冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

契約

　私はウェン様に連れられて客室に通された。そこはThe 客室という感じであまり落ち着かなかった。ウェン様は私に紅茶とお菓子を出してくれたが正直この人が出すものを食べたくは無い。だって…

　「毒は入ってないですよ？｣
　「だから、心読むのやめてください。｣
　「ごめんなさい、癖なんです。｣
　「それどうにかならないんです？」
　「意識すれば聞こえにくくはなりますがそうしますか？」
　
　私は首を強く縦に振った。聞こえない方がいろいろ都合がいい。聞きたいことが山のように溜まっているが、ここに居られる時間も限られる。私は一番聞きたいことを聞くことにした。

　「単刀直入にお伺いします。ガロン様の記憶を何故弄ったのですか？」
　「それはそういう"契約"をしたからですね。」
　「誰と？どんな契約ですか？」
　「それは伝えることは契約上できませんね。まあ俺も得する契約だったので快くお引き受けしましたね。」
　
　それはそれはにこやかにそう答えていた。ほぼ犯罪、というか間違いなく犯罪で間違いはないだろう。それをこんなにあっさり答えることに不気味さを覚えた。それに人の記憶を弄ることが得するなんてとんだ頭のおかしな人である。さっさと帰りたい。この事実を知ったから殺されるとかもあり得そう。

　「殺しませんよ。」
　「やめてくださいとお願いしましたが？」
　「聞こえにくくなるだけで聞こえなくなるわけではないので。」

　最悪すぎる。脳内が暴かれるのは何歳になっても嫌なものなのだなと思う。そんな話はさておいてこんな契約を結ぶのは確実にカリーナ様であろう。きっと私を精神的に追い詰めたかったのだろう。もしくは自分の地位を確立させようとしてたか。どちらにせよほぼ確定しているので他のことを聞くことにした。

　「先ほど大誤算と言っていましたがそれはどういうことなのでしょうか？」
　「ああ、あれはエリーゼさんとガロンを引き離す、婚約破棄させるために記憶を弄ったんだ。」
　「は？」
　「あの魔法薬はエリーゼさんとの記憶を消すもの。記憶を消せたらよくわからん女が婚約者なんて！と婚約破棄するかと思ったのに。」

　ウェン様は自分の人差し指の爪を噛み明らかに悔しそうな表情を浮かべていた。私からしたらそのルートをたどってくれたらみんなが幸せになれたのになとか考えてしまう。

　「私を嫌いにならせるとか、もっと確実な方法はなかったのですか？」
　「それは直接やらないといけないレベルの干渉だからできなかったんです。薬でも作れないことはないけど、もしも違うように効果が発動された場合他の国に応援を呼んででも犯人捜しをする可能性があるので避けたかったんですよね。」
　
　なるほど。魔法も万能じゃないということか。けれどもし嫌いになるような魔法をかけていたら今頃こんなことにはなっていないのだろう。沢山美しいと褒めてくださったりすることも、お母さまのドレスをプレゼントすることも、あんなに優しい笑顔を向けてくださることもなかったのだ。
　そう考えていると胸の奥の方がチクリと傷んだ。

　この感情はなんなのだろうか。