一夜限りの思い出にもなるしと、拾ってくれた領主さまのために一肌脱いでみたところ。

鷲井戸リミカ

文字の大きさ
7 / 11

(7)

しおりを挟む
 庭園から会場に戻っていた光は、夜会会場が妙に騒がしいことに気が付いた。光は狐獣人をその場に投げ捨てると、会場へ駆け戻る。明らかにウォルトの様子がおかしい。胸をかきむしりながら息を荒げ、目も血走っている。片膝をついて耐えているその表情にいろいろと察してしまった。経験上、何かを盛られたとしか思えない。

「ウォルト、毒飲んじゃった?」
「致死性の毒の方が、耐性がある分まだマシだった。発情を促す薬を盛られたらしい。誰彼構わず孕ませてしまいそうだ」
「ヤバイじゃん、それ!」

 仕事の鬼で、性欲とは無縁でございますと言いたげな男が、むんむんと色気を振りまいている。日頃は不機嫌にしか見えない顔も、今日ばかりは憂い顔に見えた。なるほど、普段は不機嫌さと無愛想さで気にならないが、こうやって見るとウォルトというのは大変に見目の整った男なのである。そして背筋が冷えた。

 これは大変よろしくない状況なのではないだろうか。薬を盛った相手が政敵なのか、それとも単にウォルトに恋心を抱いているのかはわからないが、ろくでもないことをしてくれたということは確かである。

 この場の責任者はウォルトだ。ウォルトの家族のことを光はよく知らない。光自身家族のことを聞かれても答えられないので、ひとの家庭環境には首を突っ込まないようにしている。しかし、ここまで徹底してウォルトの家族構成が耳に入らないということは、それなりに何かがあると思って間違いないだろう。誰とも知らない奴らに、主導権を握らせるわけにはいかなかった。

 家令よりも護衛騎士よりも早く、光は大声で叫ぶ。

「ちょっと、ウォルト。こんなところで、催しちゃうなんて。もう、俺がおねだりしたのに、夜会が終わるまでおあずけだって意地悪するからだよ」
「……は?」
「ねえ、ウォルト。俺、もう待ちきれないよお。気持ちいいこと、いっぱいしよ?」

 心の中で、この世界の同胞扱いとなる兎族に全力で詫びながら、ウォルトは媚びた。元の世界のキャストのお姉さんのきわどい台詞をたくさん思い出しながら、媚びに媚びた。ついでに、可愛い尻尾を夜会の客人に見えるように突き出しながらふりふりしてみたところ、みんながお尻に注目していたので、やはり兎族はそういう下卑た目で見られやすいのかもしれない。

「ヒカル」
「ウォルト、抱っこしてよ。俺、もう、一秒たりともウォルトから離れたくないって」

 ウォルトの貞操を守るため、光は己のプライドを投げ捨てることにした。こうしていれば、「誰彼構わず孕ませる」が最悪でも「光を衆人環視の元、犯す」に緩和されるはずだ。それで緩和になるのかどうかわからないが。それでも見境なくことに及ばれるよりも、事態の収拾は容易だろう。

「……わたしの掌中の珠が、こう言っているのでな。申し訳ないが、ここでわたしは失礼する。お相手はできぬが、今宵はゆるりと楽しまれよ」
「じゃあね~」

 ウォルトの謝罪と光の馬鹿っぽい挨拶とともに、夜会会場から離脱する。なぜだか途中でかけつけた家令と護衛騎士がものすごい笑顔でこちらに手を振り返してくれたが、光にはその意味がまったくもって理解できなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

ヒールオメガは敵騎士の腕の中~平民上がりの癒し手は、王の器に密かに溺愛される

七角@書籍化進行中!
BL
君とどうにかなるつもりはない。わたしはソコロフ家の、君はアナトリエ家の近衛騎士なのだから。 ここは二大貴族が百年にわたり王位争いを繰り広げる国。 平民のオメガにして近衛騎士に登用されたスフェンは、敬愛するアルファの公子レクスに忠誠を誓っている。 しかしレクスから賜った密令により、敵方の騎士でアルファのエリセイと行動を共にする破目になってしまう。 エリセイは腹が立つほど呑気でのらくら。だが密令を果たすため仕方なく一緒に過ごすうち、彼への印象が変わっていく。 さらに、蔑まれるオメガが実は、この百年の戦いに終止符を打てる存在だと判明するも――やはり、剣を向け合う運命だった。 特別な「ヒールオメガ」が鍵を握る、ロミジュリオメガバース。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

婚約破棄された俺をお前が好きだったなんて聞いてない

十山
BL
レオナルドは辺境に領地を持つ侯爵家の次男。婚約破棄され、卒業とともに領地の危険区域の警備隊に就いた。婚活しないとならないが、有耶無耶のまま時は過ぎ…危険区域の魔獣が荒れるようになり、領地に配属されてきた神官は意外な人物で…?! 年下攻めです。婚約破棄はおまけ程度のエピソード。さくっと読める、ラブコメ寄りの軽い話です。 ファンタジー要素あり。貴族神殿などの設定は深く突っ込まないでください…。 性描写ありは※ ムーンライトノベルズにも投稿しています いいね、お気に入り、ありがとうございます!

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...