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55 魔族の島へ
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やはり、魔族はリンド・バルセンの子どもたちの子孫だった。
ケイドス王は、従者の一人に古びた地図を持って来させると、それをテーブルの上に広げた。
「ここが、今我々がいる島で、この谷の北にある島が魔族の島〝ラパス〟だ。わしは、アレウス様の生まれ変わりであり、リンドの奥方様であるアレッサ様から、魔族が外の世界に出ぬように見張ってくれと頼まれておる。だから、島の周囲にはリッチたちを数十体配置して監視させているのだ。これまでに、何度か島の外に出ようとした者はおったが、無事に外へ逃げ出したという報告は受けておらぬが……」
「お言葉ですが、俺はとある街で、魔族と人間の混血だという女性にも会いましたし、アンガスは間違いなく強大な魔力を持つ魔族でした。もしかすると、何か抜け道のようなものがあるのではないでしょうか?」
俺の言葉にケイドス王は唸り声を上げ、困惑したように地図を見ながら顎髭を手で触り始めた。
「ううむ……それが事実なら、由々しき事態だ。調べてみねばなるまい」
「あの、俺たちが調べてきましょうか?」
俺は魔族の島に行きたい気持ちから、ついそう口走った。
ケイドス王は、本気か、といった顔で俺とポピィを交互に見つめた。
「そなたたちがわざわざ危険を冒して行くまでもない。我が手下たちを行かせれば済むし、わしが自ら行って調べてもよいのだ」
「あの、俺、魔族の人に魔法や魔道具のことを教えてもらいたいんです」
王は何か思案顔でしばらく下を向いていたが、やがて顔を上げると俺たちを見ながら言った。
「よかろう、そなたたちに調査を依頼しよう。わしの紋章を身につけていれば、危険には遭わぬであろう。ただ、魔族はそなたたち人間とは違う。今から言うことをしっかりと頭に入れておくのだ、よいな?」
「はい、ありがとうございます」
♢♢♢
王は俺たちに、魔族についての基本的なことを教えてくれた。要点をまとめると、以下のようになる。
① 魔族は人族よりはるかに能力が高い。だから、人族を見下しているところがある。
② 島には人族が住む地域がある。島に着いたら、まずそこを目指すとよい。
③ 魔族は寿命が長い(平均四百歳ほど)。人族との婚姻は望まない傾向がある(なぜなら、自分の伴侶や子どもが自分より早く死ぬのが確実だから)。かといって、同族同士の婚姻はしない(ほとんどが兄弟姉妹か、近しい親族だから)だから、魔族の人口は少ない。おそらく二百人ほどだろう。
④ 魔族は王政を採っているが、実力主義であり、現在の王は六代目のロベール。すでに百年以上王座に君臨しており、高圧的で不満を持つ魔族も多いらしい。
⑤ 魔族の守護神であり、種族の生母であるアレッサはリンドが亡くなってから、ある場所に隠棲しており、ほとんど外には出てこない。もし、どうにもならない状況になったら、彼女のもとを訪ねてみるとよいかもしれない。会えない確率の方が高いが。
王は語り終えると、地図のある一点を指し示した。
「アレッサ様は、この山の洞窟の中におられる。もし、訪ねることがあったら、これを見せるとよい」
彼はそう言って、自分のローブの襟元を留めていた美しいブローチを外して、俺たちに手渡した。
♢♢♢
「ここが〝常夜(とこよ)の浜〟だ。向こうに島影が見えるだろう?あれが魔族の住む島ラパスだ…
…」
死の谷を北に抜けると、そこは波が静かに打ち寄せる浜辺だった。まだ、夜には間がある時間だったが、辺りは夕闇の覆われたように薄暗かった。ケイドス王の話によると、外部から侵入するものがいないように、結界が張られているのだという。
「……さて、インプたちにそなたたちを送らせよう。しばらく空を飛ぶことになるが……」
王の言葉に、俺は首を振って、
「いいえ、それには及びません。これで海を渡ります」
そう言うと、ストレージの中からここに来るときに使った手製の小舟を取り出した。
「これは、驚いた……そなた、空間魔法も使えるのか?」
王は心底驚いたようにそう言って、ため息を吐いた。
「くれぐれも無茶をせぬようにな。必ず報告に帰ってくるのだぞ」
俺たちは頷いて、王の厚意に感謝した。そして、いとまごいを告げ、船を波打ち際まで押していった。王は手を貸そうとしたが、俺が軽々と船を押していくのを見て、苦笑を浮かべながらそれをやめた。
「あれは、リンドを越える逸材だな……しかも、魂の一部がセリーヌの魂とつながっておるように感じたが……いったい、どういう縁(えにし)なのだ、なあ、セリーヌよ?」
ゆっくりと遠ざかっていく船から手を振り続ける俺たちを見つめながら、冥界の王ケイドスは小さくつぶやいた。
♢♢♢
海は穏やかで風もなかったので、俺たちは交代で風魔法を使って、帆に風を送りながら、真っすぐに正面に見える魔族の島に向かって進んでいった。
途中、島の周囲を警戒しているリッチの一人が俺たちの側へ飛んできた。黒いローブに身を包んで魔法の杖を持った巨大な骸骨の姿を見て、俺たちは恐怖に思わず抱き合ったが、俺が震える手でケイドス王から預かったブローチを掲げると、スーッとどこかへ去っていった。
「ト、トーマ様でも、あの魔物は倒せませんか?」
ポピィは慌てて俺から離れ、顔を真っ赤にしながらそう尋ねた。
「いや、無理だ。今の俺の魔力量では、あいつの魔法を防御できない」
俺があっさりそう答えると、まだ顔は赤かったが、ポピィは急に表情を引き締めて前を向いた。
「わたし、もっと強くなります」
ポピィは決意のこもった声でそう言ったが、俺としては自分が頼りないと言われたようで、少々情けない気持ちになった。
やがて、島影は次第に大きくなり、俺たちの船は波が打ち寄せる岩場の一角にぶつかった。リュックを岩の上に放り投げた後、用心しながら船から岩に飛び移り、すぐに船をストレージに収納する。
ついに念願の魔族の国に一歩を踏み入れた。これから命がけの冒険が待っているかもしれないし、下手をすると命を失うかもしれない。それでも、俺はワクワクする心を抑えきれなかった。
「よし、ポピィ、行こう」
「はいっ」
この島の西に、人族の住む地域があるとケイドス王は言った。まずはそこを目指すべきだろう。
俺たちは〈身体強化〉をして、二十メートルはある崖を、岩から岩へ跳びながら軽々と登っていった。
崖の上に上がってみると、急に世界が明るくなり、美しい夕焼けが西の空を染め始めているのが見えた。まだ、夕方の時間だったのだ。
俺たちは顔を見合わせて頷き合うと、その夕焼けの方に向かって走り出した。
ケイドス王は、従者の一人に古びた地図を持って来させると、それをテーブルの上に広げた。
「ここが、今我々がいる島で、この谷の北にある島が魔族の島〝ラパス〟だ。わしは、アレウス様の生まれ変わりであり、リンドの奥方様であるアレッサ様から、魔族が外の世界に出ぬように見張ってくれと頼まれておる。だから、島の周囲にはリッチたちを数十体配置して監視させているのだ。これまでに、何度か島の外に出ようとした者はおったが、無事に外へ逃げ出したという報告は受けておらぬが……」
「お言葉ですが、俺はとある街で、魔族と人間の混血だという女性にも会いましたし、アンガスは間違いなく強大な魔力を持つ魔族でした。もしかすると、何か抜け道のようなものがあるのではないでしょうか?」
俺の言葉にケイドス王は唸り声を上げ、困惑したように地図を見ながら顎髭を手で触り始めた。
「ううむ……それが事実なら、由々しき事態だ。調べてみねばなるまい」
「あの、俺たちが調べてきましょうか?」
俺は魔族の島に行きたい気持ちから、ついそう口走った。
ケイドス王は、本気か、といった顔で俺とポピィを交互に見つめた。
「そなたたちがわざわざ危険を冒して行くまでもない。我が手下たちを行かせれば済むし、わしが自ら行って調べてもよいのだ」
「あの、俺、魔族の人に魔法や魔道具のことを教えてもらいたいんです」
王は何か思案顔でしばらく下を向いていたが、やがて顔を上げると俺たちを見ながら言った。
「よかろう、そなたたちに調査を依頼しよう。わしの紋章を身につけていれば、危険には遭わぬであろう。ただ、魔族はそなたたち人間とは違う。今から言うことをしっかりと頭に入れておくのだ、よいな?」
「はい、ありがとうございます」
♢♢♢
王は俺たちに、魔族についての基本的なことを教えてくれた。要点をまとめると、以下のようになる。
① 魔族は人族よりはるかに能力が高い。だから、人族を見下しているところがある。
② 島には人族が住む地域がある。島に着いたら、まずそこを目指すとよい。
③ 魔族は寿命が長い(平均四百歳ほど)。人族との婚姻は望まない傾向がある(なぜなら、自分の伴侶や子どもが自分より早く死ぬのが確実だから)。かといって、同族同士の婚姻はしない(ほとんどが兄弟姉妹か、近しい親族だから)だから、魔族の人口は少ない。おそらく二百人ほどだろう。
④ 魔族は王政を採っているが、実力主義であり、現在の王は六代目のロベール。すでに百年以上王座に君臨しており、高圧的で不満を持つ魔族も多いらしい。
⑤ 魔族の守護神であり、種族の生母であるアレッサはリンドが亡くなってから、ある場所に隠棲しており、ほとんど外には出てこない。もし、どうにもならない状況になったら、彼女のもとを訪ねてみるとよいかもしれない。会えない確率の方が高いが。
王は語り終えると、地図のある一点を指し示した。
「アレッサ様は、この山の洞窟の中におられる。もし、訪ねることがあったら、これを見せるとよい」
彼はそう言って、自分のローブの襟元を留めていた美しいブローチを外して、俺たちに手渡した。
♢♢♢
「ここが〝常夜(とこよ)の浜〟だ。向こうに島影が見えるだろう?あれが魔族の住む島ラパスだ…
…」
死の谷を北に抜けると、そこは波が静かに打ち寄せる浜辺だった。まだ、夜には間がある時間だったが、辺りは夕闇の覆われたように薄暗かった。ケイドス王の話によると、外部から侵入するものがいないように、結界が張られているのだという。
「……さて、インプたちにそなたたちを送らせよう。しばらく空を飛ぶことになるが……」
王の言葉に、俺は首を振って、
「いいえ、それには及びません。これで海を渡ります」
そう言うと、ストレージの中からここに来るときに使った手製の小舟を取り出した。
「これは、驚いた……そなた、空間魔法も使えるのか?」
王は心底驚いたようにそう言って、ため息を吐いた。
「くれぐれも無茶をせぬようにな。必ず報告に帰ってくるのだぞ」
俺たちは頷いて、王の厚意に感謝した。そして、いとまごいを告げ、船を波打ち際まで押していった。王は手を貸そうとしたが、俺が軽々と船を押していくのを見て、苦笑を浮かべながらそれをやめた。
「あれは、リンドを越える逸材だな……しかも、魂の一部がセリーヌの魂とつながっておるように感じたが……いったい、どういう縁(えにし)なのだ、なあ、セリーヌよ?」
ゆっくりと遠ざかっていく船から手を振り続ける俺たちを見つめながら、冥界の王ケイドスは小さくつぶやいた。
♢♢♢
海は穏やかで風もなかったので、俺たちは交代で風魔法を使って、帆に風を送りながら、真っすぐに正面に見える魔族の島に向かって進んでいった。
途中、島の周囲を警戒しているリッチの一人が俺たちの側へ飛んできた。黒いローブに身を包んで魔法の杖を持った巨大な骸骨の姿を見て、俺たちは恐怖に思わず抱き合ったが、俺が震える手でケイドス王から預かったブローチを掲げると、スーッとどこかへ去っていった。
「ト、トーマ様でも、あの魔物は倒せませんか?」
ポピィは慌てて俺から離れ、顔を真っ赤にしながらそう尋ねた。
「いや、無理だ。今の俺の魔力量では、あいつの魔法を防御できない」
俺があっさりそう答えると、まだ顔は赤かったが、ポピィは急に表情を引き締めて前を向いた。
「わたし、もっと強くなります」
ポピィは決意のこもった声でそう言ったが、俺としては自分が頼りないと言われたようで、少々情けない気持ちになった。
やがて、島影は次第に大きくなり、俺たちの船は波が打ち寄せる岩場の一角にぶつかった。リュックを岩の上に放り投げた後、用心しながら船から岩に飛び移り、すぐに船をストレージに収納する。
ついに念願の魔族の国に一歩を踏み入れた。これから命がけの冒険が待っているかもしれないし、下手をすると命を失うかもしれない。それでも、俺はワクワクする心を抑えきれなかった。
「よし、ポピィ、行こう」
「はいっ」
この島の西に、人族の住む地域があるとケイドス王は言った。まずはそこを目指すべきだろう。
俺たちは〈身体強化〉をして、二十メートルはある崖を、岩から岩へ跳びながら軽々と登っていった。
崖の上に上がってみると、急に世界が明るくなり、美しい夕焼けが西の空を染め始めているのが見えた。まだ、夕方の時間だったのだ。
俺たちは顔を見合わせて頷き合うと、その夕焼けの方に向かって走り出した。
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