42 / 88
42 エルド村へ
しおりを挟む
「……私たち姉妹は、エルフの一族の血を受け継いでいます。長い年月の中で、人間との結婚を重ねて、エルフの血は薄まっていますが、一族の誇りは失っていません。純粋なエルフの一族は、ラビンによって全員殺されましたが、ハーフエルフの方が三名残っておられます。私たちは、その方々をお守りするため、あえて、部隊に入り、その方たちに危害が及ばないよう手を尽くしているのです」
ラミアは話し終えると、妹と抱き合って涙を流した。
「なるほどね。じゃあ、こいつらを村に連れて帰ったら、君たちは、その、なんだっけ……」
「ラビンです」
「そう、そのチャビンとかいう阿呆にひどい目に合わされるじゃないか。こいつらは、このまま、土の中に埋めたほうがいいんじゃないか?」
俺の言葉に、ラミアは小さく首を振ってこう言った。
「私たちは覚悟を決めています。機会があったら立ち上がろうと皆で話し合っていましたから。この者たちには、それ相応の罰を受けさせるつもりです。もちろん、ラビンを倒せたらという話ですが……私たちが立ち上がったら、村の人たちの多くが一緒に戦ってくれるはずです。皆で力を合わせれば……」
「ふむ……厳しいことを言うけど、それは無理だろうね。そのチャビンとかいうやつが持っているのは、おそらく魔道具だ。誰が作ったのかは分からないが、かなり高度な技術と魔法が使われている。魔法が使えるエルフたちが勝てないのだったら、まず、君たちには勝てないよ」
俺は、ナビからその鎧騎士のガーディアンについての推測を聞いたうえで、そう言った。
「でも、たとえそうでも、私たちは戦わねばならないのです」
姉妹は、しっかりと覚悟の決まった目で、きっぱりとそう言った。
「よし、分かった。君たちが本気でやるつもりなら、力を貸そう」
俺の言葉に、姉妹たちは、微かに抱いていた希望がかなった喜びに、小さな歓声を上げて頭を下げた。
「ありがとうございます。なんとお礼を言えばいいか」
「いや、礼はいらないよ。俺も勝てるという保証はない。だから、無理だと判断したら、俺はさっさと手を引いて消える。それでもいいか?」
俺の言葉にラミアは頷いて言った。
「はい、構いません。もともと、私たちだけでやろうとしていた計画です」
俺は頷くと、ポピィに目を向けた。
「ポピィ、そういうことだ。今から、この人たちの村へ行く」
「分かりました。出発の準備をするです」
姉妹は驚いて、俺に言った。
「えっ、今から……でも夜は危険です。強力な魔物はいませんが、地上にはいろいろな種類のスライムが蠢いています。そのため、我々は木の上を移動します」
「ああ、それなら心配しなくていい。俺とポピィは体の周囲にシールドを張っているから、攻撃は防御できる。君たちは、木の上を行けばいい」
俺の答えに、もう姉妹は呆れるばかりだ。
「分かりました。私たちも地上を歩きます。では、バンズたちを起こしてください」
「いや、それも大丈夫。こうすればいいので……」
俺はそう言うと、四人の男たちを次々にストレージの中へ放り込んでいった。
「えええっ!……」
はい、今日一番の驚きの叫び、いただきました。
「ど、どこに消えたのですか、かの者たちは?」
「これは、空間魔法といって、ある大きさの別空間を作って、そこにいろいろ収納できるようにする魔法なんだ」
「く、空間魔法……聞いたこともない魔法だわ」
「あ、あなたは、いったい、何者なの?」
俺は、焚火の火に水魔法で水を掛けながら笑って答えた。
「ただの魔法好きの人間の少年だよ。あはは……」
♢♢♢
月の光だけが差し込む暗い森の中を、俺たちは無言で進んでいた。
ラミアとエステアの姉妹も、エルフの血を引いているためか、魔法の才があり、ラミアは光の治癒魔法、エステアは風魔法のウィンドカッターとウィンドボムが使えるらしい。当然、魔力感知もできるということだったので、俺たちは松明なしで、全員魔力感知だけで進んでいったのである。
ラミアが言った通り、確かに森の中はスライムの楽園だった。捕食者がいないせいだろう。普通のスライムより大きく、種類も多かった。中には危険なスライムもいた。例えば、ポイズンスライムやアシッドスライムなど、毒や酸の液を吐くもの、名前は分からないが、木と木の間に蜘蛛の巣のように網状の体を広げて、虫や小鳥などを捕食するもの(俺は、アメーバスライムと命名した)などだ。
「もうすぐ、第二部隊の偵察範囲に入ります。すみませんが、体を軽く縛らせてもらいます」
歩き始めて約一時間が経過しようとしていた。ラミアとエステアは、そう言って、俺たちの体を、ロープで緩めに縛った。そのロープは俺が故郷から持ってきたものだ。
それから、また二十分ほど歩いた時だった。ふいに魔力感知に複数の動く何かが掛かったが、次の瞬間、それは目の前に飛び降りてきた。三人の男たちだった。
「ラミアとエステアか。その子たちは?」
「ジョアン、見回りご苦労様。この子たちは旅の途中で、この森に迷い込んだらしい。一応村に連れていく」
「そうか、分かった。ときに、バンズ隊長たちは見なかったか?侵入者の合図があって出ていったが、まだ村に帰ってきていないのだ」
ラミアの顔に緊張が走ったが、暗がりで表情の変化がよく見えなかったのは幸いだった。
「ああ、他にも侵入者の一団がいてな、野営を始めたので、隊長たちはそいつらの監視をするということだ」
「そうか、分かった。じゃあ、気を付けて帰れよ」
ジョアンと呼ばれたこの男は、おそらく、ラミアに少なからぬ好意を抱いている様子が、言葉の端々や声色から感じ取れた。
男たちが再び木の上に跳び上がって、風のように消えていった後、俺たちは全員小さなため息を吐いた。
「うまくいきましたね。今のジョアンは、いざとなったら私たちの味方になってくれると思います。では、行きましょう。村はもうすぐです」
ラミアはもうすぐと言ったが、実際には、そこからさらに十数分歩かねばならなかった。
今、俺たちの目の前には、三十メートルは優に超えていると思われる垂直に近い崖が、黒々と聳え立っていた。(実はその付近が、崖が一番低い場所だったらしい)
「こっちです」
ラミアはそう言って、何か特別な目印があるらしい地点まで移動した。その理由は後で分かったのだが……。
彼女は、そこまで行くと、上を見上げてピューツと指笛を鳴らした。すると、すぐに崖の上から二本のロープが落ちてきたのである。
ラミアは話し終えると、妹と抱き合って涙を流した。
「なるほどね。じゃあ、こいつらを村に連れて帰ったら、君たちは、その、なんだっけ……」
「ラビンです」
「そう、そのチャビンとかいう阿呆にひどい目に合わされるじゃないか。こいつらは、このまま、土の中に埋めたほうがいいんじゃないか?」
俺の言葉に、ラミアは小さく首を振ってこう言った。
「私たちは覚悟を決めています。機会があったら立ち上がろうと皆で話し合っていましたから。この者たちには、それ相応の罰を受けさせるつもりです。もちろん、ラビンを倒せたらという話ですが……私たちが立ち上がったら、村の人たちの多くが一緒に戦ってくれるはずです。皆で力を合わせれば……」
「ふむ……厳しいことを言うけど、それは無理だろうね。そのチャビンとかいうやつが持っているのは、おそらく魔道具だ。誰が作ったのかは分からないが、かなり高度な技術と魔法が使われている。魔法が使えるエルフたちが勝てないのだったら、まず、君たちには勝てないよ」
俺は、ナビからその鎧騎士のガーディアンについての推測を聞いたうえで、そう言った。
「でも、たとえそうでも、私たちは戦わねばならないのです」
姉妹は、しっかりと覚悟の決まった目で、きっぱりとそう言った。
「よし、分かった。君たちが本気でやるつもりなら、力を貸そう」
俺の言葉に、姉妹たちは、微かに抱いていた希望がかなった喜びに、小さな歓声を上げて頭を下げた。
「ありがとうございます。なんとお礼を言えばいいか」
「いや、礼はいらないよ。俺も勝てるという保証はない。だから、無理だと判断したら、俺はさっさと手を引いて消える。それでもいいか?」
俺の言葉にラミアは頷いて言った。
「はい、構いません。もともと、私たちだけでやろうとしていた計画です」
俺は頷くと、ポピィに目を向けた。
「ポピィ、そういうことだ。今から、この人たちの村へ行く」
「分かりました。出発の準備をするです」
姉妹は驚いて、俺に言った。
「えっ、今から……でも夜は危険です。強力な魔物はいませんが、地上にはいろいろな種類のスライムが蠢いています。そのため、我々は木の上を移動します」
「ああ、それなら心配しなくていい。俺とポピィは体の周囲にシールドを張っているから、攻撃は防御できる。君たちは、木の上を行けばいい」
俺の答えに、もう姉妹は呆れるばかりだ。
「分かりました。私たちも地上を歩きます。では、バンズたちを起こしてください」
「いや、それも大丈夫。こうすればいいので……」
俺はそう言うと、四人の男たちを次々にストレージの中へ放り込んでいった。
「えええっ!……」
はい、今日一番の驚きの叫び、いただきました。
「ど、どこに消えたのですか、かの者たちは?」
「これは、空間魔法といって、ある大きさの別空間を作って、そこにいろいろ収納できるようにする魔法なんだ」
「く、空間魔法……聞いたこともない魔法だわ」
「あ、あなたは、いったい、何者なの?」
俺は、焚火の火に水魔法で水を掛けながら笑って答えた。
「ただの魔法好きの人間の少年だよ。あはは……」
♢♢♢
月の光だけが差し込む暗い森の中を、俺たちは無言で進んでいた。
ラミアとエステアの姉妹も、エルフの血を引いているためか、魔法の才があり、ラミアは光の治癒魔法、エステアは風魔法のウィンドカッターとウィンドボムが使えるらしい。当然、魔力感知もできるということだったので、俺たちは松明なしで、全員魔力感知だけで進んでいったのである。
ラミアが言った通り、確かに森の中はスライムの楽園だった。捕食者がいないせいだろう。普通のスライムより大きく、種類も多かった。中には危険なスライムもいた。例えば、ポイズンスライムやアシッドスライムなど、毒や酸の液を吐くもの、名前は分からないが、木と木の間に蜘蛛の巣のように網状の体を広げて、虫や小鳥などを捕食するもの(俺は、アメーバスライムと命名した)などだ。
「もうすぐ、第二部隊の偵察範囲に入ります。すみませんが、体を軽く縛らせてもらいます」
歩き始めて約一時間が経過しようとしていた。ラミアとエステアは、そう言って、俺たちの体を、ロープで緩めに縛った。そのロープは俺が故郷から持ってきたものだ。
それから、また二十分ほど歩いた時だった。ふいに魔力感知に複数の動く何かが掛かったが、次の瞬間、それは目の前に飛び降りてきた。三人の男たちだった。
「ラミアとエステアか。その子たちは?」
「ジョアン、見回りご苦労様。この子たちは旅の途中で、この森に迷い込んだらしい。一応村に連れていく」
「そうか、分かった。ときに、バンズ隊長たちは見なかったか?侵入者の合図があって出ていったが、まだ村に帰ってきていないのだ」
ラミアの顔に緊張が走ったが、暗がりで表情の変化がよく見えなかったのは幸いだった。
「ああ、他にも侵入者の一団がいてな、野営を始めたので、隊長たちはそいつらの監視をするということだ」
「そうか、分かった。じゃあ、気を付けて帰れよ」
ジョアンと呼ばれたこの男は、おそらく、ラミアに少なからぬ好意を抱いている様子が、言葉の端々や声色から感じ取れた。
男たちが再び木の上に跳び上がって、風のように消えていった後、俺たちは全員小さなため息を吐いた。
「うまくいきましたね。今のジョアンは、いざとなったら私たちの味方になってくれると思います。では、行きましょう。村はもうすぐです」
ラミアはもうすぐと言ったが、実際には、そこからさらに十数分歩かねばならなかった。
今、俺たちの目の前には、三十メートルは優に超えていると思われる垂直に近い崖が、黒々と聳え立っていた。(実はその付近が、崖が一番低い場所だったらしい)
「こっちです」
ラミアはそう言って、何か特別な目印があるらしい地点まで移動した。その理由は後で分かったのだが……。
彼女は、そこまで行くと、上を見上げてピューツと指笛を鳴らした。すると、すぐに崖の上から二本のロープが落ちてきたのである。
49
あなたにおすすめの小説
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
落ちこぼれの【無属性】魔術師、実は属性そのものを定義する「概念魔法」の創始者だった
風船色
ファンタジー
「魔法とは才能(血筋)ではなく、記述されるべき論理(ロジック)である」
王立魔導学院で「万年最下位」の烙印を押された少年、アリスティア・レイロード。属性至上主義のこの世界で、火すら出せない彼は「無属性のゴミ」と蔑まれ、ついに卒業試験で不合格となり国外追放を言い渡される。
しかし、彼を嘲笑う者たちは知らなかった。アリスティアが、既存の属性魔法など比較にならないほど高次の真理――世界の現象を数式として捉え、前提条件から書き換える『概念魔法(コンセプト・マジック)』の使い手であることを。
追放の道中、彼は石ころに「硬度:無限」の概念を付与し、デコピン一つで武装集団を粉砕。呪われた最果ての森を「快適な居住空間」へと再定義し、封印されていた銀嶺竜の少女・ルナを助手にして、悠々自適な研究生活をスタートさせる。
一方、彼を捨てた王国は、属性魔法が通用しない未知の兵器を操る帝国の侵攻に直面していた。「助けてくれ」と膝をつくかつての同級生や国王たちに対し、アリスティアは冷淡に告げる。
「君たちの誇りは、僕の昼寝より価値があるのか?」
これは、感情に流されない徹底した合理主義者が、己の知的好奇心のために世界の理を再構築していく、痛快な魔導ファンタジー。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる