僕のために争わないで!幼馴染の不仲を穏便に解決するには僕が女になるしかなかったらしい……あ、あれなんだか二人の様子が!?

えだまめ

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第3話 本当に……翔なの?

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「本当に……翔? 確かにこの感触はパットじゃなさそうだけど」
「うん、僕だけど」
「なにか変なもの食べた? 例えばとか」
「今なんと?」
「……食べてないと思う」

 あれやこれやと質問攻め。
 遥華と舞、そのどちらもが訝しむような顔つきで僕を見入っていた。
 もとより、僕がこうなってしまった原因が二人にあるなんて言えない。口が滑っても言えるはずがない。

「メシマズ系モブはどちらかといえば、舞だけで十分だと思うなー。なんなら、この前のバレンタインのチョコでさえ、上手くできなくて買って済ませてたのを風の噂で聞いたよーな」
「それは……上手く、ハート型に仕上げられなかっただけで仕方なく」

 事あるごとに喧嘩に走るのはやめてくれ。場所を選んでほしいのと、そもそも僕の部屋に来た目的が喧嘩をしにきたわけじゃないだろう。
 と、お互い向き合って言い争う二人の口をそれぞれ手のひらで塞いだ。

「そういえば、翔シャンプー変えた?」
「確かに甘い香りがする」

 言い出しっぺ、そこで舞に頭の匂いを嗅いでもらったところ、この甘い香りの発生源はどうやら僕の頭からしてるようだった。
 
 確か、僕が使っていたのはサク◯スだったはず。
 こんなにも甘い匂いがするはずがない、おかしい。僕が持っていた男らしさ?みたいのが全部が全部対極なるものに変換されているみたいだった。
 なかった胸も出来上がっていたり、髪も長くなっていたりと。

 ん、待てよ?
それじゃ、まさか……
 くるり、と彼女たちに背を向けてズボンの中身を覗いてみると、

「な、ない……」

 やっぱり生えてなかった。
暗いパンツの底しか見えてない。
 とにかく生えてない、のだ。

「…‥ないって?」
「うん」

 何も考えてなさげに僕に続き舞は頷いた。
 試しにさすさすと擦ってみると、一部の凹凸は控え、股下はキレイな曲線を描いている。そして、あるべきところでは指先がスッと空振った。
 ……やっぱりない。

 昨日まであった身からしてみれば、違和感しかない。
それは同時に僕に女として生きてく道を示唆されているのだった。
 こ、これからどうやって生きていけば……。

「高校はどうしよう……」

 絶望感に打ちひしがれ、咄嗟に思ったのがそれだった。
友達は先生は? これからどう高校生活を送ればいいの?

 咄嗟に近くに立ててあった鏡立ての方に視線を移す。
自分でも分かるぐらいに瞳は涙を含んで、顔色は青く染まっていた。
 つまりはこの慣れない体で今後三年間を過ごさなきゃいけないってことか。
高校生活だけじゃない、当然日常生活にも支障が出る!

「もう、どうすれば」

 ガックシと肩の力が抜けた。
そんな矢先、

「大丈夫、私が付いてるから大丈夫だよ、翔」

 肩をポンッと叩いてフォローしてくれたのは遥華だった。それに続き、タイミングこそ逃したものの舞も僕に協力してくれると言ってくれた。
 おまけに彼女たちは僕の零した涙まで拭ってくれた。
ああ、やっぱり持つべきものは幼馴染なんだな……

「ね、それだから学校に行く準備しよ?」
「……うん」

「三人もいい加減になさい! もう7時50分よ!」

 そこに母さんが血相を変えて、部屋の扉を喧しく開けてきた。
 が、まさかそこに幼馴染に加えて一人、男子生徒用のブレザーを着飾った見知らぬ女の子が紛れているとは思いもしなかっただろう。

「あれ? 翔は……」

 部屋を見渡しても僕の姿だけなかったのを疑問に思ったらしい。
 でも、例えそれが親だとしても、こんな未曾有の事態にどう顔を合わせればいいのか。やっぱり分からない、到底できるはずがなかった。
 僕がすっかり困り果てていると、遥華が僕を突き出して言い放った。

「この子です」
「この子? この女の子が?」
「……どうも」
「え」

 母さんが僕が僕であることに気づけたのは、きっと制服のほつれ具合や通学バックに吊るされていたキーホルダーだろう。
 二度三度目を擦って僕が女の子に見えているのが、自身の幻覚であることを疑った母は大分疲れ切った様子だった。

「ちょっと疲れてるのかしら……うーん」

 バタン。

「母さん!?」
「お母さん!?」
「お母タマ!?」

 ピーポーピーポー。
間もなくして気を失った母さんを救急車が迎えに来た。

「い、行ってきます……」

かくして僕の慣れない一日が始まった。
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