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9 美人だからって容赦しないよ
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冒険者ギルドには、たいてい解体場と訓練施設が付属していることは、ラノベやアニメを見ていた俺には周知の事柄だ。
イケメンクズ男の後について行くと、案の定、建物の右奥は屋内訓練用の施設だった。
「さっさと始めるぞ、おら。ミレーヌちゃん、くだらない決闘に付き合わせてすまねえ。おわびに今夜、美味い食事をおごるからな」
「……家の用事があるから無理です。では、ギルドルールに則って決闘を始めます。えっと、ルールの説明は必要ですか?」
「いや、いらねえ」
「俺も大丈夫です。多分、何でもアリってやつでしょう? 降参か続行不能で決着ってことですよね?」
「は、はい、そうです。決着がついたとこちらが判断したら、それ以上の攻撃は禁止です。なお、これ以後に遺恨を残さないこと。いいですね? では、始めます」
ミレーヌの合図とともに、俺とギャランの勝負が始まった。
それにしても、まあ、本当に前世で読んだラノベの展開のまんまだな。なんだか長い夢を見ている錯覚に陥りそうだ。
だって、弱いんだよ、ギャラン……これで本当にBランクなのか?
「このっ、クソがっ、ちょこまか逃げやがってっ……ギャアッ!」
鋼のロングソードを振り回して、俺を無防備に追いかけてくるギャランの腕に、木の棒を振り下ろす。棒が折れないようにかなり手加減しているが、これで三回目だ。
さすがに骨にひびでも入ったのか、ギャランは震える腕を抑えてロングソードを手放した。
「そこまでっ。勝者……ええっと、君、名前は?」
俺はため息を吐きながら、ぶっきらぼうにトーマだと告げた。
「しょ、勝者、トーマ。これで決闘は終了します」
ミレーヌが宣言すると、周囲からウオーッという歓声が上がった。いつの間にか、訓練場には、野次馬の冒険者たちが大勢詰めかけていたのだ。
「ま、待て、俺はまだ負けを認めていないぞ。こんなガキに負けてたまるかっ!」
ギャランが叫ぶと、左手で剣を持って俺に向かって走り出した。
「やめんかっ、ギャラン! このバカもんがアァッ!」
群衆の中から辺りを威圧するような怒号が響き渡った。
その場にいる全員が、思わず地面にへたり込むような迫力があった。
「ヒィッ、ギ、ギルマス……」
そこに現れたのは、短く刈り込んだ白髪の頭に白い口髭の、かなり高齢と思しき老人だった。しかし、背筋はピンと伸びて、ラフに着こなしたシャツから覗く胸板は厚く、鍛え抜いた体だとひと目で分かった。何より、その目はすべてを見通すかのような鋭い眼光を放っていた。
「あ、あの、ウェイド様、なぜこちらへ?」
「ああ、たまたま用事で下に降りてきたら、決闘だと皆が騒いでいたものでな。理由はエミルに聞いた……」
老人はそう言うと、俺の方に近づいて来た。
「なかなかやりおるのう、小僧」
老人は、俺を試すかのように威圧を込めてそう言った。まあ、俺には〈精神耐性〉のスキルがあるので効かないけどね。
「さあ、そうでもないですよ。その人が弱いだけなのでは?」
俺のそっけない答えに、老人は一気に破顔して笑い出した。
「わっはっはっは……そうか、そうか。確かにこいつはBランクだが、強いパーティにくっついて昇級ポイントを稼いにすぎん。が、実力もCランク程度はあるはずだ。それを子供相手のようにあしらうとは……ふふ、面白い。小僧、わしと戦ってみるか?」
「ああ、いいえ、遠慮しておきます。第一、俺は今日この街に来たばかりで、まだ冒険者登録もしてないんですよ。登録料が必要だったので、魔石を売ろうとしていたら、この人とそこの女の人に盗んだ魔石だと疑われたあげく、決闘までするはめになったんです。
もう、他の街に出て行こうかと考えていたところです」
「うむ、確かにエミルもそう言っておった。すまぬ。これはギルドのミスだ。どうか許してくれ」
「まあ、もう済んだことですからいいです。それより、早くお金をください。登録するかどうかは分かりませんが、装備は整えておきたいんで」
「わははは……そうか、分かった。おい、ミレーヌ、謝罪した上で、少し上乗せしてやれ」
「は、はい……ト、トーマ様、どうぞこちらへ」
ギルマスの前で自分のミスを暴露された受付嬢は、赤い顔でそそくさとホールの方へ歩いていく。いくら美人でも、いたいけな子供を盗人と疑ったことは許さないよ、うん。
「ギャラン、お前はこっちだ」
ギルマスのウェイドは、イケメンクズ男の首根っこをつかんで、反対側の出口の方へ引っ張っていった。
『やれやれ、とんだ茶番でしたね、マスター』
(ああ、そうだな。まあ、これが浮世の洗礼というやつだろうな)
『……時々、異様に爺臭いです、マスター』
イケメンクズ男の後について行くと、案の定、建物の右奥は屋内訓練用の施設だった。
「さっさと始めるぞ、おら。ミレーヌちゃん、くだらない決闘に付き合わせてすまねえ。おわびに今夜、美味い食事をおごるからな」
「……家の用事があるから無理です。では、ギルドルールに則って決闘を始めます。えっと、ルールの説明は必要ですか?」
「いや、いらねえ」
「俺も大丈夫です。多分、何でもアリってやつでしょう? 降参か続行不能で決着ってことですよね?」
「は、はい、そうです。決着がついたとこちらが判断したら、それ以上の攻撃は禁止です。なお、これ以後に遺恨を残さないこと。いいですね? では、始めます」
ミレーヌの合図とともに、俺とギャランの勝負が始まった。
それにしても、まあ、本当に前世で読んだラノベの展開のまんまだな。なんだか長い夢を見ている錯覚に陥りそうだ。
だって、弱いんだよ、ギャラン……これで本当にBランクなのか?
「このっ、クソがっ、ちょこまか逃げやがってっ……ギャアッ!」
鋼のロングソードを振り回して、俺を無防備に追いかけてくるギャランの腕に、木の棒を振り下ろす。棒が折れないようにかなり手加減しているが、これで三回目だ。
さすがに骨にひびでも入ったのか、ギャランは震える腕を抑えてロングソードを手放した。
「そこまでっ。勝者……ええっと、君、名前は?」
俺はため息を吐きながら、ぶっきらぼうにトーマだと告げた。
「しょ、勝者、トーマ。これで決闘は終了します」
ミレーヌが宣言すると、周囲からウオーッという歓声が上がった。いつの間にか、訓練場には、野次馬の冒険者たちが大勢詰めかけていたのだ。
「ま、待て、俺はまだ負けを認めていないぞ。こんなガキに負けてたまるかっ!」
ギャランが叫ぶと、左手で剣を持って俺に向かって走り出した。
「やめんかっ、ギャラン! このバカもんがアァッ!」
群衆の中から辺りを威圧するような怒号が響き渡った。
その場にいる全員が、思わず地面にへたり込むような迫力があった。
「ヒィッ、ギ、ギルマス……」
そこに現れたのは、短く刈り込んだ白髪の頭に白い口髭の、かなり高齢と思しき老人だった。しかし、背筋はピンと伸びて、ラフに着こなしたシャツから覗く胸板は厚く、鍛え抜いた体だとひと目で分かった。何より、その目はすべてを見通すかのような鋭い眼光を放っていた。
「あ、あの、ウェイド様、なぜこちらへ?」
「ああ、たまたま用事で下に降りてきたら、決闘だと皆が騒いでいたものでな。理由はエミルに聞いた……」
老人はそう言うと、俺の方に近づいて来た。
「なかなかやりおるのう、小僧」
老人は、俺を試すかのように威圧を込めてそう言った。まあ、俺には〈精神耐性〉のスキルがあるので効かないけどね。
「さあ、そうでもないですよ。その人が弱いだけなのでは?」
俺のそっけない答えに、老人は一気に破顔して笑い出した。
「わっはっはっは……そうか、そうか。確かにこいつはBランクだが、強いパーティにくっついて昇級ポイントを稼いにすぎん。が、実力もCランク程度はあるはずだ。それを子供相手のようにあしらうとは……ふふ、面白い。小僧、わしと戦ってみるか?」
「ああ、いいえ、遠慮しておきます。第一、俺は今日この街に来たばかりで、まだ冒険者登録もしてないんですよ。登録料が必要だったので、魔石を売ろうとしていたら、この人とそこの女の人に盗んだ魔石だと疑われたあげく、決闘までするはめになったんです。
もう、他の街に出て行こうかと考えていたところです」
「うむ、確かにエミルもそう言っておった。すまぬ。これはギルドのミスだ。どうか許してくれ」
「まあ、もう済んだことですからいいです。それより、早くお金をください。登録するかどうかは分かりませんが、装備は整えておきたいんで」
「わははは……そうか、分かった。おい、ミレーヌ、謝罪した上で、少し上乗せしてやれ」
「は、はい……ト、トーマ様、どうぞこちらへ」
ギルマスの前で自分のミスを暴露された受付嬢は、赤い顔でそそくさとホールの方へ歩いていく。いくら美人でも、いたいけな子供を盗人と疑ったことは許さないよ、うん。
「ギャラン、お前はこっちだ」
ギルマスのウェイドは、イケメンクズ男の首根っこをつかんで、反対側の出口の方へ引っ張っていった。
『やれやれ、とんだ茶番でしたね、マスター』
(ああ、そうだな。まあ、これが浮世の洗礼というやつだろうな)
『……時々、異様に爺臭いです、マスター』
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