もうすぐ死ぬ悪女に転生してしまった 生き残るために清楚系美女を演じていたら聖女に選ばれました

来須みかん

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【番外編・ルーフォスとの恋愛エンディング】

04 ルーフォス視点

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 ルーフォスは、最近、ずっと幸せな夢をみていた。

 子どもの頃からずっと好きだった女性と穏やかに微笑みながら暮らす夢。

 お互いを許し合ったあの日から、メアリーはルーフォスの執務室を良く訪れた。頼んだ仕事の分からない所を聞かれたので教えると「ありがとう」と微笑みかけてくる。

 メアリーの笑顔を見ると幸せ過ぎて胸が苦しくなる。

 神殿でメアリーに『お兄様を軽蔑しています』と言われたとき、初めてメアリーの本当の気持ちを知った。

(俺は軽蔑されていたのか)

 今までどんな態度を取っても「お兄様」としつこくまとわりついてきたメアリーが疎ましかった。「お兄様」と呼ばれるたびに「俺の気持ちも知らないで」と怒りを感じていた。

 だからこそ、あの時になって初めて『俺はメアリーの気持ちを考えたことがあったか?』と自問した。すぐに出た答えは『ただの一度もない』だった。

(俺がメアリーに好かれるはずがないんだ)

 派手な装いをやめたメアリーにエイベルやカルヴァンが付きまとい始めた。当たり前だ。メアリーは誰よりも美しい。そして笑顔がとても可愛い。

 性格だって本当は良いことを知っている。伯爵家に来る前に見かけた幼いメアリーは、ニコニコと天使のように微笑み、みんなから愛されていたのだから。

(メアリーは俺と家族にならなければ、ずっと幸せだったんだろうな)

 今まで気がつかない振りをしていただけで、本当はそのことを分かっていたのかもしれない。

 だからこそ、神殿でメアリーに気持ちを打ち明け拒絶されたとき、正直、心のどこかでホッとしていた。その後、カルヴァンやその部下に飲み連れまわされたが、一人でいるのはつらかったので大人しくついていった。

 口々に「初恋は叶わない」「もっと良い人がいる」「来年には笑い話」「皆、同じような経験をしている」「俺はもっとひどかった」などと言われ、そういうものかと思った。

 その帰りで、飲まされすぎて倒れていたらしい。気がつくと太陽が高く上がっていた。二日酔いで気分が悪くなっていると、メアリーにそっくりな女性に出会った。

 そのとたんに初めてメアリーを見たときのように心が激しく揺さぶられた。これはもう運命だと思った。

 そして、彼女がメアリーの変装した姿だと分かったときに気がついてしまった。

(俺は……たぶん、一生メアリーしか愛せない)

 『だったら』と、もう全てが吹っ切れた。

(俺と家族になって不幸になってしまったのだから、これからはメアリーを徹底的に幸せにしよう)

 メアリーは『逃げる場所が欲しい』と言っていたので、メアリーの幸せになれる逃げる場所を真剣に考えた。

 その結果。

(メアリーに幸せになって欲しかったのに、なぜか俺が幸せな夢を見ている)

 メアリーがルーフォスの顔の前で手をヒラヒラさせた。

「さっきからボーッとしているけど大丈夫?」

「あ、ああ」

「仕事のしすぎじゃない? まさか熱はないよね?」

 メアリーの白い手がルーフォスの額に触れた。とたんにルーフォスの顔が熱を持つ。

「熱っ!? ルーフォス、熱があるよ!」
「ち、違っ」

「違わない! もう、体調管理はしっかりしてよ!」

 腕を引っ張られて、しぶしぶ立ち上がるとメアリーがルーフォスの腕にぎゅっとしがみついてきた。

「しっかりしてよ……頼りにしてるんだから」

 不安そうな表情でそんなことを言われると、胸が苦しくなり頭がクラクラしてくる。

「ちょ、ルーフォス! 本当に大丈夫!?」

 大丈夫ではない。

(この幸せな夢は、俺には刺激が強すぎる)

 夢の中のメアリーは、まるでルーフォスに好意を持っているかのように振る舞ってくれる。

(なんて俺にとって都合が良い夢なんだ……)

 浅ましいと思いつつ、嬉しくて仕方がない。メアリーに引っ張られ執務室にある仮眠室に連れて行かれた。寝室に未婚の男女が二人きりというのは非常に良くない。

「ルーフォス、早く寝て」

 グイグイとベッドの方へ押された。

「熱はない」
「もう真面目なのは良いけど、休めるときに休んでよ。私が看病するから」

(看病……)

 甘い言葉の誘惑に負けて、ルーフォスはベッドに横になった。

 心配そうなメアリーに額や頬を触られ「すごく熱い」と驚かれてしまう。その優しい手をそっと握りたくなった。

(嫌がるだろうか? 俺は……メアリーが嫌がることをしたくない)

 だからこそ、メアリーの許しがない限り、メアリーには自分から絶対に触れないと決めている。

 二人の関係については、はっきりとさせた方が良いと思い、少し前に契約書を作ってメアリーのサインももらった。

 契約書には主に『私達は生涯にわたって協力者であり、お互いを裏切らないこと』というような内容で、立場と仕事の協力関係を明記した。

 すぐ側でメアリーがため息をついた。

「身体がつらいときくらい私を頼ってよ……夫婦なんだから」

「……夫婦?」

 聞き間違いかと思い言葉を繰り返すと、メアリーは小さく首をかしげた。

「うん、だってこの前、婚姻届にサインしたじゃない」

 この前サインしたのは、婚姻届ではない。

 ルーフォスがとっさに言葉が出てこず、黙り込んでいるとメアリーは「もしかして……」と呟いた。

「あの書類、婚姻届じゃなかった……?」

 ルーフォスが返事をする前に、メアリーはカァと顔を赤くした。

「私っ、ごめんなさい!」

 弾かれたように立ち上がったメアリーの腕をつかむ。

「……その、私、間違えて……」

 羞恥でうっすらと涙を浮かべるメアリーに、ルーフォスは恐る恐る尋ねた。

「メアリーは、俺と結婚しても良いと思ったのか?」

「間違えたの! だって、生涯とか、裏切らないとか書いてあったから!」

 小さな子どものように言い訳をするメアリーを怖がらせないようにもう優しく一度聞いた。

「それは、俺の妻になっても良いと?」

 メアリーがコクンと頷いたとたんに抱き締めていた。

「なら、今すぐ結婚してくれ! 愛しているんだ!」

 赤くなったメアリーは腕の中で「いいよ」と恥ずかしそうに呟いてくれる。

「私も、ルーフォスのこと、愛しているから」

 ニコリと微笑みかけられると、ボロボロと涙が溢れた。

「ルーフォスってすぐに泣くね」

 愛おしい人が腕の中でクスクスと笑っている。

 ルーフォスは『この幸せすぎる夢が覚めてしまうとき俺は死のう』と思った。そして、それまではただこの夢の中で幸せに溺れていようと。

 しかし、不思議なことに、数十年たってもこの幸せすぎる夢が覚めることはなかった。最近になってようやく『これは夢ではないのかもしれない』と思えてきた。

 そして、奇跡のような幸福の中でも一つだけ悩みがあった。

 いくつになってもメアリーに「愛しているわ」と言われると嬉しすぎて泣いてしまうので、子どもや孫がいる前では言わないで欲しいとルーフォスは思っている。



ハッピーエンド

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