少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

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29 ドーレの街とダンジョン 1

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(うわあ、まるで開店休業のビアホールって感じだな……)
 俺はポピィを連れて、一応この街にもある《人足屋》に入ってみたのだが、中には獣人の姿はほとんどなく、受付嬢たちも暇そうに、カウンターの中で本を読んだり、髪の手入れなどをしていた。
 ドーラの街全体が、どんよりした空気に包まれている感じだが、ここはまさに淀んだ空気の溜まり場だった。

「あのう、すみません」

 俺たちが入ってきたのを、ちらりと見たはずだったが、子どもだと侮ったのか、本を読んでいた受付嬢は、面倒くさそうな目を向けた。
「はい、何ですか?」

「この街には、ダンジョンがあると聞いて来たのですが、ダンジョンには入れますか?」

 俺の言葉に、受付嬢はしばらく理解できない様子で眉をひそめていたが、やがて薄笑いを浮かべながらこう言った。
「ダンジョンに、あなたたちが?うふふふ……英雄ごっこなら他でやりなさい。さあ、帰った、帰った」
 彼女はそう言って、手で追い払うしぐさをした。

 ポピィがいきり立って、詰め寄ろうとしたが、俺は彼女を手で制して、再び尋ねた。
「じゃあ、ここでは受け付けていないってことでいいですね?もし、ダンジョンでお宝を見つけても、ここには持って来ませんよ」

「あー、はいはい、けっこうよ。早く出ていきなさい、衛兵を呼ぶわよ」

「分かりました。どうもお邪魔しました」
 俺はにこやかにそう言うと、ふうふう鼻息を荒くしているポピィを引っ張って、《人足屋》から出ていった。

「な、なんなんですか、あの女、トーマ様を馬鹿にしてっ!」
 ポピィはまだ怒りが収まらない様子であった。

「まあまあ、不景気なときは、人の心もすさむものだよ。それじゃあ、次は、いよいよ本丸に突撃してみようか」

 俺たちは、人通りの少ない大通りを、街の中央に向かって歩いて行った。五十メートルほど進むと、やがて大きな広場と、たくさんのテントが整然と並んで立っているのが見えてきた。通りに面した場所に、簡易的な門と衛兵の詰所もあった。

「ポピィ、ちょっとそこのベンチで待っていてくれ」

「分かりました。お気をつけて」

 俺は頷くと、門の方へ近づいていった。

「止まれぇっ。ここは第三騎士団の駐屯所だ。用のある者以外は立ち入り禁止の場所だ」
 門番の兵士が、俺を見て叫んだ。

「ああ、ええっと、ここの偉い人に伝えてもらえませんか。ダンジョンの魔物に困っているのなら、俺たちが討伐してあげます、と」
 俺はできるだけ他の誰かにも聞こえるような、大きな声で叫んだ。
 当然のごとく、返って来たのは、初めに驚き、その後嘲笑、最後に怒鳴り声だった。

「我らを愚弄するなら、子どもとて容赦はせぬぞっ」

「いや、愚弄なんてしてませんよ。本当のことを言っているだけです。俺と相棒と二人なら、きっとダンジョンの主を倒し、鉱山を元通りにできます」

「こ、こいつ、まだ言うかっ!いいかげんに……」
 門番の兵士が、とうとう槍を構えて俺に向かって来ようとしたとき、背後の門が音を立てて開いた。

「何を騒いでおるのだ?」
 門から出てきたのは、騎士の礼服を着た、いかつい体つきの山猫?の獣人と、銀色の鎧を身に着けた二人の獣人の騎士だった。

「も、申し訳ございません、ゴウゼン隊長。実は……」
 門番は慌てて頭を下げると、側へ行ってゴウゼン隊長と呼ばれた人物に、俺の方を指さしながら説明を始めた。

 すると、山猫の隊長は、突然、豪快な笑い声を上げ始めたのだった。
「うははは……面白いことを言う小僧だな……」
 彼はまだ低く笑いながら、俺の方へ近づいて来た。

「お前か、ダンジョンを攻略できるとか、大言壮語を吐いている小僧は?」
 山猫のゴウゼン隊長は、ギロリと俺を睨みつけながら言った。

(おっと、〈威圧〉のスキルか。だが、そんなものは俺には効かないぜ)

「トーマと言います。はい、俺とそこにいるポピィで、たいていの魔物は倒してきました。ダンジョンの魔物がどんな奴か、教えてもらえれば、必ず倒して見せます」
 俺は、淡々とした口調で答えた。

「ほう……なかなか肚のすわった小僧だな。そこまで言うなら、その力を見せてみろ。俺について来い」
 ゴウゼンは、俺が〈威圧〉にひるまなかったことで、俺の力をある程度認めたのだろう。そう言って、門番に俺たちを通すように命じた。

(よし、計画よりうまくいったぞ。もっと、面倒な取り調べとかあると思ったが……)

 俺はポピィに合図して、来るように促した。そして、走って来たポピィと一緒に、門番に睨まれながら野営地の中へ入っていった。

♢♢♢

 俺とポイは、今、野営地に隣接した訓練場の中にいる。周囲には、練習用のレザーアーマーを着た屈強な獣人の騎士や兵士たちが、楽し気に談笑しながら見守っていた。

「おい、小僧、お前とその小娘二人で、ここにいる十人のうち五人、いや三人倒せたら、ダンジョンに入ることを許してやろう」
 山猫ゴウゼンが、余裕の表情でそう言った。

「分かりました」
 俺が頷いて、ちらりとポピィを見ると、彼女はやや緊張しながらもしっかりと頷いた。

「武器は何にする?」

「俺は槍で、この子には短剣を」

 ゴウゼンが部下に指示して、練習に使う木製のタンポ槍と短剣を持って来させた。

「防具はいるか?そのフードコートはなぜ脱がんのだ?」

「いいえ、大丈夫です。俺たちにとって、このコートが防具代わりなんです。下にはぼろぼろの普段着しか着ていないので」

「う、うむ…そうか。よし、では、始めるぞ」
 ゴウゼンは、少し高揚した気持ちをくじかれた様子だ。

「よし、俺からいくぜ」
 一人の馬の獣人らしい長身の男が、そう言って、練習用の木剣と木の盾を持って前に出てきた。

 俺はすでに〈鑑定〉を使って、彼らのステータスを確認していたので、こう言った。
「一人ずつは面倒なので、五人ずついっぺんに来てください」

 俺の言葉に、周囲は一気にざわつき始め、選抜された十人はいきり立った。
 我先に出ていこうとする部下たちを一喝して、ゴウゼンが最初の五人を指名した。

「奴の挑発に心を乱されるな。相手は二人だ、囲みを作って押しつぶせ」

 ゴウゼンの叱咤に、先発の五人はしっかりと頷いて出てきた。
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