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「読んだ。すごいね、おめでとう」
「りょーちゃんのアイデア見たよ。なんか普通だったけど、考えてくれてありがと」
普通でごめんな。
「柳子はどんなアイデア出したの?」
さぞや斬新なアイデアなんだろうね。
「それなんだけど、来週の週末までにアイデアをまとめて店長に提出する約束になってるの。今度の週末、りょーちゃん付き合ってよ。美帆さんと大さんにもあとで声かけるから」
「四人で新しいモーニング決めるってこと?」
「そう。わくわくするよね」
しない。なんで勝手に話すすめてるんだよ。
「料理スタッフの人とやったほうがよくない? 彼らが作るんだし」
「もちろんあとで相談はするよ。でもまずは自由なアイデアを出したいの。私たち、毎日お客さんの表情を間近で見てるでしょ。『このモーニング見たらトキコさん笑ってくれるかな』とか想像しながら考えたいんだよね」
社員でもない僕らにまかせるなんて、本当に会社はこの店を見放したようだ。
それなら柳子に付き合ってみてもいいか。
「わかった。どこでやるの? 店?」
「うちでやろうかなと思って。日時は美帆さんたちの都合に合わせようと思うんだけどいい?」
「いいよ」
美帆さんや大さんは家族がいるけど、週末に時間を作れるんだろうか。
そんなことを考えていると、美帆さんが出勤してきた。着替えをすましてフロアに出てきた彼女を柳子がつかまえて、今度の週末空いてるかどうか訊ねる。
「大丈夫だけど、私なんかでいいの?」
「もちろんですよ。一、二時間ぐらいでいいので、うちでモーニング会議しましょう」
「リュウちゃんちで? 楽しそう! 土日のどっちか一日だけなら大丈夫だよ。出かけるとしても事前にわかってれば時間ずらせるし」
「ありがとうございます。大さんも誘うつもりなんですが、土日都合つきそうですかね?」
美帆さんは腰に手をあてて天井を見る。
「大さんちはまだ子供小さいからね。朝とかご飯時を避ければ、一時間ぐらいどうにかなるんじゃない。それかビデオ通話でリモート会議にするとか」
「あ、それいいですね。あとで訊いてみます」
なんだか本格的になってきた。
週末までに、僕ももうちょっとアイデアを考えておいたほうがいいかもしれない。他の人たちがいろんな案を出している中、なにもしないでいるというのもまずいだろう。
朝の仕事を終えて自転車で大学に急ぐ途中、一昨日のことを思い出してちょっと不安になった。
あれから茉美はどうしたんだろう。樹奈に連絡したんだろうか。
誰かいるかな、と窺いながら学食に入っていくと、巧と樹奈が窓際のテーブルにいるのが見えた。茉美の姿はない。
たぬきうどんをのせたトレーを持って二人のところに行く。
「おはよー」
声をかけると、二人同時に振り返って笑顔になった。二人ともカレーを食べている。
ちらっと樹奈の耳を見ると、茉美が言っていたとおり、ピアスをつけていた。シンプルな小さなリング状のものだ。
だがそれ以上に、顔が変わっているのにすぐ気づく。特に目元の印象が違う。目のラインがくっきりしていて、まつ毛の量も増えてる。口紅もいつもより赤い。ちょっと強気な感じに見えるメイクだ。
「なんか雰囲気変わったね。ギャルみたい」
僕がそう言うと、樹奈は口を押さえて笑った。笑い方は元のままだ。
「ギャルじゃないって」
巧も笑いながら頷く。
「俺もびっくりした。化粧でこんなに変わるのな」
「友達に教えてもらったの。意外と似合うでしょ」
「俺は前のほうがいいけど」
巧がズバッと言っても樹奈は笑って流している。
「そういや、茉美は?」
茉美はいつも授業が終わるとすぐに巧や樹奈と合流する。すぐに帰らず、お喋りしたり、どこかへ寄っていくのが普通だ。
「茉美、いないんだよね。メッセージの返信もないし」
巧はそう言って、食堂の入り口をちらっと見る。僕が樹奈を見ると、彼女も頷いた。
「見てよ、良。樹奈、ピアス開けたんだよ」
「可愛いでしょ」
そう言って耳たぶを触る樹奈。
確かに似合ってる。
「なんか急に変わっちゃってどうしたの、男でもできた?」
巧の言葉に樹奈は軽く睨みつけて対抗する。
「できてませんて」
「茉美から聞いてるよ。コーヒー屋の兄ちゃんといい感じなんだって?」
樹奈はまた笑うだけ。
そういう言い方したら話したくなくなるだろう。巧のボケ。
「そのメイクもコーヒー兄ちゃんの好みとか?」
「違います。アイさんに教えてもらったの」
「誰それ」
樹奈は少しためらってから、コーヒースタンドで働いている女の子だと説明した。もしかしてあの金髪女子だろうか。
「金髪の人?」
僕が訊ねると、樹奈はこくこく頷いた。
「一緒にスケボーやったって言ってたよ。一昨日、店に行った時、二人が教えてくれたんだ」
「そうらしいね。茉美が言ってた」
やっぱり茉美とあのときのこと話したんだ。
「りょーちゃんのアイデア見たよ。なんか普通だったけど、考えてくれてありがと」
普通でごめんな。
「柳子はどんなアイデア出したの?」
さぞや斬新なアイデアなんだろうね。
「それなんだけど、来週の週末までにアイデアをまとめて店長に提出する約束になってるの。今度の週末、りょーちゃん付き合ってよ。美帆さんと大さんにもあとで声かけるから」
「四人で新しいモーニング決めるってこと?」
「そう。わくわくするよね」
しない。なんで勝手に話すすめてるんだよ。
「料理スタッフの人とやったほうがよくない? 彼らが作るんだし」
「もちろんあとで相談はするよ。でもまずは自由なアイデアを出したいの。私たち、毎日お客さんの表情を間近で見てるでしょ。『このモーニング見たらトキコさん笑ってくれるかな』とか想像しながら考えたいんだよね」
社員でもない僕らにまかせるなんて、本当に会社はこの店を見放したようだ。
それなら柳子に付き合ってみてもいいか。
「わかった。どこでやるの? 店?」
「うちでやろうかなと思って。日時は美帆さんたちの都合に合わせようと思うんだけどいい?」
「いいよ」
美帆さんや大さんは家族がいるけど、週末に時間を作れるんだろうか。
そんなことを考えていると、美帆さんが出勤してきた。着替えをすましてフロアに出てきた彼女を柳子がつかまえて、今度の週末空いてるかどうか訊ねる。
「大丈夫だけど、私なんかでいいの?」
「もちろんですよ。一、二時間ぐらいでいいので、うちでモーニング会議しましょう」
「リュウちゃんちで? 楽しそう! 土日のどっちか一日だけなら大丈夫だよ。出かけるとしても事前にわかってれば時間ずらせるし」
「ありがとうございます。大さんも誘うつもりなんですが、土日都合つきそうですかね?」
美帆さんは腰に手をあてて天井を見る。
「大さんちはまだ子供小さいからね。朝とかご飯時を避ければ、一時間ぐらいどうにかなるんじゃない。それかビデオ通話でリモート会議にするとか」
「あ、それいいですね。あとで訊いてみます」
なんだか本格的になってきた。
週末までに、僕ももうちょっとアイデアを考えておいたほうがいいかもしれない。他の人たちがいろんな案を出している中、なにもしないでいるというのもまずいだろう。
朝の仕事を終えて自転車で大学に急ぐ途中、一昨日のことを思い出してちょっと不安になった。
あれから茉美はどうしたんだろう。樹奈に連絡したんだろうか。
誰かいるかな、と窺いながら学食に入っていくと、巧と樹奈が窓際のテーブルにいるのが見えた。茉美の姿はない。
たぬきうどんをのせたトレーを持って二人のところに行く。
「おはよー」
声をかけると、二人同時に振り返って笑顔になった。二人ともカレーを食べている。
ちらっと樹奈の耳を見ると、茉美が言っていたとおり、ピアスをつけていた。シンプルな小さなリング状のものだ。
だがそれ以上に、顔が変わっているのにすぐ気づく。特に目元の印象が違う。目のラインがくっきりしていて、まつ毛の量も増えてる。口紅もいつもより赤い。ちょっと強気な感じに見えるメイクだ。
「なんか雰囲気変わったね。ギャルみたい」
僕がそう言うと、樹奈は口を押さえて笑った。笑い方は元のままだ。
「ギャルじゃないって」
巧も笑いながら頷く。
「俺もびっくりした。化粧でこんなに変わるのな」
「友達に教えてもらったの。意外と似合うでしょ」
「俺は前のほうがいいけど」
巧がズバッと言っても樹奈は笑って流している。
「そういや、茉美は?」
茉美はいつも授業が終わるとすぐに巧や樹奈と合流する。すぐに帰らず、お喋りしたり、どこかへ寄っていくのが普通だ。
「茉美、いないんだよね。メッセージの返信もないし」
巧はそう言って、食堂の入り口をちらっと見る。僕が樹奈を見ると、彼女も頷いた。
「見てよ、良。樹奈、ピアス開けたんだよ」
「可愛いでしょ」
そう言って耳たぶを触る樹奈。
確かに似合ってる。
「なんか急に変わっちゃってどうしたの、男でもできた?」
巧の言葉に樹奈は軽く睨みつけて対抗する。
「できてませんて」
「茉美から聞いてるよ。コーヒー屋の兄ちゃんといい感じなんだって?」
樹奈はまた笑うだけ。
そういう言い方したら話したくなくなるだろう。巧のボケ。
「そのメイクもコーヒー兄ちゃんの好みとか?」
「違います。アイさんに教えてもらったの」
「誰それ」
樹奈は少しためらってから、コーヒースタンドで働いている女の子だと説明した。もしかしてあの金髪女子だろうか。
「金髪の人?」
僕が訊ねると、樹奈はこくこく頷いた。
「一緒にスケボーやったって言ってたよ。一昨日、店に行った時、二人が教えてくれたんだ」
「そうらしいね。茉美が言ってた」
やっぱり茉美とあのときのこと話したんだ。
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