辺境の灯(ともしび)

mizuno sei

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25 マインド・クラフトの能力 2

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《第三者視点》

 その日、訓練日だったマルクは、午前中の槍班との合同訓練を終えて、広場の一角を埋め尽くす人々を横目に見ながら、食堂に向かおうとした。

「あ、ユウキ……お嬢様と一緒か……」
 石段を下りて、門へと向かう二人の姿を見たマルクは、少し考えてから、意を決したように二人の後を追いかけ始めた。

 マルクは、この数日間、何とかユウキと話をしたいと屋敷の方をうかがっていたが、ユウキの姿を目にすることがなかった。今はどうやら領主様の護衛らしいが、どこかで話をするチャンスがあるかもしれない、そう思って後をつけて行ったのである。


「さしあたって、これくらいでいいでしょう。大丈夫? 持てますか?」
 市場を歩きながら、パン、野菜、肉を次々に買ってユウキに渡していたクレアは、パンパンになったリュックを背負ったユウキに尋ねた。

「あ、はい、大丈夫です」

「そう。じゃあ、もう一軒、お店に寄るわよ」
 クレアはそう言って、また先に歩き出す。ユウキは急いで彼女を追い越して警護を始めた。

「どちらへ行かれますか?」

「この先に、確か古着屋があったわよね?」

「あ、はい、この先の路地を左に曲がってすぐです」
 ユウキは、自分も二度ほど利用した店だったのですぐに答えられた。


「いらっしゃいま……あ、こ、これはローゼン殿下、あわわ…」
 古着屋の女店主は、いきなり現れた領主に驚き、その場に慌ててひざまずいた。

「そんなにかしこまらなくていいわよ。立ってちょうだい」

「あ、は、はい」

「私ぐらいの女の子の普段着と、四、五歳くらいの男の子と女の子の服をそれぞれ三着ずつ見繕ってちょうだい」

「はい、ただいま」
 女主人は張り切った様子で服を次々にクレアの前に持ってきた。クレアはそれを楽し気に品定めをする。

「ユウキ…おい、ユウキ……」

 ユウキは店に入り口付近でぼーっと立っていたが、背後から聞こえてきた小さく自分を呼ぶ声に振り向いた。

「あ、マ、マルク…どうして……」

 マルクは答えず、必死に手招きしている。ユウキは振り返って、クレアが熱心に服選びをしているのを見て、そっと店の外に出た。

「マルク、なんでこんな所に? 仕事は良いの?」

「ああ、お前に話を聞いたらすぐに騎士団に戻る……」
 マルクはそう言うと、真剣な目で勇気を見つめた。
「……ユウキ、お前〈コナン〉という名に聞き覚え、あるか?」

「あ……」
 ユウキは小さな声を上げて、すぐにマルクから目をそらした。そして小さく頷いた。

「やっぱりそうか……」

「マ、マルク、ごめん……一週間くらい前だったか、君を公園の近くで見かけて、話をしたくて君を追いかけたんだ。そしたら、君はぜまい路地に入っていって、ついていったら……」

「あいつらに会っている俺を見たんだな?」

「う、うん…すぐに声を掛けようと思ったけど、話が聞こえてきて……盗み聞きのような真似をして、ごめん……」
 ユウキはそう言うと、深く頭を下げた。大きなリュックがずれて前に落ちそうになっていた。

「いや、お前が謝る必要はない……」

 マルクはそう言うと、いきなりその場に跪いて頭を地面に着くほど下げたのだった。いわゆる土下座である。
ユウキは当然驚いた。
「マ、マルク、何してるんだ、やめてくれよ」

「あら、どうしたの?」
 騒ぎを聞きつけたクレアが、そう言って近づいてきた。

「あ、いや、あの、ここにいるのがマルクなんです。ほら、マルク、クレア様の前だよ、ちゃんと立って挨拶して」

「まあ、そう……」

「も、申し訳ありません、騎士団所属の兵士マルクであります」
 マルクは立ち上がって、直立不動の姿勢で名乗った。

「いつも街の治安を守ってくれて、感謝しています」

「あ、ありがとうございます」

「……うん、ちょうどいいわ。マルク、あなたも今から私たちと一緒に来なさい」

 クレアの言葉に、マルクは驚いてユウキの方を見た。
 ユウキは頷いて、こう言った。
「実は、今からリアさんたちのところへ行くんだ。だから、マルクにも一緒に来てほしい」

「リ、リア姉のところへ? あ、いや、でも、もうすぐ昼休みが終わるから、騎士団に帰らないと……」

「う~ん…事後報告でもいいと思うけど、皆を心配させてはいけないわね。では、まず許可を取りに騎士団に行きましょう。マルク、あなたの上官は誰?」

「はい、ジェンス隊長であります」

「バーノンね、分かったわ……ということで、店員さん、服は後で取りに来るから、預かっておいてくださいね」

「は、はいっ、承知いたしました」

 クレアが歩き出し、ユウキとマルクは慌てて前後に分かれて警護の任に就いた。


♢♢♢

 狭く汚い路地を歩きながら、クレアはときどき無意識に鼻と口を押え、はっと気づいて慌てて気にしないふりをして歩き続けた。

「もうすぐです…大丈夫ですか?」
 マルクの後ろを歩いていたユウキが振り返って、小さな声で尋ねた。

「え、ええ、大丈夫よ」
 クレアは無理に微笑んで答えたが、本当は悪臭に吐き気を覚えて、やっと我慢していたのである。

 三人は、路地の突き当りに着いた。

「ここでお待ちください。呼んできます」
 マルクがそう言って、粗末な小屋の中へ入っていった。そして、すぐに不思議そうな、やや怯えたような三人の孤児たちを連れて出てきた。

 その三人の姿を見て、クレアは思わず胸がきゅっと締め付けられるのを感じた。

「驚かせてごめんなさい…私はこの街の領主、クレア・ローゼンよ…あ、ひざまずいたりしなくていいわ……あなたが、リアさんね?」

 領主様と聞いて、慌ててその場にひざまずこうとしたリアたちは、怯えたように体を寄せ合っていたが、クレアの問いにリアがオスオスと頷いた。
「は、はい、そうです」

「実は、今、私の侍女の手伝いをする人を探しているの。あなた、私の屋敷で侍女の見習いをする気はない?」

「え、わ、私が、お屋敷に? あ、あの、他にふさわしい方がおられるのでは? 私は御覧の通りの孤児で…それに、この子たちを置いてはいけないので……」

「もちろん、その子たちも屋敷に来てもらうわ」

「ね、姉ちゃん、何を迷ってるんだよ、願ってもない話じゃないか……」

 マルクの言葉に、リアは戸惑うようにしばらくあちこちに視線をさまよわせていたが、やがてクレアの方に真っすぐに向いて言った。
「まだ、夢を見ているようで、とても現実とは思えなくて……でも、こんな私でよければ、どうか侍女見習いをさせてください」

 リアの言葉に、マルクとユウキは思わず歓声を上げて肩を抱き合った。クレアもにっこり微笑みながら頷いた。

「……あの、一つお尋ねしていいですか?」

「ええ、何?」

「は、はい……あの、どうして私を侍女見習いにしようと思われたのでしょうか?」

 リアの率直な疑問に、クレアは少し考えてから、楽し気な表情でこう答えた。
「う~ん、そうねえ……神様にそうしろって言われた気がした、というところかしら……ふふ……」
 そう言った後、彼女はなぜか、マルクと喜び合っているユウキの方にちらりと視線を向けたのだった。
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