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おまけ
うちのお嬢様は胸が小さい
しおりを挟むうちのお嬢様は胸が小さい
それは太陽が東から昇るのと同じくらいに当たり前の事なので、普段は全くと言っていいほど意識にのぼらなかった。
けれどまさかそれが、こんな事態を引き起こすなんて…
お嬢様が今ボール遊びをしているのは、この国の王子殿下だ。ちょっとあり得ない理由で婚約破棄をした方だけれど、それでも一応王子殿下だ。
そしてお嬢様は、国王陛下の命により王子殿下の新しい婚約者となった。
これまたちょっと、あり得ない理由で。
本来ならば喜ばしいことだ。
お嬢様の婚約も。
お相手の身分が高いことも。
けれど王子殿下の婚約破棄の理由と、お嬢様が婚約者に選ばれた理由が、ちょっとひど過ぎて手放しでお祝いできなかった。
指名されたお嬢様も、もの凄い顔をしていらしたし。
しかし腹の中がどうであろうと、王命は受ける一択。
手紙一通でご当主様ともども王宮に呼び出されたお嬢様は、国王陛下から改めて王子殿下の婚約者になるよう命じられ、謹んで拝命したのだ。
そういう訳で今、お嬢様と私は王宮の一室を借りて暮らしている。表向きは、王子妃となるお嬢様の教育の為らしいのだけれど、実際は王子殿下の教育がメインだ。
お嬢様は王宮住まいのお供に、私を選んだ。元々お嬢様のお世話は、主に私がしていたからだろう。
だからお嬢様のお父上が領地に帰った後も、私は王宮に残った。そしてお嬢様に付き添って細々としたお世話をしている。後は小まめに情報収集も。
うちのお嬢様は、色々な話を聞くのが好きだから。
お嬢様の口ぐせの一つは「何が役に立つかわからない」だ。
だからとりあえず小耳に挟んだ話は全て、お嬢様に届けている。
私は洗濯だの食事だので王宮の他の使用人の手を借りることが多いので、色々な所に出入りする。そうすると、誰かが何かしらお喋りしている。だから情報源には事欠かない。
取捨選択は基本しない。
「これはいらないだろう」と思った情報が、思いもかけず役に立つこともよくあるから。
過去、そうして集めた情報から、お嬢様はいくつかの事業を成功させた。
我が領で評判の番犬ビジネスも、そのうちの一つだ。
だからお嬢様は、情報を集めるのが大好きだ。
お嬢様は王子殿下の婚約者になったけれど、そもそもの理由がアレなので舐められている。おまけに子爵家だし。
でもその分、脅威にはならないと思われているので実害はない。
嫌味混じりに情報を落としてくれるメイドも何人かいて、そういう相手はお嬢様的には「ラッキー」らしい。
流石お嬢様、逞しい。
どうせ王子殿下と結婚したら王宮を出ていくだろうから、あまり気にならないのだそうだ。普段も接点はほとんどないし。
「ターニャも右から左に聞き流しておけばいいから。あ、でもあんまり酷かったら避けて。避けられなかったら教えて」と言われている。
でも、たかが小娘の戯言一つ、どうという事もないので言われた通りに聞き流している。別に彼女たちと一緒に働いている訳ではないので、顔を合わせるのなんて一日ほんの数分程度だ。
そして直接お嬢様に関わる話を聞かせてくれる情報源として、活用させてもらっている。
しかし、そうして利用しているとはいえ、お嬢様絡みの嫌味を聞くのは不愉快だ。
それはそれ、これはこれだ。
だってお嬢様は胸は小さいけれど素晴らしい方なのだ!
何しろ頭が良くて行動力がある。
お嬢様が始めたいくつかの事業のおかげで、うちの領民の暮らしはちょっと良くなった。
それくらい素晴らしい方なのだ。
だから嫌味を言うメイドたちには、小さな呪いをかけている。
毎日ちょっとずつ貧乳になーれ
王子殿下は、巨乳目当てに婚約破棄までやらかしただけあって、胸にはかなりのこだわりがあるようだ。お嬢様に会うたびに、胸元に目をやってはため息を吐いている。
お嬢様はそれを軽くあしらっている。時々自爆しながら…。
最近思うのだけれど、そんなお嬢様たちは結構いいコンビなのではないだろうか。
王子殿下は、今回の騒動だけ聞くとちょっと無い感じだけれど、身分を笠に着た発言をしているところは見た事がない。お嬢様は割と遠慮なくポンポンものを言う方だけれど、それを咎めることもない。
言い返してはいるけれど、権力は振りかざさない。むしろお嬢様との言い合いを、楽しんでいるようにも見える。
何と言うか、一緒にいる時お二人とも生き生きしていらっしゃるのだ。
これは、もしかすると結構当たりな婚約者だったのでは
なんてこっそり思いつつ、私は今日もお嬢様のサポートに励むのだ。
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