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3 少年兵の一日 1
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その日、僕は兵舎の中にある客室に泊めてもらった。いろいろなことがあって、なかなか寝付けなかったが、いつの間にか眠っていたらしい。
次の日の朝、僕はけたたましいラッパの音と叫び声に跳び起きた。しばらく、ぼーっとベッドの上に座っていたら、今度はドアを激しく叩く音が聞こえてきた。
「あ、はい、今開けます」
急いでドアを開くと、そこには見知らぬ顔の兵士の若者が立っていた。
「新兵ユウキ・マーノ、隊長殿がすぐに部屋に来い、とのことである。連絡、以上」
「は、はい、分かりました、すぐに行きます」
若い兵士はさっと右手を胸に当てると、くるりと背を向けて速足で去っていった。
(なんか、マーノになっていたけど、この世界ではマノよりマーノの方がいいのかな?)
そんなことを考えながら、僕はズボンをはいて、すぐに部屋を出ていった。
「失礼します。ユウキです」
隊長室のドアを叩いて声を掛けると、中から「入れ」という返事が聞こええ来た。
「おはようございます」
部屋に入って挨拶をする。
「やあ、おはよう。よく眠れたかね?」
バーンズ隊長は机の向こうに座ったまま、にこやかにそう尋ねた。
「少し緊張して、あまり眠れませんでしたが、大丈夫です」
「うむ、まあ、それは仕方がないだろう。おい、例の物を」
隊長はそう言うと、横にいた兵士に何かを促した。兵士は頷くと、手に持っていた大きな布袋を僕に差し出した。
「兵士用の装備一式と下着数枚だ。ブーツと下着は、すまんが、中古品だ。給料が出たら新しいものを買ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
僕は大きな重い布袋を受け取りながら、お礼を言った。中古のおさがりなんて、僕には当たり前のことだったので、まったく気にならなかった。それより、図書室のラノベで読んだおなじみの装備品を身に着けられると思うと、思わず喜びの笑みが浮かんだ。
「コリン、部屋を教えるついでに着替えを手伝ってやれ。ユウキ、着替えたら、すぐに広場に集合だ。既に他の者たちは外の出ている、急ぐんだ」
「はい、分かりました」
「では、付いてきたまえ」
僕はコリンさんについて兵舎の廊下を歩いていった。渡り廊下を一つ渡って、別の兵舎に入った。そこには、今通ってきた兵舎とは違って、何か生活の匂いが充満していた。
「ここだ、105号室。今日からここが、君の部屋だ」
「分かりました」
コリンさんはドアを開けて、僕を中に入れた。そこには、ほとんどスペースがなく、大きな二段ベッドが向かい合わせに置かれていた。四人の共同部屋だ。
「君のベッドは、こちらの上の段だ。食事は二つ鐘と三つ鐘の間に、中央棟の左端にある食堂でとるか、街で自分の金でとるか、そこは自由だ。さあ、着替えて広場へ行くぞ」
「は、はい、分かりました」
僕は慌てて着ている元の世界の服を脱ぎ始めた。もう二度と着ることはないだろう。何か心が少し痛むような、嬉しいような複雑で変な気分だった。
「長い間、あまり食べていなかったのだな……」
コリンさんは、上半身裸になった僕を見て、ぽつりと憐れむような口調でつぶやいた。
(いや、食べてないのは一日だけですよ。もともとこんな体です)
僕は心の中でつぶやきながら、差し出された木綿(いわゆるラクダ色のメリヤス生地)の上下つなぎの下着を受け取って身に着けた。その上に厚手の面のスラックス(かなりぶかぶかで丈も長かった)を履き、革のライトアーマーを着ける。そして、たぶんウール製の上着を羽織る。前は腰のところまでだが、後ろは燕尾服のようにお尻が隠れるようなデザインだ。その上から革のベルトを締める。色は上下とも濃いブルーグレーだ。最後にブーツを履いて完成だ。(ブーツもかなりぶかぶかだった)
「少し大きいが、すぐに成長するだろう。とにかく、君はもう少し食べて太らないとな」
「分かりました。頑張ります」
「よし、では、広場に行くぞ」
「はい」
僕はコリンさんの後に続いて、バタバタ足音を立てながら走って広場に向かった。
♢♢♢
すでに広場には、ほとんどの騎士たちと兵士たちが集まり、隊長が現れるのを待って雑談をしていた。
「君はここで待機だ」
コリンさんはそう言うと、騎士や兵士たちの前に僕を置いたまま、騎士の集団の中に去っていった。
僕に視線が集まるのを感じて、いたたまれない気持ちになった。この後、きっと皆の前で新入りの紹介がされるのだろう。
(何かしゃべらないといけないのかな、嫌だなあ……)
注がれる視線から逃れるように、うつむいて身をこわばらせていると、何か周囲の空気が変わるのを感じた。何かぴりっとした緊張感があたりに漂い、雑談していた騎士や兵士たちが、まっすぐ前を向いて気をつけの姿勢になっている。
と、背後からゆっくりとした靴音が聞こえてきた。
「総員、姿勢を正し、隊長殿に敬礼っ!」
騎士の一人が号令を発し、全員が右手を胸に当てて軽く頭を下げた。
「おはよう……」
「「「おはようございます!」」」
「ゆっくりしてくれ……コリン、今日の予定を」
「はっ」
バーンズ隊長は僕の斜め前に立って、後ろ手を組んでコリンさんの読み上げる予定をじっと聞いていた。
「……なお、見回り班は今日から、教会と協力して救護所の改築を手伝ってくれ。訓練班は昼食後、午後から見回り班と交代して救護所の手伝いだ。以上だ」
コリンさんの伝達が終わると、隊長は一つ咳払いをしてから、話を始めた。
「諸君、我々がこの地に来てひと月が過ぎた。その間、街の復興と魔物の討伐によく尽力してくれこと、感謝する。だが、前領主が残した傷跡は、今なお街の住民たちを苦しめている。諸君らの中には、早く王都に帰りたいと願っている者も少なからずいるだろう。だが、我らの主君、クレア・ローゼン殿下は、この地の民の現状を深く憂(うれ)い給(たま)い、この地と民の繫栄と幸福に生涯をささげる覚悟を決意された。ならば、姫の騎士たる我々が漫然と王都に思いをはせていて良いものか。殿下の崇高なお覚悟に、命を懸けて応えるのが騎士たる者の務め、そうではないかっ!」
「「「おおおっ」」」
隊長の言葉に、すべての騎士たちと兵士たちが叫び声と足を踏み鳴らす音で応える。
「うむ、では、今日も我らの務めを果たそう、我らが殿下のためにっ!」
「「「我らが殿下のためにっ!」」」
騎士と兵士たちの声が、辺境の街の空に響き渡った。
うん、なんかいいなあ、感動した。前の世界の校長先生の話とは比べ物にならない。なんか、僕もご領主様の役に立ちたいという気持ちになった。
「……さて、最後に、今日は皆に新しい仲間を紹介する。ユウキ、ここへ」
僕は隊長に呼ばれて、前に進み出た。
「今日から、新兵として働くことになったユウキ・マーノだ。まだ分からないことが多いので、いろいろ教えてやってくれ。ユウキ、一言挨拶を」
「は、はい。あの、今日からお世話になります、ユウキです。よろしくお願いします」
僕は精一杯の声で挨拶すると、思わず前の世界の自衛官のように、額に手の甲を当てて敬礼をした。
一瞬の間があって、ドっと笑い声が上がり、拍手が所々から聞こえてきた。
「そのしぐさは、前の世界のものかね?」
隊長が耳元で囁いた。
「あ、はい、ついやっちゃいました」
バーンズ隊長は微笑むと、隊員たちの方を向いてこう言った。
「見ての通り、ユウキは遠い外国からこの地にやってきた。今のは、彼が生まれた国での挨拶だそうだ。なかなか良いと思う。今後は軽い挨拶や了解の合図に使おうではないか」
隊長の言葉に、隊員たちも賛成の声を上げた。
「よし、ではユウキは今日から訓練班に入る。マルク・ドーンッ!」
「は、はいっ!」
「お前にユウキの世話係を命じる。部屋も同じだし、いろいろ教えてやれ。ただし、余計なことは教えるなよ、いいな?」
「は、はいっ、分かりましたでありますっ!」
隊員たちは、またドっと笑い声を上げた。
次の日の朝、僕はけたたましいラッパの音と叫び声に跳び起きた。しばらく、ぼーっとベッドの上に座っていたら、今度はドアを激しく叩く音が聞こえてきた。
「あ、はい、今開けます」
急いでドアを開くと、そこには見知らぬ顔の兵士の若者が立っていた。
「新兵ユウキ・マーノ、隊長殿がすぐに部屋に来い、とのことである。連絡、以上」
「は、はい、分かりました、すぐに行きます」
若い兵士はさっと右手を胸に当てると、くるりと背を向けて速足で去っていった。
(なんか、マーノになっていたけど、この世界ではマノよりマーノの方がいいのかな?)
そんなことを考えながら、僕はズボンをはいて、すぐに部屋を出ていった。
「失礼します。ユウキです」
隊長室のドアを叩いて声を掛けると、中から「入れ」という返事が聞こええ来た。
「おはようございます」
部屋に入って挨拶をする。
「やあ、おはよう。よく眠れたかね?」
バーンズ隊長は机の向こうに座ったまま、にこやかにそう尋ねた。
「少し緊張して、あまり眠れませんでしたが、大丈夫です」
「うむ、まあ、それは仕方がないだろう。おい、例の物を」
隊長はそう言うと、横にいた兵士に何かを促した。兵士は頷くと、手に持っていた大きな布袋を僕に差し出した。
「兵士用の装備一式と下着数枚だ。ブーツと下着は、すまんが、中古品だ。給料が出たら新しいものを買ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
僕は大きな重い布袋を受け取りながら、お礼を言った。中古のおさがりなんて、僕には当たり前のことだったので、まったく気にならなかった。それより、図書室のラノベで読んだおなじみの装備品を身に着けられると思うと、思わず喜びの笑みが浮かんだ。
「コリン、部屋を教えるついでに着替えを手伝ってやれ。ユウキ、着替えたら、すぐに広場に集合だ。既に他の者たちは外の出ている、急ぐんだ」
「はい、分かりました」
「では、付いてきたまえ」
僕はコリンさんについて兵舎の廊下を歩いていった。渡り廊下を一つ渡って、別の兵舎に入った。そこには、今通ってきた兵舎とは違って、何か生活の匂いが充満していた。
「ここだ、105号室。今日からここが、君の部屋だ」
「分かりました」
コリンさんはドアを開けて、僕を中に入れた。そこには、ほとんどスペースがなく、大きな二段ベッドが向かい合わせに置かれていた。四人の共同部屋だ。
「君のベッドは、こちらの上の段だ。食事は二つ鐘と三つ鐘の間に、中央棟の左端にある食堂でとるか、街で自分の金でとるか、そこは自由だ。さあ、着替えて広場へ行くぞ」
「は、はい、分かりました」
僕は慌てて着ている元の世界の服を脱ぎ始めた。もう二度と着ることはないだろう。何か心が少し痛むような、嬉しいような複雑で変な気分だった。
「長い間、あまり食べていなかったのだな……」
コリンさんは、上半身裸になった僕を見て、ぽつりと憐れむような口調でつぶやいた。
(いや、食べてないのは一日だけですよ。もともとこんな体です)
僕は心の中でつぶやきながら、差し出された木綿(いわゆるラクダ色のメリヤス生地)の上下つなぎの下着を受け取って身に着けた。その上に厚手の面のスラックス(かなりぶかぶかで丈も長かった)を履き、革のライトアーマーを着ける。そして、たぶんウール製の上着を羽織る。前は腰のところまでだが、後ろは燕尾服のようにお尻が隠れるようなデザインだ。その上から革のベルトを締める。色は上下とも濃いブルーグレーだ。最後にブーツを履いて完成だ。(ブーツもかなりぶかぶかだった)
「少し大きいが、すぐに成長するだろう。とにかく、君はもう少し食べて太らないとな」
「分かりました。頑張ります」
「よし、では、広場に行くぞ」
「はい」
僕はコリンさんの後に続いて、バタバタ足音を立てながら走って広場に向かった。
♢♢♢
すでに広場には、ほとんどの騎士たちと兵士たちが集まり、隊長が現れるのを待って雑談をしていた。
「君はここで待機だ」
コリンさんはそう言うと、騎士や兵士たちの前に僕を置いたまま、騎士の集団の中に去っていった。
僕に視線が集まるのを感じて、いたたまれない気持ちになった。この後、きっと皆の前で新入りの紹介がされるのだろう。
(何かしゃべらないといけないのかな、嫌だなあ……)
注がれる視線から逃れるように、うつむいて身をこわばらせていると、何か周囲の空気が変わるのを感じた。何かぴりっとした緊張感があたりに漂い、雑談していた騎士や兵士たちが、まっすぐ前を向いて気をつけの姿勢になっている。
と、背後からゆっくりとした靴音が聞こえてきた。
「総員、姿勢を正し、隊長殿に敬礼っ!」
騎士の一人が号令を発し、全員が右手を胸に当てて軽く頭を下げた。
「おはよう……」
「「「おはようございます!」」」
「ゆっくりしてくれ……コリン、今日の予定を」
「はっ」
バーンズ隊長は僕の斜め前に立って、後ろ手を組んでコリンさんの読み上げる予定をじっと聞いていた。
「……なお、見回り班は今日から、教会と協力して救護所の改築を手伝ってくれ。訓練班は昼食後、午後から見回り班と交代して救護所の手伝いだ。以上だ」
コリンさんの伝達が終わると、隊長は一つ咳払いをしてから、話を始めた。
「諸君、我々がこの地に来てひと月が過ぎた。その間、街の復興と魔物の討伐によく尽力してくれこと、感謝する。だが、前領主が残した傷跡は、今なお街の住民たちを苦しめている。諸君らの中には、早く王都に帰りたいと願っている者も少なからずいるだろう。だが、我らの主君、クレア・ローゼン殿下は、この地の民の現状を深く憂(うれ)い給(たま)い、この地と民の繫栄と幸福に生涯をささげる覚悟を決意された。ならば、姫の騎士たる我々が漫然と王都に思いをはせていて良いものか。殿下の崇高なお覚悟に、命を懸けて応えるのが騎士たる者の務め、そうではないかっ!」
「「「おおおっ」」」
隊長の言葉に、すべての騎士たちと兵士たちが叫び声と足を踏み鳴らす音で応える。
「うむ、では、今日も我らの務めを果たそう、我らが殿下のためにっ!」
「「「我らが殿下のためにっ!」」」
騎士と兵士たちの声が、辺境の街の空に響き渡った。
うん、なんかいいなあ、感動した。前の世界の校長先生の話とは比べ物にならない。なんか、僕もご領主様の役に立ちたいという気持ちになった。
「……さて、最後に、今日は皆に新しい仲間を紹介する。ユウキ、ここへ」
僕は隊長に呼ばれて、前に進み出た。
「今日から、新兵として働くことになったユウキ・マーノだ。まだ分からないことが多いので、いろいろ教えてやってくれ。ユウキ、一言挨拶を」
「は、はい。あの、今日からお世話になります、ユウキです。よろしくお願いします」
僕は精一杯の声で挨拶すると、思わず前の世界の自衛官のように、額に手の甲を当てて敬礼をした。
一瞬の間があって、ドっと笑い声が上がり、拍手が所々から聞こえてきた。
「そのしぐさは、前の世界のものかね?」
隊長が耳元で囁いた。
「あ、はい、ついやっちゃいました」
バーンズ隊長は微笑むと、隊員たちの方を向いてこう言った。
「見ての通り、ユウキは遠い外国からこの地にやってきた。今のは、彼が生まれた国での挨拶だそうだ。なかなか良いと思う。今後は軽い挨拶や了解の合図に使おうではないか」
隊長の言葉に、隊員たちも賛成の声を上げた。
「よし、ではユウキは今日から訓練班に入る。マルク・ドーンッ!」
「は、はいっ!」
「お前にユウキの世話係を命じる。部屋も同じだし、いろいろ教えてやれ。ただし、余計なことは教えるなよ、いいな?」
「は、はいっ、分かりましたでありますっ!」
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