少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

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48 後始末と新たなる目標 3

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 翌日は、朝から例の罪人たちの《スライム地獄への追放の儀》が執り行われた後、午後からは、俺が主役となって《結界発動の儀》を執り行った。と、大げさに書いたが、要するに村人総出で、悪人たちを生きたまま崖の下に落とした後、村の周囲八か所に、故郷の村と同じ(見かけは少しはましだが)結界の容器を設置したのである。

 それが終わると、村は祝いの宴会の準備に入った。まあ、二十年以上ラビンの支配下で苦しんできた人たちだ。羽目を外したくなる気持ちはわかる。

 そんな喧騒から離れて、俺はちょっと個人的な用事のために、崖の下に降りることにした。というのも、ラビンから〝大事な情報〟を聞き出せていなかったからだ。というか、聞くチャンスがなかった。

 というわけで、俺はポピィやラミアたちに、しばらくの間村の外に出るとだけ告げてから、今、〈身体強化〉を使って崖を下りている。

 ジョアンが、果たしてラビンたちの拘束も解いてやったのかどうか、それは分からない。もし、そうしていたなら、俺のやっていることは徒労に終わることになるが……。

 最後の大岩を飛び越えて、薄暗い森の地面に着地した。と、すぐに俺の耳に、どこからか人間のうめき声と助けを求める哀れな声が聞こえてきた。

(ははん、ジョアンもやっぱり人の子だったか……)
 などと、当たり前のことを考えながら、声のする方へ向かった。

「ひいい…く、来るな…くそ、だ、誰か、助けて……」

 その現場に着いてみると、そこは、確かに村人たちが《スライム地獄》と表現した通りの、凄惨な有様だった。

 何百匹か数も分からないほどの、色もさまざまなスライムが地面を埋め尽くし、何個所もこんもりとした小山を築いていた。おそらくその下には男たちの体があるのだろう。
 そして、ある一本の大木の根元に、まだかろうじて生きている三人の男たちと、その周囲に息絶えた男たちの死体、それを取り囲むスライムの群れが見えた。

♢♢♢

 俺の足音が聞こえた時、彼らは救いの神が現れたのかと喜びに目を輝かせたが、それが俺だと分かると、また絶望したような暗い目になった。たぶん、彼らは俺がとどめを刺しに訪れたと思ったのだろう。
 しかし、ラビンはまだ生きることを諦めてはいなかった。

「……頼む、助けてくれ……こんな所で死にたくない……頼む……」
 ラビンは、生きているといっても、着ているつなぎの下着はアシッドスライムの酸で焦げたり、溶かされたりしていて、そこから赤くただれたり、毒で紫色に変色したり、かじられて血を流している皮膚が見えていた。このまま放っておいても、長くは持たないだろう。

「俺は、あんたに恨みはない。でも、助ける義理もない。あんたが村の人たちにしてきたことを考えれば、もっと苦しみながら死ぬべきだとは思っているよ」
 俺は全身に〈防御壁〉を張り、ラビンたちから五メートルほど離れた所に立っていた。

 ラビンは、さめざめと涙を流しながらうつむき、嗚咽を漏らしながら言った。
「うう……分かっている……でも、死にたくない…死にたくないんだぁ…うううっ……」

 お前が殺した人たちも、同じ気持ちだったんだ、と言いたかったが、瀕死の病人を鞭で叩いても意味がないし、気分が悪くなるだけなのでやめた。

「よし、じゃあ、俺の質問にすべて正直に答えるなら、今のこの状況を変えてやるが、どうする?」

 ラビンは、まるで神に出会ったかのような喜びの表情で俺を見上げた。そして、何度もこくこくと頷きながら言った。
「ああ、分かった、言う、何でも正直に答える」

 そこで、俺はとりあえず、周囲にいるスライムに次々と〈麻痺〉の魔法を掛けていった。
「これでしばらくはこいつらは動けない……お前たちも後で治療してやるから、しばらくおとなしく待っていろ」
 俺は、ラビンの両脇にいる二人の男たちにそう言った。まあ、もっとも、動いたり騒いだりできる状態ではなかったがな。

「さて、じゃあ一つ目の質問だ。あの、魔道具は誰にもらった?」

 俺の問いに、ラビンはさっきまでとは打って変わって、ほっとしたような表情で話し始めた。
「あれは、俺が十八になった頃のことだ。いつものように、牛の放牧のために北の牧草地へ行ったんだ。そうしたら、牧草地の中に人が倒れているのを見つけた。それは、やせて、今にも死にそうな様子の爺さんだった……」

「ちょっと待て、魔道具をお前に渡したのは、その老人だったのか?」

「あ、ああ、そうだ……だから、俺は……」

「その老人について、もっと詳しく教えろ。見た目の特徴、服装なんかだ」
 俺は、ラビンが自分語りをしようとするのを止めて、矢継ぎ早に質問した。

 ラビンは少し思い出すように下を向いてから、顔を上げて答えた
「特徴と言えば、目の色が赤かったことだな。服は黒の厚手のローブを着ていた……」

 俺は一番聞きたかった情報を聞けて満足した。

「よし、分かった。それで、お前は魔法が使えたのか?あの鎧騎士を呼び出すには、かなりの魔力が必要だろう?」
 俺は質問を切り替えて、ラビンに尋ねた。

「いや、俺は魔法は使えねえ。ただ、爺さんが死ぬ前に、俺の手を魔道具の上に置いて、その上に自分の手を重ねたんだ。そして、しばらく目うつぶった後、こう言った(これで、お前さんが危険になったとき、この石に手を置いて命令すれば、いつでも守ってくれる騎士が現れる)ってな。俺は、半信半疑だったが、実際にやってみると、本当に現れたんだ、あの鎧騎士が……」

(ちょっと待て……何だって?手を重ねたら、魔法が使えるようになっただと?そんなことがあり得るのか?)
 俺はわけが分からないのと興奮で、少々頭がパニックになっていた。ラビンは、まだ何かぶつぶつとしゃべっていたが、耳には入らなかった。

「ああ、もういい、分かった。よし、じゃあ拘束を解いてやるから、その後は自分たちで何とかしろ」
 俺はそう言うと、ナイフでラビンと二人の男たちの体を縛っていた麻縄を切ってやった。そして、ヒールを一回ずつかけてやった。

「おお、ありがたい、感謝する」
 ラビンたちは素直に頭を下げて感謝の言葉を口にした。

「もうすぐ、こいつらが動き出す。その前に早くここから立ち去れ」

 俺の言葉に、ラビンは俺の手にしたナイフを物欲しそうに見つめながら、何か言おうとした。

「ナイフはやらない。自分たちで何とか森を抜けるんだ。さっさと行かないと、スライムをけしかけるぞ」

「わ、分かった……」
 ラビンたちは、ぼろぼろの姿で南に向かって走り出す。武器も食料もなしで、果たして森を抜けられるか、かなり厳しいサバイバルだ。

(二度と戻ってくるんじゃないぞ)
 俺は、遠ざかる彼らの背中にそうつぶやくと、帰路に就いた。

♢♢♢

 やはりラビンに魔道具を渡したのは、魔族の老人だった。しかも、俺がまだ知らない〝付与魔法〟を使って、鎧騎士の所有権をラビンに譲渡したのだ。

(これは、何としても魔族の国に行かなくちゃな)
 俺は崖の岩場から岩場へジャンプしながら、心の中で決意した。
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