3 / 3
第3話 本当に……翔なの?
しおりを挟む
「本当に……翔? 確かにこの感触はパットじゃなさそうだけど」
「うん、僕だけど」
「なにか変なもの食べた? 例えば遥華の手料理とか」
「今なんと?」
「……食べてないと思う」
あれやこれやと質問攻め。
遥華と舞、そのどちらもが訝しむような顔つきで僕を見入っていた。
もとより、僕がこうなってしまった原因が二人にあるなんて言えない。口が滑っても言えるはずがない。
「メシマズ系モブはどちらかといえば、舞だけで十分だと思うなー。なんなら、この前のバレンタインのチョコでさえ、上手くできなくて買って済ませてたのを風の噂で聞いたよーな」
「それは……上手く、ハート型に仕上げられなかっただけで仕方なく」
事あるごとに喧嘩に走るのはやめてくれ。場所を選んでほしいのと、そもそも僕の部屋に来た目的が喧嘩をしにきたわけじゃないだろう。
と、お互い向き合って言い争う二人の口をそれぞれ手のひらで塞いだ。
「そういえば、翔シャンプー変えた?」
「確かに甘い香りがする」
言い出しっぺ、そこで舞に頭の匂いを嗅いでもらったところ、この甘い香りの発生源はどうやら僕の頭からしてるようだった。
確か、僕が使っていたのはサク◯スだったはず。
こんなにも甘い匂いがするはずがない、おかしい。僕が持っていた男らしさ?みたいのが全部が全部対極なるものに変換されているみたいだった。
なかった胸も出来上がっていたり、髪も長くなっていたりと。
ん、待てよ?
それじゃ、まさか……
くるり、と彼女たちに背を向けてズボンの中身を覗いてみると、
「な、ない……」
やっぱり生えてなかった。
暗いパンツの底しか見えてない。
とにかく生えてない、のだ。
「…‥ないってアレ?」
「うん」
何も考えてなさげに僕に続き舞は頷いた。
試しにさすさすと擦ってみると、一部の凹凸は控え、股下はキレイな曲線を描いている。そして、あるべきところでは指先がスッと空振った。
……やっぱりない。
昨日まであった身からしてみれば、違和感しかない。
それは同時に僕に女として生きてく道を示唆されているのだった。
こ、これからどうやって生きていけば……。
「高校はどうしよう……」
絶望感に打ちひしがれ、咄嗟に思ったのがそれだった。
友達は先生は? これからどう高校生活を送ればいいの?
咄嗟に近くに立ててあった鏡立ての方に視線を移す。
自分でも分かるぐらいに瞳は涙を含んで、顔色は青く染まっていた。
つまりはこの慣れない体で今後三年間を過ごさなきゃいけないってことか。
高校生活だけじゃない、当然日常生活にも支障が出る!
「もう、どうすれば」
ガックシと肩の力が抜けた。
そんな矢先、
「大丈夫、私が付いてるから大丈夫だよ、翔」
肩をポンッと叩いてフォローしてくれたのは遥華だった。それに続き、タイミングこそ逃したものの舞も僕に協力してくれると言ってくれた。
おまけに彼女たちは僕の零した涙まで拭ってくれた。
ああ、やっぱり持つべきものは幼馴染なんだな……
「ね、それだから学校に行く準備しよ?」
「……うん」
「三人もいい加減になさい! もう7時50分よ!」
そこに母さんが血相を変えて、部屋の扉を喧しく開けてきた。
が、まさかそこに幼馴染に加えて一人、男子生徒用のブレザーを着飾った見知らぬ女の子が紛れているとは思いもしなかっただろう。
「あれ? 翔は……」
部屋を見渡しても僕の姿だけなかったのを疑問に思ったらしい。
でも、例えそれが親だとしても、こんな未曾有の事態にどう顔を合わせればいいのか。やっぱり分からない、到底できるはずがなかった。
僕がすっかり困り果てていると、遥華が僕を突き出して言い放った。
「この子です」
「この子? この女の子が?」
「……どうも」
「え」
母さんが僕が僕であることに気づけたのは、きっと制服のほつれ具合や通学バックに吊るされていたキーホルダーだろう。
二度三度目を擦って僕が女の子に見えているのが、自身の幻覚であることを疑った母は大分疲れ切った様子だった。
「ちょっと疲れてるのかしら……うーん」
バタン。
「母さん!?」
「お母さん!?」
「お母タマ!?」
ピーポーピーポー。
間もなくして気を失った母さんを救急車が迎えに来た。
「い、行ってきます……」
かくして僕の慣れない一日が始まった。
「うん、僕だけど」
「なにか変なもの食べた? 例えば遥華の手料理とか」
「今なんと?」
「……食べてないと思う」
あれやこれやと質問攻め。
遥華と舞、そのどちらもが訝しむような顔つきで僕を見入っていた。
もとより、僕がこうなってしまった原因が二人にあるなんて言えない。口が滑っても言えるはずがない。
「メシマズ系モブはどちらかといえば、舞だけで十分だと思うなー。なんなら、この前のバレンタインのチョコでさえ、上手くできなくて買って済ませてたのを風の噂で聞いたよーな」
「それは……上手く、ハート型に仕上げられなかっただけで仕方なく」
事あるごとに喧嘩に走るのはやめてくれ。場所を選んでほしいのと、そもそも僕の部屋に来た目的が喧嘩をしにきたわけじゃないだろう。
と、お互い向き合って言い争う二人の口をそれぞれ手のひらで塞いだ。
「そういえば、翔シャンプー変えた?」
「確かに甘い香りがする」
言い出しっぺ、そこで舞に頭の匂いを嗅いでもらったところ、この甘い香りの発生源はどうやら僕の頭からしてるようだった。
確か、僕が使っていたのはサク◯スだったはず。
こんなにも甘い匂いがするはずがない、おかしい。僕が持っていた男らしさ?みたいのが全部が全部対極なるものに変換されているみたいだった。
なかった胸も出来上がっていたり、髪も長くなっていたりと。
ん、待てよ?
それじゃ、まさか……
くるり、と彼女たちに背を向けてズボンの中身を覗いてみると、
「な、ない……」
やっぱり生えてなかった。
暗いパンツの底しか見えてない。
とにかく生えてない、のだ。
「…‥ないってアレ?」
「うん」
何も考えてなさげに僕に続き舞は頷いた。
試しにさすさすと擦ってみると、一部の凹凸は控え、股下はキレイな曲線を描いている。そして、あるべきところでは指先がスッと空振った。
……やっぱりない。
昨日まであった身からしてみれば、違和感しかない。
それは同時に僕に女として生きてく道を示唆されているのだった。
こ、これからどうやって生きていけば……。
「高校はどうしよう……」
絶望感に打ちひしがれ、咄嗟に思ったのがそれだった。
友達は先生は? これからどう高校生活を送ればいいの?
咄嗟に近くに立ててあった鏡立ての方に視線を移す。
自分でも分かるぐらいに瞳は涙を含んで、顔色は青く染まっていた。
つまりはこの慣れない体で今後三年間を過ごさなきゃいけないってことか。
高校生活だけじゃない、当然日常生活にも支障が出る!
「もう、どうすれば」
ガックシと肩の力が抜けた。
そんな矢先、
「大丈夫、私が付いてるから大丈夫だよ、翔」
肩をポンッと叩いてフォローしてくれたのは遥華だった。それに続き、タイミングこそ逃したものの舞も僕に協力してくれると言ってくれた。
おまけに彼女たちは僕の零した涙まで拭ってくれた。
ああ、やっぱり持つべきものは幼馴染なんだな……
「ね、それだから学校に行く準備しよ?」
「……うん」
「三人もいい加減になさい! もう7時50分よ!」
そこに母さんが血相を変えて、部屋の扉を喧しく開けてきた。
が、まさかそこに幼馴染に加えて一人、男子生徒用のブレザーを着飾った見知らぬ女の子が紛れているとは思いもしなかっただろう。
「あれ? 翔は……」
部屋を見渡しても僕の姿だけなかったのを疑問に思ったらしい。
でも、例えそれが親だとしても、こんな未曾有の事態にどう顔を合わせればいいのか。やっぱり分からない、到底できるはずがなかった。
僕がすっかり困り果てていると、遥華が僕を突き出して言い放った。
「この子です」
「この子? この女の子が?」
「……どうも」
「え」
母さんが僕が僕であることに気づけたのは、きっと制服のほつれ具合や通学バックに吊るされていたキーホルダーだろう。
二度三度目を擦って僕が女の子に見えているのが、自身の幻覚であることを疑った母は大分疲れ切った様子だった。
「ちょっと疲れてるのかしら……うーん」
バタン。
「母さん!?」
「お母さん!?」
「お母タマ!?」
ピーポーピーポー。
間もなくして気を失った母さんを救急車が迎えに来た。
「い、行ってきます……」
かくして僕の慣れない一日が始まった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる