声の出ない少年と心を読む少女

てけと

文字の大きさ
8 / 44

過剰な殺意

しおりを挟む
 
 人の心の声が聞こえる。それはとてもいい能力だと思う?


  答えはノーです。



  見ない方がいい事があるように、聞こえない方がいい声もある。

(魔女がいるぞ・・・うちの店には来んなよ・・・)
(不気味な子・・・いつまでこの街にいるのかしら)
(考えてることがわかるなんて怖すぎるよな)

  半径10メートル以内にいる人の心の声が聞こえてくる。

  聞きたくもない心の声です。街の中を歩く度に気分が悪くなる。

  
(それで?赤のダンジョンってどんなとこなんだ?)

  ビクッっと少し驚く。隣を歩くこいつの心の声、ハッキリと、大きな心の声に驚く。普通はひそひそと小声が聞こえる程度なのに・・・。
 
「冒険者になりたい割に何も知らないんです?」
(俺は帝国に来たのが最近だから・・・)
「ふーん。詳しくは聞かないです。事情が面倒くさそうですし」

  厄介事には巻き込まれたくないですし、街の人には嫌われていても、良好な関係を築いています。

  私は平穏な生活を手放したくない。

「色の名を冠するダンジョンは、ダンジョンコアとの契約が終わっているダンジョンです。つまり安全に薬草とかの素材を採れる初心者用のダンジョンです」
(なるほど・・・つまり敵はほぼ居ないと)
「です。因みにですが、通常のダンジョンは鉱石の名を冠すです。鉄、銅、銀、金、金剛石、白金の順番に危険度が高いです」
(ふむふむ。高原のダンジョンとか白き山のダンジョンとかそんな感じじゃないんだな)

「長ったらしいです。帝国はダンジョン管理のために何世代が前の皇帝が名前を統一したです。○○の町の鉄のダンジョンみたいな呼び方になるです。
  ただ・・・特別なダンジョンは名前がついてるです」
(特別なダンジョン?)
「勇者のダンジョンとか、龍のダンジョン、聖者のダンジョン、不死鳥のダンジョン。有名なのはこの辺です。通常のダンジョンとは違って、最奥に特別なお宝があるらしいです。
  一生行くことは無いでしょうが、間違っても入らない方がいいです。死にたくなければですが」
(へぇー。気をつけるよ。忠告ありがとうマリー)
「礼なんていらねぇです。
  着きましたよ。ここが赤のダンジョンです」

  冒険者になりたての頃よくお世話になったダンジョン。火薬草や解毒草が採れるダンジョン。敵はゴブリンがポツポツいるくらい。
  ここで戦闘に慣れて、数年の下積みを経て、ようやく最近Cランクまで上がった。

  そのせいでルーキーの育成が義務になって、たまにこうやって監査の仕事が来る。
  断りたいですが、割と報酬がいいので受けるですが・・・。

(おおー!透明な水晶が赤く輝いて・・・綺麗だな!だから赤のダンジョンなのか!!)

  ダンジョンに入るや否やはしゃぎ出す男。こいつの心の声はほんとうるさいです。もう少し静かに喋るです。

(王国にはこんなダンジョンなかったなぁ。コアと交渉するという概念すらなかった。帝国は進んでるなぁ)

  無視です。突っ込んだら負けですから。王国から来たとか明らかに訳あり。
  それに私の今回の仕事は監査。下手に助言やサポートをしては行けないです。

(ん?魔物の匂いがする。・・・あっちだな)

  男は真っ直ぐダンジョンを進んでいく。
  魔物の匂い?そんなのしねぇですが・・・。地面を見ると微かに足跡が残っている。
  小さな人型の足跡、ゴブリンで間違いない。

  数は5匹~10匹程度です?まぁこの程度ならDランクの冒険者なら立ち回りしだいで勝てるですね。
  危なくなったら助ければいいですし。



 しばらく歩いていると、ふと気づいた。

  さっきから男の心の声がピタッと止まった。それでも男は足を止めることも無く真っ直ぐに歩く。まるで魔物の居場所は既にわかっているかのように・・・。

  そろそろ近いのか?それでピリピリしているのかと思い、私は足元を見た。魔物の足跡も見つけるために・・・。

「ッ!?」

  そこにあったのは大量の足跡。

  目測を見誤ったですっ!?ゴブリンの数は数十匹。それに・・・。

  1メートルほどの大きな足跡。これは・・・。

「ちょっと待つです!これはっ!?っていないです!?」

  目の前を歩いていたはずの男が消えたです?!

  不味いです。これは私たちで対処出来る域を超えている。ちゃんとしたBランクパーティに頼まないといけない案件です。

  足跡を追って走る。多分男はこの先にいるはずです。






「ヒィッ!?」






 突如感じたことの無いような殺意を感じ、足が竦んで、腰が抜けて動けなく・・・。


(・・・・ス・・・・・コ・・・・)

  かすかに聞こえるあいつの声。そしてダンジョン内に響く魔物共の咆哮。

  斥候として鍛えた危険を察知する感覚が、全力で逃げろと警戒する。
  しかし、あいつを置いて逃げる訳には・・・。


  立てないからだで地面を這いずり、声がする方向に向かう。そしてそこで私が見たものは・・・。


「ナンダキサマハ!?ワガカゾクタチヲヨクモォ!!」

 人の言葉を話す大きなゴブリン・・・あれは・・・ゴブリンキングです・・・か?

 そこには大量のゴブリンの死体と、緑の返り血を全身に浴びたあいつ。4メートルはあろうかという大きなゴブリン。
 極稀にポップするというゴブリンの王。放っておくとどんどんゴブリンを生み出し、一説によると大きな都市を一つ落とすほどに繁殖していくとか・・・。

 そんな魔物がなぜこのダンジョンにポップしてやがるです!?

(指を落とし、手首を落とし、膝を切り飛ばし、腕を切り飛ばし、目ん玉から頭の中まで貫いてコロス)

 どす黒い感情を感じる・・・さっきまでのように明るい声でなく、どこまでも暗く、低く囁くような声。
 まるで親の仇のようにあいつは魔物を睨む。しかし心の中は何処までも冷たく冷静で・・・。


 まるで魔物を殺す為の道具みたいです。


「シネェェェ!!」

 ゴブリンキングは持っていた2メートルほどの大きな剣をあいつに向かって振り下ろす。
 あいつはそれを横によけ・・・それを追撃するようにゴブリンキングは剣を横に薙ぎ払う―――

 はずだった。

「ケンガ!?・・・ナンダコレハ!?」

 ゴブリンキングは自らの手を見る。そこには人差し指から小指までが切断された両手。
 剣は既に床に落ち―――。

 その後ゴブリンキングは、手首を失い、足を失い、腕を失い―――。

 恐怖におびえる顔をしながら、眼球から後頭部まで一直線に貫かれ、絶命した。



 いともたやすくBランクの魔物を屠る。こいつは一体何者なんです・・・。



(あれ?そんなとこで横になってどうしたんだマリー?)

 さっきまでとは打って変わって、私に明るい心の声で話しかける男。

「別にどうもしないです」
(ならいいけど・・・。クエストってこれで達成でいいのか?)
「一応討伐を証明する部位ははぎとるです。報告を信じてもらえなさそうですから」
(げぇ・・・この数全部?)
「もちろん・・・と言いたいところですが、その大きい奴だけでいいです」
(それならよかった・・・)

 男はゴブリンキングの牙と耳を剣でサッと斬り、それをポーチにしまう。

(それじゃあ帰ろう!・・・って立てないのマリー?)

 なかなか立ち上がらない私を見てそう言われたです。悔しいけど力が抜けて立ち上がれない・・・。

(仕方ないなーマリーは)

 そう言って私をひょいッと持ち上げ、肩に担がれ・・・。

「ちょっと待つです!?荷物扱いはやめやがれです!!」
(えー。でも俺血まみれだし・・・おんぶなら血がつかないかな?)

 器用に私の体をクルっと回し、背中にもっていき、おんぶされる形になる。

「だから物扱いはヤメロです!人の体をくるくる回すなです!」
(注文が多いなぁ。さっさと帰って血を落とさないといけないから走るぞ~ちゃんと掴まってろ)

 グンッとスピードがいきなり上がる。振り落とされてはたまらないのでガシッと男の首に掴まる。

 そのまますごいスピードで駆けて行き、あっという間にダンジョンから出るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...