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ペリドットのランタン
吸血鬼の領地と隣接している辺境の村は、しばしば被害に遭う。どう考えても問題なので、領主は度々抗議の手紙を送っていたが、吸血鬼領主はともかく、柄の悪い吸血鬼たちは全く反省の色を見せない。人間にも不埒な輩はいるが、だからと言ってじゃあお互い様ですねで済ませるわけにもいかない。
そんな、微妙な情勢の中で制作されたのがペリドットのランタンだった。大粒のペリドットをはめ込んだもので、それ自体は普通のランタン程度の大きさでしかないが、特筆すべきはサイズではなく、性質にある。
太陽の石と呼ばれているペリドットの力なのか何なのか、そのランタンにどんな光源を入れたとしても、不思議なことに、それが放つ光は太陽光になるのだ。小さな、今にも消えそうな蝋燭を入れたとしても、ガラスを通して四方に投げかけられるのは、春の日だまりにも似た、優しくも強い、温かい光。
日の光を厭う吸血鬼であれば、この光で動きを止めることができるかもしれない。吸血鬼領には、これ以上の侵害があるならば、討伐隊を組織すると通告を出した。返事は、「そちらの被害をいたずらに増やすことはないのではないか」。つまり、やれるものならやってみるが良い、と言う事だ。こちらの度重なる抗議に辟易していたのだろう。向こうも非を認めてはいるが、悪化した関係に苛立っていたのが見て取れる。
討伐隊の初仕事は境界を接する村を襲う吸血鬼の討伐だった。この村は幾度も吸血鬼の脅威にされされ、女性と子供は殺されるか逃げるかしていて、残っているのはほぼ男どもだ。それでも吸血鬼はやってくる。生娘がいれば優先的に狙うだけで、別に男だって構わないのだから。
蝙蝠が飛んでくる。人々は一つの建物に集まっていて、ランタンを掲げて待っている。合わされば人と同じくらいになる蝙蝠たちが窓を破って入り込み、人の姿を取って床に立つと、討伐隊はランタンを掲げた。部屋中に、太陽の光が広がる。吸血鬼は驚いた。その間に、人々は彼を袋叩きにし、銀の杭で胸を貫いてとどめを刺した。人々はその遺体を領地境に吊し、快哉を叫ぶ。
これに泡を食ったのは吸血鬼領の領主だった。人間の方が明らかに力では劣るわけだから、絶対に返り討ちに遭うと思っていたのに。しかし、どう考えても悪いのは襲撃した吸血鬼たちである。これを契機に領内の引き締めを……と思った矢先だった。
血の気の多い吸血鬼たちが徒党を組んで人間領を襲撃。しかし、これもやはりペリドットのランタンで押し返された。陽光を放つランタン。夜明けまで持ちこたえられれば、勝負としては人間の勝ちなのだ。
辺境の村々は戦闘に耐えられない人間を避難させ、堅牢な建物を作って吸血鬼たちを誘い込んだ。「血液」という、人体に流れるものを求める吸血鬼たちは、罠だとわかっていても人間のいるところに行かないと行けなかったから、抑え方さえわかれば後は人間側の圧倒的有利だった。
今度は、昼日中に人側の有志が攻め込んできた。見つかった棺桶は片っ端から開けられ、日に晒された。弱った吸血鬼たちは胸に杭を打たれた。これにもやはり、人間領の領主がやり過ぎだとして自制を求める事態になる。
しかし、領主同士が高みからいさめたところで、当事者同士の憎しみの連鎖は止まらない。いつしか、辺境では吸血鬼と人間の死体が、いくつも転がるようになる。
そんな抗争の話が耳に入ったのか、国王から待ったが掛かった。王立騎士団が介入してきたのだ。ここから、二つの領地の間で不可侵の条約が取り交わされた。吸血鬼たちは、あのランタンの破棄を求めたが、工芸品として国王に献上することで手打ちになった。人間の領地でも、吸血鬼の領地でも、しばらくは人を遠ざけ、王立騎士団と、それぞれの領地の治安維持隊が見て回る様になる。
「治安維持の吸血鬼たちは、我々を見て怯えたような顔をしていた。血が足りていないのだろう。蒼い顔をして」
というのは、当時の治安維持隊隊長の日記に書かれた一文である。関係のない吸血鬼からすれば、人間もまた暴力の主だったのである。
その後、人が戻された辺境ではペリドットが吸血鬼よけのお守りとして珍重され、吸血鬼たちもペリドットが飾られたものには近寄らなくなり、不可侵条約は守られた。
今でも、そのランタンは王家の宝物庫に眠っている。
どんな光も、たちどころに陽光に変えてしまう魔法のランタン。
絶望の闇から人々を救った希望の光。
それが今、暗い宝物庫にしまい込まれている。まったくもって、皮肉な話だ。
そんな、微妙な情勢の中で制作されたのがペリドットのランタンだった。大粒のペリドットをはめ込んだもので、それ自体は普通のランタン程度の大きさでしかないが、特筆すべきはサイズではなく、性質にある。
太陽の石と呼ばれているペリドットの力なのか何なのか、そのランタンにどんな光源を入れたとしても、不思議なことに、それが放つ光は太陽光になるのだ。小さな、今にも消えそうな蝋燭を入れたとしても、ガラスを通して四方に投げかけられるのは、春の日だまりにも似た、優しくも強い、温かい光。
日の光を厭う吸血鬼であれば、この光で動きを止めることができるかもしれない。吸血鬼領には、これ以上の侵害があるならば、討伐隊を組織すると通告を出した。返事は、「そちらの被害をいたずらに増やすことはないのではないか」。つまり、やれるものならやってみるが良い、と言う事だ。こちらの度重なる抗議に辟易していたのだろう。向こうも非を認めてはいるが、悪化した関係に苛立っていたのが見て取れる。
討伐隊の初仕事は境界を接する村を襲う吸血鬼の討伐だった。この村は幾度も吸血鬼の脅威にされされ、女性と子供は殺されるか逃げるかしていて、残っているのはほぼ男どもだ。それでも吸血鬼はやってくる。生娘がいれば優先的に狙うだけで、別に男だって構わないのだから。
蝙蝠が飛んでくる。人々は一つの建物に集まっていて、ランタンを掲げて待っている。合わされば人と同じくらいになる蝙蝠たちが窓を破って入り込み、人の姿を取って床に立つと、討伐隊はランタンを掲げた。部屋中に、太陽の光が広がる。吸血鬼は驚いた。その間に、人々は彼を袋叩きにし、銀の杭で胸を貫いてとどめを刺した。人々はその遺体を領地境に吊し、快哉を叫ぶ。
これに泡を食ったのは吸血鬼領の領主だった。人間の方が明らかに力では劣るわけだから、絶対に返り討ちに遭うと思っていたのに。しかし、どう考えても悪いのは襲撃した吸血鬼たちである。これを契機に領内の引き締めを……と思った矢先だった。
血の気の多い吸血鬼たちが徒党を組んで人間領を襲撃。しかし、これもやはりペリドットのランタンで押し返された。陽光を放つランタン。夜明けまで持ちこたえられれば、勝負としては人間の勝ちなのだ。
辺境の村々は戦闘に耐えられない人間を避難させ、堅牢な建物を作って吸血鬼たちを誘い込んだ。「血液」という、人体に流れるものを求める吸血鬼たちは、罠だとわかっていても人間のいるところに行かないと行けなかったから、抑え方さえわかれば後は人間側の圧倒的有利だった。
今度は、昼日中に人側の有志が攻め込んできた。見つかった棺桶は片っ端から開けられ、日に晒された。弱った吸血鬼たちは胸に杭を打たれた。これにもやはり、人間領の領主がやり過ぎだとして自制を求める事態になる。
しかし、領主同士が高みからいさめたところで、当事者同士の憎しみの連鎖は止まらない。いつしか、辺境では吸血鬼と人間の死体が、いくつも転がるようになる。
そんな抗争の話が耳に入ったのか、国王から待ったが掛かった。王立騎士団が介入してきたのだ。ここから、二つの領地の間で不可侵の条約が取り交わされた。吸血鬼たちは、あのランタンの破棄を求めたが、工芸品として国王に献上することで手打ちになった。人間の領地でも、吸血鬼の領地でも、しばらくは人を遠ざけ、王立騎士団と、それぞれの領地の治安維持隊が見て回る様になる。
「治安維持の吸血鬼たちは、我々を見て怯えたような顔をしていた。血が足りていないのだろう。蒼い顔をして」
というのは、当時の治安維持隊隊長の日記に書かれた一文である。関係のない吸血鬼からすれば、人間もまた暴力の主だったのである。
その後、人が戻された辺境ではペリドットが吸血鬼よけのお守りとして珍重され、吸血鬼たちもペリドットが飾られたものには近寄らなくなり、不可侵条約は守られた。
今でも、そのランタンは王家の宝物庫に眠っている。
どんな光も、たちどころに陽光に変えてしまう魔法のランタン。
絶望の闇から人々を救った希望の光。
それが今、暗い宝物庫にしまい込まれている。まったくもって、皮肉な話だ。
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