声の出ない少年と心を読む少女

てけと

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ダンジョンコアの異変

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「なんで・・・なんでお前がここにいるです・・・」

 もう終わったと思った瞬間。ミノタウロスの斧を横から蹴りつけて軌道を逸らしたアイツ。
 昨日と同じように敵の血を全身に浴びて血生臭い。

(もう大丈夫)

 あいつが言ったのはそれだけだった。

 たったそれだけの言葉に、私はひどく安心してしまった。

 体の力が抜ける。死への恐怖がスーッと消えていく。

 それとは逆に、心臓の鼓動は早く、ドクンドクンと鼓動を鳴らす。


 でも・・・そんな異常な動きをする心臓の動きは、なぜか心地よかった。胸がキュッ締め付けられる感じがするけど、いつも町で感じる不安や嫌な気持ちではない。

 

 目の前ではアイツとミノタウロスの戦闘が始まっていた。
 先日とは違い、心の声がなく、激しい殺意もなかった。

 心の声がないとはいえ、私のスキルは心の中を覗き見るというスキルだ。そこで一番わかりやすいのが声である。
 抽象的だが心の風景というものも感じることができる。例えばこの町のギルドマスターが心の声を殺しているときは真っ暗闇だ。まさに訓練により心を閉ざす術を得たのだろう。


 あいつは違った。まるで澄んだ湖の水面だ。何処までも続く蒼い水面がとても綺麗に見える。


(そういえば・・・心の声を聴いて安心するなんて初めてです・・・)


 誰もが心の内にドロドロしたなにかを抱えている。それを見るたびに嫌な気持ちになることばっかりだった。

 だから私はこのスキルが嫌いだ。

 消してくれるならどれだけ嬉しい事だろうか。 

(でも今は・・・・)

「ブモオ・・・オ・・・」

 あいつの剣でもミノタウロスは固いらしく、両断は出来ない。でも斬れないこともないようで・・・。

 既にあいつの前で膝を折り、斧は地面に落ちていた。
 手首と足首からはだらだらと血が流れ続けており・・・。

 スンッという音と共に、あいつはミノタウロスの首に剣を振った。
 ミノタウロスの首から大量の血が噴き出す。切り落とすことは出来なくとも、血管や腱まで届けば十分と言わん限りの戦い方だった。

 魔物の血管の位置なんてそれを専門にした研究者くらいしかわからないはずだけど・・・。



(マリー大丈夫か?怪我とかない?)


 ミノタウロスは既に動かなくなっており、あいつは私に声をかける。

「大丈夫です。私はそこまでやわじゃないです」

 グッと足に力を入れて立ち上がる。背中は痛いが、別にそれほどのダメージでもない。

「それよりも・・・ダンジョンコアです」

 いつもならぺらぺらと聞いてもいないのに喋り続けていたのがここのダンジョンコアだ。それが今は一言も発せず、黙ったままだ。

「・・・まさか本当にあのギルドマスターの言った通り・・・」

(あ~マリー?聞こえてんのか?)

「!?聞こえてます!」

 あいつとは違う声。昔よく聞いたうざったらしい声。

(そうか。もう喋る力もねぇみたいだからこっちで頼むぜ。・・・すまねぇな。お前の嫌いな力に頼る形になって)
「別にいいです。それより一体何があったんです」

(時間がないから必要な事だけ。1、魔王の復活が始まった。2、他の色のダンジョンは俺みたいなヘマはしないだろうから大丈夫だ。3、今後鉱石のダンジョンの難易度は一段上がると思え。)

 淡々と要点だけを話すダンジョンコア。

 魔王の復活の予兆。それがギルドマスターの最悪の予想だった。
 はるか昔に魔王という生き物がいたらしい。暴虐の限りを尽くし、人を蹂躙し、文明の全てを砕いた。
 その一方的な虐殺に、見かねた女神が用意したのが三賢者。

 勇者、賢者、聖者である。

 さらに女神は神器と呼ばれる武装を与え、魔王はうち滅ぼされることとなった。
 それから数百年単位で復活を遂げる魔王。それを三賢者は難なく倒していき・・・ここ千年の間魔王は復活しなくなった。

 その魔王の復活の最初の予兆が、ダンジョン内での魔物の強化。
 ダンジョン内で人を殺し、エネルギーを回収し、徐々に復活していくそうだ。

 あまりにも古い文献に記されたこの事実は、各冒険者ギルドのギルドマスターと、皇帝とその側近にしか知らされていないという。

(そして最後に・・・俺を破壊しろ。魔王にエネルギーを回収される前に)

「赤さん・・・」

(懐かしい名で呼ぶなよ。名残惜しくなっちまうだろう?)
「お別れは悲しいです。何とか他の手を・・・」

 まだ駆け出しの頃。私はよくここに来ていた。ここに人はあまり来なかったから町にいるより居心地がよかった。
 宿屋になんかに泊まってしまうと、夜中にまでうるさい声が聞こえる。
 だから私はここに入り浸っていた。あの家を借りるようになるまでの数年間。
 ずっと喋り続ける赤さんはうるさかったが、それでも彼の優しい声は嫌いではなくって・・・。

(無理だ。それ以外手はねぇ・・・それに・・・どうせエネルギーを吸収されて捨てられる。どのみちおれの機能はここで停止する。かなり無理させられて魔物を生んだからな)
「そんな・・・」


(マリー。もう大丈夫だろ?お前の隣にいてくれる人がいるんだろ?これからはそいつと歩んでいけ・・・そいつはお前を必要としている。もちろんお前も・・・ってもう・・・だめか・・・意識が・・・)


「赤さん!!!」

(早く・・・やれ!!)

 震える手でナイフを握る。両手に握ったナイフを振りかぶり・・・。

「ありがとう・・・ございました!!」
(元気で・・・な・・・ま・・りー・・・)

 振り下ろす――。すると赤黒いダンジョンコアはいとも簡単に真っ二つに割れ・・・輝きを失ってとうめいになって、地面に落ちると粉々に砕け散った。
 

「いいだったんですよ。このダンジョンに訪れる冒険者の名前を全部覚えていて・・・最初はうるさいダンジョンコアだな・・・なんて思ってたんです。でも・・・私の気を紛らわせるためにバカみたいな話をずっとしてたのに気づいて・・・。馬鹿なんですよ・・・ダンジョンの癖に、影ながら冒険者を助けたりして・・・ダンジョンにとって人は最高の餌だっていうのに・・・」

(惜しい人を無くしたな)

「ですね・・・」

(どうする?もう少しここで休んでいくか?)

「いえ。すぐにギルドに報告しないと・・・」

 地面に落ちていたダンジョンコアの一番大きなかけらを拾い、カバンにしまう。

(あんまり無理するなよ)
「お前に言われたくねぇです。なんでいつも血まみれなんですか」

 そう言いながら二人で並んで歩き、4階層を後にする。

「安らかに眠るです赤さん」

 ポツリとそう呟いて三階層への階段を上る。






「って・・・しんみりしてたですけど・・・無事に帰れるんです?」

 そう言えば魔物がうじゃうじゃと徘徊していることに気付いた。ダンジョンコアが消えても、ポップが止まるだけで、さっきいた魔物は消えない訳で・・・。

(全部殺したからだいじょーぶ!)

 グッと親指をあげてこちらに向ける。

「はぁ・・・お前は頭のねじが緩み過ぎです。全部殺さなくても・・・」
(一匹に見つかったら全部来たから俺のせいじゃない)
「まじですか・・・なんでそんなに魔物の相手をしたのにぴんぴんしてるんですか・・・お前は化け物ですか」

 3階層に上がると、こいつの言った通りそこら中にサハギンが血まみれで倒れていた。

(そう言えばマリー)
「なんです?」

(俺はお前って名前じゃない。レンだ)
「知ってるです」

(お前じゃない。レンだ)
「知ってるって言ってるです」

(ほら言ってみ?レン)
「レ・・・ン」

(呼んだ?)
「お前が言ってみろって言ったから言っただけです!呼んでねぇです!」

(お前じゃな――)
「わかったです。これからは名前で呼ぶです。だからしつこく催促するなです」

(じゃあお前って言ったら罰ゲームな)
「なんでそんなことに付き合わないといけないんです!?」

(罰は何にしようかなー?恥ずかしい思い出を一個言うとか?)
「勝手に決めるなです!!それに私だけとかズルイです!おま・・・レンにも何か誓約をですね――」



(やっぱり元気なマリーが一番だよ)

 少しだけ微笑んで私に向かってそう言うレン。
 その瞬間また心臓の鼓動が早くなって――。

「う・・・うるせぇです!さっさと帰るですよ!」

 顔を見られるのが嫌で、さっさと走り出す。
 レンも後ろをついて来ているようで足音が聞こえる。

 
 自分が誰かとパーティーを組むなんて未来は永劫に来るとは思っていなかった。心が覗ける奴と、誰が一緒に居たいと思うのか。

 でも・・・レンは私なんかと一緒にパーティーを組みたいという。

 そして私はそのことが別に嫌ではなく・・・むしろ―――。


 緩む頬を抑えきれずだらしない顔になっている事だろう。そんな顔をレンに見られたくなくって・・・。

 レンと二人であっという間に赤のダンジョンの出口に到着するのだった。
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