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続編
偉業編
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ルート、グリムベルを切り開く 1
スノーデン商会による原料の買い占め騒ぎは、結果的にはタイムズ商会にほとんど影響を与えなかった。逆にスノーデン商会は、事件後タイムズ商会との取り引きが停止になり、その話を聞いた多くの商会からも軒並み取引の停止あるいは縮小を宣告され、大損害を被ることとなった。
裏で糸を引いていたコーエン子爵は、ボース辺境伯からの信用を失い、爵位剥奪とまではいかなかったが、現役職から降ろされ、男爵に降爵して国境の小さな町の租税係に左遷されることになった。
ただ、ルートは今回の事件の教訓として、商品の原材料をできるだけ自前で調達できるようにすべきだと考えるようになった。契約している農家や商人は多くいるが、今回のように
外部の悪意や脅迫を受ければ、逆らえない状況も出てくるからだ。
「っ!……はああ? 何だって?」
「いや……だから、グリムベルへ行こうと……」
ルートから突然、グリムベル開拓地への同行を頼まれたジークは、驚きと戸惑いに言葉を失くした。
「グ、グリムベルって、お前、船で何週間もかかるっていう、あの南の果ての辺境地のことだよな?」
「うん、そのグリムベルだよ。確かに船で行けば何週間もかかるけど、直線距離でいうと、そんなに遠くないんだ。ほら、この地図を見てよ」
「待て待て待て……直線距離って、お前、間に山脈や未踏の大森林が……」
ジークは必死に混乱する頭を振りながら、にこにこ微笑んでいるルートのもとへ近づいていく。
そこへ、コーヒーとクッキーの乗ったトレイを抱えて、リーナが部屋に入って来た。
「ジーク、どうしたの? 大きな声出して……」
「おう、リーナ、聞いてくれよ。ルートの奴が、また突拍子もないことを言い出したんだ」
「へえ、どんなこと? 面白そう?」
リーナは楽し気な声でそう言うと、テーブルに広げられた地図の傍らにトレイを置いた。
「グリムベルだぞ、グリムベル……いったい、何の旅行なんだよ?」
「まあまあ、落ち着いて、ジーク。旅行じゃないよ。大事な仕事なんだ」
ルートは、ジークとリーナを見回しながら説明を始めた。
「……という理由さ。まだ未開の土地はたくさんあるはずだ。そこを切り開いて、うちで必要な作物を作ってもらう。どうだい?」
ルートの話を聞いて、リーナは頷いて納得していたが、ジークは小さく頭を振って難しい顔をしていた。
「話は分かった。確かに、今回のようなことが起きないように、原料を自前で作るっていうのは、俺も賛成だ。そして、領地を持たない俺たちにとって、グリムベルが魅力的な土地だってこともな……しかしなあ、コスト的に大問題だろう? 輸送にかかる費用と日数を考えれば、近場で誰かに委託した方が安全じゃないか」
副会長として商会を切り盛りしてきた経験から、ジークの言葉には重みがあった。
「うん、確かにジークの言う通りだよ。ただ、今回のように外部からちょっかいを出される危険はなくならない。そこで、グリムベルからの輸送コストの問題さえ解決すれば、それがベストになる、と考えたんだ」
ルートが説明した後、にこやかな笑顔を見せていることに、ジークは嫌な予感がして、リーナはワクワクして、ルートをじっと見つめた。
「……ああ、ええっと……参考までに、その解決法を聞いていいか?」
ジークが恐る恐る尋ねた。
「うん。じゃあ、2人ともこの地図を見て……」
ルートは楽し気な様子で、テーブルに広げられた地図を指さした。
その地図は、ルートたちが住むグランベーダ大陸全体の地図だった。
「ここが、ポルージャで、ここがコルテスの街だ。グリムベルはここだね。本来なら、ここへ行くにはガルニア侯爵領のラークスの港まで行って、そこから船に乗り、南回りでサラディン王国の周囲を廻って、このルーティアの港へというコースになる。その距離は約5400km、片道18日の行程だ」
ルートはそこで言葉を切って、ジークとリーナを代わるがわる見た後、指先をすーっとコルテスの街に戻した。
「でも、ここからリンドバル辺境伯領に入って、この森を抜け、アントネシア山脈の端のこの谷を通れば、直線距離で約360㎞、自動馬車なら2日あれば余裕で行ける」
「おお、確かに……」
「いやいや、リーナ、感心している場合じゃないぞ。あのな、さっきも言ったが、確かに直線で行けばそりゃあ短いだろうさ。だが、見ろよ、ここは未開の大森林、ここは大山脈の根元だ、もちろん自動馬車も使えねえ。歩いていけば、それこそ、何週間もかかるし、どんな魔物がいるかも分からん。いったいどうやって……」
ジークはまくし立てながら、ルートの表情をうかがっていたが、相変わらずにこやかなその表情に、ピンとひらめくものがあった。
「ま、まさか、お前、魔法でどうにかしようと……?」
「うん、僕が道を作っていくつもりだよ」
ジークはそれを聞くと、大きなため息を吐いて頭を抱え込んだ。
「はああ……やっぱりそうか……」
「すごい、見てみたい。どうやるの?」
リーナはクッキーを手に、目を輝かせながらルートに尋ねる。
「う~ん、難しい話じゃないよ。木を切り倒しながら、土魔法で道を作っていくだけの単純な作業だね。ただ、木を処理したり、魔物や野獣の対応に人を雇う必要はあるだろうね」
「はは、は……簡単に言ってくれるぜ。まあ、ルートだからな……」
「ん、ルートならできる。あたしも手伝う」
♢♢♢
こうして、誕生日から6日後、ルートたちはトラック型の自動馬車に乗って、コルテスの街に向かっていた。
学園は期末試験が10日後に始まる予定だったので、ルートはそれに間に合うように1週間の休暇を申請した。ところが、リーフベル所長は、その申請を受け取った後、ルートを呼び出してこう言った。
「グリムベルに行くなら、ついでに元教え子たちの様子を見てくるがよい。よって、今回は休暇ではなく、出張扱いとする。これは、前払いの出張手当じゃ。これで、彼らに美味い物でも持って行ってやれ」
彼女はそう言うと、皮袋をルートに手渡した。後で確認すると、中には出張手当としては破格の金貨20枚ほどが入っていた。リーフベル先生の優しさに感動しながら、ルートはその金でジャン・バードルをはじめ、5人の元学園生たちへの挿し入れの品々を大量に購入したのだった。
コルテスの街に着いたルートたちは、まず冒険者ギルドに向かった。
「おお、すごい賑わいだな」
ドアを開いて中に入った途端、その熱気と騒がしさに3人は圧倒された。
コルテスの冒険者ギルドは相変わらず賑わっていた。
ルートがダンジョンマスターである《毒沼のダンジョン》のおかげだ。鉱山でもあり、適度な深さと適度な魔物、ドロップアイテムも時々スペシャルな物が手に入るとあって、各地から冒険者たちがひっきりなしに集まって来ていたのである。
「あん? 見ねえ顔だな。新人か?」
たむろしていた大勢のむさい男たちの中から、1人の背の高い男がそう言いながら3人に近づいて来た。
(おやおや、久しぶりのテンプレ発動かな?)
ルートは心の中で苦笑しながら、近づいてくる赤いツンツン髪の男に目をやった。
ルート、グリムベルを切り開く 2
赤いツンツン髪で背の高い男が、ルートたちに近づくと、周囲の冒険者たちはとたんにおしゃべりをやめて、ロビーは静まり返った。
「あっ、まあ、《時の旅人》の皆さん、お久しぶりです。ようこそ、コルテスへ」
一触即発寸前の場面で、若い女性の声がロビー中に響き渡った。
その声の主は、自分の前に並んだ冒険者たちを無視して、受付のカウンターから飛び出してきた。
「レミアさん、お久しぶり。お元気そうで何よりです」
「はい、おかげさまで。ふふ……ご依頼の件ですね? どうぞこちらへ」
コルテスの冒険者ギルドのナンバーワン受付嬢のレミアは、そう言うと、呆気にとられた大勢の冒険者たちを尻目に、ルートたちを奥へ案内しようとした。
「おい、ちょっと待てよ、レミア。受付に並んでいる俺たちをほったらかしにして、何でそいつらを優先してんだ、ああ?」
ツンツン髪は、自分が無視されたことと、どうやらレミアがルートたちと親しいことの両方が気に障ったようで、凄みを効かした声で文句をつけた。
「受け付けなら他にもおりますので、どうぞそちらへお並びください。こちらは、当ギルドにとって最優先のご依頼主の方々ですので。さあ、行きましょう、ルートさんたち」
「待てと言ってるだろうがっ! 目の前でそんな差別をされたんじゃ、黙っていられるか、そうだろう、みんな?」
ツンツン髪の声に、多くの男たちが野太い声で『そうだ、そうだ』と応じる。
レミアがうんざりした顔でため息を吐いたとき、2階の階段の方から低く落ち着いた声が聞こえてきた。
「何を騒いでいる? ん? またお前か、ボイド……先日注意したばかりだが、よほどギルドを追放になりたいようだな?」
「はん、うるせえよ。Aランクの俺様を追放できるもんならするがいいさ」
ボイドという名のツンツン髪の言葉を聞いた、このコルテスの冒険者ギルドのギルドマスター、エルアルド・ゲインズは、普段の穏やかな形相を一変させた。
「ほお、舐めた口をきくじゃないか、小僧。お前、Aランク以上は毎年審査があるのは知っているよな? 査定基準は、受けた依頼内容、業績、そしてもう1つは何か、言ってみろ」
「ああ、知っているぜ。人間性って奴だろう? はっ、だから何だよ? 冒険者ってのは、実力があってなんぼの世界だろうが。人間性なんて、よほどの悪党でなけりゃ、関係ねえんだよ」
ゲインズはため息を吐いて、憐れむような目でボイドを見つめた。
「はあ……だから、こんな若造を昇格させるのは間違いなんだよ。いいか、ボイド、Aランクってのはな、国中の冒険者の手本となるべき存在なんだ。若い冒険者たちを、導いていく義務があるんだよ。だから、毎年審査をして、それにふさわしいか判断するんだ。
強いだけで務まるほどAランクは甘くねえんだ。それにな、強さで言うなら、お前程度の奴なら、いくらでもいる……」
そう言うと、ゲインズはニヤリと笑ってルートたちを見た。
「へえ、俺くらいの強い奴はいくらでもいるってか? うははは……いいぜ、このギルドに俺より強え奴がいるなら、今後はおとなしく言うことを聞いてやろうじゃないか」
ボイドの言質を取ったゲインズは、満足そうな顔でこう言った。
「と、いうことだが、ブロワー、来た早々すまないが、ちょいとこの若造を締めてやってくれないか?」
「えええっ、ちょ、ゲインズさん、こっちに振らないでくださいよ」
うろたえるルートに、ゲインズが片目をつぶって小さく手を合わせる。
「おいおい、言うに事欠いて、こんな小僧に俺を締めろだって? うははは……面白え、やってもらおうじゃないか」
(はああ……やっぱりこんな流れになるのか……)
ルートはもうあきらめて肩を落とすのだった。
「よし、では訓練場へ行こう。ちょうどよかった、ブロワー、お前の依頼していた者たちも訓練場に集まってもらっているんだ」
ゲインズはにこにこ顔で、先頭に立って裏の出口へと向かって歩き出す。
「ルート、ご苦労さん」
「ん、分からず屋の目を覚ましてやるのも大事な仕事」
「2人とも……楽しんでるだろう?」
ルートの問いに、ジークとリーナは笑いをこらえながら目をそらすのだった。
「おお、《時の旅人》の皆さんだ」
「リーナさんだ、お久しぶりっす」
訓練場に出たとたん、あちこちから挨拶の声が聞こえてくる。
そこには、20人ほどの冒険者たちが雑談を交わしていた。そのほとんどは、かつて民兵団としてルートたちと一緒に戦った仲間だった。彼らに挨拶して言葉を交わしていると、ルートたちの前に大きな体の男たちが現れた。
「ルート殿、リーナ、久しぶりだな」
「ガイゼスさん、それにガル―シさんも、来てくださったんですね」
「ああ、冒険者ギルドから使いの者が来て、ルート殿が我々に力を貸してほしいと依頼を出していると聞いてな。どんな仕事か詳しくは聞いていないが、とりあえず15人ほど戦える者たちを連れてきたのだ」
そこにいたのは、青狼族の族長の息子ガイゼスと、屈強な男たちだった。
「ありがとうございます。助かります」
「おい、いつまで待たせる気だ。やりたくねえなら、今のうちに土下座して謝るこったな」
ルートが頭を下げて礼を言っていると、ボイドのイライラした声が聞こえてきた。
「はあ? 誰だ、あのバカは」
「ああ、ボイドとかいう、最近バルジア海王国から流れてきたAランク冒険者だ」
「へえ、Aランクねえ。で、天狗になって、ルートさんたちに絡んだってわけか」
「そうみたいだな。ご愁傷様って奴?」
どうやら、ルートたちとボイドという冒険者が、ギルマスの立会いの下、ケンカするらしいと聞いた冒険者たちは、楽し気に言葉を交わしながら移動を始めた。
「では、ボイドとブロワーの果し合いを始める。ギルドのルールに従って行う。双方準備はいいな?」
ゲインズの声に、ボイドは自信満々の顔で、ルートはいかにも面倒くさそうに頷く。
「ああ、いいぜ。おい、武器はどうした? まさか、素手でやるのか?」
「ええ、素手でやります」
「うははは……そうか、武闘家(モンク)なのか。じゃあ、さっそく締めてもらおうか。来いや」
「う~ん、そうですね。じゃあ、本当にしめて(・・・)しまいましょうか」
ルートはそう言うと、いきなりボイドの周囲をぐるりと高さ2mほどの結界で囲んでしまった。
「そっちが来ないなら、こっちから行くぜっ、っ!ブッ、ヘブッ」
いきなり全力で駆け出したボイドは、まともに顔面から結界に激突して、よろよろと後ろへ倒れ込んだ。
「……なっ、なにひやぎゃった……な、なんにゃこりゃ……」
鼻から血を流し、唇を切ったボイドは、片手で顔を押さえながら、剣を持つもう一方の手で自分の周囲を囲む透明の檻をガンガンと叩いて回った。
「ええっと、しめて(・・・)くださいということでしたので、閉めました。で、あと、水を入れますので、参ったと思ったら、そう言ってくださいね」
ルートはそう言うと、今度も無詠唱でボイドの頭の上に巨大な水の塊を発現させた。
「ひっ、ひゃ、ひゃめりょ、う、うわああああ……ゴブッ、ウブブブブ……」
結界の中でもがくボイドの姿に、周囲の見物人たちは腹を抱えて笑い転げていた。
「あ、もしかして泳げない? しょうがないなあ」
ルートは、ボイドが上に上がらず溺れそうな様子を見て、結界を解除した。
ザバーッと大量の水が流れ出し、その真ん中にずぶ濡れになったボイドが座り込んでいる。
「ブハッ、エホッ……く、くそが、卑怯な真似をしやがって……」
「卑怯? あなたの中で戦いってどんなものなのですか?」
「そ、それは……」
「あなたが言う戦い方で、もう一度やりますか?」
ルートの挑発に、ボイドは顔を上げ、鋭い目を向けた。まだ、心は折れていないようだ。
「ああ、やってやる。そっちが魔法を使うなら俺も使うぜ。俺はな、魔法剣士なんだ。どっちかって言うと魔法の方が得意なんだよ。俺を怒らせたことを後悔させてやる」
「へえ……じゃあ、僕は魔法を使わずに戦いますよ」
「なっ……ぶっ殺してやるっ!」
ルートの言葉に、ボイドは完全に切れて立ち上がった。
そして、ルートとの距離を取るためにゆっくり歩きながら、密かに口の中で魔法の詠唱をつぶやき始めた。
2人の距離が10mほど離れたところで、ゲインズが改めて合図の声を上げた。
「よし、では果し合いの続きを行う、いいな?……始めっ!」
「うはははぁ、喰らいやがれっ! なっ、何っ?」
ゲインズの合図とともに、ボイドはファイヤーアローの不意打ちを放ったが、その瞬間にルートの姿は消えていた。と、思ったとたん、ボイドの目の前にルートの顔があった。ルートが《加速》を使うことなど、全く予定に入れていなかったのだ。
「残念でした」
ルートの拳ががら空きのボイドの腹に突き刺さる。
「グホオオオォッ……」
ボイドは体をくの字にしたまま、ゴロゴロと3mほど転がって仰向けになった。
ルート、グラムベルを切り開く 3
ボイドはその後完全に戦意を失って、ギルドの職員に肩を貸してもらいながら去って行った。
「お疲れさん。手を煩わせてすまなかったな」
「あ、はい……彼は、なんだか焦っているようでしたね」
ゲインズはルートのつぶやきに、少し驚いたような顔をした。
「ほお、分かるか? さすがだな……俺も詳しいことは聞いてないんだが、向こうのギルドからの報告では、奴はバルジアのとある町で事件を起こして、こっちに逃げてきたらしい。殺しとか、そういう物騒な事件じゃないが、そのせいで向こうにいられなくなったようだな。この街に来たときはBランクだったが、毎日ダンジョンに潜ったり、護衛依頼をやって、つい二週間前にAランクに昇格したんだ」
ゲインズの言葉に、ルートは黙って頷く。自分の強さを確認したかった、裏を返せばそれだけ自分に自信を無くしていた、そんなところか……と、ルートは思った。
「さて、待たせちまったな。皆、こっちに集まってくれ」
ゲインズの声に冒険者たちと青狼族の男たちが移動してきた。
「じゃあ、説明してやってくれ」
ルートは頷くと、30人余りの集団を見回しながら先ずは頭を下げた。
「皆さん、今日は依頼に応じて集まっていただき、感謝します」
ジークとリーナもルートの後ろで頭を下げた。
「では、今回の依頼について簡単に説明します。分からないことがあったら、後で質問してください……」
ルートはそう前置きすると、自分で作った大きな地図を見せながら、リンドバル領への街道から分かれて南への道を新たに切り開くこと、その道はアントネシア山脈を越えて、グリムベルへと続く交易路であることを説明した。
「……そこで、皆さんには、途中の魔物の討伐と切り倒した木の処理などを主にやっていただきたいと思います。以上が説明になりますが、何か質問はありますか?」
説明が終わると、すぐに何人かの手が挙がった。
「はい、奥の人、どうぞ」
「領主様の許可は取れているんだよな?」
「はい、コルテス子爵とリンドバル辺境伯様からの許可はいただいています。お二方とも、大変期待しているというお言葉に加え、資金まで提供してくださいました」
『おおっ』と言うどよめきが起こる。
「では、次の質問どうぞ。はい、そこの人、どうぞ」
「ああ、俺はCランクパーティ《黒狐》のベンスだ。道を作るって話だが、この人数だけでやるなら、何年も掛かるんじゃねえのか?」
「ああ、皆さんに道を作ってもらうわけではありません。少し手伝いはしてもらうかもしれませんが、皆さんにお願いするのは、切り倒した木を移動させたり、魔物や獣が出たときに対処していただきたい、ということです」
「なるほど、道を作る奴らは別に雇っているってことだな?」
ルートは言うのを少しためらったが、誤解を解いておくべきだと判断して、思い切って明かすことにした。
「ええっと、道は僕の魔法で作っていきます」
案の定、大きなどよめきが起こった。
「魔法で作る? そんなことができるのか?」
「いやいや、まさかだろう、そんな話聞いたことがねえぞ」
やはり、疑う声が大半だった。まあ、無理もないことではあったが……。
ジークとリーナが両側で必死にウソではないと弁明してくれたが、疑いが晴れる様子はなかった。
そこで、ルートは実際に目で確かめてもらおうと思い、人々に大声で叫んだ。
「皆さん、静かにしてください。ええっと、魔法で道を作るとは、どういうことか、実際に見てもらいたいと思います。皆さん、こちら側に移動してください」
人々がギルドの建物側に移動すると、ルートはゲインズの方を向いてこう言った。
「ゲインズさん、訓練場の地面を少し掘り返しますが、後で元通りにしますので、許可をお願いします」
「ああ、いいぞ。後はちゃんとしといてくれよ」
ゲインズはあっさり許可を出す。
「はい、ありがとうございます。では、いきます。先ずは、道幅の木や草を切り払います。これに使うのは、風魔法のウィンドカッターです。ごく弱いのを放ちます……こんな感じです……」
ルートは説明しながら、無詠唱でウィンドカッターを放った。それが、魔法の訓練用に設置してあるフルアーマーの人形に当たり、ガシャ~ンという大きな音を響かせた。
冒険者たちがその威力に驚きの声を上げる。
「……木を切り倒したら、次は土魔法を使います。名前はありませんが、まあ、《スクープアップ》とでもしておきましょう。こんな感じです……」
ルートが手を動かすと、前方の訓練場の地面が、いきなりU字型に10mほど抉り取られ、その土が空中を移動して両側に分かれて積み上げられていく。
冒険者たちは、もう口を開いたまま呆然と見守るだけだった。
「……出てきた土は、道の両側に魔物避けの防御壁を作るのに使います。と、まあ、こんな感じですね。お判りいただけたでしょうか?」
ルートの問いに、冒険者たちは目を丸くしたまま、ただコクコクと頷くばかりだった。
♢♢♢
3台の蒸気自動馬車が連なって、コルテス領からリンドバル領へと続く街道を走っていく。先頭は、ルートたちが乗るトラック型、後ろの2台は乗合バス型で、これは『乗合自動馬車協会』(乗合馬車組合が発展統合した)からの貸し切りだ。
「ストーップ」
ルートの声に、先頭を走っていた自動馬車がブレーキを掛ける。
助手席から下りたルートは、地図と辺りの景色を見回して小さく頷いた。
「よし、ここが分岐点だ。皆さ~~ん、着きました、下りてくださ~い」
乗合バス型の車内から、冒険者たちがぞろぞろと下りてくる。
そこはリンドバル領に入ってすぐの道が2つに分かれた場所だった。広い道をまっすぐ進めばリンドバル領の街や村、右のやや狭い道を行けば、青狼族の村へと続いている。
「ここから斜め左のほうへ道を作っていきます。目標は遠くに見える山脈の麓です。予定通りいけば、4日後にあそこへ着けるはずです。みんなで協力して、この大事業をやり遂げましょう」
残念ながら、『おうっ』という掛け声は返ってこなかった。なにしろ、まだそんなことが本当に可能なのか、と誰もが半信半疑だったのである。
だが、いざルートが魔法を使い始めるや、そのあまりの凄まじさに、皆が沸き立ち始めた。
草が生い茂る藪が一瞬のうちに、一直線に30mほど先まで切り払われる。そしてむき出しになった直線状の幅5mほどの地面が、深さ60㎝ほどにきれいに抉り取られていく。森に入ると、先ず直線の範囲に並び立つ巨木が、野菜のようにすっぱり根元から切り倒される。そして、これまでと同じように、大木の根ごと、幅5mの道が切り開かれていくのだった。
「ちょっと休憩にしま~す。30分ほどゆっくり休んでくださ~い」
さすがのルートも、2時間に1回は休憩して、マジックポーションを飲まないと魔力が続かなかった。
「お疲れさま」
リーナとジークが木の根元に座り込んだルートの元にやって来る。
「ありがとう……うへえ、やっぱりこいつは味を何とかしないとまずいな」
リーナが差し出すマジックポーションを顔をしかめて飲みながら、ルートがつぶやく。
想像を超えて 1
「いやあ、噂は聞いていたが、すごいな、あんた。あんな魔法は見たことも聞いたこともないよ」
ルートたちが休んでいる所へ、1人の30代後半くらいの男が、青狼族の面々と一緒に近づいて来た。
「はあ、どうも……」
初めて見る顔だったので、ルートは曖昧な返事をする。
「ああ、名乗るのが遅かったな、すまねえ。俺はピネル・カーリフ。サラディンから来て冒険者をやっている。で、今は青狼族の村で手伝いをしながら米作りを学んでいるんだ」
ピネルと名乗る男は、そう言って人懐っこい笑顔を見せた。
「へえ、米作りを? じゃあ、将来は農業をやるつもりですか?」
ルートは興味を惹かれて尋ねた。
「ああ……いや、今のところは何とも言えねえな。なにしろ、俺の故郷の村は米が作れるほどの水がねえからな……だがよ、あの米の美味さを一度味わったからには、何としても自分で作ってみたいじゃねえか」
「おう、その気持ち、よく分かるぜ。米は美味いからな」
「だよな、あんた、分かってるじゃねえか。ガハハハ……」
同じサラディン人なので、気が合うのか、ジークとピネルは肩をバンバンと叩き合って豪快な笑い声を上げた。
「ピネルさんにはずいぶん助けられていますよ……」
青狼族の族長の息子ガイゼスが、ルートに語った。
それによると、昨年、青狼族が初めて収穫した米が、出来が良くて市場に出荷するや、思いがけないほど高値が付いた。その噂を聞きつけた商人や周辺の若者たち、冒険者たちが青狼族の村に大量に押しかけ、一時はパニック状態になったらしい。だが、その時、冒険者の中の1人の男が、青狼族と人間たちの間に入って調整役を始めた。それがピネルだった。
「……おかげで、商人たちに騙されることもなく、水田を広げる人手も確保できて、今年は昨年の倍以上の収穫を上げることができましたよ」
そう言って嬉しそうに笑うガイゼスや青狼族の男たちを見て、ルートの心も温かいものに満たされた。横に座ったリーナを見ると、彼女も嬉しそうにルートに微笑んでいた。
「ピネルさん、僕からもお礼を言います。青狼族の村は僕の大切な人の故郷なので……どうもありがとうございます……えっと、話は変わるんですが、僕からピネルさんに1つ提案があるんですが……」
ルートは、頭にひらめいた考えを口にした。
「お? 何だい、良い話か?」
「……答えを出すのはいつでも構わないのですが、これから道を切り開いた先には、グリムベルという、現在開拓中の広大な土地があるんです。そこの開拓責任者は、一応僕になっているんですが、ルーティアという港もあって、その港からサラディン王国までは、目と鼻の先の距離なんです……」
ピネルは、ルートが何を言いたいのか見当がつかず、眉間にしわを寄せて首をひねっている。
「……それで、もしよかったら、グリムベルで米作りをやってみませんか? 水田はすでにある程度できていますし、川も流れていて、下流にはまだ未開拓の土地が広がっています。サラディンに米を出荷するという夢に挑戦してみてはどうか、と……」
ピネルは呆気にとられた顔でしばらくルートを見つめていたが、やがてポリポリと頬をかきながら、視線を落として口を開いた。
「ああ、その、なんだ……急な話で、まだ頭がうまく回らねえけどよ……悪い話じゃねえ、うん、悪くねえ……まあ、ちょっと考えさせてくれ」
「はい、よく考えてみてください」
ルートはそう言うと、ゆっくり立ち上がった。
「さて、じゃあもうひと頑張りしましょうか。皆さ~ん、昼食までもう少し仕事を進めたいと思いま~す」
あちこちから「おうっ」という返事が、今度ははっきりと返って来た。
♢♢♢
グリムベルへの貫通道路建設は、天候にも恵まれて順調に進んだ。
ルートが切り倒した木を、男たちが枝を切り落として脇に積み重ねていく。この木は、いずれルートが、《ある計画》を実行するときまで乾燥させておくのだ。
男たちが木の処理を終えるまでの間、ルートは切り開いた道の路面と側面を魔法で平らにならし、余った土を使って2mほどの高さの防壁を両側に作っていく。もちろん、これだけでは大型の魔物を防ぐことができないので、帰るときに防壁の上部に《防御結界》を張る予定である。やり方は、冒険者になってすぐの頃、西の農園で作ったものと同じだ。
途中、何度か魔物に遭遇したが、冒険者や青狼族の男たちが強すぎて瞬殺だった。猪や鹿など、魔物以外の野獣も豊富で、食糧問題も良い意味で予想外だった。
そして、工事が始まって4日後の昼近く、予定通りついにアントネシア山脈の一番低い谷の麓に到達したのだった。
誰もが疲れているはずだったが、一刻も早く山脈の向こう側、グリムベルの大地を見たいということで、全員元気に岩山を登って行った。
「うおおおっ……すげえええ!」
「……こ、これが、グリムベル……」
一番最初に峠の頂上に走り上がった冒険者たちが、感動の叫びをあげて両手を突き上げた。
ルートも息を切らしながら、はやる心を抑えて、ついに最後の岩場を登り切った時、まぶしい太陽の光とともに目に入って来た光景に、ルートはしばし言葉を失くし、眼下を見つめ続けた。そこには、予想を超えた景色が広がっていた。
足元の山の麓から、台形状に遠くへ広がっていく広大な平野。遥か彼方には輝く大海原が緩やかな弧を描いて青い空と接している。
手前から平野の中ほどまでは、日差しに輝く広葉樹の森が続いていたが、その先には美しく整地された農地が広がっている。そして、何よりルートを驚かせたのは、左右の険しい山の斜面に、整然とした果樹園が段々畑状に続いていることだった。
「ジャンたちは、本当に頑張っているんだなあ……」
ルートは圧倒的な景色に感動しながら、教え子たちのことを感慨深く思い出していた。
想像を超えて 2
「とにかく、今日中にあそこに見える砦まで、道を通しましょう」
ルートは岩の上に上って、そこにいる男たちに遠くに見える砦を指さして叫んだ。
(砦の名前『ルーティア・グリムベル』は恥ずかしくてあえて言わなかった)
「「「「おうっ」」」」
男たちは、グリムベルの実際の風景を見て一層やる気を起こしたようであった。
ルートは周囲の地形を観察しながら、地図を取り出して一本の線を引いた。そして、決意したように頷くと、全員に大声で叫んだ。
「皆さ~ん、さっきの道の続きから、この下にトンネルを掘ります。こういう方向です」
ルートの声に、驚きとも悲鳴ともつかぬ声が上がった。
「えええっ、ト、トンネルゥ~?」
「無茶言わないでくれ~~」
ルートは慌てて話の続きを叫ぶ。
「ええっと、ご心配はいりませ~ん……トンネルは僕が作ります。皆さんは峠の向こう側に移動して、待機していてくださ~い」
その言葉に、またもや驚きの声が上がるが、もうルートは無視してリーナの側に行った。
「リーナ、僕がトンネルを掘るから上から音を聞いててくれ。方向がずれたら教えて欲しいんだ。それと、出口で皆が巻き込まれないように注意してやって欲しい」
「ん、分かった。任せておいて」
リーナの言葉に頷くと、ルートは愛用のカバンを肩にかけて道の方へ下りて行った。
「さてと、やりますか」
ルートは1つ気合を入れると、切り開いてきた道の最先端に立って両手を前に突き出した。薄緑色の光がルートの両手を包み始める。
すると、前方の切り立った崖が、今度は道とは逆に「逆U字型」に抉られていく。さらに出てきた土はすぐさまボード状に固められ、左右、そして上部へと積み重ねられ、接合されていった。グランベルの港を造成するときも使われ、これまで多くの建築物を造り上げてきた、ルートお得意の《建築創造魔法》の真骨頂である。
「はああ……何度見ても未だに信じられねえ。すげえな、お前の魔法は……」
万が一のため、ルートの側に付き添っているジークが感嘆の声を上げる。
「おお、早い……もうこんな所まで来た」
峠に続く岩の多い斜面で、前かがみになって耳を澄ませているリーナが移動しながらつぶやく。
ルートが作業を始めてからやがて1時間が過ぎようとしたとき、リーナが峠の向こう側で休憩していた男たちに叫んだ。
「皆ぁ~、この下から離れてっ!」
男たちがその声に、リーナが立った崖の側から左右に移動して間もなく、小さな地響きとともに崖の下にぽっかりと大きな穴が開いた。
「うひゃああ、本当にトンネルが貫通しちゃったぜ」
「はあああ、しかも何だこりゃ? 周りの壁が……」
男たちは急いで崖の下に駆け下りて中を覗き込み、そして絶叫した後、絶句した。
「やれやれ……ちょっと水が出てきて、処理に少し手間取りました」
絶句した男たちの前に、トンネルの奥からそんなことをつぶやきながら、まだ童顔の若者が出てきた。その後ろから、やや疲れた顔の大男が続いて出てくる。
冒険者たちの中には、魔法が使える者も多くいた。そんな彼らから見たら、15歳の若者が使った魔法は想像さえできないほどのものだった。もちろん、魔法が使えない者にとってはなおさらである。
「ええっと、予定では皆さんにはここまでで仕事を終わってもらうつもりでしたが、どうでしょう、追加の給料をお支払いしますので、この先の砦までお手伝いお願いできませんか?」
「おっしゃあ、金さえもらえれば喜んでやらせてもらうぜ」
男たちは満場一致で了承した。
こうして、再びルートたちによる道路づくりの行進が始まった頃、ルーティア・グリムベル砦の見張り番の兵士が、慌てた様子で横で転寝をしている仲間の兵士を足で突いていた。
「お、おいっ、ニック、起きろっ、大変だ、おいっ」
「う~~ん、なんだよぉ」
「も、森が……大型の魔物かもしれんぞ」
「はあ? そんな馬鹿な。森にはブラックベア以外の大型魔物はいないはずじゃ……」
同僚の兵士ものろのろと起き上がって、森の方に目を向け、そして唖然となった。
「な、何だありゃあ……」
2人の兵士が見たのは、彼方のアントネシア山脈の麓から、こちらに向かって一直線に伸びる道のようなものと、森の木々が次々に倒れていく様子だった。
砦の鐘が激しく打ち鳴らされ、砦の中や外の農地で働いていた者たちは急いで砦の中央広場に集まって来た。遠い港で働いていた者たちも、仕事を途中でやめて、全員武器を持ち自動馬車に乗って砦へ急行した。
「何があったんですか?」
砦の本部で事務の仕事をしていたジャン・バードル、クレア・シャンペリエ、フラン・セラーノの3人が、砦の屋上に駆け上がって来て、森の方を監視している兵士たちに叫んだ。
「おお、ジャンか。こっちに来てみるがいい。あはは……腰を抜かすなよ」
開拓団の現団長であるオルスト・ガロアが、何やら楽し気に笑いながらそう言った。
ジャンたちはいぶかしげな顔で、屋上の端まで行き、ガロアが指さす方向に目を凝らした。
「えっ? な、何ですか、あれ……?」
「……もしかして、道? 大勢の人たちが見えるわ」
「どんどん木が倒れてる……あんなことができるのは……」
3人は顔を見合わせて、その答えを口にする前に、砦の下の方から甲高い少女の声が聞こえてきた。
「おおいっ、確めて来た、間違いないぞ、ブロワー先生たちだ!」
早くも斥候として数人の兵士たちと森に入っていたエリス・モートンの声だった。
♢♢♢
「まったく……先生には驚かされっぱなしですよ。まさか、道を作って来るなんて、誰が考えますか?」
「そうですよ。来るなら前もって連絡しておいてください。心臓に悪いです」
ジャンやエリスたち、元ルートの教え子たち6人は、ルートを囲んでさんざん文句を言ったが、その顔はいずれもにこやかだった。
ルートたちを迎えたルーティア・グリムベルの砦は、急遽広場を使った昼食会という名の宴会に大いに盛り上がっていた。
「でも、この半年間、皆本当によく頑張っていたんだね。山の峠から見た時驚いたんだ。水田だけだった平野が、ずいぶん広がって、いろいろな作物が栽培されているのが分かったし、
両側の山の斜面もきれいな果樹園になっているし、感動したよ」
ルートは胸を熱くしながら、1人1人のたくましく日焼けした顔を見ながらそう言った。
周囲の賑やかな騒ぎの中で、ルートと教え子たちの周りは静かに満ち足りた微笑みに包まれていた。
「ああ、皆よく頑張っているぜ。毎日汗だくで泥まみれになってな……」
ガロア準男爵がワインのジョッキを片手に、6人にまるで自分の子供のような優しい眼差しを向けながら言った。
「皆のお陰ですよ……それに、僕たちには明確な目標がある。そして、頑張ればその目標に近づいているのが目に見えて分かるんです。こんなに充実した毎日はありません」
ジャンが目を輝かせて言った。
「ええ、ほんとに毎日時間が足りないくらいですわ。先生、私、以前より格段に強くなったと自負しておりますわ。いつか、もう一度先生と手合わせをして、勝って見せます」
エリスが日焼けした顔に屈託のない笑顔を浮かべてそう言った。
「先生、先生、ほら、ここから見える右手の山が僕のコーヒー農園で、反対の左手側に山がショーンのオリーブ農園ですよ。収穫は当分先ですが、きっと、王国一のコーヒー産地にしてみせますよ」
ひ弱だったアルスが、たくましくなった腕を見せながら宣言した。
「俺だって負けないさ。それに食用のブタも飼育しようと考えているんです」
すっかり自立心を身に着けたショーンが、大人びた表情で応じた。
「私とフランは、下流の平野部を分け合って米や小麦、野菜を作っています。と言っても、力仕事は、他の人に任せっきりで申し訳ないんですけど。
その代わり、移住者の受け入れや働き先の振り分け、あと、外部からの商人や訪問者との交渉などを中心にやっています」
クレアとフランが頷き合いながら、ルートに説明した。
「彼女たちには助けられていますよ。我々は戦闘や警備が専門でしたからなあ。力仕事はお手のもんですが、事務関係は苦手でして……あははは……」
「移住者はけっこういるんですか?」
ルートの問いに、ガロアは笑顔のまま頷いた。
「ええ、この半年で60人近く入って来ました。サラディン王国からが多いですが、ハウネストやバルジアからも何人か来ています」
「それはよかった……ずっと住み着いてもらえるといいですね」
「ええ……我々開拓兵団の契約は2年で切れますからな。それまでにたくさんの人が来てくれるとありがたいです」
ガロア準男爵の表情が初めて少し曇ったが、ルートは彼を安心させるようにこう言った。
「それについては、たぶん解決できると思いますよ」
準男爵も、ジャンたちもそれを聞いて真剣な顔で身を乗り出してきた。
「先生、もしかして、あの道に関係が?」
ショーンの問いに、ルートはニヤリと微笑んで頷く。
想像を超えて 3
ルートは、周囲を囲んだ元生徒たちや開拓団の人たちを見回しながら自分の構想を語り始めた。
「実は、あの道は普通の道じゃなくて、《鉄道蒸気機関車》を走らせるための道なんだ……」
周囲の者たちは、まったく理解できない様子でじっとルートを見つめたままだ。
「……ああ、ええっと、蒸気自動馬車は皆も知ってるよね?」
周囲の者たちは、こくこくと頷く。
「動く理屈はあれと同じなんだけど、もう少し大きな動力で、幾つもの荷車を牽いて、車輪が鉄で、2本の鉄の道の上を走る……ええっと、簡単に絵を描くね」
ルートは、誰もが首をひねっている様子を見て、苦笑しながら地図を取り出し、その裏に鉛筆で鉄道貨物列車の簡単なイラストを描き始めた。
「……こんな感じかな」
ルートが絵を見せると、ガロア準男爵から順番にその絵を回し見していく。
「なるほど、大体のところは分かりましたが、なぜ、鉄の道の上を走らせるんですか? 蒸気自動車のようにタイヤで走らせればいいと思うのですが……?」
エリスの問いに、他の者たちもうんうんと頷く。
「ああ、それはね、ほら、こうやって幾つもの荷車を牽かせるだろう? つまり、たくさんの荷物や人を乗せて走ることになる。つまり、とても重いっていうことだ。もし、雨が降って道が軟らかくなったら、どうなると思う?」
「あ、そうか、重いと道が凹んで、タイヤが埋まってしまうかも」
アルスの言葉にルートがにこりと微笑んで頷く。
「そういうことだ。もちろん、道を石畳のようにすればタイヤでも良いんだけど、すごく手間がかかるだろう(まあ、自分ならそれも不可能ではないが)?
それに、鉄の道と鉄の車輪だと《摩擦》が少ないから、重い車でもある程度の力があれば動かすことができるし……それに、何と言っても、この2本の鉄の道さえあれば、つないでいけばどこまでも行けるんだ。ロマンじゃないか?」
「おお、ロマンですよ、絶対っ!」
ロマンチストのショーンが興奮して叫んだ。周囲からなごやかな笑い声が起きる。
「その鉄道蒸気馬車は、いつ頃完成するんですか?」
クレアの問いに、ルートは頷いてしばらく下を向いて考えていたが、やがて顔を上げて答えた。
「いろいろ準備がいるから、基礎工事を始めるのは冬休みからだとしても、完成するのは来年の夏くらいになるかな」
「いや、十分早いですよ。ということは、来年の収穫から、市場への輸送が可能だということですね?」
ガロア準男爵の問いに、ルートはしっかりと頷く。
「それは必ずできると約束します」
周囲からは歓声が上がり、ジャンたちも喜びに目を輝かせるのだった。
こうしてまた、希望の開拓地《グリムベル》に新たな希望の種が蒔かれた。しかも、それは誰の想像もはるかに超えた、力強い希望の種だった。
♢♢♢
グリムベルの人々に見送られながら、ルートと34人の男たちは切り開かれた道を引き返していった。
その途中、ルートは時々立ち止まって、何かこそこそと魔法を使った作業をしていた。
「お~い、ブロワーさん、そろそろ日が暮れちまう。森を早いとこ抜けようぜ」
先の方を歩いていた男たちが、後ろを振り返って叫ぶ。
「は~い、すみませ~ん、先に行ってキャンプの準備をしてもらえますか~?」
「おう、分かった、気をつけてな~」
ルートは男たちに手を振って、再び作業に戻る。
「これは、雨水を外に出す奴か?」
リーナとジークはルートの側で、彼の作業を興味深く眺めている。
「ああ、そうだよ。こっちの森の低い方へ流せば、自然に川に流れ込むからね。ただ、かなり穴を大きくしないと泥や落ち葉が詰まってしまうから、結構手間がかかるよ」
ルートはそう言いながらも、魔法で手早く溝と排水用の穴を作り、トンネルと同じ要領で穴の中を硬いブロックで補強していく。
そうやって約30mごとに排水溝を作る一方で、さらにルートは、道路の両側に防御壁を作り、魔石をその壁に埋め込んで壁の上に結界を張っていった。
「ねえ、上から襲ってくる魔物って、どんなのがいる?」
ルートは険しい顔で上の方を見ながら、2人に質問した。
「上から? そうだな……俺が知っているのは、ケイブバットの仲間、ロック鳥、ワイバーン、あとはめったにいないが、ドラゴンやグリフォンくらいかな」
「ん、伝説ではハルピュイアとかペガサスとか。シルフィーも空から攻撃する」
「なるほど、カラドリオスか……まあ、ドラゴンやグリフォンなんて、めったに来ないだろうけど、ロック鳥やワイバーンへの対策は必要かな」
「ルートがさっきからやっているのは、結界魔法?」
リーナは西の農園でルートが結界を作る現場を見ていたので、彼が何をしているかが分かった。
「うん。ただ、上がガラ空きなんだよね」
「大丈夫。普通の道より安全」
「そうだぜ、ルート。贅沢を言えばきりがねえってもんだ」
3人はそんな話をしながら、森の外れでキャンプの準備をしている男たちに合流した。
今回のグリムベル訪問は、ルートが予想していたより多くの収穫をもたらした。
何より、開拓団の士気が依然として高く、予想以上に開拓の成果が上がっていたことが嬉しかった。これは、ルートが十分な基礎を作っていたことが大きな要因だったが……。
そして、周辺諸国にも少しづつこの開拓地の情報が広がっていることも喜ばしいことだった。移住者の多くは、今の所、一旗揚げようという独身の若者や単身出稼ぎの男たちだったが、家族連れの移住者も何組かいた。出身地は、一番近いサラディン王国の者が多かったが、ハウネスト聖教国やバルジア海王国、西のトゥ―ラン国から来た人たちもいたのだ。
来年の夏鉄道が開通すれば、物資の往来もさることながら、多くの人々がグリムベルを訪れることになるだろう。そして、あの豊かで自由な土地に移住したいと思う人もたくさん出てくるだろう。
ジャンたちが、領主として独り立ちできるのに最低でも5年はかかるだろう、と考えていたルートだったが、この分だと3年ほどで目途が立つかもしれない、と思うようになっていた。
「なあ、ブロワーさん、鉄道とやらの工事をするときには、また俺たちを使ってくれないか」
4日目のキャンプの夜、数人の冒険者たちがルートたちのもとへ来て、そう言った。
「はい、それはこちらからお願いしたいことですよ。また、コルテスの冒険者ギルドに依頼を出しますから、ぜひ来てください」
ルートの言葉に、彼らはハイタッチをしてお互いに喜び合った。
「それなら、俺たちも雇ってくれ」
「募集はいつからだい?」
周囲で話を聞いていた男たちが続々と集まって来た。
「ルート殿、我らも当然お手伝いをさせてもらうぞ」
青狼族の男たちもやる気満々だった。
「ガイゼスさんまで……あはは……ありがとうございます。まだ、はっきりとした予定は言えませんが、ちょうど田植えが終わって手が空いた頃からになると思います。皆さん、またよろしくお願いします」
男たちは、威勢のいい『おうっ』という声を上げて応えた。
彼らにしてみれば、さほど危険がなく、しかもタイムズ商会という信用できるバックがあり、高賃金とくれば、これほど魅力的な仕事はない。さらに言えば、彼らは是が非でも、世界初の《蒸気鉄道貨物列車》が走る姿を見たかったし、その世紀の偉業に関わりたかったのである。
5日目の朝、グリムベルの風景に別れを告げ、ルートは再び峠のトンネルを通ってリンドバル領に入った。
「これで、よしっと……」
トンネルの出口を魔法を使っていったん塞ぐ。魔物や盗賊がトンネルを利用するのを防ぐためだ。もちろんグリムベル側も塞いであった。
すでに冒険者たちや青狼族の男たちは、先に帰路についていた。明日の夕方までには出発地点に到着しているだろう。
ルートたちは、排水口や防御結界を作成しながらなので、帰り着くまでにあと2日は必要である。予定より1日長くなってしまったが、満足の行く結果だった。
「ねえ、ルート、シルフィーたちと遊びたい」
ルートの作業を見ていたリーナが、不意にそう言った。
「ああ、そうだね、すっかり忘れてたよ、あいつらを遊ばせるのを」
ルートは肩掛けバッグの中から、リム、ラム、シルフィーたちを外に出してやる。バッグの中は収納空間なので時間の経過は無い。だから、従魔たちが退屈するということはないのだが、やはり外に出るのは彼らにとっても嬉しいようだった。
「ようし、じゃあ、今夜の晩飯でも狩りに行くか」
実は一番退屈していたジークが、いかにも嬉し気に叫ぶのだった。
スノーデン商会による原料の買い占め騒ぎは、結果的にはタイムズ商会にほとんど影響を与えなかった。逆にスノーデン商会は、事件後タイムズ商会との取り引きが停止になり、その話を聞いた多くの商会からも軒並み取引の停止あるいは縮小を宣告され、大損害を被ることとなった。
裏で糸を引いていたコーエン子爵は、ボース辺境伯からの信用を失い、爵位剥奪とまではいかなかったが、現役職から降ろされ、男爵に降爵して国境の小さな町の租税係に左遷されることになった。
ただ、ルートは今回の事件の教訓として、商品の原材料をできるだけ自前で調達できるようにすべきだと考えるようになった。契約している農家や商人は多くいるが、今回のように
外部の悪意や脅迫を受ければ、逆らえない状況も出てくるからだ。
「っ!……はああ? 何だって?」
「いや……だから、グリムベルへ行こうと……」
ルートから突然、グリムベル開拓地への同行を頼まれたジークは、驚きと戸惑いに言葉を失くした。
「グ、グリムベルって、お前、船で何週間もかかるっていう、あの南の果ての辺境地のことだよな?」
「うん、そのグリムベルだよ。確かに船で行けば何週間もかかるけど、直線距離でいうと、そんなに遠くないんだ。ほら、この地図を見てよ」
「待て待て待て……直線距離って、お前、間に山脈や未踏の大森林が……」
ジークは必死に混乱する頭を振りながら、にこにこ微笑んでいるルートのもとへ近づいていく。
そこへ、コーヒーとクッキーの乗ったトレイを抱えて、リーナが部屋に入って来た。
「ジーク、どうしたの? 大きな声出して……」
「おう、リーナ、聞いてくれよ。ルートの奴が、また突拍子もないことを言い出したんだ」
「へえ、どんなこと? 面白そう?」
リーナは楽し気な声でそう言うと、テーブルに広げられた地図の傍らにトレイを置いた。
「グリムベルだぞ、グリムベル……いったい、何の旅行なんだよ?」
「まあまあ、落ち着いて、ジーク。旅行じゃないよ。大事な仕事なんだ」
ルートは、ジークとリーナを見回しながら説明を始めた。
「……という理由さ。まだ未開の土地はたくさんあるはずだ。そこを切り開いて、うちで必要な作物を作ってもらう。どうだい?」
ルートの話を聞いて、リーナは頷いて納得していたが、ジークは小さく頭を振って難しい顔をしていた。
「話は分かった。確かに、今回のようなことが起きないように、原料を自前で作るっていうのは、俺も賛成だ。そして、領地を持たない俺たちにとって、グリムベルが魅力的な土地だってこともな……しかしなあ、コスト的に大問題だろう? 輸送にかかる費用と日数を考えれば、近場で誰かに委託した方が安全じゃないか」
副会長として商会を切り盛りしてきた経験から、ジークの言葉には重みがあった。
「うん、確かにジークの言う通りだよ。ただ、今回のように外部からちょっかいを出される危険はなくならない。そこで、グリムベルからの輸送コストの問題さえ解決すれば、それがベストになる、と考えたんだ」
ルートが説明した後、にこやかな笑顔を見せていることに、ジークは嫌な予感がして、リーナはワクワクして、ルートをじっと見つめた。
「……ああ、ええっと……参考までに、その解決法を聞いていいか?」
ジークが恐る恐る尋ねた。
「うん。じゃあ、2人ともこの地図を見て……」
ルートは楽し気な様子で、テーブルに広げられた地図を指さした。
その地図は、ルートたちが住むグランベーダ大陸全体の地図だった。
「ここが、ポルージャで、ここがコルテスの街だ。グリムベルはここだね。本来なら、ここへ行くにはガルニア侯爵領のラークスの港まで行って、そこから船に乗り、南回りでサラディン王国の周囲を廻って、このルーティアの港へというコースになる。その距離は約5400km、片道18日の行程だ」
ルートはそこで言葉を切って、ジークとリーナを代わるがわる見た後、指先をすーっとコルテスの街に戻した。
「でも、ここからリンドバル辺境伯領に入って、この森を抜け、アントネシア山脈の端のこの谷を通れば、直線距離で約360㎞、自動馬車なら2日あれば余裕で行ける」
「おお、確かに……」
「いやいや、リーナ、感心している場合じゃないぞ。あのな、さっきも言ったが、確かに直線で行けばそりゃあ短いだろうさ。だが、見ろよ、ここは未開の大森林、ここは大山脈の根元だ、もちろん自動馬車も使えねえ。歩いていけば、それこそ、何週間もかかるし、どんな魔物がいるかも分からん。いったいどうやって……」
ジークはまくし立てながら、ルートの表情をうかがっていたが、相変わらずにこやかなその表情に、ピンとひらめくものがあった。
「ま、まさか、お前、魔法でどうにかしようと……?」
「うん、僕が道を作っていくつもりだよ」
ジークはそれを聞くと、大きなため息を吐いて頭を抱え込んだ。
「はああ……やっぱりそうか……」
「すごい、見てみたい。どうやるの?」
リーナはクッキーを手に、目を輝かせながらルートに尋ねる。
「う~ん、難しい話じゃないよ。木を切り倒しながら、土魔法で道を作っていくだけの単純な作業だね。ただ、木を処理したり、魔物や野獣の対応に人を雇う必要はあるだろうね」
「はは、は……簡単に言ってくれるぜ。まあ、ルートだからな……」
「ん、ルートならできる。あたしも手伝う」
♢♢♢
こうして、誕生日から6日後、ルートたちはトラック型の自動馬車に乗って、コルテスの街に向かっていた。
学園は期末試験が10日後に始まる予定だったので、ルートはそれに間に合うように1週間の休暇を申請した。ところが、リーフベル所長は、その申請を受け取った後、ルートを呼び出してこう言った。
「グリムベルに行くなら、ついでに元教え子たちの様子を見てくるがよい。よって、今回は休暇ではなく、出張扱いとする。これは、前払いの出張手当じゃ。これで、彼らに美味い物でも持って行ってやれ」
彼女はそう言うと、皮袋をルートに手渡した。後で確認すると、中には出張手当としては破格の金貨20枚ほどが入っていた。リーフベル先生の優しさに感動しながら、ルートはその金でジャン・バードルをはじめ、5人の元学園生たちへの挿し入れの品々を大量に購入したのだった。
コルテスの街に着いたルートたちは、まず冒険者ギルドに向かった。
「おお、すごい賑わいだな」
ドアを開いて中に入った途端、その熱気と騒がしさに3人は圧倒された。
コルテスの冒険者ギルドは相変わらず賑わっていた。
ルートがダンジョンマスターである《毒沼のダンジョン》のおかげだ。鉱山でもあり、適度な深さと適度な魔物、ドロップアイテムも時々スペシャルな物が手に入るとあって、各地から冒険者たちがひっきりなしに集まって来ていたのである。
「あん? 見ねえ顔だな。新人か?」
たむろしていた大勢のむさい男たちの中から、1人の背の高い男がそう言いながら3人に近づいて来た。
(おやおや、久しぶりのテンプレ発動かな?)
ルートは心の中で苦笑しながら、近づいてくる赤いツンツン髪の男に目をやった。
ルート、グリムベルを切り開く 2
赤いツンツン髪で背の高い男が、ルートたちに近づくと、周囲の冒険者たちはとたんにおしゃべりをやめて、ロビーは静まり返った。
「あっ、まあ、《時の旅人》の皆さん、お久しぶりです。ようこそ、コルテスへ」
一触即発寸前の場面で、若い女性の声がロビー中に響き渡った。
その声の主は、自分の前に並んだ冒険者たちを無視して、受付のカウンターから飛び出してきた。
「レミアさん、お久しぶり。お元気そうで何よりです」
「はい、おかげさまで。ふふ……ご依頼の件ですね? どうぞこちらへ」
コルテスの冒険者ギルドのナンバーワン受付嬢のレミアは、そう言うと、呆気にとられた大勢の冒険者たちを尻目に、ルートたちを奥へ案内しようとした。
「おい、ちょっと待てよ、レミア。受付に並んでいる俺たちをほったらかしにして、何でそいつらを優先してんだ、ああ?」
ツンツン髪は、自分が無視されたことと、どうやらレミアがルートたちと親しいことの両方が気に障ったようで、凄みを効かした声で文句をつけた。
「受け付けなら他にもおりますので、どうぞそちらへお並びください。こちらは、当ギルドにとって最優先のご依頼主の方々ですので。さあ、行きましょう、ルートさんたち」
「待てと言ってるだろうがっ! 目の前でそんな差別をされたんじゃ、黙っていられるか、そうだろう、みんな?」
ツンツン髪の声に、多くの男たちが野太い声で『そうだ、そうだ』と応じる。
レミアがうんざりした顔でため息を吐いたとき、2階の階段の方から低く落ち着いた声が聞こえてきた。
「何を騒いでいる? ん? またお前か、ボイド……先日注意したばかりだが、よほどギルドを追放になりたいようだな?」
「はん、うるせえよ。Aランクの俺様を追放できるもんならするがいいさ」
ボイドという名のツンツン髪の言葉を聞いた、このコルテスの冒険者ギルドのギルドマスター、エルアルド・ゲインズは、普段の穏やかな形相を一変させた。
「ほお、舐めた口をきくじゃないか、小僧。お前、Aランク以上は毎年審査があるのは知っているよな? 査定基準は、受けた依頼内容、業績、そしてもう1つは何か、言ってみろ」
「ああ、知っているぜ。人間性って奴だろう? はっ、だから何だよ? 冒険者ってのは、実力があってなんぼの世界だろうが。人間性なんて、よほどの悪党でなけりゃ、関係ねえんだよ」
ゲインズはため息を吐いて、憐れむような目でボイドを見つめた。
「はあ……だから、こんな若造を昇格させるのは間違いなんだよ。いいか、ボイド、Aランクってのはな、国中の冒険者の手本となるべき存在なんだ。若い冒険者たちを、導いていく義務があるんだよ。だから、毎年審査をして、それにふさわしいか判断するんだ。
強いだけで務まるほどAランクは甘くねえんだ。それにな、強さで言うなら、お前程度の奴なら、いくらでもいる……」
そう言うと、ゲインズはニヤリと笑ってルートたちを見た。
「へえ、俺くらいの強い奴はいくらでもいるってか? うははは……いいぜ、このギルドに俺より強え奴がいるなら、今後はおとなしく言うことを聞いてやろうじゃないか」
ボイドの言質を取ったゲインズは、満足そうな顔でこう言った。
「と、いうことだが、ブロワー、来た早々すまないが、ちょいとこの若造を締めてやってくれないか?」
「えええっ、ちょ、ゲインズさん、こっちに振らないでくださいよ」
うろたえるルートに、ゲインズが片目をつぶって小さく手を合わせる。
「おいおい、言うに事欠いて、こんな小僧に俺を締めろだって? うははは……面白え、やってもらおうじゃないか」
(はああ……やっぱりこんな流れになるのか……)
ルートはもうあきらめて肩を落とすのだった。
「よし、では訓練場へ行こう。ちょうどよかった、ブロワー、お前の依頼していた者たちも訓練場に集まってもらっているんだ」
ゲインズはにこにこ顔で、先頭に立って裏の出口へと向かって歩き出す。
「ルート、ご苦労さん」
「ん、分からず屋の目を覚ましてやるのも大事な仕事」
「2人とも……楽しんでるだろう?」
ルートの問いに、ジークとリーナは笑いをこらえながら目をそらすのだった。
「おお、《時の旅人》の皆さんだ」
「リーナさんだ、お久しぶりっす」
訓練場に出たとたん、あちこちから挨拶の声が聞こえてくる。
そこには、20人ほどの冒険者たちが雑談を交わしていた。そのほとんどは、かつて民兵団としてルートたちと一緒に戦った仲間だった。彼らに挨拶して言葉を交わしていると、ルートたちの前に大きな体の男たちが現れた。
「ルート殿、リーナ、久しぶりだな」
「ガイゼスさん、それにガル―シさんも、来てくださったんですね」
「ああ、冒険者ギルドから使いの者が来て、ルート殿が我々に力を貸してほしいと依頼を出していると聞いてな。どんな仕事か詳しくは聞いていないが、とりあえず15人ほど戦える者たちを連れてきたのだ」
そこにいたのは、青狼族の族長の息子ガイゼスと、屈強な男たちだった。
「ありがとうございます。助かります」
「おい、いつまで待たせる気だ。やりたくねえなら、今のうちに土下座して謝るこったな」
ルートが頭を下げて礼を言っていると、ボイドのイライラした声が聞こえてきた。
「はあ? 誰だ、あのバカは」
「ああ、ボイドとかいう、最近バルジア海王国から流れてきたAランク冒険者だ」
「へえ、Aランクねえ。で、天狗になって、ルートさんたちに絡んだってわけか」
「そうみたいだな。ご愁傷様って奴?」
どうやら、ルートたちとボイドという冒険者が、ギルマスの立会いの下、ケンカするらしいと聞いた冒険者たちは、楽し気に言葉を交わしながら移動を始めた。
「では、ボイドとブロワーの果し合いを始める。ギルドのルールに従って行う。双方準備はいいな?」
ゲインズの声に、ボイドは自信満々の顔で、ルートはいかにも面倒くさそうに頷く。
「ああ、いいぜ。おい、武器はどうした? まさか、素手でやるのか?」
「ええ、素手でやります」
「うははは……そうか、武闘家(モンク)なのか。じゃあ、さっそく締めてもらおうか。来いや」
「う~ん、そうですね。じゃあ、本当にしめて(・・・)しまいましょうか」
ルートはそう言うと、いきなりボイドの周囲をぐるりと高さ2mほどの結界で囲んでしまった。
「そっちが来ないなら、こっちから行くぜっ、っ!ブッ、ヘブッ」
いきなり全力で駆け出したボイドは、まともに顔面から結界に激突して、よろよろと後ろへ倒れ込んだ。
「……なっ、なにひやぎゃった……な、なんにゃこりゃ……」
鼻から血を流し、唇を切ったボイドは、片手で顔を押さえながら、剣を持つもう一方の手で自分の周囲を囲む透明の檻をガンガンと叩いて回った。
「ええっと、しめて(・・・)くださいということでしたので、閉めました。で、あと、水を入れますので、参ったと思ったら、そう言ってくださいね」
ルートはそう言うと、今度も無詠唱でボイドの頭の上に巨大な水の塊を発現させた。
「ひっ、ひゃ、ひゃめりょ、う、うわああああ……ゴブッ、ウブブブブ……」
結界の中でもがくボイドの姿に、周囲の見物人たちは腹を抱えて笑い転げていた。
「あ、もしかして泳げない? しょうがないなあ」
ルートは、ボイドが上に上がらず溺れそうな様子を見て、結界を解除した。
ザバーッと大量の水が流れ出し、その真ん中にずぶ濡れになったボイドが座り込んでいる。
「ブハッ、エホッ……く、くそが、卑怯な真似をしやがって……」
「卑怯? あなたの中で戦いってどんなものなのですか?」
「そ、それは……」
「あなたが言う戦い方で、もう一度やりますか?」
ルートの挑発に、ボイドは顔を上げ、鋭い目を向けた。まだ、心は折れていないようだ。
「ああ、やってやる。そっちが魔法を使うなら俺も使うぜ。俺はな、魔法剣士なんだ。どっちかって言うと魔法の方が得意なんだよ。俺を怒らせたことを後悔させてやる」
「へえ……じゃあ、僕は魔法を使わずに戦いますよ」
「なっ……ぶっ殺してやるっ!」
ルートの言葉に、ボイドは完全に切れて立ち上がった。
そして、ルートとの距離を取るためにゆっくり歩きながら、密かに口の中で魔法の詠唱をつぶやき始めた。
2人の距離が10mほど離れたところで、ゲインズが改めて合図の声を上げた。
「よし、では果し合いの続きを行う、いいな?……始めっ!」
「うはははぁ、喰らいやがれっ! なっ、何っ?」
ゲインズの合図とともに、ボイドはファイヤーアローの不意打ちを放ったが、その瞬間にルートの姿は消えていた。と、思ったとたん、ボイドの目の前にルートの顔があった。ルートが《加速》を使うことなど、全く予定に入れていなかったのだ。
「残念でした」
ルートの拳ががら空きのボイドの腹に突き刺さる。
「グホオオオォッ……」
ボイドは体をくの字にしたまま、ゴロゴロと3mほど転がって仰向けになった。
ルート、グラムベルを切り開く 3
ボイドはその後完全に戦意を失って、ギルドの職員に肩を貸してもらいながら去って行った。
「お疲れさん。手を煩わせてすまなかったな」
「あ、はい……彼は、なんだか焦っているようでしたね」
ゲインズはルートのつぶやきに、少し驚いたような顔をした。
「ほお、分かるか? さすがだな……俺も詳しいことは聞いてないんだが、向こうのギルドからの報告では、奴はバルジアのとある町で事件を起こして、こっちに逃げてきたらしい。殺しとか、そういう物騒な事件じゃないが、そのせいで向こうにいられなくなったようだな。この街に来たときはBランクだったが、毎日ダンジョンに潜ったり、護衛依頼をやって、つい二週間前にAランクに昇格したんだ」
ゲインズの言葉に、ルートは黙って頷く。自分の強さを確認したかった、裏を返せばそれだけ自分に自信を無くしていた、そんなところか……と、ルートは思った。
「さて、待たせちまったな。皆、こっちに集まってくれ」
ゲインズの声に冒険者たちと青狼族の男たちが移動してきた。
「じゃあ、説明してやってくれ」
ルートは頷くと、30人余りの集団を見回しながら先ずは頭を下げた。
「皆さん、今日は依頼に応じて集まっていただき、感謝します」
ジークとリーナもルートの後ろで頭を下げた。
「では、今回の依頼について簡単に説明します。分からないことがあったら、後で質問してください……」
ルートはそう前置きすると、自分で作った大きな地図を見せながら、リンドバル領への街道から分かれて南への道を新たに切り開くこと、その道はアントネシア山脈を越えて、グリムベルへと続く交易路であることを説明した。
「……そこで、皆さんには、途中の魔物の討伐と切り倒した木の処理などを主にやっていただきたいと思います。以上が説明になりますが、何か質問はありますか?」
説明が終わると、すぐに何人かの手が挙がった。
「はい、奥の人、どうぞ」
「領主様の許可は取れているんだよな?」
「はい、コルテス子爵とリンドバル辺境伯様からの許可はいただいています。お二方とも、大変期待しているというお言葉に加え、資金まで提供してくださいました」
『おおっ』と言うどよめきが起こる。
「では、次の質問どうぞ。はい、そこの人、どうぞ」
「ああ、俺はCランクパーティ《黒狐》のベンスだ。道を作るって話だが、この人数だけでやるなら、何年も掛かるんじゃねえのか?」
「ああ、皆さんに道を作ってもらうわけではありません。少し手伝いはしてもらうかもしれませんが、皆さんにお願いするのは、切り倒した木を移動させたり、魔物や獣が出たときに対処していただきたい、ということです」
「なるほど、道を作る奴らは別に雇っているってことだな?」
ルートは言うのを少しためらったが、誤解を解いておくべきだと判断して、思い切って明かすことにした。
「ええっと、道は僕の魔法で作っていきます」
案の定、大きなどよめきが起こった。
「魔法で作る? そんなことができるのか?」
「いやいや、まさかだろう、そんな話聞いたことがねえぞ」
やはり、疑う声が大半だった。まあ、無理もないことではあったが……。
ジークとリーナが両側で必死にウソではないと弁明してくれたが、疑いが晴れる様子はなかった。
そこで、ルートは実際に目で確かめてもらおうと思い、人々に大声で叫んだ。
「皆さん、静かにしてください。ええっと、魔法で道を作るとは、どういうことか、実際に見てもらいたいと思います。皆さん、こちら側に移動してください」
人々がギルドの建物側に移動すると、ルートはゲインズの方を向いてこう言った。
「ゲインズさん、訓練場の地面を少し掘り返しますが、後で元通りにしますので、許可をお願いします」
「ああ、いいぞ。後はちゃんとしといてくれよ」
ゲインズはあっさり許可を出す。
「はい、ありがとうございます。では、いきます。先ずは、道幅の木や草を切り払います。これに使うのは、風魔法のウィンドカッターです。ごく弱いのを放ちます……こんな感じです……」
ルートは説明しながら、無詠唱でウィンドカッターを放った。それが、魔法の訓練用に設置してあるフルアーマーの人形に当たり、ガシャ~ンという大きな音を響かせた。
冒険者たちがその威力に驚きの声を上げる。
「……木を切り倒したら、次は土魔法を使います。名前はありませんが、まあ、《スクープアップ》とでもしておきましょう。こんな感じです……」
ルートが手を動かすと、前方の訓練場の地面が、いきなりU字型に10mほど抉り取られ、その土が空中を移動して両側に分かれて積み上げられていく。
冒険者たちは、もう口を開いたまま呆然と見守るだけだった。
「……出てきた土は、道の両側に魔物避けの防御壁を作るのに使います。と、まあ、こんな感じですね。お判りいただけたでしょうか?」
ルートの問いに、冒険者たちは目を丸くしたまま、ただコクコクと頷くばかりだった。
♢♢♢
3台の蒸気自動馬車が連なって、コルテス領からリンドバル領へと続く街道を走っていく。先頭は、ルートたちが乗るトラック型、後ろの2台は乗合バス型で、これは『乗合自動馬車協会』(乗合馬車組合が発展統合した)からの貸し切りだ。
「ストーップ」
ルートの声に、先頭を走っていた自動馬車がブレーキを掛ける。
助手席から下りたルートは、地図と辺りの景色を見回して小さく頷いた。
「よし、ここが分岐点だ。皆さ~~ん、着きました、下りてくださ~い」
乗合バス型の車内から、冒険者たちがぞろぞろと下りてくる。
そこはリンドバル領に入ってすぐの道が2つに分かれた場所だった。広い道をまっすぐ進めばリンドバル領の街や村、右のやや狭い道を行けば、青狼族の村へと続いている。
「ここから斜め左のほうへ道を作っていきます。目標は遠くに見える山脈の麓です。予定通りいけば、4日後にあそこへ着けるはずです。みんなで協力して、この大事業をやり遂げましょう」
残念ながら、『おうっ』という掛け声は返ってこなかった。なにしろ、まだそんなことが本当に可能なのか、と誰もが半信半疑だったのである。
だが、いざルートが魔法を使い始めるや、そのあまりの凄まじさに、皆が沸き立ち始めた。
草が生い茂る藪が一瞬のうちに、一直線に30mほど先まで切り払われる。そしてむき出しになった直線状の幅5mほどの地面が、深さ60㎝ほどにきれいに抉り取られていく。森に入ると、先ず直線の範囲に並び立つ巨木が、野菜のようにすっぱり根元から切り倒される。そして、これまでと同じように、大木の根ごと、幅5mの道が切り開かれていくのだった。
「ちょっと休憩にしま~す。30分ほどゆっくり休んでくださ~い」
さすがのルートも、2時間に1回は休憩して、マジックポーションを飲まないと魔力が続かなかった。
「お疲れさま」
リーナとジークが木の根元に座り込んだルートの元にやって来る。
「ありがとう……うへえ、やっぱりこいつは味を何とかしないとまずいな」
リーナが差し出すマジックポーションを顔をしかめて飲みながら、ルートがつぶやく。
想像を超えて 1
「いやあ、噂は聞いていたが、すごいな、あんた。あんな魔法は見たことも聞いたこともないよ」
ルートたちが休んでいる所へ、1人の30代後半くらいの男が、青狼族の面々と一緒に近づいて来た。
「はあ、どうも……」
初めて見る顔だったので、ルートは曖昧な返事をする。
「ああ、名乗るのが遅かったな、すまねえ。俺はピネル・カーリフ。サラディンから来て冒険者をやっている。で、今は青狼族の村で手伝いをしながら米作りを学んでいるんだ」
ピネルと名乗る男は、そう言って人懐っこい笑顔を見せた。
「へえ、米作りを? じゃあ、将来は農業をやるつもりですか?」
ルートは興味を惹かれて尋ねた。
「ああ……いや、今のところは何とも言えねえな。なにしろ、俺の故郷の村は米が作れるほどの水がねえからな……だがよ、あの米の美味さを一度味わったからには、何としても自分で作ってみたいじゃねえか」
「おう、その気持ち、よく分かるぜ。米は美味いからな」
「だよな、あんた、分かってるじゃねえか。ガハハハ……」
同じサラディン人なので、気が合うのか、ジークとピネルは肩をバンバンと叩き合って豪快な笑い声を上げた。
「ピネルさんにはずいぶん助けられていますよ……」
青狼族の族長の息子ガイゼスが、ルートに語った。
それによると、昨年、青狼族が初めて収穫した米が、出来が良くて市場に出荷するや、思いがけないほど高値が付いた。その噂を聞きつけた商人や周辺の若者たち、冒険者たちが青狼族の村に大量に押しかけ、一時はパニック状態になったらしい。だが、その時、冒険者の中の1人の男が、青狼族と人間たちの間に入って調整役を始めた。それがピネルだった。
「……おかげで、商人たちに騙されることもなく、水田を広げる人手も確保できて、今年は昨年の倍以上の収穫を上げることができましたよ」
そう言って嬉しそうに笑うガイゼスや青狼族の男たちを見て、ルートの心も温かいものに満たされた。横に座ったリーナを見ると、彼女も嬉しそうにルートに微笑んでいた。
「ピネルさん、僕からもお礼を言います。青狼族の村は僕の大切な人の故郷なので……どうもありがとうございます……えっと、話は変わるんですが、僕からピネルさんに1つ提案があるんですが……」
ルートは、頭にひらめいた考えを口にした。
「お? 何だい、良い話か?」
「……答えを出すのはいつでも構わないのですが、これから道を切り開いた先には、グリムベルという、現在開拓中の広大な土地があるんです。そこの開拓責任者は、一応僕になっているんですが、ルーティアという港もあって、その港からサラディン王国までは、目と鼻の先の距離なんです……」
ピネルは、ルートが何を言いたいのか見当がつかず、眉間にしわを寄せて首をひねっている。
「……それで、もしよかったら、グリムベルで米作りをやってみませんか? 水田はすでにある程度できていますし、川も流れていて、下流にはまだ未開拓の土地が広がっています。サラディンに米を出荷するという夢に挑戦してみてはどうか、と……」
ピネルは呆気にとられた顔でしばらくルートを見つめていたが、やがてポリポリと頬をかきながら、視線を落として口を開いた。
「ああ、その、なんだ……急な話で、まだ頭がうまく回らねえけどよ……悪い話じゃねえ、うん、悪くねえ……まあ、ちょっと考えさせてくれ」
「はい、よく考えてみてください」
ルートはそう言うと、ゆっくり立ち上がった。
「さて、じゃあもうひと頑張りしましょうか。皆さ~ん、昼食までもう少し仕事を進めたいと思いま~す」
あちこちから「おうっ」という返事が、今度ははっきりと返って来た。
♢♢♢
グリムベルへの貫通道路建設は、天候にも恵まれて順調に進んだ。
ルートが切り倒した木を、男たちが枝を切り落として脇に積み重ねていく。この木は、いずれルートが、《ある計画》を実行するときまで乾燥させておくのだ。
男たちが木の処理を終えるまでの間、ルートは切り開いた道の路面と側面を魔法で平らにならし、余った土を使って2mほどの高さの防壁を両側に作っていく。もちろん、これだけでは大型の魔物を防ぐことができないので、帰るときに防壁の上部に《防御結界》を張る予定である。やり方は、冒険者になってすぐの頃、西の農園で作ったものと同じだ。
途中、何度か魔物に遭遇したが、冒険者や青狼族の男たちが強すぎて瞬殺だった。猪や鹿など、魔物以外の野獣も豊富で、食糧問題も良い意味で予想外だった。
そして、工事が始まって4日後の昼近く、予定通りついにアントネシア山脈の一番低い谷の麓に到達したのだった。
誰もが疲れているはずだったが、一刻も早く山脈の向こう側、グリムベルの大地を見たいということで、全員元気に岩山を登って行った。
「うおおおっ……すげえええ!」
「……こ、これが、グリムベル……」
一番最初に峠の頂上に走り上がった冒険者たちが、感動の叫びをあげて両手を突き上げた。
ルートも息を切らしながら、はやる心を抑えて、ついに最後の岩場を登り切った時、まぶしい太陽の光とともに目に入って来た光景に、ルートはしばし言葉を失くし、眼下を見つめ続けた。そこには、予想を超えた景色が広がっていた。
足元の山の麓から、台形状に遠くへ広がっていく広大な平野。遥か彼方には輝く大海原が緩やかな弧を描いて青い空と接している。
手前から平野の中ほどまでは、日差しに輝く広葉樹の森が続いていたが、その先には美しく整地された農地が広がっている。そして、何よりルートを驚かせたのは、左右の険しい山の斜面に、整然とした果樹園が段々畑状に続いていることだった。
「ジャンたちは、本当に頑張っているんだなあ……」
ルートは圧倒的な景色に感動しながら、教え子たちのことを感慨深く思い出していた。
想像を超えて 2
「とにかく、今日中にあそこに見える砦まで、道を通しましょう」
ルートは岩の上に上って、そこにいる男たちに遠くに見える砦を指さして叫んだ。
(砦の名前『ルーティア・グリムベル』は恥ずかしくてあえて言わなかった)
「「「「おうっ」」」」
男たちは、グリムベルの実際の風景を見て一層やる気を起こしたようであった。
ルートは周囲の地形を観察しながら、地図を取り出して一本の線を引いた。そして、決意したように頷くと、全員に大声で叫んだ。
「皆さ~ん、さっきの道の続きから、この下にトンネルを掘ります。こういう方向です」
ルートの声に、驚きとも悲鳴ともつかぬ声が上がった。
「えええっ、ト、トンネルゥ~?」
「無茶言わないでくれ~~」
ルートは慌てて話の続きを叫ぶ。
「ええっと、ご心配はいりませ~ん……トンネルは僕が作ります。皆さんは峠の向こう側に移動して、待機していてくださ~い」
その言葉に、またもや驚きの声が上がるが、もうルートは無視してリーナの側に行った。
「リーナ、僕がトンネルを掘るから上から音を聞いててくれ。方向がずれたら教えて欲しいんだ。それと、出口で皆が巻き込まれないように注意してやって欲しい」
「ん、分かった。任せておいて」
リーナの言葉に頷くと、ルートは愛用のカバンを肩にかけて道の方へ下りて行った。
「さてと、やりますか」
ルートは1つ気合を入れると、切り開いてきた道の最先端に立って両手を前に突き出した。薄緑色の光がルートの両手を包み始める。
すると、前方の切り立った崖が、今度は道とは逆に「逆U字型」に抉られていく。さらに出てきた土はすぐさまボード状に固められ、左右、そして上部へと積み重ねられ、接合されていった。グランベルの港を造成するときも使われ、これまで多くの建築物を造り上げてきた、ルートお得意の《建築創造魔法》の真骨頂である。
「はああ……何度見ても未だに信じられねえ。すげえな、お前の魔法は……」
万が一のため、ルートの側に付き添っているジークが感嘆の声を上げる。
「おお、早い……もうこんな所まで来た」
峠に続く岩の多い斜面で、前かがみになって耳を澄ませているリーナが移動しながらつぶやく。
ルートが作業を始めてからやがて1時間が過ぎようとしたとき、リーナが峠の向こう側で休憩していた男たちに叫んだ。
「皆ぁ~、この下から離れてっ!」
男たちがその声に、リーナが立った崖の側から左右に移動して間もなく、小さな地響きとともに崖の下にぽっかりと大きな穴が開いた。
「うひゃああ、本当にトンネルが貫通しちゃったぜ」
「はあああ、しかも何だこりゃ? 周りの壁が……」
男たちは急いで崖の下に駆け下りて中を覗き込み、そして絶叫した後、絶句した。
「やれやれ……ちょっと水が出てきて、処理に少し手間取りました」
絶句した男たちの前に、トンネルの奥からそんなことをつぶやきながら、まだ童顔の若者が出てきた。その後ろから、やや疲れた顔の大男が続いて出てくる。
冒険者たちの中には、魔法が使える者も多くいた。そんな彼らから見たら、15歳の若者が使った魔法は想像さえできないほどのものだった。もちろん、魔法が使えない者にとってはなおさらである。
「ええっと、予定では皆さんにはここまでで仕事を終わってもらうつもりでしたが、どうでしょう、追加の給料をお支払いしますので、この先の砦までお手伝いお願いできませんか?」
「おっしゃあ、金さえもらえれば喜んでやらせてもらうぜ」
男たちは満場一致で了承した。
こうして、再びルートたちによる道路づくりの行進が始まった頃、ルーティア・グリムベル砦の見張り番の兵士が、慌てた様子で横で転寝をしている仲間の兵士を足で突いていた。
「お、おいっ、ニック、起きろっ、大変だ、おいっ」
「う~~ん、なんだよぉ」
「も、森が……大型の魔物かもしれんぞ」
「はあ? そんな馬鹿な。森にはブラックベア以外の大型魔物はいないはずじゃ……」
同僚の兵士ものろのろと起き上がって、森の方に目を向け、そして唖然となった。
「な、何だありゃあ……」
2人の兵士が見たのは、彼方のアントネシア山脈の麓から、こちらに向かって一直線に伸びる道のようなものと、森の木々が次々に倒れていく様子だった。
砦の鐘が激しく打ち鳴らされ、砦の中や外の農地で働いていた者たちは急いで砦の中央広場に集まって来た。遠い港で働いていた者たちも、仕事を途中でやめて、全員武器を持ち自動馬車に乗って砦へ急行した。
「何があったんですか?」
砦の本部で事務の仕事をしていたジャン・バードル、クレア・シャンペリエ、フラン・セラーノの3人が、砦の屋上に駆け上がって来て、森の方を監視している兵士たちに叫んだ。
「おお、ジャンか。こっちに来てみるがいい。あはは……腰を抜かすなよ」
開拓団の現団長であるオルスト・ガロアが、何やら楽し気に笑いながらそう言った。
ジャンたちはいぶかしげな顔で、屋上の端まで行き、ガロアが指さす方向に目を凝らした。
「えっ? な、何ですか、あれ……?」
「……もしかして、道? 大勢の人たちが見えるわ」
「どんどん木が倒れてる……あんなことができるのは……」
3人は顔を見合わせて、その答えを口にする前に、砦の下の方から甲高い少女の声が聞こえてきた。
「おおいっ、確めて来た、間違いないぞ、ブロワー先生たちだ!」
早くも斥候として数人の兵士たちと森に入っていたエリス・モートンの声だった。
♢♢♢
「まったく……先生には驚かされっぱなしですよ。まさか、道を作って来るなんて、誰が考えますか?」
「そうですよ。来るなら前もって連絡しておいてください。心臓に悪いです」
ジャンやエリスたち、元ルートの教え子たち6人は、ルートを囲んでさんざん文句を言ったが、その顔はいずれもにこやかだった。
ルートたちを迎えたルーティア・グリムベルの砦は、急遽広場を使った昼食会という名の宴会に大いに盛り上がっていた。
「でも、この半年間、皆本当によく頑張っていたんだね。山の峠から見た時驚いたんだ。水田だけだった平野が、ずいぶん広がって、いろいろな作物が栽培されているのが分かったし、
両側の山の斜面もきれいな果樹園になっているし、感動したよ」
ルートは胸を熱くしながら、1人1人のたくましく日焼けした顔を見ながらそう言った。
周囲の賑やかな騒ぎの中で、ルートと教え子たちの周りは静かに満ち足りた微笑みに包まれていた。
「ああ、皆よく頑張っているぜ。毎日汗だくで泥まみれになってな……」
ガロア準男爵がワインのジョッキを片手に、6人にまるで自分の子供のような優しい眼差しを向けながら言った。
「皆のお陰ですよ……それに、僕たちには明確な目標がある。そして、頑張ればその目標に近づいているのが目に見えて分かるんです。こんなに充実した毎日はありません」
ジャンが目を輝かせて言った。
「ええ、ほんとに毎日時間が足りないくらいですわ。先生、私、以前より格段に強くなったと自負しておりますわ。いつか、もう一度先生と手合わせをして、勝って見せます」
エリスが日焼けした顔に屈託のない笑顔を浮かべてそう言った。
「先生、先生、ほら、ここから見える右手の山が僕のコーヒー農園で、反対の左手側に山がショーンのオリーブ農園ですよ。収穫は当分先ですが、きっと、王国一のコーヒー産地にしてみせますよ」
ひ弱だったアルスが、たくましくなった腕を見せながら宣言した。
「俺だって負けないさ。それに食用のブタも飼育しようと考えているんです」
すっかり自立心を身に着けたショーンが、大人びた表情で応じた。
「私とフランは、下流の平野部を分け合って米や小麦、野菜を作っています。と言っても、力仕事は、他の人に任せっきりで申し訳ないんですけど。
その代わり、移住者の受け入れや働き先の振り分け、あと、外部からの商人や訪問者との交渉などを中心にやっています」
クレアとフランが頷き合いながら、ルートに説明した。
「彼女たちには助けられていますよ。我々は戦闘や警備が専門でしたからなあ。力仕事はお手のもんですが、事務関係は苦手でして……あははは……」
「移住者はけっこういるんですか?」
ルートの問いに、ガロアは笑顔のまま頷いた。
「ええ、この半年で60人近く入って来ました。サラディン王国からが多いですが、ハウネストやバルジアからも何人か来ています」
「それはよかった……ずっと住み着いてもらえるといいですね」
「ええ……我々開拓兵団の契約は2年で切れますからな。それまでにたくさんの人が来てくれるとありがたいです」
ガロア準男爵の表情が初めて少し曇ったが、ルートは彼を安心させるようにこう言った。
「それについては、たぶん解決できると思いますよ」
準男爵も、ジャンたちもそれを聞いて真剣な顔で身を乗り出してきた。
「先生、もしかして、あの道に関係が?」
ショーンの問いに、ルートはニヤリと微笑んで頷く。
想像を超えて 3
ルートは、周囲を囲んだ元生徒たちや開拓団の人たちを見回しながら自分の構想を語り始めた。
「実は、あの道は普通の道じゃなくて、《鉄道蒸気機関車》を走らせるための道なんだ……」
周囲の者たちは、まったく理解できない様子でじっとルートを見つめたままだ。
「……ああ、ええっと、蒸気自動馬車は皆も知ってるよね?」
周囲の者たちは、こくこくと頷く。
「動く理屈はあれと同じなんだけど、もう少し大きな動力で、幾つもの荷車を牽いて、車輪が鉄で、2本の鉄の道の上を走る……ええっと、簡単に絵を描くね」
ルートは、誰もが首をひねっている様子を見て、苦笑しながら地図を取り出し、その裏に鉛筆で鉄道貨物列車の簡単なイラストを描き始めた。
「……こんな感じかな」
ルートが絵を見せると、ガロア準男爵から順番にその絵を回し見していく。
「なるほど、大体のところは分かりましたが、なぜ、鉄の道の上を走らせるんですか? 蒸気自動車のようにタイヤで走らせればいいと思うのですが……?」
エリスの問いに、他の者たちもうんうんと頷く。
「ああ、それはね、ほら、こうやって幾つもの荷車を牽かせるだろう? つまり、たくさんの荷物や人を乗せて走ることになる。つまり、とても重いっていうことだ。もし、雨が降って道が軟らかくなったら、どうなると思う?」
「あ、そうか、重いと道が凹んで、タイヤが埋まってしまうかも」
アルスの言葉にルートがにこりと微笑んで頷く。
「そういうことだ。もちろん、道を石畳のようにすればタイヤでも良いんだけど、すごく手間がかかるだろう(まあ、自分ならそれも不可能ではないが)?
それに、鉄の道と鉄の車輪だと《摩擦》が少ないから、重い車でもある程度の力があれば動かすことができるし……それに、何と言っても、この2本の鉄の道さえあれば、つないでいけばどこまでも行けるんだ。ロマンじゃないか?」
「おお、ロマンですよ、絶対っ!」
ロマンチストのショーンが興奮して叫んだ。周囲からなごやかな笑い声が起きる。
「その鉄道蒸気馬車は、いつ頃完成するんですか?」
クレアの問いに、ルートは頷いてしばらく下を向いて考えていたが、やがて顔を上げて答えた。
「いろいろ準備がいるから、基礎工事を始めるのは冬休みからだとしても、完成するのは来年の夏くらいになるかな」
「いや、十分早いですよ。ということは、来年の収穫から、市場への輸送が可能だということですね?」
ガロア準男爵の問いに、ルートはしっかりと頷く。
「それは必ずできると約束します」
周囲からは歓声が上がり、ジャンたちも喜びに目を輝かせるのだった。
こうしてまた、希望の開拓地《グリムベル》に新たな希望の種が蒔かれた。しかも、それは誰の想像もはるかに超えた、力強い希望の種だった。
♢♢♢
グリムベルの人々に見送られながら、ルートと34人の男たちは切り開かれた道を引き返していった。
その途中、ルートは時々立ち止まって、何かこそこそと魔法を使った作業をしていた。
「お~い、ブロワーさん、そろそろ日が暮れちまう。森を早いとこ抜けようぜ」
先の方を歩いていた男たちが、後ろを振り返って叫ぶ。
「は~い、すみませ~ん、先に行ってキャンプの準備をしてもらえますか~?」
「おう、分かった、気をつけてな~」
ルートは男たちに手を振って、再び作業に戻る。
「これは、雨水を外に出す奴か?」
リーナとジークはルートの側で、彼の作業を興味深く眺めている。
「ああ、そうだよ。こっちの森の低い方へ流せば、自然に川に流れ込むからね。ただ、かなり穴を大きくしないと泥や落ち葉が詰まってしまうから、結構手間がかかるよ」
ルートはそう言いながらも、魔法で手早く溝と排水用の穴を作り、トンネルと同じ要領で穴の中を硬いブロックで補強していく。
そうやって約30mごとに排水溝を作る一方で、さらにルートは、道路の両側に防御壁を作り、魔石をその壁に埋め込んで壁の上に結界を張っていった。
「ねえ、上から襲ってくる魔物って、どんなのがいる?」
ルートは険しい顔で上の方を見ながら、2人に質問した。
「上から? そうだな……俺が知っているのは、ケイブバットの仲間、ロック鳥、ワイバーン、あとはめったにいないが、ドラゴンやグリフォンくらいかな」
「ん、伝説ではハルピュイアとかペガサスとか。シルフィーも空から攻撃する」
「なるほど、カラドリオスか……まあ、ドラゴンやグリフォンなんて、めったに来ないだろうけど、ロック鳥やワイバーンへの対策は必要かな」
「ルートがさっきからやっているのは、結界魔法?」
リーナは西の農園でルートが結界を作る現場を見ていたので、彼が何をしているかが分かった。
「うん。ただ、上がガラ空きなんだよね」
「大丈夫。普通の道より安全」
「そうだぜ、ルート。贅沢を言えばきりがねえってもんだ」
3人はそんな話をしながら、森の外れでキャンプの準備をしている男たちに合流した。
今回のグリムベル訪問は、ルートが予想していたより多くの収穫をもたらした。
何より、開拓団の士気が依然として高く、予想以上に開拓の成果が上がっていたことが嬉しかった。これは、ルートが十分な基礎を作っていたことが大きな要因だったが……。
そして、周辺諸国にも少しづつこの開拓地の情報が広がっていることも喜ばしいことだった。移住者の多くは、今の所、一旗揚げようという独身の若者や単身出稼ぎの男たちだったが、家族連れの移住者も何組かいた。出身地は、一番近いサラディン王国の者が多かったが、ハウネスト聖教国やバルジア海王国、西のトゥ―ラン国から来た人たちもいたのだ。
来年の夏鉄道が開通すれば、物資の往来もさることながら、多くの人々がグリムベルを訪れることになるだろう。そして、あの豊かで自由な土地に移住したいと思う人もたくさん出てくるだろう。
ジャンたちが、領主として独り立ちできるのに最低でも5年はかかるだろう、と考えていたルートだったが、この分だと3年ほどで目途が立つかもしれない、と思うようになっていた。
「なあ、ブロワーさん、鉄道とやらの工事をするときには、また俺たちを使ってくれないか」
4日目のキャンプの夜、数人の冒険者たちがルートたちのもとへ来て、そう言った。
「はい、それはこちらからお願いしたいことですよ。また、コルテスの冒険者ギルドに依頼を出しますから、ぜひ来てください」
ルートの言葉に、彼らはハイタッチをしてお互いに喜び合った。
「それなら、俺たちも雇ってくれ」
「募集はいつからだい?」
周囲で話を聞いていた男たちが続々と集まって来た。
「ルート殿、我らも当然お手伝いをさせてもらうぞ」
青狼族の男たちもやる気満々だった。
「ガイゼスさんまで……あはは……ありがとうございます。まだ、はっきりとした予定は言えませんが、ちょうど田植えが終わって手が空いた頃からになると思います。皆さん、またよろしくお願いします」
男たちは、威勢のいい『おうっ』という声を上げて応えた。
彼らにしてみれば、さほど危険がなく、しかもタイムズ商会という信用できるバックがあり、高賃金とくれば、これほど魅力的な仕事はない。さらに言えば、彼らは是が非でも、世界初の《蒸気鉄道貨物列車》が走る姿を見たかったし、その世紀の偉業に関わりたかったのである。
5日目の朝、グリムベルの風景に別れを告げ、ルートは再び峠のトンネルを通ってリンドバル領に入った。
「これで、よしっと……」
トンネルの出口を魔法を使っていったん塞ぐ。魔物や盗賊がトンネルを利用するのを防ぐためだ。もちろんグリムベル側も塞いであった。
すでに冒険者たちや青狼族の男たちは、先に帰路についていた。明日の夕方までには出発地点に到着しているだろう。
ルートたちは、排水口や防御結界を作成しながらなので、帰り着くまでにあと2日は必要である。予定より1日長くなってしまったが、満足の行く結果だった。
「ねえ、ルート、シルフィーたちと遊びたい」
ルートの作業を見ていたリーナが、不意にそう言った。
「ああ、そうだね、すっかり忘れてたよ、あいつらを遊ばせるのを」
ルートは肩掛けバッグの中から、リム、ラム、シルフィーたちを外に出してやる。バッグの中は収納空間なので時間の経過は無い。だから、従魔たちが退屈するということはないのだが、やはり外に出るのは彼らにとっても嬉しいようだった。
「ようし、じゃあ、今夜の晩飯でも狩りに行くか」
実は一番退屈していたジークが、いかにも嬉し気に叫ぶのだった。
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ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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