THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

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ウォール山脈

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 【ダバン】を出発し北へ進むこと約3時間、私達の目の前にはディアンタ大陸を分断する【ウォール山脈】が悠然とそびえていた。

「本当にこの山に街などあるのか?」
「心配しなくてもちゃんと道はあるそうなので大丈夫ですよ」

 とは言ったものの、リアスが心配になる気持ちもわかる。
 なぜなら、目の前のウォール山脈はよくある山々のように傾斜がついたものではなくウォールの名の通り垂直に空に伸びた巨大な壁のように見えるからだ。
 多少の心配を胸にダバンの街で得た情報の通り魔導式電動二輪装甲車両を走らせることさらに1時間半、目の前にあると思ったウォール山脈は見えてからが遠かった。

「本当に道があるじゃな?」
「フィーン」
「……たぶん、大丈夫ですよ」

 遠くから壁のように見えたウォール山脈は、下から見え上げると壁のようではなく……壁だった。
 大きな不安を胸に壁……山沿いに魔導式電動二輪装甲車両を走らせること30分。

「本当に!本当に道があるんじゃな!?」
「フィン!?」
「ウルセッ!!俺が知るか!!お前らも探せ!!」

 走れども走れども切れ目なく天高く伸びる壁のような山脈に私達の不安が爆発した時だった。

「おーーい!!」

 遠くで声を上げながら手を振る屈強な人影、近づくと獣車の車輪が破損して困っているドワーフのおっさ……男だった。

「あんちゃん達!!ずいぶんトンチキな乗り物乗ってんがーね!!」

 声がデカくて変な訛りのドワーフのおっさ……男の名はダガヤ、近くの村で大量の食材を仕入れルチザンに帰る途中に獣車の車輪を岩にぶつけてしまったらしい。

「どうすんべーか、困ったったが、あんちゃん達何がねがーね?」

「何を言ってるんじゃこのおっさんは?」
 
 言いづらい事を躊躇なく言い放つリアス、流石である。
 
「ダガヤさん俺達もルチザンを目指しているんですが道がわからなくて困っているです、案内していただけるなら乗せて行きますけど、どうですか?」
「そんりゃぁ有り難だべっとも、せだったら獣車と食材ばどうっすっべーが?」

 喋れば喋るほど訛りが酷くなっていくダガヤさん、要は嬉しいけど獣車はどうしたらいいのでしょうか?という事だろう。とりあえず、アイテムボックスに収納しようと試したが出来なかった。
 そこで、獣車と積荷のおおよその値段を聞きその金額をダガヤさんに渡し買い取った事にしてみると、アイテムボックスに収納する事が出来た。

「じゃっじゃっ!?こらたまげたや!!なんただ凄っこってが」

 もはや呪文のようなことを口走るダガヤさん、ルチザンに着いたらお金は返して貰うと念押しをしてサイドカーに乗ってもらう。
 リアスがもの凄く嫌がったが、私も見ず知らずのおっさんを後ろに乗せるのは嫌だ。

「ポッチ!タママ!この変ただ車っこさ着いてくんだがな」

 このポッチとタママと言うのは獣車を引いていたダチョウのような大きさと形の爬虫類の魔獣で「クワァクワァ」と可愛い声で返事をしている。
 名前も可愛いしなんだか和むなぁ。

「ポッチとタママじゃって、タタラ並みのネーミングセンスじゃのう、ププッ」
「フィフィフィッ」

 うっさい、お前だけ置いて行ったろうか。

「じゃっじゃ!!この椅子っこばなんただあんばいの良いこったが」

 ……むさ苦しいドワーフを一時的にパーティーに加えて魔導式電動二輪装甲車両を発進させた。

「この道ばあとすんキロば行ぎはってけばぁよ登ってけるどごばあんだすども、なんただ早い車っこだごどーが」

「えっ?」

「んだがらよ、この道ばぁよ
「あっ近くなったら教えてください」
「わがったやが」

 私はふと不安になった。

 ダガヤさんがいるのでルチザンに着くは着くだろうけど、もし全員この訛りだったらルチザンの人とちゃんと会話になるのだろうか、と……。
 まぁコッチの言うことは聞き取れているので話は伝わるだろうけど、果たしてコッチがちゃんと聞き取れるかどうか……。
 きっと初めて海外旅行に行く時ってこんな気持ちになるんだろうなぁ。

「あんちゃん、もうペッコ行ったら左さ曲がっとこばあるがよ」
「ペッコ?ペッコが行く?」

「……ポッチ!タママ!この車っこの前さ行って走ってけんねぇが」
『クワァッ!!』

「さんねぇなあんちゃん、何言っとかわがんねーがべ」

 何を言ってるかわからなかったが、どうやら伝わらないと思ったダガヤさんは魔獣達に先導させてくれるようだ。
 これならとりあえず一安心だ、私は魔獣達の後を追って左に曲がりようやく山を登る道へたどり着いた。
 後はここを登るだけなのだが、さっきから凄く気になっていることがある。

「なぁタタラ」
「リアスも気づきましたか」
「あぁ、この匂い」
「はい……さっきからずっとしているこの匂いは」

「なんだか和む良い匂いなんじゃ」

 そう、このむさ苦しいドワーフのおっさんからはありえないくらい良い匂いがしているのだ。

「なんだが?」
「いっいえ、なんでもないです」
「んだが」
「んだが……です」

 おっさんの心和む良い匂いに包まれながら、山を登ること3時間。
 私達はついにエンドーレ王国、最終目的地である武器職人の街【ルチザン】を視界に捉えた。

 大陸で唯一ウォール山脈に作られた街【ルチザン】は、かつて鉱石の採掘で栄えた町だったが【アガルタ】の封印以降採掘場所のほとんどがダンジョン化し一時は住人のほとんどが街を離れ廃墟と化した過去を持つ。
 だが、ダンジョンの封印門の建設にあたりギルドが設立され多くの冒険者が集まりその需要に応えるため多くの武器工房が作られた。
 元採掘所のダンジョン攻略後は良質な鉱石が発見され、周辺ダンジョンの全てが攻略された後でも武器職人達はこの地で腕を磨き続け、ここ【ルチザン】は現在、武器職人の聖地と言われるほどになっている。

「あんちゃん、そごの門で止めですごしばっか待てけでね」
「はい……了解です」

 魔導式電動二輪装甲車両を止めるとダガヤさんはサイドカーを降りてポッチとタママを引き連れ門の方に歩いていった。
 この【ルチザン】という街はギルドはあるが所属冒険者が少なく、さらにルチザンブランドの武具は高額で取引されるため街に入る手続きが厳重ならしい。

 ダガヤさんが門の鉄格子のついた小窓に何かゴニョゴニョ話し続けること5分。
 門の脇の鉄の扉が開き、中からリアスより少し背の高い20代くらいの髪の長い女性が現れた。

「ヌフフフ、やっと来たじゃん【イザベルの戦人】君!」

 あっ……ああ……また面倒くさそうなのが出てきたようだ。
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