【完結】牛丼で死んだぽっちゃり姉、異世界で弟の断罪エンドを止めたい

かおり

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第10話 断罪イベント、その行方

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学園の卒業式は、毎年国中の注目を集める。
貴族子弟の晴れ舞台であり、次代を担う者たちの“品格”と“過去”が公にされる場でもあるからだ。


とりわけ話題になるのが「生徒代表スピーチ」。


――原作では、その壇上でルークが語った。
「過去、私は理不尽ないじめを受けました」
「その首謀者は、エヴァンティーヌ令息――レオ様です」


正義を振りかざすその一言が、全てを壊した。


レオは糾弾され、周囲から孤立し、ミリエラの前で何もかも失った顔で立ち尽くしていた。
小説のそのページを、私は何度も読んだ。
そのたびに、あのとき“姉がバカにされた”と勘違いしなければ、って思っていた。


だから今、会場の片隅でルークが壇上へ歩いていくのを見ながら、私は息が詰まりそうだった。


あれから、いろいろあった。


レオとルークは、たくさん話すようになっていた。
実技で協力して、冗談を言って、時には笑い合って。
それでも、「もしかしたら」が頭を離れない。


ルークは壇上に立ち、会場を見渡した。
一瞬、私と目が合った気がした。


そして、ゆっくり口を開いた。


「……私は、過去に多くの間違いをしました」


会場が静まる。


「自分の弱さを、誰かのせいにしたこともあります。傷ついた心を、周囲の言葉に乗せて叫びたいと思ったこともある」


ミリエラの喉がきゅっと締まった。
まるで、原作通りの“前置き”が始まったようで。


「でも、今日はやめます」


ルークが笑った。


「過去を使って誰かを傷つけるのは、僕の望んだ卒業じゃない」


「僕には、今、友達がいます。
剣を教えてくれて、くだらない話で笑ってくれて、時々暴言も吐くけど――正直で、熱い人です」


ルークの視線が、壇下のレオへと向けられた。

「……エヴァンティーヌ令息、レオは、僕の“親友”です」

会場が、ざわめいた。

後方で貴族たちがひそひそと話す声。
それをかき消すように、誰かが拍手を始めた。
数拍、数十拍、やがてホール中が大きな拍手の波に包まれた。

壇上でルークは穏やかに微笑み、レオは呆然と立ち尽くしていた。
やがて、肩を震わせ、ゆっくりと俯いた。

涙が、頬にひと筋こぼれていた。

私は、その姿を見て――息を飲んだ。
ああ、本当に。

「……未来は、変えられるんだ」

原作の“正義のスピーチ”は、いま、友情の証明になった。
ルークはルークの言葉で、レオはレオの意思で、物語を変えた。

私は、ぐっと胸を押さえた。
私が頑張ったから、変わったとは言わない。
でも、私が“変わろう”としたことは、きっと何かを繋げた。


***


夜。ラトの部屋では、小さな使い魔のカラスが窓辺に止まっていた。

「……報告? 今さら、もう遅いよ」

ラトは淡々と呟きながら、オーブンのスイッチを切った。

「卒業イベントに乗じて騎士団を混乱させる予定、ってやつでしょ。もう、全部崩れてるよ」

カラスが「カァ」と短く鳴く。
「……お前、情が移ってるだろ」とでも言いたげに。

ラトは、肩をすくめた。

「うん。情じゃなくて、……たぶん愛情かな。いや、糖分か。血糖値かもしれない」

真面目な顔で、冗談のように言った。
でも、その目は、どこまでもまっすぐだった。

「報告?……今日はね、ムースがうまく冷えたんだ」


***


その頃。私は、自室の窓辺に座って、夜空を見上げていた。

星が滲んで見えたのは、たぶん泣いたから。

「……私、ちゃんと変われたのかもしれない」

ぼそっとこぼれた言葉に、背後から優しい声が返ってきた。

「その証拠に……今日は、ムースがうまく冷えました」

振り返ると、ラトがいた。
私がまだ涙の跡を隠せないでいるのを見て、微笑むだけだった。

「……食べる?」

「うん。あとで、ゆっくり」

「じゃあ、冷蔵庫に入れておきます。……ミリエラ様専用棚に」

「勝手に名前つけないで」

私はふっと笑って、ラトの手をそっと取った。

夜風は涼しくて、だけど手のぬくもりはあたたかくて。
この世界はもう、原作なんかじゃなくて、私たちのものになっていた。
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