少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei

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 翌朝、日の出の前に目覚めた俺は、マルア(この世界のリンゴ)のジュースとパン、ボアの串焼き肉で朝食を摂ると、さっそく、調査を開始した。

 身体強化で走り続け、ほどなく森を抜け、岩場が広がる山脈の麓に到着した。魔力探知を使いながら、西から東へと移動していく。

(特に何もないようだな。強い魔物もいないし……)

『はい。この辺りは異常はないようです』

 俺はそのまま東に向かってゆっくり移動していった。森の方には、多くの魔物たちの反応があったが、こちら側には特に目立った魔力反応はなかった。そして、十数分ほど、移動したときだった。
 最初に気づいたのは、遠距離の魔力を探知していたナビだ。

『っ! マスター、右前方約五百メートルに大きな魔力反応が……二つ、わずかに動いています。ダンジョンではなく、生き物のようです』

(了解。隠密を使って近づいてみる)

 俺は自分の魔力を制御しながら、〈隠密〉のスキルを使ってその魔力のもとに近づいていった。


 そこは、森の近くで、小高い丘がある場所だった。二つの大きな魔力は、その丘の内部から漏れ出ているようだ。そっと近づいていくと、そこにはきちんと整備された防御柵と畑、花畑、そしてドアが取り付けられた洞穴があった。

『誰かが住んでいるようですね。この魔力の大きさ、まさか、魔物?……いや、この魔力には記憶があります。以前、パルトスの近くの森で遭遇した〝魔族〟ではないでしょうか』

 ナビの言葉に、俺も記憶の底から思い出がよみがえってきた。
(ああ、あの魔族の男か……名前は確か…ガス……アンガスだ。あいつか……でも、もう一人いるんだよな?)

『はい。こちらも、どこかで会ったことがある魔力の性質なのですが……すみません、思い出せません』

(ふーん……誰だろう? まあ、いいか。アンガスには悪意は感じなかった。もし、この調査に協力してもらえたら、頼もしい戦力になる。当たって砕けろで、頼んでみるか)

 俺は、隠密のスキルを解いて、洞穴の入り口に近づいていった。

(ああ、結界が張ってあるな。かなり強力なやつだ。これじゃあ、入れない……石をぶつけてみるか)
 入口から十メートルの所で、そこに強力な防御結界が張られているのが分かった。俺は、近くに転がっている石を拾って、その結界に投げてみた。

 石が音を立ててぶつかって砕けるのと同時に、洞穴の内部の魔力反応が動きを見せた。大きい方の魔力の持ち主が、ドアの内側に移動した。おそらく、のぞき穴から外をうかがっているのだろう。
 そして、すぐにガチャリと音がして、鉄製の丈夫なドアが開かれた。その内側から現れたのは、やはり、あの魔族の男〝アンガス〟だった。

「お前は、いつかの少年……たしか、名前はトーマだったな?」

「覚えていてくれたのか、お久しぶり、アンガス……」

 アンガスは少し戸惑ったように、手を動かしながら、言葉を探しているようだった。
「どうして、ここに……?」

「ああ、ギルドの依頼を受けて、調査に来たんだ。最近、魔物の様子がおかしいからって……そしたら、偶然ここを見つけてね。誰が住んでいるのか、気になって……」

「そうか……」
 アンガスは、納得したように頷きながらも、まだ警戒を解けずに、迷っているようだった。

「父さん、誰なの?」
 アンガスの背後から声がして、もう一人の魔力の持ち主が顔をのぞかせた。

 それは、俺も一度会ったことがある魔族と人族のハーフの女性だった。

「あれ? 君は、確か魔術の本を買いに来た……」

「ああ、はい、あの時はありがとうございました。ええっと、元王室錬金術師の……すみません、名前は忘れました」

「ふふ……アリョーシャよ。こんな森の奥まで、よく無事に来れたわね?」
 アリョーシャの方が先に警戒を解いたようだった。

「詳しい話は中で聞かせてくれ。今、結界を解除する」
 アンガスはそう言うと、ドアの外のすぐ右側に置かれた、丸い飾りの石のようなものに手を置いた。すると、魔力が電線を伝わるように流れていき、地中に埋められているらしい結界装置を次々と停止させていった。

(すごい……あれも魔道具か? 俺の村や俺が使っている結界装置より、はるかに機能的で効率的だ……あの道具の作り方、教えてもらえないかな)
 俺が目を見開いて、結界が消えていく様子を見ていると、アンガスの声が聞こえてきた。

「さあ、中に入ってくれ」

「あ、ああ、お邪魔します」


♢♢♢

 そこは、洞穴の中とは思えないほど、実に快適な居住空間だった。温度調節の魔道具が常に内部を快適な温度に保ち、手作りらしい家具が、機能的に配置されている。

「素晴らしい部屋だね。他にも部屋はあるの?」

 俺が周囲を見回しながら尋ねると、アリョーシャさんが、嬉しそうに答えた。
「そうでしょう、ふふふ……ここがリビングで、そっちがキッチンね。それから、奥に寝室兼書斎が二つと、トイレ、お風呂、地下には倉庫があるわ」

「すごい……じゃあ、ずいぶん長くここに住んでいるの?」

「およそ、百九十年だ」
 アンガスが答えて、俺に椅子に座るよう促した。

 俺は訊きたいことがたくさんあったが、よけいな警戒をさせないように、今は質問を控えることにした。

「それで、ギルドからは、どんなことを聞いているのだ?」
 アンガスは俺の体面に座ると、そう尋ねた。

「ええっと、最近急に魔物が増えてきて、しかも、強い魔物が街の近くの森に現れるようになったこと、ギルド長は、これが〈スタンビート〉の前兆じゃないかって考えていること、かな」

「ふむ……」
 アンガスは、納得したように小さく頷いた。

「さすがはギルマスね。その通りよ」
 お茶を淹れたポットとカップをトレイに載せて、キッチンから出てきたアリョーシャさんが言った。

「え、ということは、二人はもう何かを掴んでいるってこと?」

 俺の問いに、アンガスは重々しく頷いて、話を始めた。
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