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過剰な殺意
しおりを挟む人の心の声が聞こえる。それはとてもいい能力だと思う?
答えはノーです。
見ない方がいい事があるように、聞こえない方がいい声もある。
(魔女がいるぞ・・・うちの店には来んなよ・・・)
(不気味な子・・・いつまでこの街にいるのかしら)
(考えてることがわかるなんて怖すぎるよな)
半径10メートル以内にいる人の心の声が聞こえてくる。
聞きたくもない心の声です。街の中を歩く度に気分が悪くなる。
(それで?赤のダンジョンってどんなとこなんだ?)
ビクッっと少し驚く。隣を歩くこいつの心の声、ハッキリと、大きな心の声に驚く。普通はひそひそと小声が聞こえる程度なのに・・・。
「冒険者になりたい割に何も知らないんです?」
(俺は帝国に来たのが最近だから・・・)
「ふーん。詳しくは聞かないです。事情が面倒くさそうですし」
厄介事には巻き込まれたくないですし、街の人には嫌われていても、表向きには良好な関係を築いています。
私は平穏な生活を手放したくない。
「色の名を冠するダンジョンは、ダンジョンコアとの契約が終わっているダンジョンです。つまり安全に薬草とかの素材を採れる初心者用のダンジョンです」
(なるほど・・・つまり敵はほぼ居ないと)
「です。因みにですが、通常のダンジョンは鉱石の名を冠すです。鉄、銅、銀、金、金剛石、白金の順番に危険度が高いです」
(ふむふむ。高原のダンジョンとか白き山のダンジョンとかそんな感じじゃないんだな)
「長ったらしいです。帝国はダンジョン管理のために何世代が前の皇帝が名前を統一したです。○○の町の鉄のダンジョンみたいな呼び方になるです。
ただ・・・特別なダンジョンは名前がついてるです」
(特別なダンジョン?)
「勇者のダンジョンとか、龍のダンジョン、聖者のダンジョン、不死鳥のダンジョン。有名なのはこの辺です。通常のダンジョンとは違って、最奥に特別なお宝があるらしいです。
一生行くことは無いでしょうが、間違っても入らない方がいいです。死にたくなければですが」
(へぇー。気をつけるよ。忠告ありがとうマリー)
「礼なんていらねぇです。
着きましたよ。ここが赤のダンジョンです」
冒険者になりたての頃よくお世話になったダンジョン。火薬草や解毒草が採れるダンジョン。敵はゴブリンがポツポツいるくらい。
ここで戦闘に慣れて、数年の下積みを経て、ようやく最近Cランクまで上がった。
そのせいでルーキーの育成が義務になって、たまにこうやって監査の仕事が来る。
断りたいですが、割と報酬がいいので受けるですが・・・。
(おおー!透明な水晶が赤く輝いて・・・綺麗だな!だから赤のダンジョンなのか!!)
ダンジョンに入るや否やはしゃぎ出す男。こいつの心の声はほんとうるさいです。もう少し静かに喋るです。
(王国にはこんなダンジョンなかったなぁ。コアと交渉するという概念すらなかった。帝国は進んでるなぁ)
無視です。突っ込んだら負けですから。王国から来たとか明らかに訳あり。
それに私の今回の仕事は監査。下手に助言やサポートをしては行けないです。
(ん?魔物の匂いがする。・・・あっちだな)
男は真っ直ぐダンジョンを進んでいく。
魔物の匂い?そんなのしねぇですが・・・。地面を見ると微かに足跡が残っている。
小さな人型の足跡、ゴブリンで間違いない。
数は5匹~10匹程度です?まぁこの程度ならDランクの冒険者なら立ち回りしだいで勝てるですね。
危なくなったら助ければいいですし。
しばらく歩いていると、ふと気づいた。
さっきから男の心の声がピタッと止まった。それでも男は足を止めることも無く真っ直ぐに歩く。まるで魔物の居場所は既にわかっているかのように・・・。
そろそろ近いのか?それでピリピリしているのかと思い、私は足元を見た。魔物の足跡も見つけるために・・・。
「ッ!?」
そこにあったのは大量の足跡。
目測を見誤ったですっ!?ゴブリンの数は数十匹。それに・・・。
1メートルほどの大きな足跡。これは・・・。
「ちょっと待つです!これはっ!?っていないです!?」
目の前を歩いていたはずの男が消えたです?!
不味いです。これは私たちで対処出来る域を超えている。ちゃんとしたBランクパーティに頼まないといけない案件です。
足跡を追って走る。多分男はこの先にいるはずです。
「ヒィッ!?」
突如感じたことの無いような殺意を感じ、足が竦んで、腰が抜けて動けなく・・・。
(・・・・ス・・・・・コ・・・・)
かすかに聞こえるあいつの声。そしてダンジョン内に響く魔物共の咆哮。
斥候として鍛えた危険を察知する感覚が、全力で逃げろと警戒する。
しかし、あいつを置いて逃げる訳には・・・。
立てないからだで地面を這いずり、声がする方向に向かう。そしてそこで私が見たものは・・・。
「ナンダキサマハ!?ワガカゾクタチヲヨクモォ!!」
人の言葉を話す大きなゴブリン・・・あれは・・・ゴブリンキングです・・・か?
そこには大量のゴブリンの死体と、緑の返り血を全身に浴びたあいつ。4メートルはあろうかという大きなゴブリン。
極稀にポップするというゴブリンの王。放っておくとどんどんゴブリンを生み出し、一説によると大きな都市を一つ落とすほどに繁殖していくとか・・・。
そんな魔物がなぜこのダンジョンにポップしてやがるです!?
(指を落とし、手首を落とし、膝を切り飛ばし、腕を切り飛ばし、目ん玉から頭の中まで貫いてコロス)
どす黒い感情を感じる・・・さっきまでのように明るい声でなく、どこまでも暗く、低く囁くような声。
まるで親の仇のようにあいつは魔物を睨む。しかし心の中は何処までも冷たく冷静で・・・。
まるで魔物を殺す為の道具みたいです。
「シネェェェ!!」
ゴブリンキングは持っていた2メートルほどの大きな剣をあいつに向かって振り下ろす。
あいつはそれを横によけ・・・それを追撃するようにゴブリンキングは剣を横に薙ぎ払う―――
はずだった。
「ケンガ!?・・・ナンダコレハ!?」
ゴブリンキングは自らの手を見る。そこには人差し指から小指までが切断された両手。
剣は既に床に落ち―――。
その後ゴブリンキングは、手首を失い、足を失い、腕を失い―――。
恐怖におびえる顔をしながら、眼球から後頭部まで一直線に貫かれ、絶命した。
いともたやすくBランクの魔物を屠る。こいつは一体何者なんです・・・。
(あれ?そんなとこで横になってどうしたんだマリー?)
さっきまでとは打って変わって、私に明るい心の声で話しかける男。
「別にどうもしないです」
(ならいいけど・・・。クエストってこれで達成でいいのか?)
「一応討伐を証明する部位ははぎとるです。報告を信じてもらえなさそうですから」
(げぇ・・・この数全部?)
「もちろん・・・と言いたいところですが、その大きい奴だけでいいです」
(それならよかった・・・)
男はゴブリンキングの牙と耳を剣でサッと斬り、それをポーチにしまう。
(それじゃあ帰ろう!・・・って立てないのマリー?)
なかなか立ち上がらない私を見てそう言われたです。悔しいけど力が抜けて立ち上がれない・・・。
(仕方ないなーマリーは)
そう言って私をひょいッと持ち上げ、肩に担がれ・・・。
「ちょっと待つです!?荷物扱いはやめやがれです!!」
(えー。でも俺血まみれだし・・・おんぶなら血がつかないかな?)
器用に私の体をクルっと回し、背中にもっていき、おんぶされる形になる。
「だから物扱いはヤメロです!人の体をくるくる回すなです!」
(注文が多いなぁ。さっさと帰って血を落とさないといけないから走るぞ~ちゃんと掴まってろ)
グンッとスピードがいきなり上がる。振り落とされてはたまらないのでガシッと男の首に掴まる。
そのまますごいスピードで駆けて行き、あっという間にダンジョンから出るのだった。
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