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3 スキルの話
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村の周囲の巡回は、村の男たちにとって大切な仕事だ。この役目は、主に『武術系ギフト』や『魔法系ギフト』を授かった者たちの役目となるが、俺のような『はずれギフト』の者たちも何人か加わっている。
「よし、じゃあ集まってくれ。グループ分けはいつもの通りだが、今日は北側にスライムの大量発生が確認された。そこで、一班から三班までは俺と一緒に北側の駆除に当たってくれ。残りの四班から六班まではいつも通り東、南、西の順番で回ってくれ。じゃあ、出発」
てきぱきと指示を出している二十代後半の男性は、この村で狩人や魔物退治の仕事をやっている《ラトス自警団》の副団長ピレルさんだ。『弓士』のギフトを持っていて、『大剣使い』のギフトを持つ団長のクレイグさんとともに、村の少年たちの憧れの的だ。
俺は四班なので、五人の班の人たちと一緒に東に向かって歩き出した。
俺の武器は直径約六センチ、長さ二メートルの堅い木の先を削って尖らせたもの、簡単に言うと細長い木の杭のようなものだ。これで叩いたり、突いたりして敵を倒す。まあ、立派な金属製の武器に比べると粗末なものだが、俺の戦い方にはピッタリな武器なのだ。
「よお、はずれギフト、今日も来たのか」
……で、このウザい奴が、アント。俺より一つ年上で村で一番大きな農家の息子だ。『剣士』のギフトを持っていて、いつも数人の取り巻きに囲まれ威張り散らしているガキ大将だ。
「……」
俺は基本、こういう手合いは無視することにしている。関わると面倒くさいし、良いことなんか一つも無いからな。
だが、アントの奴は何かというと俺に突っかかって来る。ほんと、ウザい奴だ。
『その理由に気づかないマスターは、ほんとに〝鈍ちん〟ですけどね……』
(ん? 何か言ったか?)
『いいえ、何でもありません(現時点でマスターに直接関係ない情報は、教える必要はないですからね)』
「おい、何シカトしてんだよ。生意気なんだよ、『はずれ』のくせしやがって」
アントが俺の肩をつかんできたので、俺はそれを振り払うと、早足で班のリーダーであるダンさんの側に向かった。
「ん、どうした、トーマ?……ああ、そういうことか。おい、アント、お前五班だろう? 班に戻れ。それと、あんまりトーマをいじめるな。いいな?」
ダンさんはまだ十八の若者だが、『槍士』のギフトを持ち、リーダーシップもあり真面目な好青年だ。
「ちっ……卑怯者が……」
アントは舌打ちしながら、口の中で捨て台詞を吐いて、仕方なく自分の班に戻っていった。
「何であいつ、トーマにばかり突っかかるんだろうな?」
「さあ……たぶん、俺が『はずれ』だからじゃないですか? 人間て、弱い者いじめが好きですからね」
俺の冷めた言葉に、ダンさんは苦笑した。
「あはは……お前、ほんと十歳らしくないよな。だが、そんな子供のうちから世の中を捨てたような考えはやめた方がいい。現に、お前はその年で魔物とやり合える力を持ってるじゃないか。その力で、十分世の中の役に立てる人間になれるはずだ」
そう、ダンさんが言うように、俺はこの班の中で一番年下だが、魔物退治はダンさんに次ぐくらいの実績を上げている。なぜ、そんなことができるのか。それは《スキル》のおかげだ。
この世界には、ギフトと同時に《スキル》というものが存在する。ギフトは先天的に与えられた恩恵であり、「生きる方向性」のようなものだ。それに対して、スキルはその名の通り、後天的に身に着く技術で、「生きる上での補助能力」と言える。
当然の如く、スキルはギフトの影響を受ける。つまり、ギフトに関係するスキルは獲得しやすい。例えば、《剣士》は《薙ぎ払い》、《刺突》……などのスキルが得やすい。やがて、それらのスキルがそろい、レベルが一定以上に達すると、《剣術》というスキルに統合される。
俺が毎日のように鍛錬している理由が、これで分かってもらえるだろう。そう、俺は『はずれギフト』を補うために、必死で《スキル》を身に着けようと頑張っているのだ。
ちなみに、これが、今の俺のステータスと獲得しているスキルだ。
***
【名前】 トーマ Lv 11
【種族】 人族(転生) 【体力】 186
【性別】 ♂ 【物理力】102
【年齢】 10 【魔力】 155
【ギフト】ナビゲーション 【知力】 228
システム 【敏捷性】165
【称号】 異世界異能者 【器用さ】220
【運】 64
【スキル】
〈強化系〉身体強化Rnk3 跳躍Rnk2
〈攻撃系〉打撃Rnk1 刺突Rnk2
〈防御系〉物理耐性Rnk1 精神耐性Rnk2 索敵Rnk2
〈その他〉鑑定Rnk4 調合Rnk1
これは、一般の十歳の少年と比べてかなり高い能力だ。いや、異常なほどとも言える。ああ、この【称号】〝異世界異能者〟というのはよく分からない。ナビに聞いたが、『そのままの意味です』などと、埒の開かないことを言う。まあ、鑑定のランクが上がったら、詳細が見れるようになるらしいから、それまで待つとしよう。
ちなみに、あのいけ好かないアントのステータスとスキルはこんなものだ。
***
【名前】 アント Lv 8
【種族】 人族 【体力】 83
【性別】 ♂ 【物理力】103
【年齢】 11 【魔力】 32
【ギフト】剣士 【知力】 45
【称号】 【敏捷性】56
【器用さ】40
【スキル】 【運】 55
〈強化系〉身体強化Rnk1
〈攻撃系〉薙ぎ払いRnk2 刺突Rnk1
〈防御系〉
〈その他〉恐喝Rnk2
これが、まあ普通、いや、〈恐喝〉なんていうスキルを身に着けている時点で普通ではないな。まったく、十一歳の子供が恐喝なんてするなよ。
こんなふうに自分のステータスや、他人のステータスを見れるのは、ナビのおかげでもある。というのも、〈鑑定〉のスキルは、『商人』や『探索者』というギフトを持つ者が、かなりの経験を積んでようやく獲得できるレアスキルなのだが、俺は生まれた時から持っていた。どうやら、ナビゲーションシステムというギフトとセットのスキルらしい。
っ!……索敵に反応があった。かなりの数だ。
「ダンさん、左の森の中に何かいるっ! 数が多いから気を付けて」
「おうっ、了解だ。おおい、皆、獲物だ。左の森。ジーンとマルクは左右から回り込んで背後をつけ。他の者は戦闘準備をして待機」
さて、一仕事やりますか。
「よし、じゃあ集まってくれ。グループ分けはいつもの通りだが、今日は北側にスライムの大量発生が確認された。そこで、一班から三班までは俺と一緒に北側の駆除に当たってくれ。残りの四班から六班まではいつも通り東、南、西の順番で回ってくれ。じゃあ、出発」
てきぱきと指示を出している二十代後半の男性は、この村で狩人や魔物退治の仕事をやっている《ラトス自警団》の副団長ピレルさんだ。『弓士』のギフトを持っていて、『大剣使い』のギフトを持つ団長のクレイグさんとともに、村の少年たちの憧れの的だ。
俺は四班なので、五人の班の人たちと一緒に東に向かって歩き出した。
俺の武器は直径約六センチ、長さ二メートルの堅い木の先を削って尖らせたもの、簡単に言うと細長い木の杭のようなものだ。これで叩いたり、突いたりして敵を倒す。まあ、立派な金属製の武器に比べると粗末なものだが、俺の戦い方にはピッタリな武器なのだ。
「よお、はずれギフト、今日も来たのか」
……で、このウザい奴が、アント。俺より一つ年上で村で一番大きな農家の息子だ。『剣士』のギフトを持っていて、いつも数人の取り巻きに囲まれ威張り散らしているガキ大将だ。
「……」
俺は基本、こういう手合いは無視することにしている。関わると面倒くさいし、良いことなんか一つも無いからな。
だが、アントの奴は何かというと俺に突っかかって来る。ほんと、ウザい奴だ。
『その理由に気づかないマスターは、ほんとに〝鈍ちん〟ですけどね……』
(ん? 何か言ったか?)
『いいえ、何でもありません(現時点でマスターに直接関係ない情報は、教える必要はないですからね)』
「おい、何シカトしてんだよ。生意気なんだよ、『はずれ』のくせしやがって」
アントが俺の肩をつかんできたので、俺はそれを振り払うと、早足で班のリーダーであるダンさんの側に向かった。
「ん、どうした、トーマ?……ああ、そういうことか。おい、アント、お前五班だろう? 班に戻れ。それと、あんまりトーマをいじめるな。いいな?」
ダンさんはまだ十八の若者だが、『槍士』のギフトを持ち、リーダーシップもあり真面目な好青年だ。
「ちっ……卑怯者が……」
アントは舌打ちしながら、口の中で捨て台詞を吐いて、仕方なく自分の班に戻っていった。
「何であいつ、トーマにばかり突っかかるんだろうな?」
「さあ……たぶん、俺が『はずれ』だからじゃないですか? 人間て、弱い者いじめが好きですからね」
俺の冷めた言葉に、ダンさんは苦笑した。
「あはは……お前、ほんと十歳らしくないよな。だが、そんな子供のうちから世の中を捨てたような考えはやめた方がいい。現に、お前はその年で魔物とやり合える力を持ってるじゃないか。その力で、十分世の中の役に立てる人間になれるはずだ」
そう、ダンさんが言うように、俺はこの班の中で一番年下だが、魔物退治はダンさんに次ぐくらいの実績を上げている。なぜ、そんなことができるのか。それは《スキル》のおかげだ。
この世界には、ギフトと同時に《スキル》というものが存在する。ギフトは先天的に与えられた恩恵であり、「生きる方向性」のようなものだ。それに対して、スキルはその名の通り、後天的に身に着く技術で、「生きる上での補助能力」と言える。
当然の如く、スキルはギフトの影響を受ける。つまり、ギフトに関係するスキルは獲得しやすい。例えば、《剣士》は《薙ぎ払い》、《刺突》……などのスキルが得やすい。やがて、それらのスキルがそろい、レベルが一定以上に達すると、《剣術》というスキルに統合される。
俺が毎日のように鍛錬している理由が、これで分かってもらえるだろう。そう、俺は『はずれギフト』を補うために、必死で《スキル》を身に着けようと頑張っているのだ。
ちなみに、これが、今の俺のステータスと獲得しているスキルだ。
***
【名前】 トーマ Lv 11
【種族】 人族(転生) 【体力】 186
【性別】 ♂ 【物理力】102
【年齢】 10 【魔力】 155
【ギフト】ナビゲーション 【知力】 228
システム 【敏捷性】165
【称号】 異世界異能者 【器用さ】220
【運】 64
【スキル】
〈強化系〉身体強化Rnk3 跳躍Rnk2
〈攻撃系〉打撃Rnk1 刺突Rnk2
〈防御系〉物理耐性Rnk1 精神耐性Rnk2 索敵Rnk2
〈その他〉鑑定Rnk4 調合Rnk1
これは、一般の十歳の少年と比べてかなり高い能力だ。いや、異常なほどとも言える。ああ、この【称号】〝異世界異能者〟というのはよく分からない。ナビに聞いたが、『そのままの意味です』などと、埒の開かないことを言う。まあ、鑑定のランクが上がったら、詳細が見れるようになるらしいから、それまで待つとしよう。
ちなみに、あのいけ好かないアントのステータスとスキルはこんなものだ。
***
【名前】 アント Lv 8
【種族】 人族 【体力】 83
【性別】 ♂ 【物理力】103
【年齢】 11 【魔力】 32
【ギフト】剣士 【知力】 45
【称号】 【敏捷性】56
【器用さ】40
【スキル】 【運】 55
〈強化系〉身体強化Rnk1
〈攻撃系〉薙ぎ払いRnk2 刺突Rnk1
〈防御系〉
〈その他〉恐喝Rnk2
これが、まあ普通、いや、〈恐喝〉なんていうスキルを身に着けている時点で普通ではないな。まったく、十一歳の子供が恐喝なんてするなよ。
こんなふうに自分のステータスや、他人のステータスを見れるのは、ナビのおかげでもある。というのも、〈鑑定〉のスキルは、『商人』や『探索者』というギフトを持つ者が、かなりの経験を積んでようやく獲得できるレアスキルなのだが、俺は生まれた時から持っていた。どうやら、ナビゲーションシステムというギフトとセットのスキルらしい。
っ!……索敵に反応があった。かなりの数だ。
「ダンさん、左の森の中に何かいるっ! 数が多いから気を付けて」
「おうっ、了解だ。おおい、皆、獲物だ。左の森。ジーンとマルクは左右から回り込んで背後をつけ。他の者は戦闘準備をして待機」
さて、一仕事やりますか。
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