少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei

文字の大きさ
3 / 80

3 スキルの話

しおりを挟む
 村の周囲の巡回は、村の男たちにとって大切な仕事だ。この役目は、主に『武術系ギフト』や『魔法系ギフト』を授かった者たちの役目となるが、俺のような『はずれギフト』の者たちも何人か加わっている。

「よし、じゃあ集まってくれ。グループ分けはいつもの通りだが、今日は北側にスライムの大量発生が確認された。そこで、一班から三班までは俺と一緒に北側の駆除に当たってくれ。残りの四班から六班まではいつも通り東、南、西の順番で回ってくれ。じゃあ、出発」

 てきぱきと指示を出している二十代後半の男性は、この村で狩人や魔物退治の仕事をやっている《ラトス自警団》の副団長ピレルさんだ。『弓士』のギフトを持っていて、『大剣使い』のギフトを持つ団長のクレイグさんとともに、村の少年たちの憧れの的だ。

 俺は四班なので、五人の班の人たちと一緒に東に向かって歩き出した。
 俺の武器は直径約六センチ、長さ二メートルの堅い木の先を削って尖らせたもの、簡単に言うと細長い木の杭のようなものだ。これで叩いたり、突いたりして敵を倒す。まあ、立派な金属製の武器に比べると粗末なものだが、俺の戦い方にはピッタリな武器なのだ。

「よお、はずれギフト、今日も来たのか」

 ……で、このウザい奴が、アント。俺より一つ年上で村で一番大きな農家の息子だ。『剣士』のギフトを持っていて、いつも数人の取り巻きに囲まれ威張り散らしているガキ大将だ。

「……」
 俺は基本、こういう手合いは無視することにしている。関わると面倒くさいし、良いことなんか一つも無いからな。
 だが、アントの奴は何かというと俺に突っかかって来る。ほんと、ウザい奴だ。

『その理由に気づかないマスターは、ほんとに〝鈍ちん〟ですけどね……』
(ん? 何か言ったか?)
『いいえ、何でもありません(現時点でマスターに直接関係ない情報は、教える必要はないですからね)』

「おい、何シカトしてんだよ。生意気なんだよ、『はずれ』のくせしやがって」
 アントが俺の肩をつかんできたので、俺はそれを振り払うと、早足で班のリーダーであるダンさんの側に向かった。

「ん、どうした、トーマ?……ああ、そういうことか。おい、アント、お前五班だろう? 班に戻れ。それと、あんまりトーマをいじめるな。いいな?」
 ダンさんはまだ十八の若者だが、『槍士』のギフトを持ち、リーダーシップもあり真面目な好青年だ。

「ちっ……卑怯者が……」
 アントは舌打ちしながら、口の中で捨て台詞を吐いて、仕方なく自分の班に戻っていった。

「何であいつ、トーマにばかり突っかかるんだろうな?」
「さあ……たぶん、俺が『はずれ』だからじゃないですか? 人間て、弱い者いじめが好きですからね」

 俺の冷めた言葉に、ダンさんは苦笑した。
「あはは……お前、ほんと十歳らしくないよな。だが、そんな子供のうちから世の中を捨てたような考えはやめた方がいい。現に、お前はその年で魔物とやり合える力を持ってるじゃないか。その力で、十分世の中の役に立てる人間になれるはずだ」

 そう、ダンさんが言うように、俺はこの班の中で一番年下だが、魔物退治はダンさんに次ぐくらいの実績を上げている。なぜ、そんなことができるのか。それは《スキル》のおかげだ。

 この世界には、ギフトと同時に《スキル》というものが存在する。ギフトは先天的に与えられた恩恵であり、「生きる方向性」のようなものだ。それに対して、スキルはその名の通り、後天的に身に着く技術で、「生きる上での補助能力」と言える。

 当然の如く、スキルはギフトの影響を受ける。つまり、ギフトに関係するスキルは獲得しやすい。例えば、《剣士》は《薙ぎ払い》、《刺突》……などのスキルが得やすい。やがて、それらのスキルがそろい、レベルが一定以上に達すると、《剣術》というスキルに統合される。

 俺が毎日のように鍛錬している理由が、これで分かってもらえるだろう。そう、俺は『はずれギフト』を補うために、必死で《スキル》を身に着けようと頑張っているのだ。
 ちなみに、これが、今の俺のステータスと獲得しているスキルだ。

***
【名前】 トーマ      Lv 11
【種族】 人族(転生)   【体力】 186
【性別】 ♂        【物理力】102
【年齢】 10        【魔力】 155
【ギフト】ナビゲーション  【知力】 228
     システム     【敏捷性】165
【称号】 異世界異能者   【器用さ】220
              【運】  64
【スキル】           
〈強化系〉身体強化Rnk3 跳躍Rnk2
〈攻撃系〉打撃Rnk1 刺突Rnk2
〈防御系〉物理耐性Rnk1 精神耐性Rnk2 索敵Rnk2
〈その他〉鑑定Rnk4 調合Rnk1


 これは、一般の十歳の少年と比べてかなり高い能力だ。いや、異常なほどとも言える。ああ、この【称号】〝異世界異能者〟というのはよく分からない。ナビに聞いたが、『そのままの意味です』などと、埒の開かないことを言う。まあ、鑑定のランクが上がったら、詳細が見れるようになるらしいから、それまで待つとしよう。
 ちなみに、あのいけ好かないアントのステータスとスキルはこんなものだ。

***
【名前】 アント     Lv 8
【種族】 人族      【体力】 83
【性別】 ♂       【物理力】103
【年齢】 11       【魔力】 32
【ギフト】剣士      【知力】 45
【称号】         【敏捷性】56
             【器用さ】40
【スキル】        【運】  55
〈強化系〉身体強化Rnk1
〈攻撃系〉薙ぎ払いRnk2 刺突Rnk1
〈防御系〉
〈その他〉恐喝Rnk2

 これが、まあ普通、いや、〈恐喝〉なんていうスキルを身に着けている時点で普通ではないな。まったく、十一歳の子供が恐喝なんてするなよ。

 こんなふうに自分のステータスや、他人のステータスを見れるのは、ナビのおかげでもある。というのも、〈鑑定〉のスキルは、『商人』や『探索者』というギフトを持つ者が、かなりの経験を積んでようやく獲得できるレアスキルなのだが、俺は生まれた時から持っていた。どうやら、ナビゲーションシステムというギフトとセットのスキルらしい。

っ!……索敵に反応があった。かなりの数だ。
「ダンさん、左の森の中に何かいるっ! 数が多いから気を付けて」

「おうっ、了解だ。おおい、皆、獲物だ。左の森。ジーンとマルクは左右から回り込んで背後をつけ。他の者は戦闘準備をして待機」

 さて、一仕事やりますか。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

処理中です...