6 / 11
彼女の話
3
しおりを挟む
翌朝、私は杉野さんとともに武田支部長に呼ばれた。
「2人には第一支部へ応援に行ってもらう。何でも隊員が負傷して人員が足りないらしい」
「武田さーん、麻生はまだ配属されたばっかりなのに第一支部なんて大丈夫なんですか?」
「今回は補欠だからすぐに戦闘に配置されることはないと思うし、もしそうなっても杉野君がどうにかしてくれるんでしょ」
「いやぁ……」
「私、頑張ります!」
ついに戦闘か……! テレビでもトレーニングでもPBNの映像や資料は散々見てきたけど、実物は初めてだ。でもたくさん練習してきたんだから絶対出来る……!
支度を済ませて建物を出ると、既に杉野さんの姿があった。
「お待たせしました!」
「おーう」
実戦用の戦闘服は体にぴったりと張り付くウェットスーツのようなデザイン。一見薄そうに見えるが、PBNの攻撃を受けても破れないような強化繊維で作られている。スーツの真っ黒な見た目がPBNとは対照的だ。また靴はキックシューズと呼ばれるもので、踏み込んだ瞬間にギアを変えると垂直に10から15mも飛ぶことが出来る。
そして腰にはPBN用につくられた剣を刺している。剣は一本か二本か選ぶことが出来て、トレーニングの際に上官から適性を見て許可が下りる。杉野さんは一本、私は二本だ。
「じゃ、さっさと行くか」
杉野さんは車の運転席に、私は助手席に乗り込んだ。
昔なら一時間はかかるだろう道のりを、車なんて特組関係か配給車しか通らないからかっ飛ばして30分くらいで第一支部に到着した。
第一支部の待機室で長椅子に座っていると、サイレンが鳴り響いた。PBNの襲来を知らせるアラームだ。隊員たちがバタバタと慌ただしく部屋を飛び出していく。
「麻生、しっかり準備しておけよ」
杉野さんはニッと口角をあげた。
「今日は荒れそうだ」
三回アラームが鳴って、部屋にはついに二人きりになった。
「杉野さん」
「ん?」
「第一支部って前に杉野さんがいたところなんですよね。それなのにどうして……」
「あー、武田さん詮索するなって言っておいて俺のことは話したんだぁ。ったく、口が軽いんだから……」
「いえ、違うんです! 私が勝手に支部室のファイルを見たので……」
「はっ、麻生って見かけによらず不良なんだな」
「それは失礼なことをしたと思っています……」
「まあ、別にいいけど。隠す必要もないから」
その時、四度目のアラームが鳴り響いた。
「じゃ、話の続きは戦いの後ってことで」
私達はPBNがいる地点に急いで向かった。
「なに、これ……」
初めて見るそれは想像をはるかに超えるものだった。ビルくらい高さだと聞いていたけど、PBN被害の大きいこの地区では、それと肩を比べるようなものは何もない。その迫力に私はなんてちっぽけな存在なんだと思わざるを得なかった。
「はぁっ……はぁっ……」
上手く息が出来ない。怖いのに、PBNから目が離せない。
鞭のような尾がしなり、こっちに向かってくるのを私は茫然と眺めていた。
「おい!」
その時、何かが私の体をさらった。
「麻生! お前、死にたいのか!」
ハッと気が付くと、目の前には真剣な顔をした杉野さんがいた。そして私の体を優しく降ろして、背を向ける。
「誰かが傷つくのを見るのはもう勘弁なんだよ……」
背中越しにそう呟くのがかすかに聞こえた。その背中には一筋、血が滲んでいた。
「杉野さん! 血が!」
どうしよう……きっと私をかばってくれた時に出来たんだ。
「ああ? んなの大したことないって」
杉野さんは腰につけた刀を抜いた。そして私の方を振り向く。
「まあ、正気に戻ったなら実力を見せてもらうか。優等生ビギナーサン?」
ふっ。挑発してくるんなら、乗ってやろうじゃない!
「こちらこそ勉強させていただきます。プリン先輩?」
「言うじゃねえか。行くぞ!」
私達はPBNに向かっていった。
トレーニングでは、第一選択として心臓を狙うと教えられた。心臓に攻撃を与えられればそれが致命傷となる。PBNの臓器の配置は人間とあまり変わらないが、体がとにかく大きいためにキックシューズをもってしても上部への攻撃は難しい。そのため第二選択となるのが大腿への攻撃だ。太い血管が通っているため出血によるダメージを与えられるし、歩行を封じれば被害の拡大も防げる。何より心臓よりも低い位置にあるため、キックシューズを利用すれば容易に届くことが大きな利点だ。
杉野さんは大きく飛び上がり、PBNの大腿部へ着地した。身のこなしが軽い。そして斬撃を加える。白い毛皮が赤く染まっていくのが分かる。やっぱり実践では大腿への攻撃が有効か……
その時、PBNの尾がしなった。このままじゃ杉野さんが危ない……!
「はぁっ!」
私は二本の剣でしなる尾を地面に叩きつけた。力強く暴れようとする尾を必死に押さえる。
「麻生、サンキュ!」
そう言って杉野さんは大腿へ二度目の斬撃を与えた。尾を押さえられたPBNは鋭い爪のついた左腕を杉野さんに向かって打ち出した。
「よっと」
杉野さんは近づいてきた左腕に飛び移り、上へと駆け上がった。そして、腕を踏み台にして、心臓の位置へ飛び移った。そして、心臓を一突き。
崩れ落ちるPBNをまるで空を舞っているかのように、部位ごとに解体していった。杉野さんが地面に着く頃には、もう巨大生物の脅威はなく、大きな塊がいくつも積みあがっているだけだった。
「心臓が第一選択。トレーニングでも習っただろ? ま、俺ぐらいの天才じゃないとこう上手くは行かないと思うけどな。あと、PBNが倒れる前に体を大まかに解体する。こうすることで巨体が倒れることによる二次被害を防ぐことが出来る」
杉野さんはニィっと笑った。
「どうだ? あまりにも凄くて感動したか?」
「……まあまあですね」
「ちぃっ、素直じゃないな」
「杉野さんに言われたくないです……ぷっ」
私達は顔を見合わせて笑った。
「2人には第一支部へ応援に行ってもらう。何でも隊員が負傷して人員が足りないらしい」
「武田さーん、麻生はまだ配属されたばっかりなのに第一支部なんて大丈夫なんですか?」
「今回は補欠だからすぐに戦闘に配置されることはないと思うし、もしそうなっても杉野君がどうにかしてくれるんでしょ」
「いやぁ……」
「私、頑張ります!」
ついに戦闘か……! テレビでもトレーニングでもPBNの映像や資料は散々見てきたけど、実物は初めてだ。でもたくさん練習してきたんだから絶対出来る……!
支度を済ませて建物を出ると、既に杉野さんの姿があった。
「お待たせしました!」
「おーう」
実戦用の戦闘服は体にぴったりと張り付くウェットスーツのようなデザイン。一見薄そうに見えるが、PBNの攻撃を受けても破れないような強化繊維で作られている。スーツの真っ黒な見た目がPBNとは対照的だ。また靴はキックシューズと呼ばれるもので、踏み込んだ瞬間にギアを変えると垂直に10から15mも飛ぶことが出来る。
そして腰にはPBN用につくられた剣を刺している。剣は一本か二本か選ぶことが出来て、トレーニングの際に上官から適性を見て許可が下りる。杉野さんは一本、私は二本だ。
「じゃ、さっさと行くか」
杉野さんは車の運転席に、私は助手席に乗り込んだ。
昔なら一時間はかかるだろう道のりを、車なんて特組関係か配給車しか通らないからかっ飛ばして30分くらいで第一支部に到着した。
第一支部の待機室で長椅子に座っていると、サイレンが鳴り響いた。PBNの襲来を知らせるアラームだ。隊員たちがバタバタと慌ただしく部屋を飛び出していく。
「麻生、しっかり準備しておけよ」
杉野さんはニッと口角をあげた。
「今日は荒れそうだ」
三回アラームが鳴って、部屋にはついに二人きりになった。
「杉野さん」
「ん?」
「第一支部って前に杉野さんがいたところなんですよね。それなのにどうして……」
「あー、武田さん詮索するなって言っておいて俺のことは話したんだぁ。ったく、口が軽いんだから……」
「いえ、違うんです! 私が勝手に支部室のファイルを見たので……」
「はっ、麻生って見かけによらず不良なんだな」
「それは失礼なことをしたと思っています……」
「まあ、別にいいけど。隠す必要もないから」
その時、四度目のアラームが鳴り響いた。
「じゃ、話の続きは戦いの後ってことで」
私達はPBNがいる地点に急いで向かった。
「なに、これ……」
初めて見るそれは想像をはるかに超えるものだった。ビルくらい高さだと聞いていたけど、PBN被害の大きいこの地区では、それと肩を比べるようなものは何もない。その迫力に私はなんてちっぽけな存在なんだと思わざるを得なかった。
「はぁっ……はぁっ……」
上手く息が出来ない。怖いのに、PBNから目が離せない。
鞭のような尾がしなり、こっちに向かってくるのを私は茫然と眺めていた。
「おい!」
その時、何かが私の体をさらった。
「麻生! お前、死にたいのか!」
ハッと気が付くと、目の前には真剣な顔をした杉野さんがいた。そして私の体を優しく降ろして、背を向ける。
「誰かが傷つくのを見るのはもう勘弁なんだよ……」
背中越しにそう呟くのがかすかに聞こえた。その背中には一筋、血が滲んでいた。
「杉野さん! 血が!」
どうしよう……きっと私をかばってくれた時に出来たんだ。
「ああ? んなの大したことないって」
杉野さんは腰につけた刀を抜いた。そして私の方を振り向く。
「まあ、正気に戻ったなら実力を見せてもらうか。優等生ビギナーサン?」
ふっ。挑発してくるんなら、乗ってやろうじゃない!
「こちらこそ勉強させていただきます。プリン先輩?」
「言うじゃねえか。行くぞ!」
私達はPBNに向かっていった。
トレーニングでは、第一選択として心臓を狙うと教えられた。心臓に攻撃を与えられればそれが致命傷となる。PBNの臓器の配置は人間とあまり変わらないが、体がとにかく大きいためにキックシューズをもってしても上部への攻撃は難しい。そのため第二選択となるのが大腿への攻撃だ。太い血管が通っているため出血によるダメージを与えられるし、歩行を封じれば被害の拡大も防げる。何より心臓よりも低い位置にあるため、キックシューズを利用すれば容易に届くことが大きな利点だ。
杉野さんは大きく飛び上がり、PBNの大腿部へ着地した。身のこなしが軽い。そして斬撃を加える。白い毛皮が赤く染まっていくのが分かる。やっぱり実践では大腿への攻撃が有効か……
その時、PBNの尾がしなった。このままじゃ杉野さんが危ない……!
「はぁっ!」
私は二本の剣でしなる尾を地面に叩きつけた。力強く暴れようとする尾を必死に押さえる。
「麻生、サンキュ!」
そう言って杉野さんは大腿へ二度目の斬撃を与えた。尾を押さえられたPBNは鋭い爪のついた左腕を杉野さんに向かって打ち出した。
「よっと」
杉野さんは近づいてきた左腕に飛び移り、上へと駆け上がった。そして、腕を踏み台にして、心臓の位置へ飛び移った。そして、心臓を一突き。
崩れ落ちるPBNをまるで空を舞っているかのように、部位ごとに解体していった。杉野さんが地面に着く頃には、もう巨大生物の脅威はなく、大きな塊がいくつも積みあがっているだけだった。
「心臓が第一選択。トレーニングでも習っただろ? ま、俺ぐらいの天才じゃないとこう上手くは行かないと思うけどな。あと、PBNが倒れる前に体を大まかに解体する。こうすることで巨体が倒れることによる二次被害を防ぐことが出来る」
杉野さんはニィっと笑った。
「どうだ? あまりにも凄くて感動したか?」
「……まあまあですね」
「ちぃっ、素直じゃないな」
「杉野さんに言われたくないです……ぷっ」
私達は顔を見合わせて笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる