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レンの過去
しおりを挟む町のはずれの穏やかな川で、あいつは服を着たまま水浴びをしていた。
(あぁ~気持ちいい~)
服に着いた返り血は水に流れていった。
私はというと、木陰で座らされていた。
(ふぅ・・・ある程度は洗えたかな!お待たせ!)
そう言って男はまた私をおぶろうとする。
「もう大丈夫です。というかずぶ濡れで近づくなです」
(そっか。それじゃあ帰ろうか!)
私は立ち上がり、彼の後をついて歩きだす。
「聞いてもいいです?」
(ん?俺に答えられることなら)
干渉しないと言いつつ、こんな質問をしてしまった。
どうしても気になってしまったから・・・。
「なんであなたはそんなに魔物を憎んでるです?」
魔物を目にしたときの異常な殺気。あんなに憎しみの感情が出る人は見たことがない。
(・・・小さい頃の話になるけど・・・)
そう言って彼は昔の事を話し始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
山々の間にある小さな村。村人の八割が農民で貧しいながらもみんなが幸せに暮らしていた。
「れん!あそびに来たよー!」
「アンジュちゃんか。レン!アンジュちゃん来たぞー」
「うん!すぐ行くよー!」
アンジュとレンはこの村で数少ない子供で、同い年の二人は毎日のように遊びまわっていた。
レンは木でできた剣を持ち、アンジュは弁当が入った荷物を持っていた。
「それじゃあ行って来るよお父さん!」
「おう!日が暮れる前には帰ってくるんだぞ!」
「アンジュちゃんを危ない目に合わせないようにね?」
「分かってるってお母さん!」
そしていつものように修行場所と称した大きな木があるところに二人で向かう。
レンの父はこの村を守る剣士。母は元冒険者で僧侶だった。
レンは父の背中を見て育ち、自分もいつか何かを守るための剣士になると心に決めていた。
いつもの場所に着くと、剣を振り始めるレン。それをぼーっと見るアンジュ。
「ねぇねぇれん!」
「どうしたのアンジュ?」
剣を振るのをやめ、レンはアンジュの方を向く。
「レンは私の事をずっとまもってくれる?」
「うん!アンジュがおれの傍をはなれない限り、おれはアンジュを守るよ!」
「ふふふ・・・ありがとうレン!たよりにしてるね!」
「まかせて!おれはお父さんをこえるつえー剣士になるんだ!」
レンは剣士として大成し、幼馴染のアンジュと共に生きる。レンは当たり前のようにそう思っていた。
あの日が来るまでは。
その日は雨が強く降っていた。稲光が空を照らし、レンは家で両親の帰りを待っていた。
雷が落ちる。かなり近いところだ。
レンは何故か不安に駆られた。レンの父親は強い、この辺の魔物程度なら軽く屠ることができる。それに母親も優秀な僧侶で、二人ががコンビを組んでいれば、よほどのことがない限り負けることはない。
それを知っていてもなお、レンは嫌な予感がしたのだ。
レンは家から飛び出した。村の唯一の出入り口である場所に向かって走る。そこに両親がいるはずだから・・・。
何も無かったらそれでもいい。ただ両親に抱きしめられてそれで終わるだけだ。
しかし・・・レンの嫌な予感は当たってしまう。
門の外にいたのは稲光を纏った白い狼。そいつは何かを喰っていた。
門の側に横たわっているのはレンの父親だった。腸をまき散らせ絶命しているのは明らかだった。
そして白い狼が食っていたのは・・・レンの母親だった。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
白い狼はレンの方を見て、腰をかがめ、飛びつこうとする。
しかし・・・食われていたはずの僧侶・・・レンの母親が持っていた短剣を白い狼の腹に突き刺した。
「グルァ!?」
刺された狼はバンッ!と飛び跳ねると、山の中へと去っていってしまった。
レンは母親の元に走り、すぐさま屈んで手を取る。
「ごべんね・・・れん・・・ひとりに・・・しちゃう・・・ね」
「がぁさん!!!!!!!いがないで!!」
レンの母親は、最後の力を振り絞りレンの頭を数回撫で・・・その手を力なく地面に落とした。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
レンは叫び続けた。ただただ悲しくて。ひたすら声が枯れるまでずっと・・・。
その叫び声は、激しい雨音と共に村に響き続けた。
悪夢の日から数日間、レンは高熱で倒れ、生死の境をさまよっていた。
そして今日。突然目を覚ました。
「レン!?よかった・・・」
ベットの横にいたのは幼馴染のアンジュ。瞳に涙を浮かべてレンを見ていた。
「・・・」
「レン?」
口をパクパクさせるが、何もしゃべらないレンに疑問を抱くアンジュ。
「じゃべ・・・れ・・・な・・・」
「レン?」
首を横に振るレン。アンジュは目を見開いて驚く。
レンはこの日から、王国が人を人たらしめていると言われる・・・。
言葉を失ったのだった。
それから村のレンに対する態度が変わる。王国ではこんなことばがある。
『人と魔物の違いは言語が通じるかどうかである。会話の成り立たないものと異形の者は魔物と同じである』
そのことに関しレンは特に気にすることはなかった。自分は人から魔物へと落ちたのだ。
ならば・・・魔物らしく獰猛に、復讐を始めよう。獣らしく一切の理性を捨て、本能のみですべてを殺そう。
そして彼は、父親の形見であるロングソードと、母親の形見である短剣を腰に差し、山に消えていった。
仇である白い狼を殺すまで、実に10年。彼は人里に帰ってくることはなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(それで仇は取ったんだけど、どうしても魔物を見るとスイッチが入るっていうか・・・怖がらせたならごめん)
壮絶な過去だった。魔物の巣食う山を子供が生き残る時点でありえない。
それに稲光を纏った白い狼・・・。まさか神獣フェンリル?まさか・・・。
「何にも言えねぇですが・・・レンでしたっけ?お前は人ですよ。私が保証します」
(・・・・)
「安心するといいです。魔物は心の声なんかねぇですから、心の声がある時点でレンは人です。だから・・・自分の卑下するのはもうやめるです」
(・・・ありがとうマリー)
こんな危うい彼を放っておいたら、いつかどこかで野垂れ死にそうで・・・それを無視できないほどにはかかわってしまっていて・・・。
(マリーがずっと一緒に居てくれたら助かるんだけどなー!)
「なっ!?」
(マリーが良ければ、俺とパーティー組んでくれない?俺にはマリーしかいないんだよ)
「・・・私は誰ともパーティーは組まねぇんです。魔女ですし・・・ちゃんとギルドには報告しといてやるです」
そう言って彼から離れて自宅に向かう。
自分が他人から求められたことが初めてで、少し胸の鼓動が早くなっていた。そんな姿を彼に見られたくなくって・・・。
「ううぅ・・・なんなんですかアイツは!私は人の見られたくない心を読む魔女なんですよ?そんな私を欲しがるなんて・・・変な奴です!!」
悪態をつく私は、言葉とは裏腹に頬が緩んでしまっているのを自覚していて・・・。
自宅に着くや否や、ベットに飛び込み、一人悶々とするのであった。
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