変人令息は悪女を憎む

くきの助

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最後の最後に ーアベルー

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ポール兄さんにそう言い渡された。

「もちろん2人きりじゃないからな。」

ぴしゃりと言われた。

まあ、仕方がない。
思ったよりあっさり会えた方だ。
何度も仕切り直した方がいい、一旦帰れ、と言われていた。
もちろんそうした方が良いのだろう。

しかし頑として拒否した。
理由なんてない。本能だ。
会えるまでは仕事も休む気だった。

「ほんっとお前は……手のかかる弟だねえ……」

ポール兄さんはそんな私を頬づえをついて呆れた目で見ながら言った。

ここは応接室だ。
ポール兄さんは私の前に座っている。

「感謝している。」

一言だけ言う。

ブリジットに謝りたい。

何度も思ったことだが一度も謝れなかった。

もし許してもらえなかったら?

そう思うと勇気が出なかった。

しかしもう最後の気がした。
ここで謝罪しなければもう……

ノックの音がすると母上が部屋に入ってきた。

「もうすぐビジイが来るけれど、少しでもビジイが嫌がったらそこで終わりよ。」

しっかり釘を刺されるが耳に入ってこない。
湧き出てくる緊張感に落ち着かなくなっていた。


コンコン

ハッとした。

「ブリジット。」

ブリジットが入ってきたので思わず席を立った。
ブリジットは立ち上がった私に少し目を大きくしたがすぐ貴族の顔に戻る。
そうして立ち上がった私の側まできた。

緊張が走る。

するとブリジットは深々と頭を下げた。

「アベル様。まずは謝罪をさせてください。」

謝罪?

「二度にわたる無礼な振る舞い。そしてお手紙に勝手な事を書き綴っていた事を、心から謝罪いたします。」

「……何故君は謝罪をしているんだ?」

思わず低い声で口からポロリと漏れた。

頭を下げたままのブリジットの体が強張った。
視界の隅で母上が立ちあがろうとしているのが見える。

「アベル様のお怒りはごもっともです。許していただけるとは……」

「待ってくれ!」

思わず肩をつかむとブリジットが驚いた顔をして私を見あげた。

「私は怒ってなどいない。謝罪するのは私の方だ。」

「アベル。」

嗜めるように母上が名前を呼ぶ。
しかしポール兄さんがそれを止めて母上を座らせていた。

「それこそ必要ありません。私は怒ってなどおりません。」

「君の手紙を私が持っていたんだぞ?」

「お見苦しいものをお見せしてしまい……」

「どうして!!」

思わず声を荒げてしまった。
何故怒っていない?

ずっと不思議だった。
何故彼女が謝る?

「君が謝らなければならないことなんて何もないじゃないか。」

ブリジットは困ったように眉を下げた。

「私の嘘に不快な思いをしているのはアベル様です。」

そう言うとブリジットの肩を掴んでいる私の手をそっと外すと、包み込むように両手で私の手を握った。

「ですのにその様な言葉をかけていただけるなんて、お心遣い感謝いたします。」

笑みを浮かべる。

なんということだ。
あっという間にブリジットが謝り私が許したという形が出来上がっていた。

「違う……そうじゃない……そうじゃないんだ……!」

泣きそうになった。
何を言っても届く気がしなかった。
いくら謝ったところでブリジットは怒っていない。
彼女は私に謝罪すらさせてはくれないのだ。

「最後に謝罪ができた事を嬉しく思います。ありがとうございます。アベル様」

そう言うと私の手をそっと離した。

ギリ

自分の歯軋りの音が聞こえる。

気が付けば私はブリジットの離した手をグッと掴むと思い切り引き寄せていた。
ブリジットの美しい顔が眼前に迫る。

「最後とは?私は今日を最後にするつもりなどないぞ。」

ブリジットの顔色が変わる。
でも止まらない。

「アベル。少し近いかな。」

兄さんに名前を呼ばれブリジットと離された。

「ブリジット。私が怒っていると言ったな?その通り、私は怒っている。」

ポール兄さんに彼女から遠ざけられながら、口からは感情に任せた言葉が吐き出される。
そうだ、確かに今私は怒っている。

「最後なんて勝手に決めつけないでほしい。婚姻解消するから?でも私は了承していない。」

「もういい加減になさい。あなたの了承なんていらないのよ、アベル。」

母上はそう言うとブリジットの肩を優しく抱いた。
言葉に反して憐れむような顔を私に向けている。

「ブリジット。私達の婚姻解消だ。私達が話し合おうじゃないか。」

ブリジットはじっと私を見ていた。
私も見つめ返す。
その表情からは何を考えているのか全く読めない。

「ブリジット。私は君の言葉が聞きたい。」

遠回しなデートを重ね、謝罪を先延ばしにしようとしていたのは、ブリジットの言葉を聞くのが怖かったからだ。
しかしもう形振りなど構っていられなかった。
このままでは終われない。


ブリジットの唇が動く。
しかし言の葉が紡がれることはない。

「はいストップー」

私とブリジットの間にポール兄さんが割って入る。

「お……」
「また来週の休みにしないか。」

抗議しようとした私の言葉をポール兄さんが遮った。

「その代わり正真正銘来週が最後。あのね、アベル。母上の言う通り婚姻解消は着々と進んでいるんだ。お前の了承なんてなくても近々成立する見込みだよ。」

そこまで言うとブリジットを振り返る。

「どう?ビジイ。今度こそ最後だ。もちろん私たちも同席するし、ビジイが終わらせたくなったらそこで終了だ。最初から会わなくても構わない。私たちはビジイの意見を尊重する。」

またポール兄さんがこちらに向きなおった。

「何度も言っているだろ。一回帰れって。あとはビジイが決める。少しは冷静になれ。」

呆れ気味に小さく言われた。
冷静に……


「わかりました。お会いします。」

不意にブリジットが声を上げた。

見るとブリジットもこちらを見ていた。

「アベル様の言う通りです。私達の婚姻の話です。一度は私達で話し合うべきでした。けじめをつけるべきです。来週、お会いします。」

はっきりと言った。
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