艦NOVA 発進!」』』
眩しいほど朝日が差し込むカトレア王国の王都を見下ろしながら、俺たちは旅立った。
この遠征で俺たちも騎士団も見違えるほど変わる事ができた。
持つ武器を間違えていた人、魔法の使い方を間違えていた人、才能に蓋をしていた者、自分の戦い方が見えぬ者、才能のせいで社会から迫害された者、全てを目の前で失った者
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明日はどんな出会いと成長があるだろうか
10
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