こんな世界にありふれた、俺と彼女の話

亜瑠真白

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彼女の話

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 その後、私達は第一支部でシャワーを浴び、第六支部へと帰ってきた。
 前を歩く杉野さんはなぜか建物の裏手に回った。
「いいか。戦闘が終わったら、まず裏口から中に入る。そしてシャワーを浴びる。これ、絶対な」
 裏口を入ってすぐのところにシャワー室がある。確かに、さっきも返り血でベトベトだったもんな…
「支部内を汚さないようにするためですか?」
「まあ、それもあるが……」
 2人で裏口から中に入る。杉野さんが執務室のドアを開けようと手を伸ばすと、突然扉が勢いよく開いた。
「2人共、お帰りなさい!」
 とびきりの笑顔で迎えてくれた小森さんとは対照的に、扉が顔面にクリーンヒットした杉野さんは苦々し気な顔を浮かべた。
「これは不可抗力、だろ……」
 そう呟くと、杉野さんの鼻からつぅーっと血が流れた。
「杉野さん、血が!」
 何か拭くものを……私はあたりを見回した。
「血……」
「え?」
 小森さんはその場に倒れた。

「もう! こういう大事なことはちゃんと説明しておいてください!」
「悪い。戦闘後さえ気を付けていれば、大丈夫だと思ってたんだけどな……」
 私の抗議に杉野さんはバツが悪そうに頭を掻いた。
 小森さんが気を失って倒れた後、杉野さんは小森さんを支部室のソファに運んだ。小森さんは「血を見ると気を失ってしまう体質」らしい。
 数分もすると小森さんは目を覚ました。
「ごめんなさい、驚かせちゃって。杉野君も、怪我させてごめんね」
「俺の方は別にいいよ」
 杉野さんはそっぽを向いた。
「私も大丈夫です。ちょっとびっくりしましたけど、これからは気を付けられますから」
「ありがとう」
 小森さんは微笑んだ。
「あー、ハラ減った。夕飯にしようぜ」
「そうだね。今日は麻生君の初戦闘お疲れ様記念ってことで盛大に……って言いたいところなんだけど、配給だからいつもと変わらないな」
 そう言って武田支部長は笑った。

 変わり映えのない夕食を終えると、武田支部長と杉野さんは2人で部屋の奥へ行ってしまった。杉野さんに今日の戦闘記録の書き方を聞こうと思っていたのに。
 仕方なく過去の記録を見ながら作業していると、小森さんが隣に来た。
「麻生ちゃん、それ終わったらちょっといいかな」
 私達は寝室へ移動した。
「麻生ちゃんには私のこと、ちゃんと話しておきたいと思ったの」
 小森さんはそう口を開いた。
「私ね、昔から血とか人が痛がってるのがダメで、本当は医者か看護師になりたかったんだけど、それで諦めたの。誰かの命を助けられる仕事にずっと憧れてた。でも突然こういう時代になって、こんなありえない状況なんだから、こんな時ぐらい自分のやりたいことを突き通してみようって思って、特組に入ったの。トレーニングが始まって、頑張ってみたんだけどやっぱりだめで」
 そう言って窓の外を見ながら自傷気味に笑った。
「学科は大丈夫なんだけど、実技訓練で訓練生同士の模擬戦闘をやったりするでしょ。我慢して訓練するんだけど、血を見ると気を失っちゃうからね。教官たちの間で私は適正なしって判断されて辞めさせられるところだったの。でもね、武田さんがそんな私を迎えてくれた。実戦では何の役にも立たない私に、『ここにいていいんだよ』って居場所をくれた。杉野君もね、あんな感じだけどほんとはすっごく優しいの。麻生ちゃんに私のことをちゃんと説明しなかったのは、きっと私に気を使ってくれたんだと思う」
 小森さんは私の方を向いた。
「私はこんなだから、これからたくさん迷惑をかけると思う……ううん、かけてしまう。でも、私に出来ることは何だって頑張るから、どうか、私のことを認めてくれないかな……?」
 そう言って私を見つめる瞳には、不安の色が滲んでいた。
「困難があっても強い信念を持ち続けるなんて、誰でもできることじゃないです。私はそんな小森さんのことを仲間として誇りに思います」
 きっと今までたくさん悔しい思いをしてきたんだろう。それでもあきらめないで苦しみながら頑張っている人を認めないなんて間違ってる。
「……ありがとう」
 小森さんはやっと笑顔を見せた。
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