訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白

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文化祭

光と影

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 朝の一件で俺への敵意が業火のごとく燃えあがるかと思ったが、姫野がうまく収めてくれたらしい。

 トイレに行ってから自分の席に戻ると、クラスの男子数人が俺のところへやってきた。
「あの、鳥屋野」
「なに?」
「キラ様を……生んでくれてありがとう……っ!!」
 何がどうなった。

 どうやらキラの正体が姫野《自分》であることを明かした上で、「王子」だった姫野に友人の俺が「キラ」の姿になることを提案した、という筋書きらしい。後ろの席に顔を向けると、目の合った姫野は得意気に微笑んだ。



「今日は、一カ月後に迫った文化祭の出し物を決めてもらう。一ノ瀬、頼んだ」
「はーい」
 先生に指名されて、深恋はポニーテールを揺らしながら黒板の前へ歩いていく。
「よーし! 文化祭でやりたいものがある人はじゃんじゃん言ってね!」

 そういや、オンモードの深恋って久々に見たな。
 ずっと夏休みだったわけで、いつもの深恋の方がすっかり見慣れていたからこっちは新鮮だ。

「うんうん、お化け屋敷に、チャイナ喫茶に、謎解きゲームね。他に案のある人は……」
 そう言ってクラスを見回す深恋にバチッと目が合った。
「あ……」
 その顔はみるみる赤く染まっていく。
「深恋?」
「だ、大丈夫だよ渚! 他に! 他に案のある人はいますかー?」

 ひさびさで落ち着かないのは同じみたいだ。俺はわざと教卓から顔を逸らした。

「演劇はどうかな? みんなが知ってる名作を私達なりにアレンジするとか」
「それ面白そうかも! シンデレラとかいいんじゃない?」
「一ノ瀬が姫役やるなら賛成」
「深恋ちゃんのドレス姿見たい!」

 クラスは深恋の意見を聞く前から勝手に盛り上がっている。これは間に入った方がいいか?

「はーい、じゃあ配役はこれから考えるとして、演劇に賛成の人は挙手してー!」
 深恋の声にクラスのほとんどの手が挙がり、クラスの出し物が決定した。


「本当に演劇でよかったのか?」
 その日の放課後、メイドカフェの開店準備をしながら深恋に声をかけた。
「クラスのみなさんが賛成していましたから」
「そうじゃなくて。このままだと確実に主役になるぞ。放課後は演劇の練習しないといけなくなるし」

 放課後はリボンが緩んで素の自分が見られるといけないから急いで帰ると言っていた。クラスの雰囲気を壊さないために無理しようとしているのなら、どうにかしてやりたい。

「心配してくれてありがとうございます。でも演劇だったら台本があるので、放課後で気が緩んでいても乗り切れると思うんです。それに、今回は頑張りたいって決めていましたから」
 その言葉に遠慮している様子は見られなかったから、大人しく見守っておくことにした。



 それから文化祭の準備が始まった。演劇の題材はシンデレラ。主役はもちろん深恋。そしてなぜか脚本に姫野が立候補した。海の時もそうだったけど、いきなり突拍子もない事をする。

 あっという間に準備期間は過ぎ、文化祭当日まで一週間を切った。学校全体が熱を増してきて、昼休みや放課後はどこも文化祭の準備で賑わっている。

 最終下校時刻の15分前を知らせるチャイムが鳴り、俺は作業していた大道具のパネルを片付けて教室を出た。

 「文化祭最優先」と言う汐姉によってバイトは休み。役者・演出チームの深恋と姫野は時間さえあれば体育館や空き教室で練習をしているから話す機会も少なくなった。

 昨日の放課後に役者以外のクラス全員で舞台を見せてもらったけど、なかなかの完成度だったと思う。特に主役の深恋は一際華があって、そんな風に堂々と振る舞えるところは素直にすごいと思った。
 そんな深恋に比べて、今の俺に出来ることは大道具として自分の役割をきちんと果たすことくらいだ。

「あ、更衣室に忘れ物取りに行かないと」
 体育更衣室へ向かう渡り廊下から窓に目を向けると、いつの間にか外は真っ暗になっている。
 目的の場所へ近づくほどに人気ひとけは少なくなり、自分の足音だけが廊下に響いて聞こえた。暗いだけなのに妙に不気味で、次第に駆け足になる。

「……は……す」

 かすかな音が聞こえてビクッと心臓が跳ねた。音のする方向は真っ暗な体育館だ。
「正体確かめないほうが怖いだろ、これ」
 恐る恐る中を覗き込む。真っ暗な体育館の奥、ステージをスポットライトがぽつんと照らしている。そこには見覚えのある人物が立っていた。

 体育館の照明スイッチをつけると、視界が一気に明るくなって目がくらんだ。

「りょ、亮太君!?」
 深恋が驚いた声を上げる。近づいてステージに上がるが、制服姿の深恋以外に人の気配はない。

「ろくに電気もつけないで何やってるんだよ」
「だって、自分だけのために明るくするなんてもったいないじゃないですか」
 その謎の配慮のおかげで、こっちは肝が冷えたんだけどな。

「姫野達は?」
「先に帰りました」
「そうか。そろそろ下校時刻になるし、暗いから途中まで送るよ」
「いえ。もう少し練習していきます」
 こんな風に頑固な深恋は珍しくて、そのことが引っ掛かった。

「昨日舞台を初めて見たけど、すごいと思ったよ。あんまり根詰めすぎるのはよくないし、本番に向けて体を休めるのも大事なんじゃないか?」
「いいえ。あれじゃだめなんです。あれは台本の通りに演じているだけ。私は……ありのままの私でこの舞台に臨みたいんです」

 ありのままの自分。深恋にとってその言葉がどれほどの意味を持つのか、少しは分かっているつもりだ。

 深恋は手にしていた台本を差し出した。

「もしよかったら、少しだけ付き合ってくれませんか」
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