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梅干し

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ばーちゃんが漬けてた梅干しが、このままだと数年後には食べられなくなることに気づいた。

日々ばーちゃんの影が消えていくのが寂しい。それに慣れ親しんだものが食べられなくなるのも。
だから今年は自分で漬けることにした。

やり方なら、毎年手伝ってたからわかってる。
とは思ったけど、ちょっと不安だったのでネットで調べながら作った。

一番怖かったのはカビだ。ばーちゃんは慣れた調子でやってたけど、僕はその辺の加減はよくわからない。
これでよかったっけ?
ってところどころドキドキしながら作業した。

ヘタ取りは楽しかった。毎年やってて慣れてるし。こういう無心になれる作業は好きだ。
でも無心になり過ぎて、うっかりいつも通りばーちゃんが側にいるつもりで話しかけて、返事は絶対に返ってこないことに気づいて落ち込んだ。

つけて干して瓶に戻して。
一人で作るのは初めてだったけど、なんとか美味しそうなのができたのでほっとした。
失敗したら「何十年も何見てたんだい?」ってばーちゃんに怒られちゃう。
…ああ、ばーちゃんに怒られたいなぁ。


報告がてら、出来たてを一粒仏壇に供えた。

「ばーちゃん。僕、一人で梅干し漬けれたよ」

そしたら

「初めてにしちゃ上出来だね」

って褒められた気がした。


食べ頃になったら自分で作ったのを食べて、ばーちゃんの梅干しは大事にちょっとずつ食べよう。

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