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「だから、おにーさん助けてよ。俺、奴隷とかやだって。道を歩いているだけで誘拐とか、この辺り治安悪すぎでしょ」
「そんないかがわしい格好で、往来を出歩いている奴が悪いんだろうが。まったく、兎族の奴らは本当に危機感が薄くて困る」
意識を取り戻した時、光は薄暗い部屋の中で檻に入れられていた。落ちた場所がとってもヨーロピアンな場所で周囲をぼんやりと眺めていたら、秒で人さらいに捕まったのだ。偶然部屋の様子を見にきたらしい仏頂面の美丈夫に情報収集がてら助けを求めたところ、なぜかめちゃくちゃにお説教をされてしまった。人身売買組織の人間に説教されるとはこれいかに。
「兎族への熱い風評被害! そもそもこれは嫌がる俺に無理矢理着せたやつが悪くって……って、あれ、取れない。この耳取れないんだけど!!! いででででで」
「馬鹿、何をしている。無駄に身体を傷つけるんじゃない。まったく、兎族は危機管理能力だけでなく、頭そのものも弱いのか」
「はあ、何それ。ってかさ、街の治安が悪いのが問題なんじゃん。警備体制、どうなってんの?」
「なるほど、領主批判とは勇ましいな」
「え、これもしかして不敬罪で死ぬ感じ? マジか~、うける」
その上バニーガールのコスプレをしていただけのはずが、光の身体は兎獣人になってしまったらしい。ウサ耳もウサ尻尾も完全に光の身体に同化している。せっかく夢の異世界転移まで果たしたのだから、どうせなら目の前の男みたいにたくましい身体つきになりたかったと光は肩を落とした。
「なんだその目は」
「いいなあ。俺も兎じゃなくって、狼がよかった」
「怖いとか、気味が悪いとは思わんのか」
「なんで? カッコいいじゃん。銀の毛並みに金の瞳。強くて、誰にも負けないって感じ」
男から種族を説明されなくても当然のように当てることができたのは、光が兎族としてこの世界に受け入れられたからなのだろうか。
にこりと笑った光に、虚を突かれたように男は黙り込んだ。何かを考えているのか、苛々するように足を小さく踏み鳴らしている。その不作法さが妙に様になる男だった。いいなあ、羨ましいなとぼんやりと見惚れる。こういう男なら、黒服のスーツも映えるだろうし、バニーガールの衣装を着させられることもないに違いない。
「わざわざ媚びを売るとは、自分の立場の悪さにようやく気が付いたか」
「俺、立場、悪いの?」
「今から実施される人身売買のオークションに参加している奴らはまともじゃない。かといって売れ残れば、場末の娼館に投げ売りされるか、なぶり殺しにされるかの二択だろう」
「新生活、マジで厳しいわ。よし。じゃあ、おにーさん、俺のこと買ってよ」
「なるほど、わたしを知っていたのか」
「いや、知らないけど? でもおにーさん、カッコいいし、いいひとそうだし」
そのままにへらと笑う。大丈夫だ、笑ってさえいればなんとかなる。今までろくでもない人生で苦労してきた分、相手が善人か悪人かを見分けることは光の得意技なのだ。光の勘は目の前の男のことを、整い過ぎた顔はご機嫌斜めなせいか怖いがわりかしお人好し、無体は働かないタイプ、そして金持ちだと告げていた。
「可哀想に。ひとを見る目はないらしい」
「ねえ、俺ってお買い得だよ。役に立つから、そばにいさせて。何でもやるからさあ」
「相当な自信の持ちようではないか。面白い、要求通り、お前はわたしが飼ってやろう」
「あれ、俺が言うのもなんだけど、オークション通さずに俺のことご購入で大丈夫なの?」
「問題ない。どうせオークションは、中止だからな」
そしてその言葉を合図に、轟音が響いてきた。ぱらぱらと天上からさまざまな破片がふってくる。これは地震などではない。ばたばたとたくさんの足音が聞こえてくるが、その音を聞いても、目の前の男は焦る素振りが一切なかった。むしろ、どこか満足気でさえある。
「先ほどは街の治安維持についてのご意見をどうも。わたしが、この地の領主、ウォルトだ。オークションに買い物に来ていた貴族もろとも、人身売買組織を制圧した。ここにいる者たちで希望者は故郷に戻ることもできるが、お前はわたしと暮らす。それでいいんだな?」
「親兄弟いないし、たぶん故郷に帰るのは無理なんで、それで大丈夫!」
檻の鍵が開き、外に連れ出される。男が仏頂面に微笑みをのせるとさらに凶悪な顔になるらしい。今のところ、この世界で光が頼ることができるのは目の前の領主だと名乗った顔の怖い男だけ。けれど光は小躍りしながら、「やっぱ、俺、当たり引いたんじゃん。ラッキー」と笑ってウォルトに飛びついたのだった。
「そんないかがわしい格好で、往来を出歩いている奴が悪いんだろうが。まったく、兎族の奴らは本当に危機感が薄くて困る」
意識を取り戻した時、光は薄暗い部屋の中で檻に入れられていた。落ちた場所がとってもヨーロピアンな場所で周囲をぼんやりと眺めていたら、秒で人さらいに捕まったのだ。偶然部屋の様子を見にきたらしい仏頂面の美丈夫に情報収集がてら助けを求めたところ、なぜかめちゃくちゃにお説教をされてしまった。人身売買組織の人間に説教されるとはこれいかに。
「兎族への熱い風評被害! そもそもこれは嫌がる俺に無理矢理着せたやつが悪くって……って、あれ、取れない。この耳取れないんだけど!!! いででででで」
「馬鹿、何をしている。無駄に身体を傷つけるんじゃない。まったく、兎族は危機管理能力だけでなく、頭そのものも弱いのか」
「はあ、何それ。ってかさ、街の治安が悪いのが問題なんじゃん。警備体制、どうなってんの?」
「なるほど、領主批判とは勇ましいな」
「え、これもしかして不敬罪で死ぬ感じ? マジか~、うける」
その上バニーガールのコスプレをしていただけのはずが、光の身体は兎獣人になってしまったらしい。ウサ耳もウサ尻尾も完全に光の身体に同化している。せっかく夢の異世界転移まで果たしたのだから、どうせなら目の前の男みたいにたくましい身体つきになりたかったと光は肩を落とした。
「なんだその目は」
「いいなあ。俺も兎じゃなくって、狼がよかった」
「怖いとか、気味が悪いとは思わんのか」
「なんで? カッコいいじゃん。銀の毛並みに金の瞳。強くて、誰にも負けないって感じ」
男から種族を説明されなくても当然のように当てることができたのは、光が兎族としてこの世界に受け入れられたからなのだろうか。
にこりと笑った光に、虚を突かれたように男は黙り込んだ。何かを考えているのか、苛々するように足を小さく踏み鳴らしている。その不作法さが妙に様になる男だった。いいなあ、羨ましいなとぼんやりと見惚れる。こういう男なら、黒服のスーツも映えるだろうし、バニーガールの衣装を着させられることもないに違いない。
「わざわざ媚びを売るとは、自分の立場の悪さにようやく気が付いたか」
「俺、立場、悪いの?」
「今から実施される人身売買のオークションに参加している奴らはまともじゃない。かといって売れ残れば、場末の娼館に投げ売りされるか、なぶり殺しにされるかの二択だろう」
「新生活、マジで厳しいわ。よし。じゃあ、おにーさん、俺のこと買ってよ」
「なるほど、わたしを知っていたのか」
「いや、知らないけど? でもおにーさん、カッコいいし、いいひとそうだし」
そのままにへらと笑う。大丈夫だ、笑ってさえいればなんとかなる。今までろくでもない人生で苦労してきた分、相手が善人か悪人かを見分けることは光の得意技なのだ。光の勘は目の前の男のことを、整い過ぎた顔はご機嫌斜めなせいか怖いがわりかしお人好し、無体は働かないタイプ、そして金持ちだと告げていた。
「可哀想に。ひとを見る目はないらしい」
「ねえ、俺ってお買い得だよ。役に立つから、そばにいさせて。何でもやるからさあ」
「相当な自信の持ちようではないか。面白い、要求通り、お前はわたしが飼ってやろう」
「あれ、俺が言うのもなんだけど、オークション通さずに俺のことご購入で大丈夫なの?」
「問題ない。どうせオークションは、中止だからな」
そしてその言葉を合図に、轟音が響いてきた。ぱらぱらと天上からさまざまな破片がふってくる。これは地震などではない。ばたばたとたくさんの足音が聞こえてくるが、その音を聞いても、目の前の男は焦る素振りが一切なかった。むしろ、どこか満足気でさえある。
「先ほどは街の治安維持についてのご意見をどうも。わたしが、この地の領主、ウォルトだ。オークションに買い物に来ていた貴族もろとも、人身売買組織を制圧した。ここにいる者たちで希望者は故郷に戻ることもできるが、お前はわたしと暮らす。それでいいんだな?」
「親兄弟いないし、たぶん故郷に帰るのは無理なんで、それで大丈夫!」
檻の鍵が開き、外に連れ出される。男が仏頂面に微笑みをのせるとさらに凶悪な顔になるらしい。今のところ、この世界で光が頼ることができるのは目の前の領主だと名乗った顔の怖い男だけ。けれど光は小躍りしながら、「やっぱ、俺、当たり引いたんじゃん。ラッキー」と笑ってウォルトに飛びついたのだった。
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