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謁見
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「よくぞ参った。お前がレンか・・・っと?なんでお前までいるんだデル爺」
豪華に彩られた大広間。赤いカーペットの上に立つレン。その隣にはデルが立っていた。
数段高い位置に座る皇帝は、二人を見下ろす様に豪華な椅子に座っている。
そして皇帝の横には帝国の勇者であるキース、聖女のスイ、賢者のマリク。
さらに王国の聖女アンジュ、賢者エリーも皇帝の椅子の横に並んで立っていた。
「儂の事はどうでもいいだろう?それよりなんでレンをわざわざ呼び出した?それにお主の横にいる三賢者はなんじゃ?」
ううーむ?っと皇帝は唸り顎に手をやる。
「まずレンを呼んだ理由だが・・・ただの興味本位だな。あの魔の山を単身で越えたという者の顔を見たかったと言ったところか。三賢者がここにいるのは・・・ついさっきまで話し合いをしていた。そんでレンとの謁見の時間だ、と言うとついて来るとか抜かしたからここにいる」
レンをじっと見つめるアンジュとエリー。
キース帝国の勇者は興味深そうに、スイ帝国の聖女は視線をあっちへこっちへキョロキョロしている。マリク帝国の賢者は興味無さそうに欠伸をしていた。
「次はこちらが質問する番だな。ますなんでデル爺がここにいる?俺はマリーとレンを呼んだはずだ。そしてレン。なぜ今回俺に会おうと思った?お前が帝国に来てからもう結構経つ。なぜ今なのか」
「俺がマリーの代わりに来たのは、マリーが今動けないからだ」
デルが答えている間に、レンの前に大きな紙が複数枚と筆が置かれる。
レンが喋れないことを知っているゆえの配慮だろう。
レンは筆を使い、サラサラと文字を書いていく。
『一度マリーと帝都に観光したいと思っていた。そのついでに』
ピクリッと皇帝のこめかみが動く。
「俺に会うのがついでだと?」
『今は必要だから会いに来た。気を悪くしたなら謝る』
レンは皇帝に向かって頭を下げる。
「ふはははは。この国で1番偉い俺がつ・い・で・とは・・・それで?今は必要なんだな?その理由を言え・・・ではないな。書け」
「それはだな・・・」
「デル爺。お前に聞いていない。確かにお前はこの城で教鞭を振るっていたが、今はただの老耄よ。いつまでも俺のことを生徒と思うなよ?」
「おお怖い怖い。では儂は黙るとしよう」
レンは書き終えた紙を掲げ、皇帝に見せる。
『マリーを救うために不死鳥の涙が必要だ。俺に払える対価ならなんでも払う。だから譲って欲しい』
皇帝は少し考えるように唸る。
「お前はそれの価値をわかっているのか?売れば人生を10回生きても金には苦労しないだろう。それにあれを手に入れるのにどれだけの労力と金がかかったことか・・・それだけの価値があることを知っているのか?」
コクリとレンは頷く。
レンの表情を見て、皇帝は近くに控えていたメイドに目配せし、メイドはその場を去る。
「どうせ使わんだろう?いいじゃないかくれてやっても・・・」
「デル爺は黙ってろと言ったろ?」
『もし譲れないなら・・・貸してほしい。倍の数を俺がダンジョンから取って来る』
「話にならんな。もし無理だったらどうする?倍の数?あのダンジョンを2周するという気か?先々代の皇帝が案を出し、一個師団と10年かかってようやく手に入れたものを?」
『もし倍取れないなら・・・俺を好きにしていい。死ねというなら死のう。奴隷として働けと言うなら従おう』
「ふむ・・・。お前ほどの男を手駒にできるのはなかなかいい案だ。国としても、俺個人としても・・・だが・・・それでは釣り合いがとれん」
『だったらどうしろと』
先ほど去っていったメイドが戻ってくる。そして皇帝に深紅のように真っ赤な液体の入った瓶が手渡される。
「ふむ・・・これが不死鳥の涙か・・・」
皇帝は目の前で瓶をゆらゆらと振り・・・それをレンに向かって放り投げる。
びっくりしたレンは、それを慌てて壊れないようにやさしく受け止める。
「その程度のガラクタと、お前の命。こちらが貰い過ぎると言っておる。ちょうどお前に頼みたかったこともある。それは前金だ」
『いいのか?』
「別に万病を直すような霊薬でもなく、死者を復活させるようなものでもない。ただ寿命で死に行く老人を数年生き長らえさせるだけの物だ。別に無くなっても痛くもかゆくもない」
その言葉を聞いて、レンはパンパンと両手を叩く。
「頭領のドロシーに代わり、サキ参上しました」
突如現れ、レンの背後に跪く黒装束の女性。
「・・・お前・・・いつの間にうちの暗部を手懐けやがった」
「ふん。皇帝、お前とは雇い雇われの金の関係だ。しかしレン様は我らの頭領が忠義を果たすべきとされた人物。・・・敵対したとき、どちらの味方になるかはわかるだろう?」
レンはサキと名乗るシノビに不死鳥の涙を渡す。
『頼んだ』
「はっ!」
シュバッ!と姿を消すサキ。
「それじゃあ儂もお暇しようか。しかしオルガよ。良い王になった様じゃな」
「侮辱か?俺は王キングではない。この大陸に住む数多の種族の王を束ねるその上の存在、皇帝エンペラーだ」
「そうじゃったな・・・」
そう言うと嬉しそうに笑い、デルは謁見の間から退室していった。
「さて・・・お前にしてもらいたい事。それは・・・こいつらと共に、魔王討伐に向かってもらおう」
その言葉を聞いて、レンはキョトンとしていた。
「魔王が動き出していることは、お前も知っているはずだなレン?」
コクリと頷くレン。
「魔王自体も脅威だが、魔王の従える魔物たちも脅威となる。レンには勇者たちの露払いをしてもらう。なにせ大群で攻められぬような深い森の中が戦場となる。本当はこいつ等だけで行かせるつもりだったが・・・お前がいいタイミングで来たからな。頼めるよな?」
コクリと頷くレン。
「それじゃあ―――」
「待てよ」
声をあげたのはキース帝国の勇者。
「何か不満でもあるのか勇者よ」
「大ありだ!本当にそいつは強いのか?足手まといはごめんだぜ」
「ふむ・・・。既にドロシーを蹴散らしている時点で・・・」
「俺は俺の目で見たものしか信じねぇ」
そう言ってキースは模擬専用の木の剣をレンに投げつける。
「一撃だ。俺に一撃攻撃を当てられるなら・・・同行を許そう。無理なら諦めるんだな」
キースはレンを挑発するようにそう言いながら、レンの正面まで歩く。
レンは木剣を、重さを確かめる様に数回振り、右手に持ち、体を半身にして構える。
「は?舐めてんのか?ふざけていると死ぬぞ?」
レンの構えは、明らかに剣士の構えではない。斥候やシノビが持つナイフや短刀のような、小さな刃物を持つときの構えだ。
しかしレンは一向に構えを変える様子もない。
「死なない程度に手を抜いてやるつもりだったが・・・その必要もなくなったようだ・・・なっ!!」
10メートルほどあった間合を一瞬で詰めるキース。そして振り上げた木剣をレンの脳天に向かって振り下ろす―――。
カッ!シャン
そんな音が大広間に鳴り・・・・。
コツンっと小さな音が鳴る。
「は?」
勇者の木剣は半身になっているレンの横を通り過ぎ、逆にレンの木剣は勇者の頭の上に置かれていた。
「はっはっはっ!!お前の負けだな勇者」
腹から声を出し笑う皇帝。その横にいる三賢者たちは、マリク以外は驚き口を開いている。
「俺の剣を見切って一・歩・も・動・か・ず・にいなした?」
レンは右手一本で勇者の剣を受け、自身の体から剣線が外れる程度に剣を斜めにして攻撃をずらした。
そしてそのまま勇者の頭の上に剣を置いたのだ。
「まだだ!だったらこれならどうだ!!」
キースは二歩下がり、剣を後ろに引き、肩をレンの方に出し・・・。
(横に振れば避けられまい!!防御しても木剣ごとこいつの体をへし折ってくれる!!)
キースは全力で剣を振る。
レンは自らが持つ木剣で防御する。刃の背に左手を添えて・・・。
しかし、キースの思惑とは違った。
レンの居る位置はキースの懐。つまりレンが防御しているのは・・・。
「ぐっ!!!」
ボキッ!と骨の折れる嫌な音がする。
それもそのはず、レンは少し前に出て、剣を振るキースの腕を受け止めた。
するとどうなるか・・・剣を振る勢いのまま、キースは自らの力で腕を折ってしまう。
キースの左手は変な方向に曲がり、木剣を地面に落としてしまう。
レンは紙にすらすらと文字を書いていく。
『本当にこの人が勇者?こんなに弱くて魔王に勝てるのか?力を持った子供と変わらない』
レンは煽っている自覚はない。ただ自分にとっての事実を述べているだけに過ぎない。
「スイちゃん!!」
「う・・うん!」
しかしその言葉が、キースに火をつけた。
「ハイヒール」
スイ帝国の賢者が回復魔法を使い、キースの腕が元に戻る。
「舐めてて悪かった。次が最後だ・・・殺す気でやるから死ぬんじゃねぇぞ」
キースは先ほどと違い、背筋がピンッと伸び、剣を中段に構える。
レンは相変わらず右手一本で剣を持ち、半身で構える。
先ほどのように一足で間合いを詰めず、じりじりと間合いを詰めていくキース。
お互い剣の間合に入る。そこから半歩距離を詰めたところで・・・キースが動く。
剣を振り上げ、レンに向かって斬撃を放つ―――。
様に見えた。むろん皇帝や三賢者たちも、その残像を追っていた。
その実キースのその攻撃はフェイント。勇者の膂力だけではない、殺気、一瞬の攻撃動作、巧みな足さばきと体捌きによって、残像を生み出し、キースはレンの側面へと回っていた。
そしてキースは剣を振りかぶらず、中段の構えから真っすぐ最短に、レンのこめかみに向かって突きを放つ。
(もらった―――)
その刹那。キースは見た。
つまらなさそうなものを見る、レンのその目を・・・。
レンはすれすれで首だけを動かしてその突きを避け、自身の持っていた木剣をカウンターさながらキースの喉に突き・・・。
ピタリッと皮膚に触れたあたりで剣を止めた。
キースは両手をあげる。降参のポーズだ。
「まいった。もう文句は言わねぇ」
レンは剣を下げ、木剣を取りに来たメイドに手渡す。
「どうだった勇者?感想を述べよ」
ニヤニヤと皇帝が勇者に問う。
「チッ!・・・基礎能力は俺の方が2倍はたけぇ。それでも俺はこいつ・・・レンに勝てる姿が浮かばねぇ。驕ってたつもりはねぇが・・・まだまだ上はあるってことだな。悔しいというよりは・・・嬉しいの方が大きいな」
「キー君・・・」
「俺はまだまだ強くなれる。その可能性を見れたのは大きかったな。回復ありがとうなスイちゃん」
そう言ってキースは元の位置に戻った。
「さて・・・レン。お前には魔王討伐に同行してもらう。仕事は勇者たちの露払い・・・要は大量の魔物を片付けろ、というわけだ」
レンは神に言葉を書いていく。
『俺自身が魔王を倒すのは?勇者弱いし』
「ぐうの音も出ねぇ・・・やっぱり悔しいぞ!!いつかリベンジしてやるから待ってろ!!」
「ふふふ・・・」
地団太を踏むキース。それを見て微笑むスイ。
「それは出来ん。完全に復活した魔王なら問題はないが・・・今回は復活前の魔王を叩く。故に攻撃し、ダメージを追わせられるのは三賢者のみ。文献通りならな」
復活前の魔王はいわば半分は概念・・・肉体を持たない存在となる。それ故に特別な力を授かっている三賢者のみしか、ダメージを与えられない。
完全に復活した状態だと肉体を持つ。魔王討伐とは本来、この世界に住む人々、女神の力を宿した三賢者と魔王による、世界をかけた防衛戦なのだ。
「作戦は行きの馬車で聞くとよい。出立は明日の朝、帝都の門に来い。極秘事項の為大々的には送れんからな」
『わかった』
レンはそう言葉を残し、謁見の間を去る。
そして城を出るや否や、マリーの居る宿へと向かって走り出すのだった。
豪華に彩られた大広間。赤いカーペットの上に立つレン。その隣にはデルが立っていた。
数段高い位置に座る皇帝は、二人を見下ろす様に豪華な椅子に座っている。
そして皇帝の横には帝国の勇者であるキース、聖女のスイ、賢者のマリク。
さらに王国の聖女アンジュ、賢者エリーも皇帝の椅子の横に並んで立っていた。
「儂の事はどうでもいいだろう?それよりなんでレンをわざわざ呼び出した?それにお主の横にいる三賢者はなんじゃ?」
ううーむ?っと皇帝は唸り顎に手をやる。
「まずレンを呼んだ理由だが・・・ただの興味本位だな。あの魔の山を単身で越えたという者の顔を見たかったと言ったところか。三賢者がここにいるのは・・・ついさっきまで話し合いをしていた。そんでレンとの謁見の時間だ、と言うとついて来るとか抜かしたからここにいる」
レンをじっと見つめるアンジュとエリー。
キース帝国の勇者は興味深そうに、スイ帝国の聖女は視線をあっちへこっちへキョロキョロしている。マリク帝国の賢者は興味無さそうに欠伸をしていた。
「次はこちらが質問する番だな。ますなんでデル爺がここにいる?俺はマリーとレンを呼んだはずだ。そしてレン。なぜ今回俺に会おうと思った?お前が帝国に来てからもう結構経つ。なぜ今なのか」
「俺がマリーの代わりに来たのは、マリーが今動けないからだ」
デルが答えている間に、レンの前に大きな紙が複数枚と筆が置かれる。
レンが喋れないことを知っているゆえの配慮だろう。
レンは筆を使い、サラサラと文字を書いていく。
『一度マリーと帝都に観光したいと思っていた。そのついでに』
ピクリッと皇帝のこめかみが動く。
「俺に会うのがついでだと?」
『今は必要だから会いに来た。気を悪くしたなら謝る』
レンは皇帝に向かって頭を下げる。
「ふはははは。この国で1番偉い俺がつ・い・で・とは・・・それで?今は必要なんだな?その理由を言え・・・ではないな。書け」
「それはだな・・・」
「デル爺。お前に聞いていない。確かにお前はこの城で教鞭を振るっていたが、今はただの老耄よ。いつまでも俺のことを生徒と思うなよ?」
「おお怖い怖い。では儂は黙るとしよう」
レンは書き終えた紙を掲げ、皇帝に見せる。
『マリーを救うために不死鳥の涙が必要だ。俺に払える対価ならなんでも払う。だから譲って欲しい』
皇帝は少し考えるように唸る。
「お前はそれの価値をわかっているのか?売れば人生を10回生きても金には苦労しないだろう。それにあれを手に入れるのにどれだけの労力と金がかかったことか・・・それだけの価値があることを知っているのか?」
コクリとレンは頷く。
レンの表情を見て、皇帝は近くに控えていたメイドに目配せし、メイドはその場を去る。
「どうせ使わんだろう?いいじゃないかくれてやっても・・・」
「デル爺は黙ってろと言ったろ?」
『もし譲れないなら・・・貸してほしい。倍の数を俺がダンジョンから取って来る』
「話にならんな。もし無理だったらどうする?倍の数?あのダンジョンを2周するという気か?先々代の皇帝が案を出し、一個師団と10年かかってようやく手に入れたものを?」
『もし倍取れないなら・・・俺を好きにしていい。死ねというなら死のう。奴隷として働けと言うなら従おう』
「ふむ・・・。お前ほどの男を手駒にできるのはなかなかいい案だ。国としても、俺個人としても・・・だが・・・それでは釣り合いがとれん」
『だったらどうしろと』
先ほど去っていったメイドが戻ってくる。そして皇帝に深紅のように真っ赤な液体の入った瓶が手渡される。
「ふむ・・・これが不死鳥の涙か・・・」
皇帝は目の前で瓶をゆらゆらと振り・・・それをレンに向かって放り投げる。
びっくりしたレンは、それを慌てて壊れないようにやさしく受け止める。
「その程度のガラクタと、お前の命。こちらが貰い過ぎると言っておる。ちょうどお前に頼みたかったこともある。それは前金だ」
『いいのか?』
「別に万病を直すような霊薬でもなく、死者を復活させるようなものでもない。ただ寿命で死に行く老人を数年生き長らえさせるだけの物だ。別に無くなっても痛くもかゆくもない」
その言葉を聞いて、レンはパンパンと両手を叩く。
「頭領のドロシーに代わり、サキ参上しました」
突如現れ、レンの背後に跪く黒装束の女性。
「・・・お前・・・いつの間にうちの暗部を手懐けやがった」
「ふん。皇帝、お前とは雇い雇われの金の関係だ。しかしレン様は我らの頭領が忠義を果たすべきとされた人物。・・・敵対したとき、どちらの味方になるかはわかるだろう?」
レンはサキと名乗るシノビに不死鳥の涙を渡す。
『頼んだ』
「はっ!」
シュバッ!と姿を消すサキ。
「それじゃあ儂もお暇しようか。しかしオルガよ。良い王になった様じゃな」
「侮辱か?俺は王キングではない。この大陸に住む数多の種族の王を束ねるその上の存在、皇帝エンペラーだ」
「そうじゃったな・・・」
そう言うと嬉しそうに笑い、デルは謁見の間から退室していった。
「さて・・・お前にしてもらいたい事。それは・・・こいつらと共に、魔王討伐に向かってもらおう」
その言葉を聞いて、レンはキョトンとしていた。
「魔王が動き出していることは、お前も知っているはずだなレン?」
コクリと頷くレン。
「魔王自体も脅威だが、魔王の従える魔物たちも脅威となる。レンには勇者たちの露払いをしてもらう。なにせ大群で攻められぬような深い森の中が戦場となる。本当はこいつ等だけで行かせるつもりだったが・・・お前がいいタイミングで来たからな。頼めるよな?」
コクリと頷くレン。
「それじゃあ―――」
「待てよ」
声をあげたのはキース帝国の勇者。
「何か不満でもあるのか勇者よ」
「大ありだ!本当にそいつは強いのか?足手まといはごめんだぜ」
「ふむ・・・。既にドロシーを蹴散らしている時点で・・・」
「俺は俺の目で見たものしか信じねぇ」
そう言ってキースは模擬専用の木の剣をレンに投げつける。
「一撃だ。俺に一撃攻撃を当てられるなら・・・同行を許そう。無理なら諦めるんだな」
キースはレンを挑発するようにそう言いながら、レンの正面まで歩く。
レンは木剣を、重さを確かめる様に数回振り、右手に持ち、体を半身にして構える。
「は?舐めてんのか?ふざけていると死ぬぞ?」
レンの構えは、明らかに剣士の構えではない。斥候やシノビが持つナイフや短刀のような、小さな刃物を持つときの構えだ。
しかしレンは一向に構えを変える様子もない。
「死なない程度に手を抜いてやるつもりだったが・・・その必要もなくなったようだ・・・なっ!!」
10メートルほどあった間合を一瞬で詰めるキース。そして振り上げた木剣をレンの脳天に向かって振り下ろす―――。
カッ!シャン
そんな音が大広間に鳴り・・・・。
コツンっと小さな音が鳴る。
「は?」
勇者の木剣は半身になっているレンの横を通り過ぎ、逆にレンの木剣は勇者の頭の上に置かれていた。
「はっはっはっ!!お前の負けだな勇者」
腹から声を出し笑う皇帝。その横にいる三賢者たちは、マリク以外は驚き口を開いている。
「俺の剣を見切って一・歩・も・動・か・ず・にいなした?」
レンは右手一本で勇者の剣を受け、自身の体から剣線が外れる程度に剣を斜めにして攻撃をずらした。
そしてそのまま勇者の頭の上に剣を置いたのだ。
「まだだ!だったらこれならどうだ!!」
キースは二歩下がり、剣を後ろに引き、肩をレンの方に出し・・・。
(横に振れば避けられまい!!防御しても木剣ごとこいつの体をへし折ってくれる!!)
キースは全力で剣を振る。
レンは自らが持つ木剣で防御する。刃の背に左手を添えて・・・。
しかし、キースの思惑とは違った。
レンの居る位置はキースの懐。つまりレンが防御しているのは・・・。
「ぐっ!!!」
ボキッ!と骨の折れる嫌な音がする。
それもそのはず、レンは少し前に出て、剣を振るキースの腕を受け止めた。
するとどうなるか・・・剣を振る勢いのまま、キースは自らの力で腕を折ってしまう。
キースの左手は変な方向に曲がり、木剣を地面に落としてしまう。
レンは紙にすらすらと文字を書いていく。
『本当にこの人が勇者?こんなに弱くて魔王に勝てるのか?力を持った子供と変わらない』
レンは煽っている自覚はない。ただ自分にとっての事実を述べているだけに過ぎない。
「スイちゃん!!」
「う・・うん!」
しかしその言葉が、キースに火をつけた。
「ハイヒール」
スイ帝国の賢者が回復魔法を使い、キースの腕が元に戻る。
「舐めてて悪かった。次が最後だ・・・殺す気でやるから死ぬんじゃねぇぞ」
キースは先ほどと違い、背筋がピンッと伸び、剣を中段に構える。
レンは相変わらず右手一本で剣を持ち、半身で構える。
先ほどのように一足で間合いを詰めず、じりじりと間合いを詰めていくキース。
お互い剣の間合に入る。そこから半歩距離を詰めたところで・・・キースが動く。
剣を振り上げ、レンに向かって斬撃を放つ―――。
様に見えた。むろん皇帝や三賢者たちも、その残像を追っていた。
その実キースのその攻撃はフェイント。勇者の膂力だけではない、殺気、一瞬の攻撃動作、巧みな足さばきと体捌きによって、残像を生み出し、キースはレンの側面へと回っていた。
そしてキースは剣を振りかぶらず、中段の構えから真っすぐ最短に、レンのこめかみに向かって突きを放つ。
(もらった―――)
その刹那。キースは見た。
つまらなさそうなものを見る、レンのその目を・・・。
レンはすれすれで首だけを動かしてその突きを避け、自身の持っていた木剣をカウンターさながらキースの喉に突き・・・。
ピタリッと皮膚に触れたあたりで剣を止めた。
キースは両手をあげる。降参のポーズだ。
「まいった。もう文句は言わねぇ」
レンは剣を下げ、木剣を取りに来たメイドに手渡す。
「どうだった勇者?感想を述べよ」
ニヤニヤと皇帝が勇者に問う。
「チッ!・・・基礎能力は俺の方が2倍はたけぇ。それでも俺はこいつ・・・レンに勝てる姿が浮かばねぇ。驕ってたつもりはねぇが・・・まだまだ上はあるってことだな。悔しいというよりは・・・嬉しいの方が大きいな」
「キー君・・・」
「俺はまだまだ強くなれる。その可能性を見れたのは大きかったな。回復ありがとうなスイちゃん」
そう言ってキースは元の位置に戻った。
「さて・・・レン。お前には魔王討伐に同行してもらう。仕事は勇者たちの露払い・・・要は大量の魔物を片付けろ、というわけだ」
レンは神に言葉を書いていく。
『俺自身が魔王を倒すのは?勇者弱いし』
「ぐうの音も出ねぇ・・・やっぱり悔しいぞ!!いつかリベンジしてやるから待ってろ!!」
「ふふふ・・・」
地団太を踏むキース。それを見て微笑むスイ。
「それは出来ん。完全に復活した魔王なら問題はないが・・・今回は復活前の魔王を叩く。故に攻撃し、ダメージを追わせられるのは三賢者のみ。文献通りならな」
復活前の魔王はいわば半分は概念・・・肉体を持たない存在となる。それ故に特別な力を授かっている三賢者のみしか、ダメージを与えられない。
完全に復活した状態だと肉体を持つ。魔王討伐とは本来、この世界に住む人々、女神の力を宿した三賢者と魔王による、世界をかけた防衛戦なのだ。
「作戦は行きの馬車で聞くとよい。出立は明日の朝、帝都の門に来い。極秘事項の為大々的には送れんからな」
『わかった』
レンはそう言葉を残し、謁見の間を去る。
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