リサシテイション

根田カンダ

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第45話 優先順位

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 嶋が鳥取砂丘へと向かっていた頃、朝鮮半島付近の日本海上に、巨大な雷雲が発生していた。
 雷雲は成長を続け、博多湾にはすら迫っていた。



「ゴアァァッ!」


 雷雲を確認したレオ・テスカポリは、立髪の中にいるアリサを更に立髪で厚く覆い、博多湾を海面スレスレに朝鮮半島方面へ向かって飛行を開始した。
 飛行しながらも高温を放ち、海水を蒸発させながら進む。
 レオの放つ高温によって蒸発した水蒸気により、雷雲は更に成長して行った。
 黒く分厚い雲は、その体内に無数の雷光を抱え、鳥取砂丘からでさえ目視出来る程に成長していた。


[なんだ?]


ーーーにゃんにゃん様とパートナーにより精製された雷雲です。ーーー


 嶋の疑問に『アリサ』は即座に答えた。


ーーー厚さ数千メートル。朝鮮半島の50%を覆い、北九州はもちろん、本州西端の島根県にまで及んでいます。
にゃんにゃん様達は、《シマー》軍を一気に消滅させるつもりと思われます。ーーー


[どんなエネルギーだよ!にゃんにゃん達のナノマシンは保つのか?]


ーーー2体合わせて人間で言えば3000体分程のナノマシンです。
 ですが、2体の生成してる電撃エネルギー自体は、先程マスターが起こした雷撃の規模の1000倍程度です。
 それを雷雲を発生させる事で、更にその数倍にまで増幅させています。
 海水を蒸発させ雨雲をつくり、自然現象を利用している事で、自身の身体を再生させながらも、更に数倍のエネルギーを生み出しています。
 恐らくではありますが、たった一撃。たった一撃で、雷雲の及ぶ範囲内の敵ナノマシンは殲滅されると思われます。ーーー


[敵じゃなくて良かった…]


 嶋がそう思った瞬間、雷雲から聞こえていた雷鳴が消えた。
 『アリサ』は同時に全迎撃部隊に通信を繋いだ。


ーーー防御態勢!衝撃波が来ます!ーーー


「「「!」」」


 数万の迎撃隊が考えるより先に、ナノマシンが反応し、防護態勢を取った。
 そして一瞬の静寂の後、視界の全てが眩い光で覆われた。
 その数秒後、雷鳴より先に音速を超える衝撃波が、空気と大地を震わせながら西日本を襲った。
 その衝撃波は遠く離れた鳥取砂丘の砂すらをも、空中へと舞上げ、その地で闘う戦士達すら数百メートル吹き飛ばした。
 嶋は瞬間的にナノマシンの形状を針の形状にし、衝撃波に垂直に向かい風圧を逃したが、衝撃波が弱まり人体形状に戻った時、雷鳴と呼ぶには巨大で重過ぎる音波が、追撃の衝撃波となって襲い、ふいを突かれた嶋も吹き飛ばされ、数百メートル離れた山の斜面に叩きつけられた。


ーーー津波が来ます!高さ約70メートル!
 九州北部、島根県は壊滅します!ーーー


 雷雲の中心部レオ・テスカポリとユウナ・テスカポリの合流地点海上から発生した津波が、360°日本海上を拡がって行った。


[皆さんに離脱指示を!何分で到着する!?]


 山に叩きつけられ、散り散りに飛び散った身体を再生しながら『アリサ』に叫んだ。


ーーー博多には3分、島根県には5分です。間に合いません!
 ですが戦士の皆様はナノマシンです。被害は出ません。ーーー


[皆さんの身体を守るログインカプセルは大丈夫か!?街にも被害が出るだろう!
 被害が出た時、カプセルが破壊されれば、皆さんが死んでしまう!]


ーーー皆様にお送りしたログインカプセルは、ナノマシンで形成されており、あらゆる衝撃をエネルギーとして吸収します。
 広島型の核爆弾程度の威力ならば、完全に吸収します。
 民間人が避難しているシェルターも同様です。
 ご心配に及びません、が…、たった今、津波が消滅致しました。
 にゃんにゃん様達が吸収した様です。ーーー


[マジか!?恐ろしいな!]


 たがレオとユウナが吸収したのは日本へ向かう津波のエネルギーだけで、朝鮮半島や大陸へ向かう津波のエネルギーはそのまま捨て置いた。
 電撃と呼ぶには巨大過ぎる電撃ではあったが、使用したエネルギーの補充と再生には、それだけで充分だったからだ。


[『アリサ』戦況はどうなった?]


 再生回復した嶋は、鳥取砂丘へ向かいながら『アリサ』にたずねた。


ーーー日本海より北の《シマー》ナノマシンは消滅。
 数十万人相当のナノマシンが、完全に消滅しました。
 九州北部より日本海沿岸部、衝撃波が及んだ地域の《シマー》ナノマシンも、ほぼ消滅しました。
 残る敵は舞鶴に数百。広島、岡山合わせて50弱。兵庫県内神戸市へと向かう220。
 舞鶴を突破した敵は、福知山の迎撃部隊により壊滅しております。ーーー


[味方は?]


ーーー衝撃波により数百メートル吹き飛ばされましたが、数分もあれば皆様完全再生可能です。
 ただ衝撃は大地をも伝わり、九州北部では震度6相当の地震により、それまでの戦闘の影響もあり博多市街は壊滅。
 下関から島根も同様に壊滅。広島、岡山は震度5相当の地震により被害は出ておりますが、博多、下関程ではありません。
 激戦区だった鳥取砂丘は、地震と衝撃波により、砂丘の30%が消滅致しました。
 民間人への被害は、避難せず街中や自宅に残ってた1000名程が行方不明。
 戦闘が続いてる地域もあり、特に神戸市、大阪市内の、避難命令に従わなかった約20000人程の若者達が犠牲になると思われます。ーーー


[自業自得の連中は仕方ないだろう。
 そんな奴等を守る為に、戦力を割くわけにはいかない。
 日本が落ちれば、世界が終わるんだ!
 守る必要はないと、再度通達しろ。]


ーーー畏まりました。
 戦士の皆さんに、神戸に向かってもらいますか?ーーー


[いや、モルテ達だけ神戸へ向かってもらってくれ。
 夏菜さん達は鳥取に待機。
 井上さん達も戦闘終了後、しばらくは舞鶴待機してもらってくれ。
 俺は神戸へ向かう。]


ーーー畏まりましたーーー


 嶋は神戸へと進路を変えた。



 

 その頃高岡は総理官邸にいた。
 世界各国への説明と同時に、西日本各地の戦況報告を受ける為だった。
 壊滅したアメリカ第7艦隊兵士の救助報告も届いていた。
 アメリカ第7艦隊は5万の兵士を擁し、世界最強艦隊だった。
 壊滅させられたと言っても、数万の生き残り兵士全員を自衛隊が救助するには、兵力が兵力だけに危険過ぎる。
 それに、残留在日米軍兵捕虜が、既に6万名。
 第7艦隊の救助兵を合わせれば10万の捕虜となる。
 開戦初期に10万の捕虜を国内で管理するのは危険過ぎた。



「イギリス、オーストラリア艦隊到着まで、我が自衛隊及び米兵の安全確保の方法はあるか?」



 高岡は新しく任命した防衛庁長官にたずねた。
 臨時政権の防衛庁長官は、江戸川地下にいた岩村政権下の自衛隊離脱組だった。


「大型艦艇で、第7艦隊撃破海域を大きく円で囲む様に航行すれば、その内側は航跡静波と呼ばれる穏やかな海域になります。
 その間に負傷者を別の艦艇で救助、治療を施します。
 他の米兵には救助ボートを与え、ボート上で救助まで待機。
 海上自衛隊艦艇も、航跡静波を継続発生させイギリス及びオーストラリア艦艇到着まで待機。
 両国艦艇到着後、救助兵士を引き渡し、全米兵を両国が救助後、海上自衛隊艦艇離脱が最良かと思われます。」


「わかった。よろしく頼む。
 私は世界各国に理解を求める。」


 高岡は総理執務室へ向かった。


 鳥取砂丘では、立っているのはモルテ筆頭のソロモン達だけだった。
 ソロモン達のフルオート・ディフェンスは、砂丘の30%を消滅させる程の衝撃波すら防いでいた。


「ぬっこ!ぬっこ達は!?エルザ!大丈夫か!?
 他の仲間達は!?他の日本軍は全滅したのか!?
 さっきの光と轟音、衝撃波は核か!?
 奴等、核を使ったのか!?」


 ソロモンの軍団の4人以外の姿が見えない事から、モルテは核を疑った。


[だい…丈夫だ…。衝撃波で一瞬で山間部まで飛ばされた…
 私は今再生中だ。たぶん、他のみんなも…。]


「エルザ!無事か!良かった!ぬっこも全員無事なんだな?
 他の戦士達はどうだ?誰かいるか?」


ーーー敵はすべて消滅しました。ですが我が日本防衛隊は、九州北部から山陰、北陸まで、現在再生中ではありますが、全戦士無事です。ーーー


「『アリサ』!社長は?田中社長は無事なのか!?」


ーーーマスターは無事です。現在方向転換をし、神戸へと向かってます。
 神戸の防衛隊は苦戦をしており、モルテ様達ソロモンの皆様も、神戸へと向かって下さい。
 夏菜様達ぬっこ隊は鳥取砂丘に留まり、自衛隊と協力して部隊再編をお願い致します。ーーー


「ソロモン!行くぞ!
 ぬっこ隊!後を頼む!」


 モルテ達ソロモンの軍団は、『アリサ』の通信が終わると同時に砂丘を飛び立った。


「モルテ!武運を祈る!神戸を守ってくれ!」


「おっ!任せとけ!」


 不意のエルザの激励に、モルテは一瞬思考が止まった。
 リアルのモルテはぬっこ隊推しであり、中でもエルザを特に推していた。
 先程まではモルテに対し敵意丸出しだったエルザの激励に一瞬思考が停止はしたが、嬉しさが込み上げていた。


「社長も神戸も、俺が!俺達ソロモンが守る!
 行ってくる!また会おう!」


[モルテ、良かったじゃねえか!
 エルザに認めてもらえて(笑)]


 シャムシールが揶揄うようにモルテに通信を繋げた。


[だな(笑)でもよう、おかしいよな?
 俺達に任務を依頼して来た奴等すら、俺達を信用してなかったのによう。
 田中社長やぬっこ隊は、信頼してくれてる。]


[ああ、不思議だ。でも、こう言うの、いいんじゃね?]


 アルファスとレライエが続けた。


[お前ら、そんな考えをデス・フラグっつうんだぞ!
 今しなきゃなんねぇのは、日本の防衛だ!
 気を引き締めて行くぞ!デス・フラグ立てんな!]


[[[だな!(笑)]]]


[いつも通り、俺達は俺達の任務を真っ当する!]


 モルテ達は神戸へと、スピードを上げた。



 その頃、神戸だけでなく、日本全国に地震警報と津波警報が鳴り響いていた。
 日本中がざわついている中で、神戸ポートアイランド、『昇陽』防衛についていた本田や古田達だけは落ち着いていた。


「社長が何かしたんだろ。神の杖落としたかもしんねぇな。」


「いや~、いくら社長がブッ飛んでるっつっても、日本に杖はおとさねぇだろ?
 いや、落とすかな?どっちだろ?」


 本田と古田は、他人事の様に話をしていた。
 事実嶋はハワイに神の杖を落としていた。そして、想像に遙か及ばない威力に呆れ、同時に衝撃的な言葉が飛び出していた。


「これなら何発落としてもよさそうだな?って言ってたな(笑)
 落としたのかな?」


 核爆弾と違い、ただの炭素の塊の神の杖は、その高熱と質量の落下エネルギーによる破壊以外、有害な汚染物質を撒き散らさない。
 3000℃にも及ぶ高熱は、落下地点から数十キロ範囲を、数週間は立ち入れない程の高熱で焼き尽くすであろうが、数十年以上に及ぶ核汚染に対して、比べるまでもない程小さい被害だった。
 だが瞬間の威力は核にも及ぶ。敵の戦意を削ぐには充分だった。

 
「でも日本には落とさねぇだろ。他の何かじゃね?」


「いや、日本海ならありえるだろ?地震と津波、焼け野原の韓国近海に落とした可能性あるぞ?」


「朝鮮半島は沈んじまったか知んねぇな?
 『アリサ』今わかってる事教えてくれ。」



 戦闘を理解している本田と古田は落ち着いていた。



ーーー地震と津波は神の杖ではなく、にゃんにゃん様とパートナーの起こした巨大な雷撃による、核にも匹敵するエネルギー爆発です。
 更ににゃんにゃん様達2体によるエネルギー吸収によって、日本へ向かう津波は吸収されました。
 ですが朝鮮半島は高さ70メートルを超える津波の到達により、海岸線から内陸へ数十キロに渡り呑み込まれました。ーーー


「そうか。まあ元々壊滅させられてた国だ。
 生き残りもいただろうが、これで全滅しちまったか…?
 それより、社長や日本海側のみんなは?
 向こうの戦闘はどうなってる?」


ーーー日本海側の《シマー》軍は、大陸移動中の部隊も含め、消滅しました。
 現在関西方面へ進撃中の敵は、1000程度の残存兵です。
 ですが民間人を護りながらの戦闘は、こちらに不利です。
 人的被害もやむ無しと、民間人救助より『昇陽』防衛と敵殲滅を優先せよ!との通達です。
 マスターは現在、ソロモン隊と共にそちらへ向かっております。
 夏菜様達ぬっこ隊は鳥取に残り、部隊の再編成を行って頂きます。ーーー


「戒厳令下の避難勧告に従わねぇ奴らは、自業自得だわな。
 戦争を舐めてる様な奴等は、どうせこの先足手まといだ。
 早ぇ内に消えてくれた方がいい。」


 《シマー》との戦争は、国を守る戦争ではない。
 人類全体を守る為の戦争だ。その戦争を遊び半分の様に捉えてる連中は、必ず先でも戦闘の足を引っ張る行動をする。
 ボディーガード達は、全員が実際の戦争や戦闘で命を落とした者達ばかり。
 戦闘域にいる筈の無い数名の民間人を守り、壊滅した部隊を嫌と言うほど目の当たりにして来ていた。
 そして部隊が壊滅した事により、敵の侵攻は進み陣地や領土どころか、国を失ってしまった前例もあった。
 元自衛隊員の柴田でさえ、国民の命よりも『昇陽』防衛、『昇陽』よりも嶋だった。







 





 














 






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