10 / 47
10
しおりを挟む
三十分たらずの昼寝で、かなりはっきりとした夢を見た。
樹奈の夢だ。
大学近くのおしゃれなコーヒースタンドのベンチで、僕と樹奈がお喋りをしている。
樹奈はすごくご機嫌で、カフェオレをちびちび飲みながら、いろんな話をする。大学のこと、勉強のこと、バイトのこと。好きな映画や本、お笑い芸人、ミュージシャンのことまで、喋り過ぎなぐらい喋る。
僕はただ樹奈が一生懸命話し続けるのを聞いている。するとそこに偶然、巧と茉美が通りかかった。僕たちに気づき、こそこそデートかよとからかいはじめる。
僕は否定するけど、もっと否定するのは樹奈だ。
「告白されたけど、きちんと断ったから」
えっと驚く僕よりもさらに驚く巧と茉美。
ごめんなさい、と僕は恥ずかしいのと悲しいのとショックなのでその場を走って立ち去る。
そこで目が覚めた。
目が覚めてもはっきり夢を覚えているあの状態で、しばらく心臓がどきどきしていた。嫌な感情がそのまま体に残っていて、現実にあったときのように僕は傷ついていた。
実際に、僕は告白に至る一ヶ月ほど前から、頻繁に樹奈に誘われて、夢に出てきたコーヒースタンドに行った。
「コーヒースタンド行かない?」というのが、樹奈の誘いの言葉だ。
なぜかいつも、巧や茉美が一緒じゃないタイミングで誘ってくる。最初は偶然かと思っていたけど、三度、四度と誘いが続くと、そこにはなにか意味があるのではないかと僕は思いはじめた。
樹奈は僕と二人きりになりたいのかもしれない。何度も誘うのは、僕からの誘いを待っているからかもしれない。樹奈は僕のことが好きで、告白されるのを待っているのかもしれない。
一度そう思い込んでしまうと、樹奈の行動のすべてが僕への好意のサインであるかのように受け取られた。コーヒースタンドでやけに喋るのはおかしいし、巧や茉美が一緒の時に誘わないのもおかしい。
樹奈はたぶん、いや、絶対に僕のことが好きだ。
だから僕は樹奈をデートに誘った。「おいしいコーヒーのお店を見つけたから行ってみない?」と。
樹奈は少し困惑しているようにも見えた。でもそのときの僕は、嬉しさの裏返しだと自分に都合よく解釈してしまった。
ネットで調べたおしゃれなコーヒーのお店にはきちんと下見にも行った。告白によさそうな近所の公園も見つけておいた。
デート当日、樹奈はなぜが元気がなかった。二人の時はいつもあんなにお喋りしていたのに、その日は僕の話に相槌を打つばかり。
僕は戸惑いながらも店を出ると公園に彼女を連れていき、少し微妙な雰囲気のまま告白をした。
結果は「ごめんなさい」だ。
僕よりも樹奈のほうが落ち込んでいるように見えた。
そこでやっと僕は、彼女の行動の意味を誤解していたことに気づいた。
別に僕のことが好きだから誘ってたんじゃない。
だったらなんで誘ったんだよ。あんなに楽しそうに喋って笑ってさ。
なんで?
疑問は残ったけど、当然、訊ねることはできなかった。
いまでも疑問は疑問のまま残っている。でもふられた事実は変わらないんだから、もうそんなことはどうでもいい。
ただひとつ、僕はこの夢で気づいてしまった。
樹奈に告白したことを、巧と茉美に知られることを、僕は恐れている。
いや、正確には違う。
僕がどういう思いで告白してふられたかということを知らないまま、ただ無謀にも告白してふられた、と二人に思われてしまうのが怖い。
ということで、僕は巧と茉美にスマホでメッセージを送ることにした。
(このまえ、樹奈に告白してふられました。僕が勝手に変な勘違いをしてしまったせいです。樹奈とはいままでどおりでいようということになりました。一応、報告まで。)
送信してから、急に不安になった。あの文面でよかっただろうか。
どう勘違いしたかは、後日ゆっくり説明すればいい。あほだと彼らは呆れるだろう。でも、キモがられるよりはいい。
二人からの反応が怖くて、僕はスマホの電源を切って机の引き出しにしまった。
*
樹奈の夢だ。
大学近くのおしゃれなコーヒースタンドのベンチで、僕と樹奈がお喋りをしている。
樹奈はすごくご機嫌で、カフェオレをちびちび飲みながら、いろんな話をする。大学のこと、勉強のこと、バイトのこと。好きな映画や本、お笑い芸人、ミュージシャンのことまで、喋り過ぎなぐらい喋る。
僕はただ樹奈が一生懸命話し続けるのを聞いている。するとそこに偶然、巧と茉美が通りかかった。僕たちに気づき、こそこそデートかよとからかいはじめる。
僕は否定するけど、もっと否定するのは樹奈だ。
「告白されたけど、きちんと断ったから」
えっと驚く僕よりもさらに驚く巧と茉美。
ごめんなさい、と僕は恥ずかしいのと悲しいのとショックなのでその場を走って立ち去る。
そこで目が覚めた。
目が覚めてもはっきり夢を覚えているあの状態で、しばらく心臓がどきどきしていた。嫌な感情がそのまま体に残っていて、現実にあったときのように僕は傷ついていた。
実際に、僕は告白に至る一ヶ月ほど前から、頻繁に樹奈に誘われて、夢に出てきたコーヒースタンドに行った。
「コーヒースタンド行かない?」というのが、樹奈の誘いの言葉だ。
なぜかいつも、巧や茉美が一緒じゃないタイミングで誘ってくる。最初は偶然かと思っていたけど、三度、四度と誘いが続くと、そこにはなにか意味があるのではないかと僕は思いはじめた。
樹奈は僕と二人きりになりたいのかもしれない。何度も誘うのは、僕からの誘いを待っているからかもしれない。樹奈は僕のことが好きで、告白されるのを待っているのかもしれない。
一度そう思い込んでしまうと、樹奈の行動のすべてが僕への好意のサインであるかのように受け取られた。コーヒースタンドでやけに喋るのはおかしいし、巧や茉美が一緒の時に誘わないのもおかしい。
樹奈はたぶん、いや、絶対に僕のことが好きだ。
だから僕は樹奈をデートに誘った。「おいしいコーヒーのお店を見つけたから行ってみない?」と。
樹奈は少し困惑しているようにも見えた。でもそのときの僕は、嬉しさの裏返しだと自分に都合よく解釈してしまった。
ネットで調べたおしゃれなコーヒーのお店にはきちんと下見にも行った。告白によさそうな近所の公園も見つけておいた。
デート当日、樹奈はなぜが元気がなかった。二人の時はいつもあんなにお喋りしていたのに、その日は僕の話に相槌を打つばかり。
僕は戸惑いながらも店を出ると公園に彼女を連れていき、少し微妙な雰囲気のまま告白をした。
結果は「ごめんなさい」だ。
僕よりも樹奈のほうが落ち込んでいるように見えた。
そこでやっと僕は、彼女の行動の意味を誤解していたことに気づいた。
別に僕のことが好きだから誘ってたんじゃない。
だったらなんで誘ったんだよ。あんなに楽しそうに喋って笑ってさ。
なんで?
疑問は残ったけど、当然、訊ねることはできなかった。
いまでも疑問は疑問のまま残っている。でもふられた事実は変わらないんだから、もうそんなことはどうでもいい。
ただひとつ、僕はこの夢で気づいてしまった。
樹奈に告白したことを、巧と茉美に知られることを、僕は恐れている。
いや、正確には違う。
僕がどういう思いで告白してふられたかということを知らないまま、ただ無謀にも告白してふられた、と二人に思われてしまうのが怖い。
ということで、僕は巧と茉美にスマホでメッセージを送ることにした。
(このまえ、樹奈に告白してふられました。僕が勝手に変な勘違いをしてしまったせいです。樹奈とはいままでどおりでいようということになりました。一応、報告まで。)
送信してから、急に不安になった。あの文面でよかっただろうか。
どう勘違いしたかは、後日ゆっくり説明すればいい。あほだと彼らは呆れるだろう。でも、キモがられるよりはいい。
二人からの反応が怖くて、僕はスマホの電源を切って机の引き出しにしまった。
*
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる