辺境の灯(ともしび)

mizuno sei

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7 少年兵と魔法の訓練 1

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 数日があっという間に過ぎた。

 僕は毎日、レイトン班で訓練をするかたわら、隊長直々の勧めで、他の班の訓練も受けることになった。また、昨日とおとといは街の外の見回りと街の中の見回りにも同行した。

 辺境の街アル・マトスは、一言で言うなら、貧しい街だった。市場はあって、活気もあるが、売られている品物の数は少なかった。商店の多くは露店で、農家や職人が自分で作った物を自分で売るという形だ。そして、何より僕の目を引いたのは、みすぼらしい身なりであちこちにたむろしている老人や子どもたちだった。

「兵隊さん、お願いします」
 街の見回りをしていると、何回も声を掛けられる。ほとんどが、行き倒れの死体の始末だ。こうした死体の処理も、今のところ騎士団の仕事なのだ。

 昨日、僕には初めての体験だったので、見回り隊の隊長ドレットさんが気を使って、僕に離れているように言ってくれた。でも、どうしても少しは死体が目に入る。小さな子供の死体を見た時は、思わず胃の中のものを吐きかけてうずくまり、涙があふれてくるのを抑えきれなかった。

「これが、この街の現実だ」
 ドレットさんは僕の背中をさすりながら、重い声でそう言った。

 死体は荷馬車に積まれて、街の外にある集団墓地に運ばれ、焼かれる。そのまま埋めると、魔物に食い荒らされたり、ゾンビ化する可能性もあるので、すぐに焼かれるのだ。だから、街の人は、毎日遠くに立ち上る煙を目にしている。その煙が絶えたのは見たことがない、とも言っていた。


♢♢♢

 今日は、いよいよ魔法班での訓練の日だ。
 僕は朝食を済ませると、ワクワクしながら訓練場に出ていった。

「おはようございます。ユウキ・マーノです。よろしくお願いします」
 訓練場にいたのは、まだ二人だけだったが、僕はその二人のもとへ行って挨拶をした。

「ああ、おはよう。私がこの班の班長、バルト・ラングだ」
「私は、副班長のアラン・メンデスだ、よろしくな」
 二人の表情はにこやかだったが、その視線は鋭かった。

「もうすぐ他の者も来るだろう。訓練の内容は皆が集まってから説明するが、その前に、何か聞きたいことはあるかね?」

 班長のラングさんの問いに、僕は少し考えてこう尋ねた。
「あの、魔法使いの人たちは、皆フード付きのローブを着ていますが、何か理由があるのですか?」

「うむ、主に二つの理由からだ。一つは魔法攻撃から身を守るためだ。敵からの攻撃だけでなく、味方の魔法の暴発にも注意する必要がある。二つ目は、顔を隠し、敵から特定されるのを防ぐためだ。特に優秀な魔法使いは、敵から狙われやすい。全員同じかっこうをして、フードで顔を隠すことによって、優秀な魔法使いを特定しにくくなる、ということだ」

 なるほど……ただ、カッコウつけてるだけかと思ったら、意外に現実的な理由があるんだな。

 そうこうしているうちに、他の九人の班員たちも集まってきた。その内二人は女性兵士だ。

「よし、では今日の訓練を始める。今日は、見ての通り、新兵のユウキ・マーノが体験のために来ている。新人に見られて恥ずかしくないように、気合いを入れていくぞ」

「「「はい」」」

「では、いつものように、まず、魔力操作の練習から始めろ」

 ラングさんの声に、班員たちは辺りに分散して、静かに目をつぶり瞑想を始めた。

「ユウキ、君はまず魔法についての基礎知識を知る必要がある。そこに座りたまえ」

「あ、はい」
 僕はその場に体育座りをした。

 ラングさんによる座学が始まった。
「まず、魔法とは何か、から始めよう。魔法を見たことはあるかね?」

「いいえ、実際に見たことはありません…人に聞いたり、本で読んだだけです」

「そうか。魔法とは、簡単に言うと、〝魔素を材料とし、魔力を使って様々な現象を具現化すること〟だ。言葉だけでは分からないだろうからな、実際に魔法を使って説明しよう」

 ラングさんはそう言うと、目をつぶって、体の前で手をゆっくりと動かし始めた。その直後、僕の目に、例の〝色の付いた煙のようなもの〟が見え始めた。今は赤い色の煙だ。もしかして、ラングさんは《火属性魔法》を使おうとしているのかな?

「さあ、よく見ていろよ。今、私は魔力を使って、空気中にある魔素を集め、それが炎になるよう命じた……」

 ラングさんの胸の前に、直径二十センチほどの炎の塊が現れ、五秒ほど揺らめいた後、ふっと消えた。

「これが魔法だ。魔法を使うためには、生まれついて持っている属性というものが必要だ。私は、火と風の属性を持っている。もう一つ、無属性も持っているが、これはたいていの魔法使いが持っているもので、おそらく、純粋な魔力操作に関わる属性だと考えられている。例えば、魔力感知とか遠見などは、無属性魔法によるものだと考えられる。ここまではいいか?」

「はい」
 魔法は、魔法陣とかを空中に描いて発動する、とか思っていたが、そんなに難しい事ではないらしい。「魔素」というのは初めて知った言葉だが、空間に存在する魔法の材料ということは理解できた。

「よし、では、次に魔力操作についてだ。魔法を使う上で、一番大事なことが、この魔力操作だ。これがうまくできるかどうかで、魔法の威力も発動する時間も変わってくる。魔力は魔素を操る力、体で例えるならモノを動かすための筋肉と考えればいい。この魔力は、生まれつき誰でも持っている。だが、魔法を使えるかどうかは、魔法の適性、つまり属性を持っているか、そして、魔力操作が上手くできるかどうかで決まる……」

 ラングさんはそう言うと、僕の額に人差し指を押し付けた。
「魔力のスイッチは、ここにある。ここに意識を集中して、火や水をどのような姿で具現化するのかを思い描くのだ。姿がはっきりと思い浮かんだら、〝その姿を現せ〟と強く命じる。実際に声に出してもいいぞ。古くは、特定の魔法には特定の呪文が必要とされてきた。だが、現在の魔法学では、自分の言葉で命ずればよい、とされている。例えば、こうだ……」

 ラングさんは、今度は誰もいない方向を向いて、右手を前に伸ばした。
「燃え盛る二つの炎よ、かの地に生える草に向かいて飛び、焼き尽くせ、ファイヤー・ボールッ!」
 右手の手のひらの前から、二つの火球が連続で飛び出し、五メートルほど先の地面の草に当たって消えていった。草は燃え、地面は濃い茶色に変化していた。

「なるほど……分かりました。どんなものを具現化するか、しっかりと意識して、それができたら、自分の言葉で強く命じる、ですね?」

「うむ、そういうことだ。では……」

「あの、一つ訊いていいですか?」

「ああ、何だね?」

「ラングさんたちが魔法を発動する前に、色の付いた煙のようなものが、もわっと出てきますが、あれが魔素っていうやつですか?」
 僕は、ずっと疑問に思っていたことを質問した。

 ところが、ラングさんは一瞬固まったようになり、表情をこわばらせた。そして、探るように低い声でこう尋ねた。
「今、何が見えると言ったのかね?」

「え? あの、ああ、ほら、他の魔法使いさんたちも、胸の前辺りに色の付いた煙のような物を出しているじゃないですか、あれのことです」
 僕は、少し離れた場所で訓練をしている魔法使いの人たちを指さしながら答えた。

 ラングさんはあごに手をやって下を向き、何やら深刻な表情で考え込んだ。
「ちょっと、待っていてくれ」
 彼はそう言うと、副隊長のメンデスさんのところへ小走りに去っていった。

 僕は、何か余計なことを言ったのかと少し心配になったが、湧き上がる好奇心には勝てなかった。
(よし、魔力操作ってのをちょっとやってみようかな)

 ラングさんに教えてもらった通りに、目をつぶって額の所に集中しながら、炎のイメージを思い浮かべた。そして自分の胸の前辺りに直径十センチほどの小さな火球を浮かべるという、強いメッセージを口にしようとした。

「えっ、うわっ!」
 僕がメッセージを口にする前に、いきなり火球が出現したのだ。そして、驚きの声を上げた瞬間、火球はふっと消えていった。
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