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6.迷子です
しおりを挟む皆さんこんにちは、灯です。誰に向かって言っているのかと突っ込まれると困ります。一人寂しい。歩けるようになって、ご飯もお粥から美味しい和食に切り替わりました。我ながらガリガリだった手足が柔らかくなってきたと思います。嬉しさのあまり、大和さんに抱き心地よくなったと思いませんか。なんて聞いたらものすごい顔をされました。やっぱり食われるのかなと死を覚悟したものの、布団でぐるぐる巻きにされるだけで済みました。
「ねえ、がるちゃん。ここって蘭さんと大和さんしかいないのかなあ」
「がるぅがる」
一応話しかければ、相槌の様な鳴き声を返してくれるがるちゃんを撫でながら、私は悩んでいた。
「平和すぎる……」
生贄として食べられることを覚悟していたあの日から、どれくらい経っただろうか。多分まだ一か月くらいだと思うんだけど。
「もうそろそろ、何かお手伝いくらいしたいんだけどなあ」
正直なところ、生贄様としての日々はいつもお腹が空いていた。お風呂だって無くてたまに水浴びをさせられる。意思なんてほとんどなくてぼんやりした毎日だった。一体いつ朝になって夜になったかさえわからなかった様に思う。前世の記憶が膨大なせいか、少し前までの現実の方が夢みたいだ。
「あんまり恨んでもないんだよねえ」
覚えていない。と言う方が正しいかもしれない。思い出したくないと言うのもあるだろうけど、今じゃあの人たちが何を言っていたかさえ覚えていない。
「お世話しかされてないのに、あれなんだけど……私めちゃくちゃ暇なの、がるちゃーん」
がるちゃんの体をふにふにと揉みしだく。嫌がる様子もないがるちゃんを私は顔に押し付けた。
「うう……気持ちいい」
がるちゃんは気持ちいいなあ。
「……」
いや、ほんと空気もよくて、ここってきっと山の上だよねえ。
「…………うっ、ここどこ」
現実逃避して、適当に歩けば元の場所につくだろう。なんて、調子に乗ってみましたが絶対に悪化させました。
いやいやいや体力だってそこまでついてないから、私の歩き回れる範囲なんてそこまでじゃないはず。なんて必死に辺りを見渡すけれど、全然わからない。
「い、一番最初はほら……まだ部屋も見えてたし。この辺だけだよって言われてた場所をぐるぐるしてただけだったよねえ」
ちょっと気を抜いて、考え事しながら歩いていたら目印にしてた屋敷の壁が無かったんだよね。振り返ったらまだ見えたから、もうちょっと探検してもいいかな。なんて思って……。
「そうだがるちゃん、おうちの方わかる?」
「がるぅ?」
「……わからないよねえ。どうしよう……スマホなんてないし、大和さーん、蘭さーん」
そういえば。と思う、鬼虫は無害らしいけど、それ以外の生き物がいないとは限らない。それから人を食べる系の鬼だっているかもしれないし、熊とかいるかもしれない。
「ひぃ……怖い怖い怖い。誰かぁ……いやでも大和さんがいいなあ」
これ以上動いても仕方がないと、ぺたりと地面に座る。そこまで離れていないはずだから、いないことに気付けば探しに来てくれるはずだ。都合の良い期待だけど、それに縋るしかない。
「嫌われてない、わからないけど笑ってくれるし、頭撫でてくれたし……大丈夫」
祈るように両手を合わせて目を閉じた。ほんの少し冷たい風が吹く。少しの振動が怖くて心臓が飛び出しそうだった。
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