悪役令嬢はあなたのために

くきの助

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アランと手紙

茫然とただ座っているだけの俺の前にバサっと何かを置く音がして、反射的に顔を向ける。
次期侯爵がこちらを見ていた。

「リーネに送られた手紙です。アラン様、君からのね。覚えはあるかい?」

前のテーブルに置かれたのは手紙の束。

俺の頭に浮かぶのは疑問符だけだ。

俺はリーネに手紙を送ったことはないのはもちろん、ハーフナー伯爵令嬢にも手紙を送った事は数えるほどだ。
婚約が決まった時と、誕生日の時。

しかし次期侯爵の思わせぶりな問いかけに、反応したのはセレーナだった。

「キャリー!あなた!!」

「おやおや、なんだい?」

大袈裟に返事をしたのは次期侯爵。

セレーナはぐ……と口を閉じる。
そんなセレーナを次期侯爵はじっと見つめたままだ。

「まさか」

黙ってやり取りを見ていた父上が何かに気付いたように呟いた。

「どうやら、そのまさかのようですよ。」
「違います!!」

思わずといったようにセレーナが立ち上がった。

その姿に次期侯爵は唸る様に笑うと「何が違うんだい?」と問うた。

「それは……手紙が……ええ、私は……!いつも馬車の中でキャリーと一緒にお兄様からの手紙を読んでいました。だから知っているのです。お兄様がこの手紙は捨てて欲しいと頼んでいる事を。なのに持ってきているから、つい声を上げてしまいました。ねえ?お兄様!」

最初こそしどろもどろだったセレーナだが途中からはペラペラと話し出し、最後はこちらを見た。
しかし何の話かわからない。

父上も俺にチラリと目をやっただけで、すぐセリーナに向き直る。

「誰にやらせた?」

「だ……何を……お父様っ……」

引き攣った顔で絞り出した声は詰まりがちだ。

「言え。」

切り捨てるような言い方の父上に、何故かセレーナは眉を釣り上げた。

「ウォルターよ!でも無理矢理やらせた訳ではないわ!少し巫山戯て言っただけなのにあの男、本当に尻尾ふってやったのよ!私は悪くないわ!」

「次期侯爵、少し失礼してよろしいか。」

「ええどうぞ。」

次期侯爵が訳知り顔で頷くと、父上は軽く頷き手を上げた。
後ろに控えていた父上の侍従がそばに来る。

「ウォルターを今すぐ拘束して地下牢に入れておけ。」
「なっ!」

無視され拍子抜けのように佇んでいたセレーナが、絶句した。

すると場違いのようなクスクス笑いをもらしたのは次期侯爵だ。

「驚いたのかい?でもモリス侯爵の処置は当然だよ。貴族の手紙を偽造するなんて大罪だ。侯爵家の封筒や封蝋印まで使っていたなんてかなり悪質じゃないか。セレーナ嬢はどう考えていたのかは知らないけれども、もう子供のお巫山戯じゃあ済まないよ。」

セレーナは一瞬にして顔色を無くした。

俺はその一連の流れをまるで観劇でもするかのように見ていた。
そしてここまで言われれば誰でもわかるだろう。

俺の手紙が偽造されていたんだ。

すべてはセレーナの手によって。

「セレーナ座れ。」

立ち尽くしているセレーナに父上が命ずる。

「でも……!ねえ?キャリー!あなたも楽しんでいたわよね?!私達とメイクの時間も、楽しいと言っていたじゃない!そうでしょう?!」

机さえなければリーネに詰め寄っていただろう。
そのくらいの勢いでセレーナはリーネに迫ろうとしていた。

トウプチ先生の柳眉が逆立つ。

マズい。

隣の父上が立ち上がろうとした。
その時だった。

ずっと黙っていたリーネが立ち上がった。

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