少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

文字の大きさ
43 / 88

43 村の大掃除をいたしましょう 1

しおりを挟む
(えっと、まさか、ロープで縛って引き上げるってことじゃ、ないよね?)
 
「上に行くまで少しの間、体が痛いかもしれませんが、お許しください」
 そう言うと。ラミアはエステアと二人で、俺とポピィの体を別々のロープで縛り始めた。

(やっぱり?……ロープが落ちてきた時点で分かっていたよ、ああ、分かっていたさ……っ!って、おいっ、もっと優しく引き揚げろっ!うわっ、岩に当たるって、くそっ……)
 俺は、心の中で悪態をつきながら、ポピィが岩にぶつからないように、両足で彼女の体を挟み込んだ。おかげで、俺は揺れるたびに背中や腿、頭が崖にぶつかってあちこちに傷や打撲を負った。

「なんだ、えらく軽いと思ったら、子どもだったのか」

「ガキかぁ、せめて綺麗なねえちゃんならよかったのによぉ」

(お前らなぁ……おぼえとけよ、あとでたっぷり痛い目にあわせてやるからな)

 崖の上には、監視所のような小さな小屋が建っていた。
 俺とポピィは、ラミアたちが上がってくるまで、地面に転がされていた。

「トーマ様、大丈夫ですか?おケガはありませんか?」

「ああ、大丈夫だ。お前もケガはないか?」

「はい、大丈夫です。トーマ様が、そ、その、かばってくださったので……」

(うん、そうか、それは良かった……って、痛え…血は出てないよな?)
 俺は、見張り番の二人がラミアたちを引き上げている隙に、自分にヒールの魔法を掛けた。瞬時に、痛みも傷もすーっと消えていった。

「お役目、ご苦労様です」
 見張り番の男の声がした。

「ああ、ご苦労様。この子たちは、道に迷って森に迷い込んだらしい。少し事情を訊いたら、明日の朝、適当な場所に解放してくるわ。記録には、そう書いておいて」
 ラミアの声だ。このやりとりから推測すると、ラミアたち私兵部隊は、かなり地位が高いようだ。まあ、王国で言うなら近衛兵のような立ち場なのだろう。

 やがて、二つの足音が近づいてきて、俺たちを優しく抱き起した。
「申し訳ありませんでした。今しばらくご辛抱を」
 ラミアが、番人たちに聞こえない小さな声でささやいた。

 そして俺たちは、二人の姉妹に抱きかかえられるようにしながら、すでに大半の家々が寝静まった村の中を、奥の方へ歩いていった。

「左手に見える大きな屋敷が、ラビンの屋敷です」
 途中、ラミアは、いかにも不快そうな口ぶりでそう言った。月の光に照らされて、いかにも成金趣味な装飾が施された三階建ての屋敷が、厳重な壁に取り囲まれた先に見えていた。

「さあ、着きました。ここが、私たちの家です。父母の他に、三人のハーフエルフの方々が一緒に住んでおられます」
 村の北の端の方に、姉妹たちの家があった。この世界のどこの村でも見かけるような、木造の二階建ての家である。

 ラミアとエステアは、玄関の所で、しばらく待つように言ってから、ドアを開けて中に入っていったが、やがて暗い家の中に明かりがつくのが見え、姉妹ともう一人、まだ若い女性が玄関に出てきた。

「お待たせしました、さあ、中へ。あっ、その前にロープを外さないと……」
 冷静に見えるラミアさん、もしかして少しそそっかしい?

♢♢♢

 姉妹以外に、まだ起きて彼女たちを待っていた女性は、ティアと呼ばれるハーフエルフだった。〝呼ばれる〟と言ったのは、彼女の正式な名は、エルフォーリア・ベル・ラティアという長い名前だったからだ。

「まあ、そうですか、向こうの大陸から、はるばるこの大陸へ旅を……素敵ですわ」
 ティアは、迫害され悲惨な歴史を背負ったこの村のエルフの末裔とは、とうてい思えないほど、なんだかほんわかとした雰囲気をまとった女性だった。

「噂では、獣人たちと人間の国が戦争をしていたと聞きましたが?」
 ラミアがお茶を運んできて、皆に配りながら尋ねた。

 そこまで、俺とポピィは、自己紹介をしてエステアやティアの質問にいろいろ答えていたところだった。

「ああ、それはもう四十年近く前のことだよ。今も国交は断絶したままだけど、民間の交易は始まっている。そのうち、アウグスト王国という人間の国と正式に国交を結ぶんじゃないかな、と思っている」

「そんなに昔のことだったのね……まあ、しかたないわね、ここは外界から切り離された土地だから……」
 エステアが少し寂しそうに言った。

「もしかして、ここから外に出てみたい?」

 俺の探りに、エステアは姉とティアを交互にちらりと見てから、少し恥ずかしそうに頷いた。
「うん……この村が平和になったら、外の世界を見て回りたい……」

「エステアの小さい頃からの夢ですものね。私も見てみたいなあ、外の世界……そして、行ってみたいの、エルフの国に……」
 ティアが天井を見上げながらそう言った。

「そのためにも……一日でも早く、ラビンの支配を終わらせないと」
 ラミアの決意のこもった言葉に、全員がしっかりと頷いた。

「じゃあ、作戦会議といきますか?」
 俺は、他の四人を見回しながら言った。全員が真剣な目で頷いた。

♢♢♢

《ラミア視点》

 運命の日の朝、私と妹はいつものように、日の出とともに私兵部隊の詰所に出向いた。そして、副隊長のロムに、昨夜考えた通りの偽りの報告をした。ロムはそれを聞くと、すぐに数名の隊員を引き連れて、私が示した地図の場所に向かった。

 それから三十分後、緊急の招集の鐘が打ち鳴らされ、詰所に全隊員が集まった。明らかに動揺した様子のロムが、二十二名の隊員の前に立った。

「皆に重大な報告がある……」
 彼はそう前置きすると、かなり動揺しているのが分かるくらい落ち着きのない表情と目の動きを見せながら続けた。
「……昨日の夕方、第一部隊のエステアからの合図を受けて、バンズ隊長とグラン、コルグ、ラミア、バードンの四人がその場へ向かった。エステアとラミアの報告によると、そこには数名の侵入者とそれとは別に二名の迷子の子どもがいたらしい。エステアとラミアは、その二人の子を保護して、村に連れ帰り、バンズ隊長たちは他の侵入者たちを見張るために残った。それで、間違いはないな、ラミア、エステア?」

「ええ、間違いないわ」
 私は落ち着いて答えた。

 ロムは頷くと、皆を見回しながらこう言った。
「ところが、さっき、俺はその場所に行ってきたが、隊長たちの姿はなかった。確かに焚火の跡があり、大木が何本か倒れ、激しく争った形跡があった。ここから考えられるのは、隊長たちが、侵入者たちと戦い、逃げ出した侵入者たちを追いかけて移動した、ということだ……」

「いや、それはおかしいぞ。もし、そうなら、何らかの合図か、誰かが報告に戻るはずだ」
 第三部隊のリーダー、カイトだ。

 ロムは困ったように、手をせわしなく動かしながら答えた。
「ああ、だが、緊急事態だったかもしれない……」

 隊員たちがざわざわと騒ぎだした。

「静かにしろっ、俺の話を聞くんだ……いいか、今、俺たちがやらなければならないことは、まず、隊長たちの行方を確認すること、次に、侵入者の襲撃に備えて村の防御を固めること、この二つだ。そこで、第二部隊は、俺とともに隊長たちの行方を追う。第三部隊は、ラビン様のお屋敷を中心に防御体制の構築を急げ。それから、ラミアとエステアは、ラビン様に今回のことを報告し、そのままお側で護衛に当たる、いいな?」

 隊員たちは、ロムの的確な指示に全員がしっかりと頷いた。ただ、一人だけ、第三部隊のリーダー、カイトは顎に手をやっていぶかしげな顔で私とエステアの方を見た。

 カイトは、以前から私たち姉妹のことを疑っていた。私たちがエルフの血を引いていることも、私たちの家にハーフエルフの方々が一緒に住んでいることも、彼の疑念を大きくする要因だった。
 ただ、あのいやらしい男、ラビンがティナ様や私たち姉妹におぞましい欲望を持ち、何とか自分に好意を持たせようとしていることは、村の誰もが知っていることだ。だから、カイトも表立って私たちに害意を向けることはできなかった。

 私たちの計画は、昨夜話し合った通りの筋書きで進んでいた。これには、ある理由があったが、それはもう少し後に明らかになる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 読んでくださってありがとうございます。
 少しでも面白いと思われたら、📣の応援よろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...