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「りょーちゃんにお土産あるよ~ん」
茉美は僕の隣に座るなりそう言って、トートバッグから和柄の小さな紙袋を取り出した。
「浅草の?」
受け取って中身を見ると、雷門のちょうちんの柄の抹茶色のハンカチが入っていた。
「これ、みんなでおそろいだよん」と茉美が青い同じハンカチを取り出す。
「写真見る? 着物めっちゃよかったんだよ」
樹奈がスマホを取り出してささっと操作し、僕に画面を見せてくれる。
着物姿の三人が雷門や仲見世、浅草寺など、浅草らしい場所で撮影した写真が続く。買い食いしたあげまんじゅうやメンチカツ、甘酒なんかの写真もある。
「また行こうって話してたから、今度は良君も行こうね」
樹奈がやさしく微笑む。
「うん。行きたいな」
昨日、行けばよかったかも。でも一度断ったものをやっぱり行くとは言いにくかった。しかたない。
昨日の話で盛り上がる三人を学食に残して、僕は午後の授業に向かった。
ノートをとりながら、頭の片隅で柳子提案のモーニングがどうなるかをちょっと考えていた。
授業を終えて講義室を出ながらスマホを取り出すと、樹奈から写真が送信されていた。浅草で撮った写真を数枚、僕にもくれたのだ。
写真ありがとう、と返信しながらほっとしていた。樹奈とはどうにかいままで通りでいられそうだ。
大学を出ると、自転車でコーヒースタンドに向かった。
樹奈が想いを寄せているらしいロン毛髭をもう一度確認しておきたかった。
もしかして彼女がいるかも、と思ったけれど、店に客の姿はいなかった。
少し離れた場所で自転車を停めると、ロン毛髭、いや、クサカさんがぱっとこちらを見た。笑顔で頭を下げてくる。早々に見つかってしまった。
僕は頭を下げて、お店に来たんですといった顔をして自転車を押していく。
「こんにちはー」
明るい声であいさつをする爽やかなクサカさん。
こんにちはと僕も焦りながらあいさつを返す。
改めてよく見ると、身長がほんとに高い。百八十以上あるだろう。鼻も高いし、切れ長の目は大きい。塩顔。ピアス、四つもしてるよ。
「いらっしゃいませ。いつもどうも」
いつもどうも? 顔、覚えられてる。
「樹奈ちゃんの友達ですよね?」
樹奈ちゃんて馴れ馴れしい。やっぱり顔見知りなのか。というか、仲が進展してるのか。
「あ、はい」
「今日、樹奈ちゃんは一緒じゃないの?」
タメ口早すぎ。
「あ、もう帰ったみたいです」
「そうなんだ。残念」
残念とか軽々しくいうな。気がある女の子が聞いたら誤解するだろう、確実に。
「ご注文は?」
ペースを乱された僕は、
「カフェラテください」
いつも樹奈が頼んでるものを注文してしまった。ここはただのコーヒーのほうが良かったんじゃないか。
「僕、クサカって言います。お名前は?」
「あ……池間です」
「池間さんは昨日、浅草行ったんですか?」
なんでそのこと知ってるんだ? 僕の表情を読み取ったらしい彼が続けて言った。
「僕ら、けっこう連絡とりあってるんですよ。夜とか」
「はぁ、そうなんですか」
なんだって。じゃあ、昨夜も樹奈から浅草の話を聞いたってことか。
「僕は行ってません。用事があって」
「そうなんだ。浅草、すごく楽しかったみたいですよ」
「へえ……」
なんで樹奈の話をあんたから聞かないとならないんだ。
「僕にもお土産買ってくれたらしくて。なんか、提灯の柄のハンカチが可愛かったとかで」
四人だけのおそろいかと思ったら、こいつもおそろいだったのか。
「お待たせしました、どうぞ」
彼はカフェオレを僕の前にとんと置いた。お金を僕は笑顔で差し出す。
「浅草っていま、カップルも多いみたいですね。デートスポットみたいになってるのかな? 今度二人で行こうって話になってて」
え?
「樹奈とですか?」
「そうなんですよ」
デートに行く約束してるのか。
というか、付き合ってる?
あれ?
「もしかして樹奈と付き合ってるんですか?」
「いやいや、ただの友達です。の、はずです」
の、はずです、ってなんだ。
「クサカさんていま彼女いないんですか?」
「えー、直球」
は?
「モテないんですよ、僕」
答えになってない。
「冷めちゃいますよ」
帰れってか。
僕はカフェオレをむんずとつかむと、にっこり笑ってその場でぐいっと飲んだ。
「僕、スケボー通勤してるんですよ」
「スケボー……」
クサカさんは両手を広げてスケボーに乗るフリをする。わかってますよ、スケボーぐらい。
「このまえ、店の前でこけちゃって。そこにちょうど樹奈ちゃんが居合わせたんですよ。怪我とかなかったんだけど、ハンカチで泥とかはらってくれて」
「はぁ……」
それで仲良くなったと言いたいのか。
「スケボー教えて欲しいって頼まれて、それで、何度か教えたんですよね」
樹奈がスケボー。初耳だけど。
確か運動が苦手って言ってたはず。
すると、黄色いクロスバイクに乗った金髪の女の子が店の前に現れた。
自転車を降りてクサカさんに挨拶をする。同僚みたいだ。
金髪女子が店内に入ると、彼らは仲よさそうに僕のわからない単語を使って話しはじめた。
髪色は違うけど、もしかすると、以前彼といちゃついていた店員かもしれない。
デートにスケボー。
樹奈がロン毛髭となにをしようと、僕には関係のないこと。もう詮索するのはよせ。
僕は自分にそう言い聞かせながら、自転車にまたがって立ち去った。
*
翌朝、いつものようにファミレスで働いていると、出勤した店長からアンケート用紙みたいなものを渡された。
〈モーニングのリニューアルに求めるもの、希望などがあればご意見をおよせください〉
とある。
モーニングのリニューアルって、柳子の提案が受け入れられたのか。
茉美は僕の隣に座るなりそう言って、トートバッグから和柄の小さな紙袋を取り出した。
「浅草の?」
受け取って中身を見ると、雷門のちょうちんの柄の抹茶色のハンカチが入っていた。
「これ、みんなでおそろいだよん」と茉美が青い同じハンカチを取り出す。
「写真見る? 着物めっちゃよかったんだよ」
樹奈がスマホを取り出してささっと操作し、僕に画面を見せてくれる。
着物姿の三人が雷門や仲見世、浅草寺など、浅草らしい場所で撮影した写真が続く。買い食いしたあげまんじゅうやメンチカツ、甘酒なんかの写真もある。
「また行こうって話してたから、今度は良君も行こうね」
樹奈がやさしく微笑む。
「うん。行きたいな」
昨日、行けばよかったかも。でも一度断ったものをやっぱり行くとは言いにくかった。しかたない。
昨日の話で盛り上がる三人を学食に残して、僕は午後の授業に向かった。
ノートをとりながら、頭の片隅で柳子提案のモーニングがどうなるかをちょっと考えていた。
授業を終えて講義室を出ながらスマホを取り出すと、樹奈から写真が送信されていた。浅草で撮った写真を数枚、僕にもくれたのだ。
写真ありがとう、と返信しながらほっとしていた。樹奈とはどうにかいままで通りでいられそうだ。
大学を出ると、自転車でコーヒースタンドに向かった。
樹奈が想いを寄せているらしいロン毛髭をもう一度確認しておきたかった。
もしかして彼女がいるかも、と思ったけれど、店に客の姿はいなかった。
少し離れた場所で自転車を停めると、ロン毛髭、いや、クサカさんがぱっとこちらを見た。笑顔で頭を下げてくる。早々に見つかってしまった。
僕は頭を下げて、お店に来たんですといった顔をして自転車を押していく。
「こんにちはー」
明るい声であいさつをする爽やかなクサカさん。
こんにちはと僕も焦りながらあいさつを返す。
改めてよく見ると、身長がほんとに高い。百八十以上あるだろう。鼻も高いし、切れ長の目は大きい。塩顔。ピアス、四つもしてるよ。
「いらっしゃいませ。いつもどうも」
いつもどうも? 顔、覚えられてる。
「樹奈ちゃんの友達ですよね?」
樹奈ちゃんて馴れ馴れしい。やっぱり顔見知りなのか。というか、仲が進展してるのか。
「あ、はい」
「今日、樹奈ちゃんは一緒じゃないの?」
タメ口早すぎ。
「あ、もう帰ったみたいです」
「そうなんだ。残念」
残念とか軽々しくいうな。気がある女の子が聞いたら誤解するだろう、確実に。
「ご注文は?」
ペースを乱された僕は、
「カフェラテください」
いつも樹奈が頼んでるものを注文してしまった。ここはただのコーヒーのほうが良かったんじゃないか。
「僕、クサカって言います。お名前は?」
「あ……池間です」
「池間さんは昨日、浅草行ったんですか?」
なんでそのこと知ってるんだ? 僕の表情を読み取ったらしい彼が続けて言った。
「僕ら、けっこう連絡とりあってるんですよ。夜とか」
「はぁ、そうなんですか」
なんだって。じゃあ、昨夜も樹奈から浅草の話を聞いたってことか。
「僕は行ってません。用事があって」
「そうなんだ。浅草、すごく楽しかったみたいですよ」
「へえ……」
なんで樹奈の話をあんたから聞かないとならないんだ。
「僕にもお土産買ってくれたらしくて。なんか、提灯の柄のハンカチが可愛かったとかで」
四人だけのおそろいかと思ったら、こいつもおそろいだったのか。
「お待たせしました、どうぞ」
彼はカフェオレを僕の前にとんと置いた。お金を僕は笑顔で差し出す。
「浅草っていま、カップルも多いみたいですね。デートスポットみたいになってるのかな? 今度二人で行こうって話になってて」
え?
「樹奈とですか?」
「そうなんですよ」
デートに行く約束してるのか。
というか、付き合ってる?
あれ?
「もしかして樹奈と付き合ってるんですか?」
「いやいや、ただの友達です。の、はずです」
の、はずです、ってなんだ。
「クサカさんていま彼女いないんですか?」
「えー、直球」
は?
「モテないんですよ、僕」
答えになってない。
「冷めちゃいますよ」
帰れってか。
僕はカフェオレをむんずとつかむと、にっこり笑ってその場でぐいっと飲んだ。
「僕、スケボー通勤してるんですよ」
「スケボー……」
クサカさんは両手を広げてスケボーに乗るフリをする。わかってますよ、スケボーぐらい。
「このまえ、店の前でこけちゃって。そこにちょうど樹奈ちゃんが居合わせたんですよ。怪我とかなかったんだけど、ハンカチで泥とかはらってくれて」
「はぁ……」
それで仲良くなったと言いたいのか。
「スケボー教えて欲しいって頼まれて、それで、何度か教えたんですよね」
樹奈がスケボー。初耳だけど。
確か運動が苦手って言ってたはず。
すると、黄色いクロスバイクに乗った金髪の女の子が店の前に現れた。
自転車を降りてクサカさんに挨拶をする。同僚みたいだ。
金髪女子が店内に入ると、彼らは仲よさそうに僕のわからない単語を使って話しはじめた。
髪色は違うけど、もしかすると、以前彼といちゃついていた店員かもしれない。
デートにスケボー。
樹奈がロン毛髭となにをしようと、僕には関係のないこと。もう詮索するのはよせ。
僕は自分にそう言い聞かせながら、自転車にまたがって立ち去った。
*
翌朝、いつものようにファミレスで働いていると、出勤した店長からアンケート用紙みたいなものを渡された。
〈モーニングのリニューアルに求めるもの、希望などがあればご意見をおよせください〉
とある。
モーニングのリニューアルって、柳子の提案が受け入れられたのか。
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