悪役令嬢はあなたのために

くきの助

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夢の終わり

セレーナ様が私に求めていることは、わかった。

色々あったが楽しかったと
私はまったく傷ついていないと

そう私が言うだけで話の流れは変わるだろう。

(確かに私ならセレーナ様が望む言葉を口にすると、そう思われていても仕方がない。)

自分でもそう思えるほどに、私は王都に……同級生というものに、気後れしていた。

私は立ち上がった。

「セレーナ様。毎朝お迎えに来てメイクをして下さりありがとうございました。」

そう言えばセレーナ様の顔がパッと明るくなった。

「そうでしょう?楽しかったのでしょう?」

「迷惑でしたらそう言ってくださればよかったのに。」

セレーナ様の笑顔が固まった。

私がここで「楽しかった。」と言えば本気で怒ってくれたおじ様やおば様を裏切る事になる。
ハーフナー伯爵家として、そんな事は言えない。
そう思った。

私が見届けたいと思ったことの顛末はよくわかった。
そして夢は終わり。

「モリス侯爵様。」

侯爵様に向き直り呼びかける。

さあ自分の手で幕を下ろそう。

「確かにハーフナー伯爵家はモリス侯爵領の復興に尽力いたしました。ただこれは貴族の義務です。父も復興を経験し、またこのような災害が起きた時きっとこの経験が助けになると申しておりました。だというのにモリス侯爵様がハーフナー伯爵家に恩義を感じてくださり、私の恋を侯爵様が知って、温情で成った婚約です。最初からいつか醒める夢だと思っておりました。」

スウ、と区切るように大きく息を吸う。

「正直申しますと王都で侯爵夫人として生きていく事は重荷に感じておりました。田舎娘には過ぎた話だと。常々思っておりました。」

ゆっくり頭を下げる。

「夢はもう終わりにします。田舎娘は田舎に帰ります。もう私が王都に来ることはないでしょう。」

そして顔を上げて出て行こうとした。

でもどうしても頭が上がらない。
今頭を上げたら込み上げるものが我慢できないような気がした。

揃えた自分の両の手が見える。
情けないほどブルブルと震えていた。
前に座る侯爵様がそれに気付き息を呑むのがわかる。

喉が熱い。

早く……

早く頭を上げて出て行かなければ

そう思うのに体が動かない……

グイっと両肩に力がかかる。

「もうこれで十分でしょう。後は書面をまとめていただきましょうか!リーネと私は失礼させて頂きますわ。」

おば様が私の肩を抱いて押されるように私は応接室を出た。

侯爵家に応接室はひとつではない。
今出た応接室をでてすぐ空いている応接室におばさまは私を引き摺り込む。

バタンと扉が閉まる。

「う……」

その音を耳で確認した刹那、ずっと喉で堪えていたはずの声がとうとう漏れた。

「よく頑張ったわ。本当に頑張ったわね。もう大丈夫よ。」

優しく頭を撫でられると堰を切ったように涙が溢れ出した。


私うまく話せていたかしら


おばさまにそう聞きたいのに口からは嗚咽しが出てこない。

「とても立派だったわ。恥ずかしがり屋のリーネと思えないくらいにね。あんな汚い手ではあなたの誇りは傷つかないと皆思い知ったわ。本当よ。」

察したように声をかけてくれる。

よかった。

アラン様の瞳に最後に映った自分がみっともなくないなら、よかった。

夢のまま終わることが出来たなら、よかった。

そうよ。
本当は気付いていたの。
見ない様にしていただけ。

私をハーフナー伯爵令嬢と呼ぶアラン様の声は、本気で私を厭うていること
セレーナ様達の私を見る目は、揶揄を含んでいること

本当はとっくに夢は終わっていたことを。

それでも

「嫌われていても……蔑まれていても……!好きだったの、アラン様が……!嬉しかったの、セレーナ様の友達になれた事が………!」

嗚咽混じりに話せば叫ぶようにしか言葉が出ない。

ギュっとおば様が私をさらに抱きしめる。

私の言葉は

情けないと呆れさせたのだろうか。

みっともないと悲しませたのだろうか。

まだこんな言葉を吐く、不甲斐ない姪っ子でごめんなさい。
こんな思いをさせてしまってごめんなさい。

謝りたくても口からはもう嗚咽しか出なかった。

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