声の出ない少年と心を読む少女

てけと

文字の大きさ
10 / 44

調査任務

しおりを挟む
 人の流れがまだらな早朝。マリーは冒険者ギルドへ赴いていた。先日のレンの監査の件だった。

「というわけで素行問題なし、いたって健全です。以上で報告終わりです」

 簡潔にすらすらと成れたように報告をするマリー。それもそのはず、心を読めるマリーはよくこの手の仕事を頼まれる。心の中を見ればその人がどういう人物かなんてすぐにわかるからだ。
 ギルドもそのことを知っており、報酬割増しならっとマリーは引き受けている、相場の三倍ほどの報酬を・・・。

「マリーが言うなら問題ないな。きちんとマスターに報告しておこう」

「私は依頼をあんまり受けたくないんですが?家から出たくないので」
「え?」

「異変の起きた赤のダンジョンの調査とかめんどいです。他のパーティーに依頼しやがれです」
「マリーさん?俺の心の声を聞かないで下さると・・・」
「そう思うなら無心でしゃべればいいです。あいつみたいに・・・」

「私が変わるわ。久しぶりねマリーちゃん」
「マスター・・・それじゃあ俺は他の仕事をしてくるので・・・任せましたありがとうございます!!」

 一目散に消えていく男性職員。マリーの目の前には金色の髪を背中まで伸ばしたたれ目の女性。
 
 この冒険者ギルドのギルドマスターである。

「相変わらず心の声がねぇですね」
「心がないみたいに言わないでね?そう言う訓練を受けているだけだから」
「そうですか。で?なんで私にそんなめんどくさそうな依頼を?」

 赤のダンジョンの調査。普段ならEランクパーティでも鼻歌を歌いながらできるような仕事だ。それをわざわざCランクであるマリーが受ける意味が分からない。そう言う意味だった。

「ゴブリンキングがあんなに浅い層にいたのよ?全4層しかないとはいえ、どんな魔物が潜んでるかわからないじゃない。マリーちゃんは単独でCランクの斥候でしょ?パーティーに入ってたらB・・・Aランクのパーティーに居てもおかしくないじゃない?」

「パーティーは一生組むことはないのでそんな妄想ランクは意味ねぇです」
「別に魔物と戦う必要はないの。見てくるだけ、報酬はこれだけ出るわ」

 クエスト依頼書に金額を書き込むギルドマスター。それを反転させ、マリーの前に滑らせる。

「・・・」
「これだけあれば一年は遊んで暮らせるわ。節約すれば5年は・・・どう?受ける気になったかしら?」

 マリーはクエスト依頼書を凝視する。見ているのは金額の所だけだが・・・。

「なんでこんな金額を出すです?何か裏があるんじゃねぇんですか?」
「流石マリーちゃんね。うまい話は警戒しろ。命あっての物種だ。その警戒心を信頼しているわけよ」
「そんなの当たり前です。で?裏の話を聞けないなら受けねぇです」

「わかったわ・・・とは言え周りに聞かれると厄介なの。心の声で話すわね」
「構わねぇです」

 シーンっと静寂な時間が二人の間に流れる。
 顔色を全く変えないギルドマスターと、冷や汗を流すマリー。どんな話が行われているか知っているのはマリーとギルドマスターだけである。

「荷が重すぎると思うんですが」
「そんなことないわ。マリーちゃんの実力を買ってるのよ?たぶんこの町のギルドじゃあなたしか適任がいないの・・・」

 少しの間考えるそぶりをするマリー。危険とお金を天秤にかけているのか、体がふらふらと横に揺れている。

「・・・わかったです。受けるです」
「ありがとうマリーちゃん!これで肩の荷が下りるわね・・・」
「成功してから喜ぶです。それじゃあ準備をしてすぐ出るです」
「気を付けてねマリーちゃん。無事を祈ってます」


「依頼した側に祈られてもうれしくねぇです」






 数時間後、装備を整えたマリーが赤のダンジョンに入っていく。お気に入りのマントは今回はしていない。それだけ本気だという事だろうか。

 1階層を颯爽と走り抜けるマリー。1階層はどうやら前回倒したゴブリンキングだけだったようで、特に敵と出会うことなく2階層に降りることができた。

 2階層。本来ならまばらにゴブリンがいるだけの階層だったはずなのに・・・。

「オーガですか・・・視覚は鋭いですが他はそれほどですね」

 オーガがうろうろとしている階層。このようなダンジョンは銀、もしくは金のダンジョンでしかありえない。
 そんな事実に動揺することもなく、魔物の気配、足音や息遣いを感じて視界に入ることなく2階層を進むマリー。
 苦労することなく突破し、三階層へ降りる。

 三階層は湿地のようになっており、スライムが生息する階層だった。

「サハギンですか・・・視覚はほぼない代わりに触覚と耳がいいんでしたね」

 マリーはカバンから靴底のような物を取り出し、履いている靴に装着する。
 マリー自作の衝撃吸収板で作ったアイテムだった。足音を極限まで消し、多少飛び跳ねても地面に振動が起きない。
 スピードをほぼ緩めることなく三階層を進むマリー。途中見つかりそうにもなるが、カバンに入っている音玉を放り投げると、パパパパン!と音玉が音を出し、サハギンはそちらに走っていく。

 なんなく三階層も突破し、4階層へ。
 赤のダンジョンの終着点であり、ダンジョンコアが鎮座する階層。
 1メートル程度の真っ赤な水晶が部屋の中央にある、それがこのダンジョンのコア。マリーもまだ駆け出しだった頃は幾度となく通った場所だ。

「なんで・・・濁ってやがるです・・・もっとあなたは綺麗な赤だったじゃないですか・・・」

 マリーの目の前にあったのは赤黒い水晶。かつての美しさは失われ、どこか禍々しさを感じる色へと変化していた。

「マリー・・・じゃ・・・ねえか・・・に・・・げ・・・ろ・・・」

 ダンジョンコアの声がする。今にも死にそうな・・・途切れ途切れの声で。

「どういうことです・・か?」

 質問を返そうとした瞬間、ダンジョンコアの後方から魔物が生まれる。

「ブモォォォォォォォ!!!!!!」

 牛の体に人の下半身。大きさは5メートルほどのミノタウロスが大きな斧を肩に担いでマリーの方に歩いて来ていた。

「なっ!?まずいですっ!?」

 斧がマリーに振り下ろされる。マリーは全力で横に飛ぶ。

 ドガァン!!と斧が地面をえぐる。

 マリーはグルグルと回転し、全力で横っ飛びした勢いを殺して体制を整える。

「私の武器と筋力じゃ倒せねぇです・・・なんとか・・・逃げてもサハギンですか・・・」

 マリーがここから撤退しても、三階層にはサハギンがうじゃうじゃいる。三階層に全力で撤退しても、サハギンに囲まれて終わる。
 かといってミノタウロスに勝つのは無理。この部屋で攻撃を避け続けるのは可能だが、攻撃は通らない。
 
 無尽蔵の体力があるミノタウロスと体力に限りのあるマリー。

 結果はわかり切っていた。マリーはここで死ぬことを悟った。

「だからって簡単に諦めれるなら、冒険者なんてやってねぇです!!」

 マリーはケンタウロスに向かって走る。ミノタウロスは斧を振り下ろし迎撃する。
 それをマリーは紙一重で避けながら前へ進む。

「死にやがれです!!」

 タンタンッとミノタウロスの体を駆けあがり、マリーはミノタウロスの目を狙ってナイフを振りかざす。
 ミノタウロスは即座に斧を手放し、ナイフを振りかざしていたマリーを素手で振り払い・・・。

「ぐっ・・・はっ・・・」

 ミノタウロスの膂力によって壁まで吹き飛ばされ、壁にぶつかり倒れるマリー。
 
「まだまだ・・・です」

 フラフラと立ち上がるマリー。彼女は選択した。

 絶望しか見えない長期戦で助けを待つか、体力があるうちにミノタウロスをどうにかする短期決戦。

 唯一マリー勝ち目があるのは両目を潰して静かに撤退。助けが来るまで数日はかかる。それまで体力が持たないのはわかっていた。

「まだ死ねないんですよ・・・私は!」

「ブモオオオオオオ!!」

 ダンダンッとけたたましい足音を立てマリーに迫るミノタウロが、マリーに向けて両手に握った斧を振りかぶる。

 目は瞑らない。諦めたくないから。探せ勝利の糸口を・・・!

 走馬灯・・・時間がゆっくりに感じる。斧が迫ってくる。

 足がしびれて動かない・・・躱せない。

 防御する・・・受け止めてもナイフごと斬られる。

 攻撃する・・・届かない。

「死にたくないです・・・誰か助けろ・・・です・・・」

 敵を見るために見開いた眼から涙があふれる。

 そしてミノタウロスの斧がマリーに迫り・・・・。










 ガァン!!と金属を叩く音がし、斧がマリーからわずかに逸れ、ぎりぎりマリーに当たる事はなく、横の壁にドガーンと当たる。


 涙を流すマリーの前には・・・。


 少し息を切らせて、返り血にまみれたレンが、立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...