少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei

文字の大きさ
9 / 80

9 美人だからって容赦しないよ

しおりを挟む
 冒険者ギルドには、たいてい解体場と訓練施設が付属していることは、ラノベやアニメを見ていた俺には周知の事柄だ。
 イケメンクズ男の後について行くと、案の定、建物の右奥は屋内訓練用の施設だった。

「さっさと始めるぞ、おら。ミレーヌちゃん、くだらない決闘に付き合わせてすまねえ。おわびに今夜、美味い食事をおごるからな」

「……家の用事があるから無理です。では、ギルドルールに則って決闘を始めます。えっと、ルールの説明は必要ですか?」

「いや、いらねえ」
「俺も大丈夫です。多分、何でもアリってやつでしょう? 降参か続行不能で決着ってことですよね?」

「は、はい、そうです。決着がついたとこちらが判断したら、それ以上の攻撃は禁止です。なお、これ以後に遺恨を残さないこと。いいですね? では、始めます」

 ミレーヌの合図とともに、俺とギャランの勝負が始まった。

 それにしても、まあ、本当に前世で読んだラノベの展開のまんまだな。なんだか長い夢を見ている錯覚に陥りそうだ。
 だって、弱いんだよ、ギャラン……これで本当にBランクなのか?

「このっ、クソがっ、ちょこまか逃げやがってっ……ギャアッ!」

 鋼のロングソードを振り回して、俺を無防備に追いかけてくるギャランの腕に、木の棒を振り下ろす。棒が折れないようにかなり手加減しているが、これで三回目だ。
 さすがに骨にひびでも入ったのか、ギャランは震える腕を抑えてロングソードを手放した。

「そこまでっ。勝者……ええっと、君、名前は?」

 俺はため息を吐きながら、ぶっきらぼうにトーマだと告げた。

「しょ、勝者、トーマ。これで決闘は終了します」
 ミレーヌが宣言すると、周囲からウオーッという歓声が上がった。いつの間にか、訓練場には、野次馬の冒険者たちが大勢詰めかけていたのだ。

「ま、待て、俺はまだ負けを認めていないぞ。こんなガキに負けてたまるかっ!」
 ギャランが叫ぶと、左手で剣を持って俺に向かって走り出した。

「やめんかっ、ギャラン! このバカもんがアァッ!」
 群衆の中から辺りを威圧するような怒号が響き渡った。
 その場にいる全員が、思わず地面にへたり込むような迫力があった。

「ヒィッ、ギ、ギルマス……」

 そこに現れたのは、短く刈り込んだ白髪の頭に白い口髭の、かなり高齢と思しき老人だった。しかし、背筋はピンと伸びて、ラフに着こなしたシャツから覗く胸板は厚く、鍛え抜いた体だとひと目で分かった。何より、その目はすべてを見通すかのような鋭い眼光を放っていた。

「あ、あの、ウェイド様、なぜこちらへ?」

「ああ、たまたま用事で下に降りてきたら、決闘だと皆が騒いでいたものでな。理由はエミルに聞いた……」
 老人はそう言うと、俺の方に近づいて来た。

「なかなかやりおるのう、小僧」
 老人は、俺を試すかのように威圧を込めてそう言った。まあ、俺には〈精神耐性〉のスキルがあるので効かないけどね。

「さあ、そうでもないですよ。その人が弱いだけなのでは?」

 俺のそっけない答えに、老人は一気に破顔して笑い出した。
「わっはっはっは……そうか、そうか。確かにこいつはBランクだが、強いパーティにくっついて昇級ポイントを稼いにすぎん。が、実力もCランク程度はあるはずだ。それを子供相手のようにあしらうとは……ふふ、面白い。小僧、わしと戦ってみるか?」

「ああ、いいえ、遠慮しておきます。第一、俺は今日この街に来たばかりで、まだ冒険者登録もしてないんですよ。登録料が必要だったので、魔石を売ろうとしていたら、この人とそこの女の人に盗んだ魔石だと疑われたあげく、決闘までするはめになったんです。
 もう、他の街に出て行こうかと考えていたところです」

「うむ、確かにエミルもそう言っておった。すまぬ。これはギルドのミスだ。どうか許してくれ」
 
「まあ、もう済んだことですからいいです。それより、早くお金をください。登録するかどうかは分かりませんが、装備は整えておきたいんで」

「わははは……そうか、分かった。おい、ミレーヌ、謝罪した上で、少し上乗せしてやれ」
「は、はい……ト、トーマ様、どうぞこちらへ」
 ギルマスの前で自分のミスを暴露された受付嬢は、赤い顔でそそくさとホールの方へ歩いていく。いくら美人でも、いたいけな子供を盗人と疑ったことは許さないよ、うん。

「ギャラン、お前はこっちだ」
 ギルマスのウェイドは、イケメンクズ男の首根っこをつかんで、反対側の出口の方へ引っ張っていった。

『やれやれ、とんだ茶番でしたね、マスター』

(ああ、そうだな。まあ、これが浮世の洗礼というやつだろうな)

『……時々、異様に爺臭いです、マスター』
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

魔法学校の落ちこぼれ

梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。  しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。 『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。  

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...