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大和の話.2
しおりを挟む箱を開けて出てきたのは、布切れ一枚に包まれた小さな子供だった。実際の年齢は不明だが、栄養が足りず細い体に青白い顔、黒く長い髪の毛。伏せられたまつ毛の長さから、少女だと判断して大和は人を呼んだ。
「あらあら…可愛い女の子ね」
大和の叔母である蘭は、さっと少女を抱き上げると大和にその場に留まるように言った。
「なんて顔してるの、この子が怖がったら困るでしょう?」
冷静にならなくては。頭ではわかっているのだ。これまで大和は人を拾った鬼たちがどうしていつも失敗してしまうのかを不思議に思っていた。見た目に恐怖されるのは仕方ないが、角があり、多少体が大きい程度だ。慣れれば自分を害さない存在であると認めてくれてもいい気がしていた。だが、それだけではないのだと理解した。
「少しでも力を入れたら、潰れてしまいそうやったな」
蘭がいてくれて良かった。大和は心の底からそう思った。弱い存在だ。おそらくは人の中で大事にされなかったのだろう。ならば自分は大事にしてやろうと大和は思った。
目が覚めた少女は大和が予想していたよりは、弱々しい存在ではなかった。物音がして、起きたのかと寝かせていた部屋へと急いだ。まずは静かに声をかける。もしも、言葉が通じているなら返る言葉があるはずだと思ったのだ。
「なあ、起きたん。ご飯たべさせたるからおいで」
「……わ、私がごはんになるんじゃないんですか?」
少女の涼やかな通る声に、大和は心臓が大きく跳ねるのを感じて、そっと息を吐いた。そして、ああ。と思う。人にとって鬼は自分を食べるものなのか。大和はできるだけ何でもない様な振りをした。
「はあ?腹壊すわ、っていうかお前のどこに食いでがあんねん」
少女の息遣いを逃さないように耳を澄ませる。
「無理やり連れていかれんのと、どっちがええねん」
焦って上擦った声に、大和は心の中で舌打ちする。怯えさせてどうする。と自分を叱咤する。けれど、それに反して、少女と大和を隔てていた障子戸がゆっくりと開いた。
そこに現れたのは布団お化け。ではなく、布団をかぶった愛らしい人の子だった。
「お、おはようさん。布団なんて被って、寒いんか?」
黒い髪の間から、キラキラと輝く瞳が二つ。大和をじっと見つめていた。不安そうに揺れて、白い肌がほんのり赤く色づいていた。小さな口が開かれる。
「さささ、寒いっていうか貧相っていうか、違うの、えっとごめんなさい。生贄なのに美味しくなさそうでごめんなさい」
少女は確かに、鬼の言葉を口にしていた。どうして謝罪を受けているのかはわからないが、大和の耳に聞こえるのは自分のそれと同じ言語だった。驚いたまま見つめていたら、少女は何を思ったのか背を向けて布団に戻ろうとした。
「きゃあ」
大和はつい、少女に手を伸ばし引き寄せて。壊さないように丁寧に抱き上げた。
「だから、ええって言ったやろ。別に食うために貰ったんとちゃうから」
大和は何度でも伝えようと思った。自分はお前を害したりする存在ではない。むしろ何からでも守ってやろう。そう思った。
少女の手が大和の首に回って、少女の姿を半分隠していた布団がずるりと落ちて、少女の長い髪が露わになる。
大和は、少女の頭に手を伸ばす。そっと撫でてみても抵抗はない。
人生の中で一番幸せな瞬間だったと。大和は後に恥ずかしげもなく語った。
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