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第48話 帝国の侵攻1
しおりを挟む遂にこの日が来た。
エイドガー宰相は感無量といったおもむきで作戦の実行指示を出す。
まさに乾坤一擲。
王国を一気に攻め滅ぼすのだ。
5万もの軍勢がいきなり王都直近に配備されるのだから対応出来る訳もない。
しかも兵站も不用だ。
必要なだけ即時に送り込む事が出来る。
王国はなす術もなく滅びるだろう。
帝国軍の転移部隊大隊長が各部隊長に命令する。
「まもなく転移する。」
「多少の違和感はあるだろうが問題ない。」
「現地に着いたら即時に戦闘を開始せよ。」
「速やかに王都を制圧するのだ。」
広大な敷地に部隊を取り囲む様に設置された転移石がとなりあった転移石と共振を始めて光る。
部隊全体が光に包まれると敷地から部隊の姿がなくなった。
頭を揺さぶるような感覚の後強い眩暈が終わると目の前に王都の城壁が現れた。
転移は成功した。
「すぐに制圧にかかるのだ。」
声を上げて振り返り全軍を見渡す。
するとまた新たに全軍を取り囲む様に光のドームが出来る。
こんな事は作戦になかったのだがと訝しんでいると急に体が拘束されて動けなくなる。
周りの兵士達も同様にもがいているがどうにもならない様だ。
不意に巨大な影が全軍を覆う。
空を見上げた兵士が凍りついた様になり皆冷や汗をかく。
この状態であんなものに襲われたらどうにもならない。
何故今ここに神竜バハムートが現れるのだ。
軍の中央の兵士達がなんの力かはわからないが押しのけられて空白地帯が出来るとバハムートはそこに降りたった。
「うふふ。ご苦労さんたくさんの物資の配達ありがとう。」
バハムートがしゃべったわけではなくその頭の上に乗っているものがある。
配達とはどう言う事だ?
頭が混乱する。
よく見ると器と箸を持った子供がバハムートの頭の上にいる。
その子供が何かつぶやいて箸を持った手を上げると兵士達の武器が消え甲冑などの防具が剥がされ武装解除されてしまう。
体の拘束は解かれたが完全に戦う意志は削がれてしまい兵士達は呆然と立ち尽くしている。
「たくさん送り出したもんじゃな。帝国も必死なんじゃな。」
「じゃ、帰ってもらおうか。で、乗り込んでみようかな。」
みんなにはゆっくりうどんを食べていてもらおうかな。
リルがいるから大丈夫じゃろう。
急だったんでムートとわしだけで転移して来ちゃったからね。
わしは転移石に魔力を流して、もう軍とは呼べなくなった大勢の人たちを帝国へと送り返す。
後は良い知らせを待つばかりとなったエイドガー宰相はゆっくりとお茶を飲んでいた。
急に外が騒々しくなる。
ドタドタと城で待機していた将軍が執務室にやって来た。
「大変です、軍が帰ってきました。」
「いやいや、いくらなんでも早すぎるだろう。少し前に転移させたばかりじゃないか。」
「それが武装解除されて丸裸で、あーいやパンツは履いていますが。」
「その上でっかい竜までいます。もう何がなんだか。」
エイドガーは執務室を出て軍を送り出した敷地に望むバルコニーに出た。
「なんじゃこれは。」
と絶句する。
まさに将軍の言った通り巨大な竜とその周りに戦意喪失した裸の兵士達が呆然と立っている。
既に座り込んだり寝転んだりしている者もおるが。
竜の頭の上から声をかけてくる子供がいる。
「みんなを返すね。武器や防具はお土産としてもらったよ。」
ユウトはまだどんぶりを持っている。
後で返さないといけないからね。
エイドガーはあまりの事にブチ切れた。
「なんじゃー、おまえは。」
「わたしが長年かけた計画をぶち壊したのかー。」
「わたしが民を苦しめ、属国を搾り上げやっと実行となった計画をー。」
エイドガーは怒りに震え涙を流して叫ぶ。
「もう少し、もう少しで苦しみを終わらせて豊かな国となって民に報いることが出来たのに。こんな子供に台無しにされるとは無念、無念だー。」
バルコニーに膝をつき床を叩いて泣いている。
ユウトは相手はおっさんだがちょっと可哀想になってきた。
ムートの頭からバルコニーに飛び移る。
ムートも人化してついてくる。
「おじさん、国や民を思う気持ちはいいとしてやり方を間違えたのう。」
エイドガーはじじくさい話し方をする子供を不思議がりながらも問いかける。
「軍備以外に何もないこの帝国に他にやりようがあったと言うのか?」
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