冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

八坂

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完璧なはずなのに。

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 「うっ...!」
 「あ、起きましたね。」

 ガロン様は頭を抱えながらゆっくりと身体を起こした。眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情を浮かべる。その表情は私を嫌っていたものそのものでとても懐かしく、少し背筋が凍ってしまった。

 「ガ、ガロン様?」
 「ん...?あ、エリーゼ!無事だったか?」

 ガロン様は私を見つけると真っ直ぐ私の方へ向かって走ってきた。記憶が戻ったのではないのだろうか?私と何も会話していなかった記憶を思い出して私のことをシカトするのではないのだろうか?もしくは今までも自分の行いを恥じて私に顔向けできないのではないのだろうか?なんで今まで通り私に話しかけて心配してくるのだろう。

 「ガロン、お前記憶が戻ってるはずでしょ?そんな猿芝居やめなよ気持ち悪い。」
 「貴様が何を言っているのか分らん。俺の記憶は戻っていない。」
 「どういうこと...?ウェン様の解毒薬が効かなかったってこと?」
 「そんなことはないはずだよ。あの解毒薬は完璧なはずなのに。」

 ウェン様は自分の作った解毒薬は完璧らしく効いてないということはないらしい。それにここで嘘をついて記憶が戻っていないことも考えられはするがウェン様にそのメリットがない。じゃあガロン様が本当は記憶が戻っているのに嘘をついている?けれどそれもそれでメリットが全く無い。どうなっているの?

 「ガロン、お前本当に...」

 ウェン様はおもむろにガロン様の頭に触れようとした。多分ガロン様の頭の中をしっかりと見ようとしているんだろう。それが正確に分かるしいいだろうと思っていると...。

 「「「ガロン様!!!」」」

 突然ガロン様の部下の方々が乗り込んできた。そしてガロン様に寄り添う回復部隊と思われる人とウェン様を囲う攻撃部隊に分かれた。ガロン様の頭を覗こうとしていたウェン様は必然的に離されてしまい、どちらが嘘をついているのかが分からなくなってしまった。

 「お前!ガロン様に何をしようとした!」
 「ガロン様!お怪我はありませんか!」
 「エリーゼ様もご無事でしょうか?」

 ついでとばかりに私も一応の心配を受けた。色々な事がありすぎてぼーっとしている内にウェン様は捕まり、ガロン様と私は保護され、悪魔はいつの間にか消えていなくなっていた。


 
 「エリーゼ、怖くはなかったか?」
 「全く怖くなかったですけれど、少し疲れてしまいましたね。」

 私たちは迎えに来てもらった馬車に乗せてもらい、ガロン様と久しぶりにゆったりとした空間でお話をした。久しぶりのちゃんとした会話で多少緊張したが今まで通りの雰囲気で話すことを頑張っていた。

 「それなら、寝てていいぞ。」
 「いやそれは失礼になってしまうので。」
 「遠慮するな。」

 そう言ってガロン様は私の肩に手を持っていき、私の身体はガロン様の方へ引き寄せられた。

 「この体勢が嫌じゃなければこのまま眠っていて構わない。」
 「え、そんなこ...と、は。」

 ガロン様を支えにして寝るのは恥ずかしさと婚約者として良くないという気持ちがあり断ろうと思った。しかし私の身体は自分が思っている以上に疲れているようで、ガロン様の人肌がとても心地よくて私の睡眠欲をかき立たせた。そして私は抵抗出来ずにまた眠りについたのであった。




 「はぁ。本当に可愛い。」

 エリーゼが俺に身体を預けて眠っている姿がとても愛おしい。ずっとこのままでいたいという気持ちが沸々と湧いてくる。さらさらの髪の毛はなびく度に良い香りが漂ってきて少しでも油断したら理性に歯止めが利かなくなりそうになる。その無防備な姿を俺の瞳に刻もうと数少ない時間を堪能した。

 「それよりもこれからどうしたものか...。」

 俺はエリーゼに嘘をついてしまった。それも重い嘘を。
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